機動戦士ガンダムSEED DESTINY REVERSE 作:meitoken
ミネルバはオーブ連合首長国へ入港した。タラップから降りたカガリを、真っ先に紫の神の男が出迎えた。
「カガリ!良く無事に戻ってきてくれたね!」
男は人目もはばからず、カガリを抱き締める。アスランがそれを複雑な表情で、フブキが舌打ちをするのをタリアは見た。
なるほど……恋敵。そして、妹に言い寄る悪い虫か。
「これ、ユウナ。気持ちは分かるが、場をわきまえなさい。ザフトの方々が驚かれておられる。」
「ウナト・エマ。」
「お帰りなさいませ、代表。」
「大事の時に不在ですまなかった。被害の状況など、どうなっているか?」
「沿岸部などは大分高波にやられましたが、幸いオーブに直撃はなく。…詳しくは後ほど行政府の方で。」
「ザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります。」
「同じく、副長のアーサー・トラインであります。」
「オーブ連合首長国宰相ウナト・エマ・セイランだ。」
宰相…つまり、この男がナンバー2ということか。
「この度は代表の帰国にご尽力いただき感謝する。」
「いえ、我々こそ不測の事態とはいえアスハ代表らにまで多大なご迷惑をおかけし、大変遺憾に思っております。また、この度の災害につきましてもお見舞い申し上げます。」
それが、タリアがこの場で出せる最大の誠意だった。
「お心遣い、痛み入る。ともあれ、今はゆっくり休まれよ。クルーの方々もさぞお疲れであろう。」
そして、カガリが送迎の車に向かおうとしたところでセイランの息子らしき男がカガリの肩を抱いた。
「ああ、君達もご苦労だったね。アレックス、イツキ。良くカガリを守ってくれたね、ありがとう。」
「いえ…」
男は明らかな優越感と敵意を込めてアスランとイリアに言葉を放つ。
「報告書などは後で良いから、君達はゆっくり休み賜え。後ほど彼らとのパイプ役を頼むかも知れないからね?」
それは二人がコーディネイターであることを当てつけていた。カガリはアスランを見やりながら、男に強引に車へと送られていき、フブキがその様子に舌打ちしていた。
「俗物が…!」
「ああ、そうだ。フブキ、大西洋連邦の方から君に会いたいというお客人も来ておられる。」
「また?」
「ああ、キミをご指名なのだよ。羨ましい限りだね、引く手あまたで。」
そして、カガリは車に乗せられた。
「お前達の差し金だろうが…!」
フブキが拳を握りしめているのがタリアにも分かった。
「…なんか、とんでもない場面を見たんじゃないでしょうか?」
アーサーに言われるまでもなく、とんでもない場面だ。代表首長と戦犯の息子のロマンス…しかも、あの様子からしてセイランはフブキをカガリから遠ざけるために大西洋連邦の要人の娘をけしかけているのかもしれない。
フブキは案の定、大西洋連邦の要人と会わされていた。娘はいるし、妙に馴れ馴れしくしてくる。
「それで、どのようなご用件で我が国に?今は被災地への救助が先なのでは?」
「このような時だからです……」
要人の言葉にフブキは相手を軽くにらみつける。
「代表補佐もご存じでしょう?この度の災害がどういう意味か…」
「……パトリック・ザラのシンパの仕業であり、プラントの総意ではないとのことですが?」
「ええ、ご存じですわ。ですが、地球の人々は何を望んでいるのかおわかりでしょう?そんな人々の心をつなぎ止めるべくして、私達も参上したのです。」
「代表補佐とはいっても、貴方の立場はオーブ首長会では危ういもの……」
つまり、そういうことか。実際、フブキは首長会や軍でウズミの養子であることは認知されている。それを方便にセイラン一派はフブキを閣議で封じ込めている。そして、今回を利用してフブキを大西洋連邦の要人の娘と結婚させ、更にフブキをカガリから遠ざけ、同時に自分の権力基盤を固めるつもりなのだ。
「警護をしているのはコーディネイターとのことですが?」
「彼女は先の戦争の頃からこの国に居住しております。」
「しかし、今の情勢ではこの国とて居場所は危うい。」
正論だが、こいつらは大西洋連邦の官僚だ。どうするかなど目に見えている。
これだけの事態が起きたというのに、こいつらは自分達の権力や戦争でコーディネイターを滅ぼす方が大事だということか!
こいつらにとっては地球に住むナチュラルの犠牲などどうでも良いのだ。コーディネイターを滅ぼす方便が手に入ったことが嬉しくてたまらない。ブルーコスモスの考えそうなことだ。
ミネルバはモルゲンレーテから船体の修理を受けていた。が、あくまで外。中はザフトの最新鋭艦なので、クルー達で行うことになる。アーサーは細かい部分はカーペンタリアで行った方が良いと進言する。それが最も何も分かるが…
「でも機密よりは艦の安全…ですものね。」
物腰の柔らかい女性の声が聞こえた。
「艦、戦闘艦は特に常に信頼できる状態でないとお辛いでしょう、指揮官さんは。」
栗色の髪の女性だ。まるで経験があるかのような口ぶりでコーディネイターのタリアでも思わず目を奪われる美人だ。が、横にいるアーサーが邪な表情をしていたのを気配で察したタリアが耳をつねった。
「誰?」
「…失礼しました。モルゲンレーテ造船科Bのマリア・ベルネスです。こちらの作業を担当させていただきます。」
「…艦長のタリア・グラディスよ。」
それから、二人は別の場所で談話をした。これから待ち受ける運命など知るよしもなく。
クルー達に上陸許可が下り、メイリンはヨウランとヴィーノと共に出ていた。その時、モルゲンレーテの車が入ってきてジャケットを着た一つか二つ年上の少女の顔が見えた。ヴィーノが身を乗り出してはしゃぐ。
「おい、見ろよ!あの人、代表と顔そっくりだけど美人だぜ!」
目に映ったのは青い髪の少女だ。確かに、どことなく顔立ちがカガリに似ている。同じく、見かけたヨウランも感嘆する。
「世の中には顔が似た人がいるっていうが、あそこまでそっくりとはな。ありゃ、付き合える男は運が良いぜ。」
こちらの視線に気づいたのか、少女が軽く手を振ってヨウランとヴィーノは表情が緩みきっている。
「全く、これだから男は!」
メイリンもあの少女が美人なのは分かる。よく見れば、スタイルもかなり良い。どことなく、メイリンのコンプレックスを刺激された。
アリスは艦を歩き回り、ルナマリアを見つけた。
「ねえ、シオン先輩は?」
「上陸許可が出たからね、もうミサキ先輩と出ちゃったわ。」
「あ…そうか、家族いるのよね。」
「あんた、いい加減に諦めなさいよ。この様子じゃ、家族に紹介なんて済ませてるかもしれないのよ。」
それがアリスの胸に突き刺さった。
「でも…!」
「まあ、あの人顔は良いしキャリアも満点。しかもオーブの偉い人と気軽に話せる仲……誰かさんが聞いたらちょっかいかけてたかもね。」
「……あの子?」
確かに、同期のあの子ならやりかねない。何しろ、アリスから見ても同じ女として、腹が立つ最悪の性格だ。
「うまくやった物よね、元評議会のお嬢様と付き合うなんて。」
彼女の叔父は失脚したが、当時は評議会の議員だった。しかも今でも少なくない影響力がある。それと付き合っているのだから、シオンは確かに人生は薔薇色だろう。だが……
「それで付き合うなら、失脚した時点でさようならだと思うけど。」
だからこそ、余計に悔しい。アリスは平凡な会社員の両親から生まれた。シオンに至っては外国の留学生だ。外国でも条件は近いのに、ステータスで負けた気がしてならないのだ。
カインは一人で外に出た。
「ここが、シンの生まれた国か。」
二世代目のカインにとっては地球自体初めて踏む大地だ。
「父さんや母さんも…お爺ちゃん達も昔は地球に住んでいたんだな。」
ナチュラルの祖父母は今も存命で、故郷の地球に思いをはせることはある。ユニウスセブンを落とした連中は地球出身の一世代目が多いはず。なのに……それを滅ぼそうとした。
「……やめよう。考えても意味がない。」
初めて踏む地球の大地を感じながら、カインは外に出た。空はユニウスセブン落下のせいでオーブに来るまでは曇りきっていた。
「地球は、天気は予定通りにはならないんだよな。」
機械でコントロールされたプラントは雨は降っても、祖父母や両親から、幼年学校で習うような台風や嵐という自然災害はない。雷だってないのだ。
「まさか…ユニウスセブンを落とした奴ら、コーディネイターなら地球の環境もあっという間に回復できるなんて思ってたんじゃ?」
アカデミーの頃、頻繁に流れたパトリック・ザラの演説…今でも抱えている婚姻統制を初めとした問題もコーディネイターの英智なら解決する、といっていた。だが……
ユニウスセブンが動き出した際にヨウランが言った言葉、いくら何でも言い過ぎだとカインも思った。だが、言ったヨウランはフブキに言われるまで自分の発言が地球の人々の敵意を駆り立てると理解していなかった。
『進化した人類が聞いて呆れる』
進化した人類……コーディネイターの優位性を信じる人々の決まり文句みたいな物だ。艦のクルー達にもそれを信じて疑わない人がいる。だが、自分達より能力で劣るナチュラルのフブキに言われてようやく、自分の発言が最悪の類だと自覚する……ヨウランのケース一つとってもアレのどこが進化した人類なのだろうか?
シオンはミサキと共にあるマンションを訪ねた。呼び鈴を鳴らすと、中からシオンと同じ色の髪をした少女が出てきた。シオンの妹レナ・クールズだ。
「兄さん、久しぶり。」
「ああ、元気だったか?」
軽く抱擁を交わし、レナに招かれる形で二人は部屋にあがった。案内されたリビングでは、あの後戻っていたイリアがコーヒーを飲んでいたところだった。
「おう、ご両人。いらっしゃい。」
イリアは簡単に会釈すると再びカップに口を付ける。
「コーヒー、飲む?」
「ああ、砂糖とミルクを入れてな。」
「はいはい。」
レナは二人分のカップを追加で出し、サイホンに残っていたコーヒーを注いだ。
「レナのコーヒーは強烈だぞぉ。」
シオンは苦笑して砂糖とミルクを入れて口を付けると、顔をしかめる。確かに砂糖とミルクを入れているのにかなりきつい。以前、共に戦った『砂漠の虎』アンドリュー・バルトフェルドにコーヒーを習っているとは聞いた。彼のコーヒーも相当な物であったが、これはバルトフェルドのコーヒーを超えて独特だ。ミサキは既に飲むのを諦めている。シオンはもう一口きついコーヒーをすすった後表情を引き締め、イリアに問いかける。
「オーブは……どうなっている?」
「やばいな。犯人のことがばれていて大西洋連邦との同盟の話が出ている。」
ユニウスセブンの件以来、世論は連合に傾きつつある。オーブへ入港する前のニュースではユニウスセブン落下以来、コーディネイターのテロ行為が頻発している上に南米ではコーディネイターの子供達がMSでテロ攻撃を行ったという。
子供達がナチュラルへの報復を叫ぶように今度は地球の人々がプラントへの報復を叫んでいる。そうなれば同じ事の繰り返しだ。もう二度と、あんな事をしてはならない。しかし今のカガリとフブキではセイランを筆頭にした首長達を押さえるのは難しい……おそらく同盟は締結されてしまうだろう。シオンはウズミの遺志を摘もうとしない首長達に、友に何も出来ない自分に苛立ちを覚えた。
シンは上陸して、あの場所に向かった。あの時、避難船が停泊していた場所は綺麗に舗装され、花壇があった。あの戦闘で死んだ人々を追悼する公園になったのだろう。
だが、シンは只のうわべだ。上っ面だけの国らしいやり口だ。どうしようもない怒りがこみ上げてくる。
そして、岬にある慰霊碑らしき物を見かけ、誰かが花を添えていた。
「あの戦闘で、どなたかを亡くされたんですか?」
シンが思わず声をかけると、先客が振り返る。
「え……?」
シンは呆然とつぶやいた。その先客の顔は、あの時に死んだ姉…リュウ・アスカそっくりだった。
リュウ・アスカは言葉を失った。戻ったフブキやイリアから聞いていた。ザフトの最新鋭艦ミネルバの新型機のパイロットにシン・アスカという少年がいたということ。念のため、ロケットの写真をメールで見せると本人だと言われた。
カガリも同じ顔だと言った。
生きて…いた。でも、ザフトの軍人になっていたなんて。
同時に、あのヤキン・ドゥーエ戦でプラントに撃たれた核を止められたことをリュウは安堵した。もし、一発でも直撃していたらシンがユニウスセブンの遺族のようになっていたかもしれない。
だが、リュウは言葉を紡げなかった。二年間、互いに死んだと思っていた姉弟は再会した。
「…あの?」
少年が問いかけ、リュウは我に返る。
「え、ええ……貴方も?」
「……はい。」
「そう、なら会っていくと良いわ。きっと喜ぶから。」
リュウは足早に去って行った。
シンは去って行く人を呆然と見つめた。
「そんなわけ…ないよな。姉さんなわけ。」
そうだ、家族を殺された姉さんが今もオーブにいるわけがない。きっと他人のそら似だ。例え生きていたとしても、オーブと友好関係にあるスカンジナビア王国にいるんだ。スカンジナビア王国はオーブ戦の際に民間人に救援を派遣した国だ。きっと、そこにいるんだ。
二人は互いに逃げてしまった。姉は言葉を紡げず、弟は事実から目を背けて。
同じ頃……大西洋連邦とユーラシア連邦を初めとした連合各国は自分達の要求を受け入れなければプラントを地球人類に対する悪質な敵性国家と見なし、武力による排除に踏み切ると通達したのだ。
最悪の流れだ。先日の閣議でもユニウスセブンの落下がコーディネイターの所業だというのが世界に知れ渡り、人々が報復を叫んでいるのはカガリも知っている。このまま開戦になれば再び世界は認めない者同士に割れ、そうなれば現在最大の議題になっている大西洋連邦との同盟に同意せざるを得なくなる。
なんて無力なんだ……私は…
項垂れるカガリの眼に…今朝、デュランダル議長に会いに行くと言ったアスランが出発時にはめてくれた左手の指輪が悲しく光っていた。
今度はオリジナルメンバー重視です。尚、アリスとルナマリアが言及してるあの子とは『FREEDOM』に出てきたアレです。
ネタバレで、カインはミネルバの中では当時の感覚風に言えば『ミネルバの唯一にして最後の良心にして希望』になります。