侍と吸血鬼~僕が雇った侍は強すぎる~   作:you are not

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最強侍、最弱吸血鬼に仕える

 

「……お前どうやったら死ぬんだ」

 

綺麗な満月の月が夜の帳を切り裂くように世界を照らす夜、レンガ造りの街並みの中、二人の人物がそこにいた。

 

「生憎……しぶとさには自信があるんだよ」

 

片方は赤い目に銀髪が美しく月に照らされている少女、シャルロッテ・エリザベート・ヴィクトリア2世はレンガの道路に伏していた。全身が血でまみれ傷だらけであった。

 

「そうかいじゃあ、死ぬまで殺してやるよ」

 

「勘弁してほしいな」

 

シャルロッテは冷や汗をかきながらどうしてこうなったのかを回想していた。

 

 

―――☆―――☆―――

 

 

シャルロッテは血盟官(けつめいかん)だ。とは吸血鬼社会における法の執行者であり、「掟を破った吸血鬼の処刑」を担う立場である。

 

 

普段、吸血鬼は人間社会に紛れながら生活している。太陽も銀も十字架も別に弱点ではない。だたの人間たちによる迷信にすぎない。吸血鬼とはただ定期的に人間の血を吸わずには生きていけず、只人より強い人間の亜種に過ぎないのだ。

 

 

そんな吸血鬼だがしっかりと法律がありその処刑を担うのが血盟官。

 

 

その一人がシャルロッテ二世なのである。しかしながら、彼女は家柄と血統はこれ以上なく一流なのだが本人の実力はいまいち、いや、いまいちどころか血盟官を多く輩出してきた貴族の名家であるヴィクトリア家の中で間違いなく歴代最弱と言ってもいい弱さだった。それは大好物であるチーズケーキを盗もうとした野良猫と喧嘩してギリギリ負けるくらい程だ。

 

 

「待てー!」

 

「待てって言って聞くバカがいるかよぉ!」

 

月光もとどかぬ路地裏にてシャルロッテは武器片手に件の吸血鬼と夜の競争劇を繰り広げていた。逃げる吸血鬼は身分の低い吸血鬼だが逃げ足は一般的な吸血鬼のそれよりはあるようでシャルロッテがいくら追いかけても追いつけなかった。

 

「はっ、無能な血盟官め。見ていろ貴様の無能の結果をな!」

 

そう言って吸血鬼は速度を上げて路地裏から道路へ飛び出していく。

 

「えっ?……まずい!まずい!」

 

相手が何を言いたいのかすぐに理解した。吸血鬼の目線の先ではレンガの道路を歩く人がいた。襲うつもりなのは明らかだった。このままでは通りすがりの無関係な人間が死んでしまう!シャルロッテは剣を抜いて吸血鬼を止めようとした。

 

 

「死ねー人間!」

 

「……?」

 

だが、あと一歩ほど襲うとしている吸血鬼には届かなった。

 

―――ごめんなさい。

 

見知らぬ人間に心の中で謝罪した瞬間

 

「ガッ!」

 

「えっ……?」

 

聞こえてきた短い悲鳴は人間のものではなく吸血鬼のものだった。思わずシャルロッテが呆けた声を上げると同時首を離られた吸血鬼が地面に転がるのが見えた。吸血鬼は首を切られてもまだ意識があるようで驚いたように目が泳いでいた。

 

何があったのかとシャルロッテは目を凝らすとそこには一人の男が立っていた。この国では珍しい和服に変わった剣を持った東洋人だった。

 

―――たった今の、一瞬で?

 

シャルロッテは今まで何度も剣の達人を見てきた。だが、だからこそ、この男の動きは異次元だった。斬った瞬間、武器を出した瞬間すら理解させず一撃で仕留める。恐ろしいと同時に洗練された美しい剣捌きだとシャルロッテは思ってしまった。

 

「……この国は妖が多いらしい」

 

西洋の戦士(たしか侍と呼ばれるのだったか?)らしき人物はこちらに視線を向けてきた。その視線は全身を水風呂に入れられたように冷たかった。

 

「っ……!」

 

直感的に危険だと理解したと同時に

 

刹那、男の手が動く。

 

(来――)

 

シャルロッテは避けきれず剣を握っていた方の手首を斬られ武器を落としてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕は敵じゃない!」

 

慌てて両手を挙げて弁解しようとするが

 

「武器を構えていた奴が言っても信用できんな」

 

そういって男は再び斬りかかってくる。切っ先が月明かりを反射し、まるで死神の鎌のように迫る。

 

「くっ……!」

 

咄嗟に回避しようとするがまたもや間に合わずアキレス腱を斬られ立ち上がれなくなってしまう。間髪入れずに男は倒れたシャルロッテの心臓があるであろう場所に刀を突き刺す。

 

「あぁぁ!ぐぅぅ!」

 

シャルロッテは痛みに悶えるが決して絶命する気配はなかった。彼女は確かに吸血鬼よりも腕っぷしが弱く、人間の鍛えた兵士より少し強いくらいだが再生能力と頑丈さは並外れていた。それ故の幸運だった。

 

「……おまえどうやったら死ぬんだよ」

 

刀を胴体から抜きながら男は驚いたような声を上げた。

 

 

 

―――☆―――☆―――

 

 

 

そうして話は冒頭に戻る。

 

 

 

シャルロッテは疲弊した体ながらもなんとか打開策を考えていた。

 

「最後に言い残すことはあるか?」

 

「ふっ、僕はシャルロッテ・エリザベート・ヴィクトリア二世だよ?あるわけがない」

 

(ふっ、決まった!)

 

最悪なことにシャルロッテは自身のかっこつけたがりという悪癖を出してしまった。

 

「‥‥そうか」

 

男はそれだけ言って刀身を左手で撫でる。すると、刀身に火が付き燃える刀となった。シャルロッテはその炎を見て

 

「ヒェ…」

 

と情けない悲鳴を出してしまった。あの炎に焼かれると間違いなく死ぬとシャルロッテは魔術的な知識と19年の人生経験から理解した。先ほどの動作に魔術的な術式を感じなかった。かろうじて魔力の流れだけは感じ取れた。つまりは魔法ではない異質な術なのだ。そんな未知の術は恐怖以外の何物でもなかった。ましてや喰らうなど……

 

「じゃあな……」

 

「ま、まま待つんだ!待ってくれ!」

 

灰色の脳細胞を全力で回しながら何とかならないか口を動かす。

 

「そうだ!僕の用心棒にならないかい!?」

 

冷や汗をドバドバに流しながら何とか必死に声に出したそれは半ば命乞いに近いものだった。

 

「用心棒?」

 

すると、どうだろう。男は動きをやめ興味を示した。

 

「えっ!?そ、そうだよ!用心棒!いやー僕ってお金はあるからさ!僕に雇われない?衣食住は保証するよ!なんなら僕を好きにしたって言い!」

 

シャルロッテは驚きながらもまくし立てる。後半大変なことを言った気がするがかまわない今日生き残ればいい、明日は明日で何とかする。

 

「お前の体は別に興味ないんだが……俺は職も生き場もない身の上だ。いいだろうその話乗った。お前に仕えよう」

 

そう言って男は刀身の炎を消し手から納刀してから、膝を折って頭を下げてきた。

 

「……あぁ、うん。よろしく?」

 

先ほどとは打って変わった行動に困惑しながらシャルロッテは傷が治った体で立ち上がる。何はともあれ自分は生き残ったのだとシャルロッテはそれだけ理解した。

 

「そういえば君、名前は?」

 

冷静さを取り戻してきたシャルロッテは一応雇った相手であるので名前を聞いた。

 

「俺の名前は……魁かい。ただの魁かいだ」

 

「カイ、カイね。うん、覚えた。よろしくねカイ。僕はシャルロッテ」

 

互いに名乗りながらシャルロッテは握手するが内心は未だ震えていた。

 

(いやいや、何普通に会話してんるんだ僕!)

 

こうして何とかなりそうな感じになっているが仮にこの男の気分を害した場合どうなるかわからないと考えていた。

 

(これから僕どうなっちゃうのぉぉー!?)

 

 

それが僕の永遠なる伴侶、にして最強の侍にして用心棒『魁』との出会いだった。

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