貞操逆転世界での俺、気軽にヤれるビッチ♂だと盛りのついた女子たちの間で噂になっていく 〜お前らみんな、俺で処女捨てたくせに……〜 作:水卜みう
満漢全席とはまさにこのこと。
中華料理屋さんの中に入ると、通されたのはこれぞ中華という感じの回転する円卓。
注文するのはランチ限定の六十分食べ放題。
「い、いいんですかあやめさん? こんなお店の食べ放題、結構な値段するんじゃ……?」
「いいのいいの。社割のおかげでびっくりするくらいリーズナブルだから。食べたいものをたらふく食べなー」
「ありがとうございます!」
俺はタッチパネルでメニューを眺めながらあれやこれやと注文する。
唐揚げも、油淋鶏も……北京ダックもある!
あんかけチャーハンも!!!
えっ……? 今日はこれ、好きなだけ食って良いのか……?
おかわりもいいぞ。
「よーし、お姉さんは昼からビール飲んじゃうもんねー。送迎もあるし、まるで貴族みたいだね」
「あれ? あやめさんってお酒飲めましたっけ?」
「先週晴れて二十歳になりましたー。いえーい」
あやめさんはVサインを見せつけながら、タッチパネルで生ビールのジョッキをタップする。
そうか、面倒見の良い親友のお姉さんだとばかり思っていたけど、もうお酒が飲める年齢になったんだな。
俺も歳を取ったもんだ。まだ二年生だけど。
料理がテーブルに次々にやってくると、俺は怒涛の勢いで食べ進める。
うまい……うますぎる……!
風が語りかけて来るぜ……!
「良い食べっぷりだねー朝陽くん」
「いやー、晴人ほどじゃないっすよ」
「うっ……」
俺が『晴人』というワードを出してしまったからだろうか、あやめさんの表情が一瞬曇る。
それで俺はちょっと察した。
もしかしたら本当はここに晴人を連れてきたかったのではなかろうか。
せっかく自立しようと頑張っているあやめさんに水を指すようなことをしてしまい、俺は少し罪悪感に苛まれる。
「あっ……ご、ごめんなさい、デリカシーないっすよね……」
「いいのいいの。結局のところ、ハルくんの件は私の身から出た錆だし。朝陽くんは悪くないよ」
「そうならいいんですけど」
「むしろ自分を見つめ直す機会になったって感じだよ。朝陽くんの言ってた『推し活』も出来そうな気がしてきたし」
「おお、それは良かったです。何か良い『推し』が見つかったんですね」
「うん。ちょっとこれ見て」
あやめさんはスマホを取り出し、何やら画像を見せつけてきた。
映っていたのは、小綺麗でどこか中性的な顔をした男性六人組。
パット見た感じは、アイドルグループという印象だ。
にしても、よくいる男性アイドルグループより見た目がちょっと幼い気が……
「これは……アイドルですか?」
「そう! 『チョコレート・バブルズ』っていってね、偶然ショート動画を眺めてたら見つけたんだけど、めちゃくちゃかわいいなって」
「か、かわいい系なんですね……」
「みーんな弟みたいでしょ? お姉ちゃんお姉ちゃんって甘えてくるパフォーマンスがあるんだけど、それがもう最高なの」
「お、おう……なるほど」
……そういうことか。
元の世界でも妹系アイドルというものが存在していたもんな。
だったら弟系アイドルグループがいてもおかしくはない。あやめさんみたいな人、多分この世界にはたくさんいるんだろう。
『チョコレート・バブルズ』は身長低めであどけなさの残る少年六人組。
絶賛売出し中でライブ活動やSNS配信を積極的に行っているらしい。
「まだまだ駆け出しらしいから応援したくなっちゃってね。今度ライブに行ってみることにしたんだ」
「そ、そうなんですね。楽しめそうでよかったです」
「新しい『推し候補』に出会えたのも朝陽くんのおかげってことで、今日は祝杯だよー」
「そ、そんな大したことしてないですよ。行動を起こしたのはあやめさんなんですから」
「またまたそんなこと言ってー。このままだとハルくんに絶縁されちゃうところだったから、かなり助かったんだよ?」
「あはは……」
あやめさんは良い飲みっぷりでジョッキに入ったビールを飲み干す。
彼女が持つと、ジョッキが小さく見える。
食べ放題も佳境に突入する。
最初はガンガン食べていたが、段々お腹が満たされてきて、もう追加注文はしなくていいかなという気持ちになってきた。
好きなものをたくさん食べられる幸せ。
このお店、めちゃくちゃ良いので覚えておこう。
ふと、あやめさんを見ると、顔が赤くなって目がトロンとしていた。
……あれ? ビールジョッキ一杯しか飲んでないよな?
あんなに勢いよく飲んでいたけど、もしかしてあやめさんってお酒に弱いのでは……?
「……あやめさん? 大丈夫ですか?」
「らいじょぶらいじょぶー。まだまだのめるよぉー」
やっぱりそうみたいだ。アルコールが回って完全に出来上がっている。
この間二十歳になったばかりで、自分がお酒に強いか弱いかまだわからなかったのかも。
「いやいや、それ以上は無理ですって。時間も時間ですし、そろそろ切り上げましょう」
「うひー、じゃあこれで払っといてー」
あやめさんはカバンから財布を取り出して俺に渡す。
店員さんを呼んで会計を済ませ、送迎の車も呼んでもらった。
社割が効いていて思ったより全然安い。良いお店だなここは。
酔っ払ってヨレヨレになったあやめさんに肩を貸して、なんとか送迎車に乗り込む。
とりあえず駅まで送ってもらって、後のことはそのとき考えよう。うん、最悪のときは晴人を召喚すればいいや。
今度あやめさんに会ったときは、絶対にお酒を飲ませないようにしようと、俺は心に誓った。
送迎車の中。
あやめさんはすぐに眠ってしまった。良い夢でも見ているのか、幸せそうな表情をしている。
「ふへへ……ハルくぅん……」
あ、ダメだこれ。夢で晴人を甘やかして楽しんでるぞ絶対。
まだまだ晴人依存脱却には程遠いかもな。
一方の俺も、満腹感と心地よい車の揺れで眠くなってきた。
まあ、駅まではしばらく時間がかかるから、ちょっと一眠りするか……
酔っ払い一人とドカ食い気絶部一人を乗せた送迎車は、駅へと向かっていった……
――はずだった。