貞操逆転世界での俺、気軽にヤれるビッチ♂だと盛りのついた女子たちの間で噂になっていく 〜お前らみんな、俺で処女捨てたくせに……〜 作:水卜みう
俺は息を潜めた。
まさか外ヶ浜さんが教室で角オ……自分のを擦りつけている。
今の状態で教室に入ってしまったらめちゃくちゃ気まずいことになる。
とりあえず事が収まるまで隠れているしかない。
「んっ……!」
熱を帯びた吐息。
声に出してしまうと誰かに気づかれてしまうと外ヶ浜さんは思っているのだろう。ギリギリのところで声を押し殺している。
俺は外ヶ浜さんのはしたない姿を見てみたいという衝動に襲われるが、理性でそれをなんとか抑え込む。
教室には、布と机がリズミカルに擦れる音と、外ヶ浜さんの声だけが響いていた。
「ああっ……!」
喉を絞ったかのような外ヶ浜さんの声にならない声が出てくると、リズミカルに擦れる音はピタリと止まった。
直後、彼女は湿ったため息をつく。
余韻に浸っているのだろう。
しばらくして外ヶ浜さんは椅子に座り、さっきまで擦りつけていたその机に突っ伏した。
これは参った。
早くかばんを取って帰りたいところではあるが、こんな状況だと教室に入るに入れない。
俺はどのタイミングで教室に入ったら不自然にならないだろうかと考える。
しかし、考えれば考えるほど答えなど出てこなくなる。
……よし、もういっそのこと、何事もなかったのように教室に入って、偶然出くわした感じにすれば問題ないだろう。
そう思って俺はおもむろに立ち上がり、自然な感じを出して教室に入った。
姿を表したその瞬間、外ヶ浜さんは突然現れた俺に驚く。まるで授業中に居眠りをしているところを先生に当てられたかのように、ビクンと背筋を伸ばした。
「う、うわっ! び、びっくりした……」
「あれ? 外ヶ浜さん? 珍しいねこんな時間に教室にいるなんて」
「え、ええ、まあ、ちょっと……ね、野暮用があってね」
本当に野暮な用事だなあとはツッコまない。
「そ、そういう平
「……平川です」
「ごめんごめん」
「俺はあれだよ、今朝の電車での一件で先生たちからみっちり事情聴取されちゃってさ。やっと解放されたんだ」
「あ、ああ、そういうことね。ち、ちなみに、今来たばかりだよね?」
「
俺は淀みなくにっこりと嘘を吐いた。
外ヶ浜さんは俺が現れたことで、あからさまに動揺している。
さっき自分がやっていたことを見られていたのではないかと思っているのだろう。
確かに俺は現場に出くわしてしまったわけではあるが、それを今すぐ言及する気はない。
相手はクラスの一軍女子。自分のような半端者が彼女の弱みを握ったところで、一軍カーストの暴力的な組織力で返り討ちにあう可能性がある。
平和に暮らしたい俺にとって、そんなリスクを背負ってまでさっきの外ヶ浜さんの行為を問いただすつもりはない。
あと、純粋に早く帰りたい気持ちもある。
ここは外ヶ浜さんの角オ……擦りつけている行為など全然見ても聞いてもいないよと嘘をついたほうが賢明だ。
さっさとかばんを取って帰ろう。
自分の机に向かうと、とあることに気づく。
外ヶ浜さんはなぜか、俺の席に座っていたのだ。
「ねえ外ヶ浜さん?」
「な、なあに?」
「どうして俺の席に座ってるの? 外ヶ浜さんの席、あっちのほうじゃない?」
「そ、それはその……手頃な場所に手頃な高さの椅子と机があったから……休憩しようかなと……」
「同じような椅子と机、この教室に三十個くらいあるんだけど……」
「そ、そうなんだけど、なんというか……本当に丁度良いところにあったというか……あはは……」
「そんなに丁度良かったの? 俺の机」
すると、わかりやすく外ヶ浜さんは動揺する。
「良かった」というワードにまんまと彼女は引っかかってしまったようだ。
外ヶ浜凛々亜という女、誤魔化すのが絶望的に下手すぎる。
さっきの角オ……じゃなくて自分で擦りつけている行為も俺の机でやっていたのだろう。
女子から欲求をぶつけられる経験などなかった俺は少し心拍が上がってくる。
もしかするとこれは、貞操逆転世界らしいイベントが始まるのではないかと思い、胸が高鳴ってきた。
ここまですっとぼけた態度をとっていたが、俺は少し確信をついたことを外ヶ浜さんに聞いてみたくなった。
「あのさ外ヶ浜さん」
「な……なに?」
「俺の机でナニしてたの?」
漢字ではなくカタカナ表記なのはわざとである。
「な、なんにもしてないよ……?」
「本当に? 外ヶ浜さん、なんだか顔が紅くない?」
「こ、これはその……夕日が差してるから」
「ふーん、にしたってなんか紅い気がするけど。それに、制服の上着を脱いで寒くないの?」
「だ、大丈夫……さっきちょっと
流石に無理があるだろ。
外ヶ浜さんが運動をしたのは間違いないが、それはスポーツみたいなものではなくシンプルな前後運動というニュアンスだ。
彼女の苦し紛れに言い訳する姿が面白くて、俺はなんだか楽しくなってきてしまった。
もう知らないフリをする必要はないだろう。
「へぇ、だいぶ過酷な
すると、さっきまで紅かった外ヶ浜さんの顔は一気に青ざめていく。
外ヶ浜凛々亜はとてもわかりやすい。
「ひ、平
「うーん、外ヶ浜さんがビクッてなった三十秒くらい前かな。あと、俺は平山じゃなくて平川ね」
角オ……ではなく、自身のメンテナンス作業を男子に見られていた事が判明すると、外ヶ浜さんはすべてを諦めてフリーズ状態になってしまった。
「もう最悪……こんなのバレたら生きていけない」
「誰もいないとはいえ、教室でするのはねえ」
外ヶ浜さんはもうやけっぱちになったのだろう。
椅子から立ち上がったと思えば、両膝を床につけて頭を下げる。
――いわゆる、『土下座』だ。
「ごめんなさい! 平山くんの机の角で致したのは完全に私の出来心です!」
「あっさり認めるんだ。……あと、俺平川ね」
「だ、だって、今朝自転車で二人乗りしたときに腰を掴まれてから……ずっとムラムラしてたんだもん! 発散しないと無理!」
「威張って言うことじゃないだろ!」
化けの皮が剥がれた外ヶ浜さんは、思っていたことを全部打ち明けた。
この世界の女子って、俺が思っていた以上に欲求が強いようだ。
処理しないとやっていられないのかもしれない。その気持ちは元の世界の住人である俺が一番わかる。
しかし、そうなると一つ疑問が浮かんでくる。
「……ってか、外ヶ浜さんレベルの人なら性欲を発散する相手の一人や二人くらいいるでしょ? こんなところでわざわざ致さなくて――あれ?」
ただただ思ったことを聞いてみただけなのに、土下座をする外ヶ浜さんの周辺の空気が急にどんよりとし始める。
外ヶ浜凛々亜というクラスの一軍女子ならば彼氏くらいいてもいい。なんなら、不純かもしれないがそういう行為をするだけの間柄の男がいたって何ら不思議じゃない。
だってここは貞操逆転世界。ルックスが良くてスクールカーストが高い女子は、正直言って食い放題だ。
しかし、どうやら外ヶ浜さんは俺が思っていたような立場にはないらしい。
「い、いや、そういう相手には全然縁がなくてですね……なんにも経験とかないんですよ……」
「えっ……? まさか外ヶ浜さん、処女なの……?」
俺の言い放った言葉に、外ヶ浜さんは再び固まってしまった。