蛇の心、世知らず   作:猿を継ぐ男

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ちなみに原作におけるパーシーと同時期のグリフィンドール監督生は謎らしいよ


第5話『監督生たち』

 

「ふんふん、なるほどね」

 

 わたしがこれまでの経緯を説明すると、コーデリアさんはゆったりと頷きました。

 

 蛇語(パーセルタング)についても、隠せるとは思えないので正直に語りました。パーシーさんがしっかりと目撃して、一触即発の原因となったのですから当然です。

 もしここから隠し通そうとするならば、二人に忘却呪文(オブリビエイト)を撃ち込む必要があるでしょう。わたしの能力や倫理的な問題などを考えると、分の悪い賭けを通り越して無意味な蛮行でしかありません。

 

「まあ、入学案内の紙はどうやら本物みたいだし、それに暴れる素振りもない。今んとこ問題はないんじゃない?」

「……そうだな。驚いて先走ってしまったみたいだ。すまなかった、ストーリー」

「おお、パースが素直に謝るなんて珍しい」

「うるさい」

 

 コーデリアさんとパーシーさんは、ずいぶん親しそうです。同じ寮で同じ学年、同じような能力で同じ立場に選ばれたのですからシンパシーを感じるのは不思議ではありません。

 

「いえ、お気になさらず。わたしもうっかり怪しい動きをしてしまいましたし」

蛇語(パーセルタング)のこと? 確かにアレはパースがビビり倒してたくらいには評判が悪いんだよね。きみも騒ぎになると面倒だと思うし、なるべく気をつけてほしいかな」

「はい」

「ビビり倒してない」

 

 パーシーさんはコーデリアさんの態度に引っ張られて、わたしへの警戒を緩めているようです。彼は憮然としてから少し間を置き、改めて切り出しました。

 

「ストーリー、君の蛇語(パーセルタング)に何か由来はあるのか? 誰かに教わったとか」

「というと、後天的に得られるものなのですね」

 

 スネイプ教授は確か、先天的な才能でしか不可能だと仰っていましたが。

 パーシーさんは続けます。

 

「嘘か真か知らないが、ダンブルドア校長は蛇語を学んで理解できるようになったという識者もいる。理解できるとして、主体的に話せるかは知らないが」

「そういうやり方もあるんですね」

「……まあ、君はそうでないように見えるが。何か特別な血統なのかも」

「スリザリンとかね」

 

 コーデリアさんの口調は冗談めかしていますが、まるっきり有り得ないと思っているわけではなさそうでした。

 

「まさか。ゴーントの名は今じゃ聞かないし、きっと断絶してるさ」

「ゴーント……?」

「知らないか。パース、説明してやれ」

「僕に振るかよ」

「うん」

「……ホグワーツ創始者の一角スリザリンの後裔、純血の名家だった一族。蛇語使い(パーセルマウス)がよく生まれたことで有名。何十年も昔に落ちぶれて、今は噂も聞かないがな」

「ありがとうございます」

 

 しかし、わたし自身の血統を示す根拠に心当たりはありません。両親について詳しくないので、もし特別な血縁があってもわからないのです。

 次の休暇で祖父に聞いてみるのも、一興かもしれませんが……。

 

「それにしても、なぜわたしのルーツをそこまで気にするのですか?」

「僕としては、君が君の生まれにまったく興味がない事実に驚きだ。マグルから優れた魔法使いが生まれた例にいとまが無いのと同様に、優れた魔法使いから優れた魔法使いが生まれた例もまた事欠かない。そして逆もまた然り、どんな生まれでも才能のない人間はいる」

「というと」

「僕が言いたいのはこうだ。生まれによって能力に差はないが、生まれと能力はどちらも当人の立場に大きく影響するってこと」

「具体的には、どのように?」

 

 なんだか不穏な上下関係があるのでしょうか、とわたしは不安になって問いました。

 先に答えたのはコーデリアさんの方です。彼女からもあまり興味のなさそうな雰囲気を感じます。

 

「いいや? 血統がどうこうで貴族と平民ってわけでもないし、能力主義もそれほど根付いていない。気にしないならそれでいいんじゃないの」

「僕も悪いとは言ってないさ。僕も純血だが、それ以前にウィーズリーだ。ウィーズリーの人間は、立場で他人を見下さない」

「はあ」

 

 それはそれで、ウィーズリーという立場に縛られているように思えました。とはいえ誰しも、依って立つ場所は必要です。それを選ぶのは彼自身ですし、わたし個人としても偏見のない目線を保とうと努力する人間は好ましいと思います。

 

「そういえば、この部屋? は何なんですか。普通のコンパートメントには見えませんが」

 

 どうもこの空間は、列車の先頭近くに思えます。

 

「監督生が交代で待機する部屋だ。存在意義は僕らもよく知らなかった……今までは」

「ストーリーくんのようなトラブルに備えて、色々と仕掛けがあるんだろうね」

「なるほど。ありがとうございました。……では」

 

 わたしは礼を言って、部屋を辞そうとします。

 しかし、コーデリアさんの柔らかな声がそれを遮りました。

 

「待って。今からじゃ多分、コンパートメント空いてないよ」

「そうなんですか」

「この列車はコンパートメントの数が足りてるんだか足りてないんだか……と言った様子でね。ぼくら監督生のコンパートメントに案内しよう」

「コリー、勝手なことを言うな」

「あのねパース、この子を目の届かない場所に放り出せる?」

「………………」

 

 パーシーさんは少し反論を探していて、残念ながら見つからなかったようです。行ってこい、と手を振る彼を置いて、わたしとコーデリアさんは通路を進みます。

 程なくして到着し、わたしとコーデリアさんは向かい合って座りました。

 

「色々と悪かったね、パースは石頭なんだ。でも理屈の通じる石頭だから、付き合いやすい方でもある」

「いえ、気にしてないです。わたし、あなたたちのこと好きですよ」

「友好の安売りは止した方がいいんじゃない?」

「嘘はつきません」

 

 事実、わたしは彼らのことが気に入り始めていました。

 これまでの言動を見るに、彼女はパーシーさんと同じくらい(あるいは、もっと)偏見のない考え方ができるように思えます。それに甘んじず、時には常識を疑う見方も。

 そしてパーシーさんからも、できる限り公正であろうとする意志を感じました。

 

 そう、何よりも意志です。善き人より善くあろうとする人、優れた人より優れようと努める人。

 わたしはたぶん、本人なりの意志を以て、日々を生きる人が好きなのです。

 

 ……隣の芝は青い、ということかもしれません。

 

 

「ストーリーくん、これが何だか分かるかい」

 

 わたしの思考を打ち切るように、コーデリアさんは小さな筒のような物品を取り出しました。素人目にも精細な意匠で、どんな用途にせよ貴重なものに見えます。

 

「筒……? 何かの入れ物でしょうか」

「正解」

 

 コーデリアさんは真剣な雰囲気で、しかし悪戯っぽく笑いました。

 

「これは祖母の遺品でね。祖母いわく、元々は祖母の兄から遺されたものだと」

「はあ。魔法の品ですか?」

「そうだ。でもただの魔法じゃない……」

 

 一つ呼吸を置いて、誰かに聞かれていないか確かめるような仕草の後、コーデリアさんは切り出します。わたしも釣られて息を呑み、聞き逃さないように身を乗り出しました。

 

()()()()って知ってるかな」

「いいえ」

「遠い昔に失われた、今のものとは異なる魔法力さ。ホグワーツ城の建設にも大いに関わった、強力な神秘。だが一般に知られている最後の使い手は百年ほど前で、それ以降は不明だ」

「へえ、ロマンがありますね」

 

 わたしは改めて筒を見てみます。微かですが、何か青白い光が見えました。ダイアゴン横丁の本屋で見た、ドラコとの会話に割り込んだ人物が残したものと似ています。

 

「それで実を言うと、きみが……」

「────すいません、ここは監督生のコンパートメントですよね?」

 

 コーデリアさんの囁きを、唐突にドアを開けた女の子の声が遮りました。

 ずいぶん幼い声色なので、きっと新入生かそれに近い学年でしょう。見ると、ぼさぼさ髪の少女と内気そうな少年の組み合わせが訪ねてきていました。

 

 コーデリアさんは厭な顔一つせず、柔らかい声で返します。人間ができていますね。

 

「ああ、そうだ。どうした? 何か困りごとかい」

「ええ、このネビルがヒキガエルを見失っちゃったみたいで。探すのに協力してもらえませんか?」

「いいとも。ヒキガエルの名前は?」

「トレバー。ばあちゃんからもらったんだ」

「そうか、いい名前だね。トレバー探しはコーデリア・フィグに任せたまえ」

 

 えっへん、と大袈裟に威張っているコーデリアさん。泣きそうなネビル少年の気持ちを和らげるためでしょう。ずいぶん歳下慣れしているようです。

 

 わたしは彼らを見送り、ひとりコンパートメントに残りました。

 彼らが失敗した時のプランBとなる協力者を、トランクから取り出しながら。

 

 

「み、見つからない……」

 

 案の定、コーデリアさんは暗い顔でコンパートメントに戻ってきました。ふわふわしていた白い髪も、心なしか萎んでいるように見えます。

 ネビル少年は泣きそうな顔どころか派手に泣いていて、ぼさぼさ髪の少女も険しい顔をしています。

 

「ストーリーくん、見てないか? たかがヒキガエルと舐めてたけど、トレバーはずいぶん隠れんぼが得意みたいだ」

「見てないですね」

「そりゃそうか。……こりゃ闇祓い志望失格かも」

「まあ、なんだかそうなる気がしていました。なのでわたしからも、予備の案があります」

「そうなのか! それは助かるな。さっそくその作戦を始めよう」

「35分前に実行しました」

「えっ」

 

 その時、廊下に出ていたぼさぼさ髪の少女が悲鳴を上げました。

 

「────へ、へ、蛇よ!!」

「ああ、お帰りなさいナギニさん」

 

 パニックになる少女を横に、わたしの下へ一匹の蛇が帰ってきました。それは紛れもなく、わたしの友人です。

 プランB。ナギニさんにこっそり探してもらう。

 

「ちょっとストーリーくーん???」

「この子は賢いんです。理屈はもちろんお分かりですね? 賢いので、多少は人の頼みも聞いてくれるわけです。覚悟の準備をしておいてください」

「きみねぇ……」

『ふふっ』

 

 コーデリアさんは呆れた顔です。

 一方ナギニさんは吹き出しています。もしかしたら孤独に浸りすぎて、笑いのツボが浅いのかもしれません。

 

「……そ、その蛇がネビルのヒキガエルを探してくれたってわけ? 魔法界の蛇ってそんな賢いのかしら?」

「他はともかく、この子はとにかく賢いです」

『ふふふっ』

 

 ぼさぼさ髪の少女は立ち直ったようで、当然の疑問を投げかけました。

 まだナギニさんは追加で笑みを噛みしめています。自分の中で滑稽さが反復・持続するタイプでしょうか。

 

「じゃ、じゃあ見つかったなら案内してもらわないと」

「そうですね。ナギニさん、お願いします」

『…………』

 

 ネビル少年は当事者らしい切実さで、事態を前に進めようとします。

 

 ────しかし、ナギニさんは横に首を振りました。

 その意味は、きっと場の誰もが理解できたでしょう。トレバーは、もう……。

 

 

「そんな…………トレバーぁぁぁあ!!!」

 

 ネビル少年の幼い慟哭は、とても悲痛なものでした。

 

 

 

 

 

 

『あの後トレバーはどうしたのかしら。見つかったのならいいのだけど』

「あれ、死んでいたのでは?」

『えっ』

「えっ」

『…………ああ、もしかして。私が横に首振ったのは、単に見つからなかったって意味だったのよ』

「なんと、そうでしたか」

 

 ナギニさんとこうして答え合わせをできたのは、ネビルと別れてからかなり時間が経ってからでした。

 しかしネビルはその後もトレバーを見つけられなかったようです。

 

 結局、彼(?)はどこへ行ったのでしょうか。とても不思議だと思います。

 




トレバーは死んでないです。猿空間に消えただけ(えっ)
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