機動戦士ガンダムSEED DESTINY REVERSE 作:meitoken
ミネルバは大気圏に突入し、ユニウスセブンを陽電子砲タンホイザーの射程に捉え、発射した。主砲トリスタンの比にならないエネルギーの奔流は赤く燃えるプラントの残骸へと吸い込まれ、巨大なクラゲを砕いた。しかし、一発ではやはり足りず、当初のタリアの宣言通り、限界点までタンホイザーを撃ち続けた。その結果、破片をかなり小さくすることまで出来たが、それでも地球は無傷という訳にはいかず、小さな破片は地球へと次々と落下していき、燃え尽きることなく地表を直撃した。
南米某所……プラント資本で設立された外宇宙探査を目的とした機構DSSDの研究所でシャトルの打ち上げが行われようとしていた。しかし、その打ち上げに際して必ずシャトルに乗せなければならない人物は、現在ユニウスセブンが落下した際の高波に備えて近くにある都市フォルタレザのビルに非難していた。
管制室のソル・リューネ・ランジュが話しているのがその人物の相方、現在DSSD技術開発センターの保安副部長で元連合軍人だった叔父、エドモンド・デュクロである。
〈そうだ。緊急事態対応のマニュアル、M-84に従って事を進めてくれ。〉
「それはやっています。だけど、叔父さんとセレーネの方は?」
ユニウスセブンの破片落下による津波に巻き込まれないか危惧するソルに叔父のエドモンドは笑って答える。
〈大丈夫、こっちはビルに…〉
脇から入ってきた長い深緑の髪の女性が受話器をひったくる。シャトルで打ち上げる物と共に宇宙へ行かせなければならないセレーネ・マクグリフ博士である。
〈401は!?打ち上げスケジュールはずらせないんだから!〉
「セレーネ…」
津波か破片落下で死ぬかも知れないのに自分より宇宙という姉同然の女性にソルは若干呆れてしまった。
〈トロヤステーションにもレーザー通信で!〉
「それもやってるけど…」
その時、突然モニターの向こうが騒がしくなりエドモンドが受話器を切った。
セレーネを無理矢理連れ出したエドモンドはビルの外を見る。破片がこの近くに落下して発生した津波が沿岸部をのみ込もうとしていた。
この階も危ないだろう。もっと上に登らねば!
エドモンドはセレーネの手を引き、窓を破って入り込むであろう海水から逃れるために階段を上っていった。
東アジアの山中にある地球軍基地でスウェン・カル・バヤンは空を見上げていた。空では幾つもの流星が降り注いでいる。あれがかつてコーディネイターの住んでいたプラントの残骸だとはとても思えない。地球を滅ぼすためにコーディネイターが落とした物だとも…
「スウェン、出動待機。」
後ろから派手な化粧をした女性ミューディー・ホルクロフトが声をかけてきた。脇に座ってラジオを聞いていた黒人の青年シャムス・コーザが湯気の立つカップを片手に振り返り、面倒くさそうに言う。
「災害救助なんて言うなよ?」
「ファントムペインに助けを求める馬鹿が、この世界にいるの?」
彼の質問をミューディーは笑い飛ばす。彼らはアーモリーワンを襲撃した部隊の指揮官ネオ・ロアノークと同じ第八十一独立機動群通称ファントムペインのパイロットだ。彼らもまた、ユニウスセブンの落下のニュースは聞いていた。
「宇宙の人間もどきがまたやらかしたらしいの。」
「それが、この騒ぎか。」
ミューディーから真相を聞いてもシャムスは全く動じていない様子だった。
「だから一応乗ってろって。」
「また、戦争が出来るのか?」
シャムスは嬉しそうに呟きながら基地へと戻っていく。ミューディーも後に続くが、スウェンはまだ空を見上げ、眺め続けていた。
「本当に、大変なことになってしまったな。」
「ああ……」
沈痛な表情のアスランにカガリは声を明るくする。
「でも、ミネルバやイザーク達のおかげで被害を抑え込むことはできた。それは地球の。」
「やめろよ、この馬鹿!あんただってブリッジにいたんだろう!なら、コレがどういうことか分かっているはずだ!」
シンが怒鳴るが、フブキが間に入る。
「何だよ?」
「勘違いするな……」
フブキはカガリの方を向いた。
「カガリ。」
「にいさ?」
代表補佐が代表に平手打ちを食らわせた。少し、力を込めて。それを見た全員が唖然とした。
「お前のそれは、安全な場所で現場に文句を言う無能な上官と一緒だぞ。」
「……え?」
「被害は抑え込めた。だが、破片は落ちた。その破片がもし、オーブに落ちていたら?近くに落ちて、津波がオーブを直撃したら?オーブは大丈夫でも、他の国はそうなっているんだぞ。」
フブキに言われ、カガリはようやく自分の浅はかさを悟った。
「で、でも…!ミネルバは…」
「ああ、ミネルバやイザーク達がやってくれた。だが、一部でもコーディネイターがやった。大西洋連邦とブルーコスモスは、大喜びするだろうよ。」
フブキが言っている意味を、カガリは理解した。つまり…
「コレを戦争の口実にしようと!?」
「俺ならそうする。なら、お前がするべきはなんだ?報復を叫ぶ人々を諫めることだ。違うか?」
「あ…」
そして、フブキはアスランを見る。
「連中、やはりパトリック・ザラの?」
「ああ……」
「そうか……地上にもあの男のシンパはいそうだからな。」
フブキは艦内に戻ろうとする。アスランとイリアも続き、カガリは呼び止めようとするが、言葉が出てこない。
「あんた、本当に何も分かってないんだな。あの人が可愛そうだよ!」
そして、もう一言付け加えた。そして、シンはフブキを呼び止める。
「なんで、あんたが代表にならないんだ?こんなのより、あんたの方が良いんじゃないか?」
「………俺自身が決めたことだ。」
全ての破片が落下し、早速地球連合軍は災害救助のために出動した。物資を運ぶ、ヘリ、輸送機、船、護衛のMS部隊、戦車、戦闘機。出せる物は全て出撃した。
北米ポーツマス……
〈A34、A34、状況を報告してくれ。〉
「こちらA34、現在ポーツマス上空。空気がかなり湿っている。サウスカロライナからメイン州一帯は内陸部まで完全に水没している。」
東アジア共和国に加盟している中国の首都北京………
〈司令部へ連絡、救援は無意味だ。北京は地図から消えた。〉
破片が北京を直撃、その爆発によって北京は完全に廃墟と化した。コレでは生存者がいたとしても、探すことさえままならない。偵察のヘリのパイロットは諦めるしかなかった。
南米フォルタレザは津波の被害に遭った。救援部隊の準備を進める中、南米の政治家は事態を見つめる。
「デュランダルの意志とは思えんな。」
「大西洋連邦もまだはっきりとした態度は取っておりません。」
彼らはコーディネイターにさほど良い感情を抱いているわけではない。だが、デュランダルの政治方針と手腕は聞き及んでいる。だからこそ、今回の事件が例えプラント側の何者かの仕業であったとしても、デュランダルが率先して行わせたとは思えなかった。
いずれにせよ、今は被災地への支援が先だ。
〈この未曾有の出来事を我々プラントもまた、沈痛な思いで受け止めております。〉
プラントからはデュランダルが地球へのメッセージを送っていた。それと同時にザフトも無事だったジブラルタル及びカーペンタリアだけでなく、本国からも支援物資及び救援の部隊が派遣され、次々と地球へ降下していた。
〈信じがたい、この各地の惨状に私もまた言葉もありません。〉
ローマ、上海、ゴビ砂漠、ケベック、フィラデルフィアに大西洋北部にも破片は落ちた。大西洋連邦それ自体も被害は受けており、特に赤道を中心とした地域は被害が甚大だ。
〈受けた傷は深く、また悲しみは果てない物と思いますが……でもどうか、地球の友人達よ。この絶望の今日から立ち上がってください。皆さんの想像を絶する苦難を前に我々もまた、援助の手を惜しみません。〉
この映像をとある地下シェルターで見ながら、鼻で笑う男がいた。
ロード・ジブリール………前大戦で倒れたムルタ・アズラエルの遺志を継いで新たにブルーコスモスの盟主となった男だ。この男は、アズラエルと同じくとある団体のメンバーもかねていた。
デュランダルめ……甘い言葉をかけて民衆を扇動してくれる。だが、そんなものはすぐに通じなくなる。
「思いもかけぬ最高のカードだ……」
ネオ・ロアノークが持ち帰った映像……ザフト軍のMSが太陽風を受けて推力を発生させるフレアモーターをユニウスセブンに設置する映像だ。つまり、コレがザフト軍……正確には脱走兵だろうが、コーディネイターの仕業である事実が手に入った。
もし落下が阻止されていたら、例えコレを公表しても大した効果は得られなかった。だが、落ちてくれた。そして、多くの死者が出た。
ジブリールにとっては、同胞のナチュラルが大勢死んだことよりもコーディネイターを滅ぼす戦争を行う口実の方が嬉しかった。
「今度こそ、青き清浄なる世界のために。」
早速、大西洋連邦大統領ジョセフ・コープランドに圧力をかけている。
オーブへ進路を取ったミネルバの屋外訓練場でパイロット達は射撃訓練を行っていた。
「懐かしいな…」
イリアがそれを眺めていた。アスランもアカデミーの頃、そしてクルーゼ隊にいた頃はよくやっていた。イザークが度々突っかかっていたのはよく覚えている。
「イザークがよくお前に突っかかってたな。」
「アカデミーの最終試験ではあいつが勝っただろうが。」
「熱出して本調子じゃないお前に勝って、あいつが喜ぶか?つうか、それで二位ならそれより下のニコルや俺達はどうなる?」
混じっていたシオンもため息をつく。
「…全く、俺は俺で生粋のプラント生まれが難癖つけてきて、大変だった。」
「ラスティも入れた私達八人でグルの教官ごとみんな追い出したじゃない。」
そんなこともあった。地球生まれのシオンに分け隔てなく接したのはニコルやミサキ、イザークとディアッカも当時では珍しく地球出身のシオンに好意的だった。後で聞いたが、二人の趣味のルーツがオーブにあるから興味がわいたらしい。
それを通じて、アスランとイリア、ラスティも引き込まれて……地球生まれのシオンに嫌がらせをする生徒と、結託した教官をアカデミーどころかザフト軍から叩き出してやった。が、校長達からは自分達に報告しなかったことを問題視され、二週間訓練後のトイレ掃除をやらされた。良い思い出だった。
と、そこで赤いザクのパイロット…ルナマリアがゴーグルを外した。
「本当は私達、貴方のことよく知ってるんですよ?」
「え?」
「元ザフトレッドクルーゼ隊、戦争中盤では最強と言われたストライクとフレイムを討ち、その後は国防委員会直属特務隊FAITH所属、ZGMF-X09Aジャスティスのパイロットのアスラン・ザラ……そして、彼と共に最強の一機ウインドを討ち、共にFAITHになったZGMF-X06トゥルースのパイロット…シオン・クールズ。貴方のお父さんのことは知らないけど、その人は私達の間では英雄だわ…ヤキン・ドゥーエ戦でのことも含めてね。」
アスランはそれを軽くにらみつけ、イリアがため息をつく。
「歴史のテストなら100点だな……」
「……歴史の、テストなら?」
グラウンドのカインが問い返す。が、シオンもミサキも答えない。先輩と後輩の温度差を感じたか、ルナマリアはアスランに銃を手渡す。
「お手本……実は私、余りうまくないんです。」
アスランは少し悩んで、銃を受け取ってシミュレーターを起動させる。最高難易度だ。
的がめまぐるしく現れ、アスランはそれを性格に最高得点…つまり脳や心臓を撃ち抜いていた。
「うわあ、同じ銃を使ってるのになんで?」
撃ち終え、アスランは銃を返す。
「銃のせいじゃない。君はトリガーを引く瞬間に手首をひねる癖がある。だから着弾が散ってしまうんだ。」
「……MSのほうだが、俺達がヤキン・ドゥーエで一緒に戦った仲間には凄いのがいた。」
「凄いって……どんな風に?」
「……相手を極力殺さないように、武器やカメラを狙って離脱に追いこむ。」
「撃ち落とせないんじゃないんですか?」
いつの間にか来ていたシンにミサキが睨む。
「撃ち落としたくないと考える人よ…アスランとシオンだって、今はそっちのスタイルよ?私も頑張ってるけど。」
そういえば、シオンもユニウスセブンでは何機かあのジン部隊を離脱させていた。ミサキは苦労しているようだったが……
「そいつが敵で…本気の殺し合いになったら、俺とアスランでも勝てないよ。」
「本気で殺し合ったら勝てないって……どうして、そういうスタイルを?」
アナーのパイロット、アリスの問いにシオンはそれを軽く睨んだ。
「乗っているのが人間だということを誰よりも理解し、意識している。」
「相手が…人間だと………」
カインが復唱し、アスランは改めて銃を返した。
「こんなことばかり得意でも、どうしようもないけどな。」
「…そんなことありませんよ。敵から自分や仲間を守るのには必要ですって!」
「……敵って、誰だよ?」
ルナマリアの言葉にアスランが自嘲するかのように問い返すと、誰も答えられなかった。
「所詮、人を殺す技術だ。」
「そうね………MSも銃も同じだもの。」
「………んな事いったら、飛行機や船だって戦争なんかに使わない方が良いんだよ。車だって、装甲車や戦車なんぞにしない方が良いんだが。」
ルーキー達は四人の言葉に困惑していた。まるで、自分の持つ技術を疎んじているように見えていた。
ミネルバがオーブへ向かっていた頃……フォルタレザではジンによる無差別攻撃テロが発生した。それ自体は出撃していた連合の戦車隊と航空部隊によって撃破されたが、たった一機でも災害救助のために出動した部隊と民間人相手には絶大な被害をもたらし、現地に壊滅的な被害をもたらした。
ファントムペインの将校達は南米以外にも各地から届くザフトの残党によるテロについて協議を行っている。
「パトリック・ザラを信奉しているザフトの残党が各地で騒ぎを起こしているようじゃな。」
「プラントは今回の事件への関与を否定しているようだが。」
司令室に集まった士官達が各地で行われるコーディネイターのテロ活動に関して論じている時、オペレーターの一人が伝える。
「キルギスプラントより緊急救援信号です。ザフトのMSです。」
キルギスと聞いて一人の士官が顔色を悪くする。
「あそこは新型の駆動コンピューターを開発している!」
「あいつらを送ってやれ。」
禿頭が特徴のホアキン中佐は前もって待機させていたスウェン達のMS部隊に発進命令を出した。
〈GAT-X1022ブルデュエル、全システム機動を確認。〉
ミューディーは黙々とGAT-X1022ブルデュエルを機動させた。
GAT-X103APヴェルデバスターのシャムスは喜々と機体のシステムをオンにしていく。
〈GAT-X103APヴェルデバスター、全システム機動を確認。〉
ブルデュエルとヴェルデバスターがヘリに吊されて先に運ばれ、最後の一機スウェンのGAT-X105Eストライクノワールが機動する。
〈続いてX105Eストライクノワール、全システム機動を確認。〉
OSを立ち上げ、スウェンは青き清浄なる世界を汚すコーディネイターの殲滅のために出撃準備を進める。
「スウェン・カル・バヤン、ストライクノワール出る!」
専用武装ノワールストライカーを装備したストライクノワールのPSがオンになり、機体をその名の通り黒く染め、星が消えかけた夜明け前の空へと飛び立った。
ナチュラルとコーディネイターの争いは再び始まろうとしていた。
スターゲイザーの連合による各国への支援……当時悪い印象しかなかった連合が初めてまともな軍隊らしいことをしていると思いました。