機動戦士ガンダムSEED DESTINY REVERSE 作:meitoken
ガイアのパイロット、ステラはシンが無断で艦内に治療のために移送した。当然、そんなことが通じるはずもなくその間に目が覚めてステラは暴れ出した。そして、抑えられた後で判明した。
彼女は連合のエクステンデット、それもあの研究所で養成されていたのだ。
どうもシンはディオキアで知らずに会っていたらしく、アスランによれば連れの三人と一緒に帰ったという。恐らく、その三人もエクステンデットだろう。
シオンは医務室から出てきたシンを呼び止める。
「シン、お前があの子をどう思っているかは言及しない。」
「何が言いたいんですか?」
「お前にとって、最悪の結果にならないようにどうすれば良いかよく考えろ?」
それは、レナの時に結局何も出来なかった自分への戒めだった。シンはそれに何も答えず、去っていった。
「ねえ、シオン…シン、もしかしてあの子のこと……」
「さあ、な。」
カインはシンが連れてきたエクステンデット、ステラの事を聞いて悪い予感がした。ディオキアで出会ったクレマンス・オルグレン……まさか、彼女も?
「い、いや……まさかな。」
そんなわけない。休暇か何かの敵兵と会うなんて、そんな昔の映画でも使わないだろう。
アリスはエクステンデットの少女のことを聞き、自分が傭兵だと言ったグレン・フレイアを思い出した。
「まさか…あの人、連合の軍人?」
そうだとするなら、間近でコーディネイターを見た緊張感とは違う何かもうなずける。
「違うわよね?本当に…傭兵よね。」
夜が明け、ブロックワードを発してしまったことでパニックを起こしたアウルとイリーナの調整を重点的に行う中、ステラが戻ってこない報告を受けた上層部から通達が来た。
「ステラを損失にしろ、か。」
「はい、ですがお二人は彼らを」
「死亡。」
「は?」
ジョーンズの艦長が呆然と聞き返す。
「死亡でしょう。間違えないで。」
エリスが不快感を露わににらみつける。
「え、あ、しかし中佐…」
「死亡でしょう、パイロットなんだから。」
「あ、は…はい。ステラ・ルーシェの件は死亡と扱うようにと。」
「やっぱり、あんた達を先に殺したくなるわ。」
「中佐、よせ。」
ネオが窘め、ようやくエリスも大人しくなる。艦長が退室した後、ネオは研究員に頼む。
「すまないが、三人からステラの記憶を。」
「大佐!私は反対です!!」
「命令だ、中佐。」
威圧するように説き伏せられ、エリスは乱暴に退室していった。
そう、これでいいんだ。死んでしまったステラのことを引きずっていたら、次はあの三人の誰かが死ぬことになる。いないことにしてしまった方が良いんだ。あの子達のためにも。
海底に潜伏しているアークエンジェルの後部デッキで海底を泳ぐ深海魚たちを眺めながらキラは先日アスランと会った件をユリに話していた。
「そう、アスランは私達のしている事を……」
「うん……彼の言う事も判るけど。」
結局、アスランから話を聞き出す事も出来ずにただ平行線の議論をするだけに終わってしまった。レナとフブキの方はシオンから忠告を受けたが、有益な情報を得ることはなかった。ただ、アスランと違い自分達には同調してくれたが。
「相変わらず優等生ね……って、言いたいけど。今回ばかりは私もぶん殴りたいわ。」
「姉さん?」
「だって、そうでしょ。一番危ないときにカガリをほっぽってプラントに行った挙げ句に私達どころかカガリにさえ何も言わずに復隊なんて。結婚をああだこうだ言えるご身分?」
容赦のない言い分だ。これが姉の良いところでもある。
「キラ、あの子がカガリを泣かせるようなことになれば私もあの子をぶん殴るから。あんた一人でやる必要ないのよ?」
昔と変わらず、自分の考えている事を見抜き、いつも慰めてくれている。この人と姉弟に生まれて本当に良かったと、キラは天に感謝した。
「ありがとう……それと、ラクスの件だけど。」
「大丈夫よ、イリアも行くって言っているから。」
ラクスはプラントに行って様子を見に行くと行っていた。オーブでの件があるから危険だが、ラクスは言って聴くような人間ではない。それに、彼女も扉を開けた時点で覚悟を決めていたのだ。ならば、せめて……
ディオキア基地ではラクス・クラインがプラント本国へ帰るために用意していたシャトルの準備が終わるまで基地の兵士達にサインをしていた。少々度の過ぎた愛想の振りまきにマネージャーが顔を引きつらせるが、本人はかまわずに色紙にサインをする。
「ラクス様、シャトルの準備が整いました。どうぞこちらへ。」
白髪の兵士がラクスとマネージャーをシャトルまで案内し、それに兵士達はエールを送りラクスは手を振って愛想良く答える。
しかし、彼らは知らなかった。このラクスが贋者のふりをした本物だと…
遅れて着いたもう一人のラクスを見て最初に来たラクスが贋者だと気付いたザフト軍は新型の空中戦用MS、AMA-953バビとガズウートが発進してシャトルを攻撃する。ミサイルがシャトルへと真っ直ぐに向かっていく。もしも一発でも当たればシャトルは火の玉となってしまう。
シャトルにミサイルが届くと思われた瞬間、突然の砲撃によって全てのミサイルは撃ち落とされた。敵機に気付いたバビが周囲を見回すが、それよりも早くバビが切り裂かれた。フリーダムだ。気付いたバビが応戦するが、フリーダムは圧倒的な機動力でバビを翻弄し、砲撃する。そして、空中部隊を退けたフリーダムはガズウートと司令部にダメージを与えて離脱していった。
そして、フリーダムは大気圏外へ上がるシャトルに曳航し、キラはシャトルに通信を繋ぐ。
〈ラクス!〉
「キラ!」
恋人の無事を喜ぶ少年にバルトフェルドは「ご苦労さん。」とねぎらいの言葉をかける。バルトフェルドの隣の席に座るイリアもため息をつく。
「しかし、まあ。本物が偽物のふりをするなんて発想、俺は聞いたことがないよ。」
最初にこの策を聞いたときはイリアも顎が外れると思ったが、確かに盲点ではある。キラが未だ心配そうに〈僕も一緒に!〉と言うが、ラクスが制した。
「おい、キラ。俺だってレナを置いていったんだぜ?」
イリアが恋人のレナとよく話し合ったことはラクスも聞いている。レナだって反対したのだが、プラントならばイリアは地元だ。バルトフェルドと並び、適任でもある。
「お前はアークエンジェルを頼む。あのバカがアークエンジェルを撃たせないためにもお前は残れ。」
「キラ、貴方はアークエンジェルへ。マリューさんやカガリさんをお願いします。」
「ここまで来て我が儘言うな。俺達が彼女を守る…命がけでな。」
バルトフェルドもキラを窘め、フリーダムはゆっくりとシャトルを離れていく。それをラクスは見えなくなるまで見つめていた。
ラクス・クラインの名を語った贋者がシャトルを奪い、宇宙へ上がったという報告は本国のデュランダルの元へも届いた。基地の者達も顔から声までそっくりだったというが、それは当然だ。何しろこちらが贋者なのだから。
「で、シャトル強奪犯の行方は?」
〈は、現在グラスゴー隊が調査中です。〉
士官の動揺を隠せない言葉にデュランダルは落ち着かせるように指示を出す。
「とにかく、ラクス・クラインの名を語ってのシャトル強奪の目的、それはおそらくプラント内部の混乱だ。早急に対処してくれ。」
そう言って通信を斬ったデュランダルは執務室の机にあるチェスボードを見つめる。
だが、彼らが離れてくれたのは幸いか………ラクス・クライン……そして、キラ・ヤマト。
デュランダルは知っていた。公には正体不明とされるフリーダムのパイロット。それだけではない……あの日以来、彼は入念に調査した。そして、知った。
ユリ・ヤマト……生まれるべきでなかった運命にありながら、生まれてしまった者。
シオン・クールズとレナ・クールズ……類い希な運命を持ち、その力を知らずに育った兄妹。
フブキ・クラ・アスハ……カガリ・ユラ・アスハの兄にして………ナチュラルとコーディネイターの溝から生じた同胞の銃弾で全てを奪われた、欲望によって作り替えられた人間。
リュウ・アスカ……ミネルバに所属するシン・アスカの姉。何故かフブキ・クラ・アスハと出会い、共に生きている。何が二人を引き合わせたのだ?
デュランダルはソファーに座り、机の向かいに立つ今は亡き友の幻を見つめながら考える。ラクス・クラインとキラ・ヤマトだ。
彼らが何時どこで、何故出会ってしまったのかを私は知らない……ラクス・クラインは当時の最高評議会議長シーゲル・クラインの娘にして、パトリック・ザラの息子アスラン・ザラの定められた相手だった…
プラントでは現在も低下している第三世代の出生率を向上するために少しでも優秀な遺伝子同士を結ばせようとした。その中でも当時のプラントで最有力権者であったパトリック・ザラとシーゲル・クラインの血を引く二人の結婚は正に希望の光と呼ぶにふさわしかった。
それが何故、彼と出会ってしまったのか……
希望の光の片割れであるラクスはキラと出会ってしまった。そして、二人は互いに惹かれ合った。
それでも魂が引き合う、定められた者達。定められた物事。全てをそう言ってしまうなら…では我らが足掻きながらも生きるその意味は?
仮面をつけた白服の男の幻影が駒を持ち、隣に座るバイザーをつけた女の幻影が笑う。
『全ては生まれ、やがて死んでいくわ。ただ、それだけのことよ……』
かつての自分の幻影が二人に問う。
『だから何を望もうが、願おうが、無意味だと?』
『いやいや、そうではない…ただ、それだけが我らが愛しきこの世界…そして人という生き物だという事さ。』
仮面の男が返し、女が続ける。
『どれだけ、どのように生きようとね。誰もが知っていて、誰もが忘れている事よ……だが、私たちだけは忘れない。決してそれを忘れないわ…』
誰もが忘れていること……それをデュランダルも思い知った。あの日に。
『こんな私たちの生に価値があるとしたら、知ったときから片時もそれを忘れた事がないという事だけだろうがな。』
男が笑い、二人は消えていく。そして、デュランダルは机の中から錠剤の入ったピルケースを取り出す。
だが、君達とて望んで生きたのだ…まるで何かに抗うかのように。求めるかのように。
二人は確かに抗った。己にまとわりつく運命に…業に。そして、抗う果てに全てを滅ぼそうとした。二人は呪ったのだ。自らの運命を…それを貸した世界への復讐という形で抗い、破滅を求めた。
かつて、所属していた研究施設で彼らと邂逅した記憶が脳裏をよぎる。二人の側には小さな子供が一人ずつ着いていた。
願いは叶わぬものだと知った時、我らはどうしたらいい?それが定めだと知った時…
先ほどよりも若い姿で二人が子供と共に背後に現れ、笑う。
『そんなこと、私たちは知らないわ。他人の全てを知ろうなんて、迷路を歩くものだわ。』
男が隣にいる少年の頭を撫で、少年は満面の笑みを浮かべてピアノに向かっていき、少女が側に座って聞き浸る。それを見つめながら、男が笑う。
『道は常にいくつも前にあり、我らは選び、ただ辿る……君達はその先に願った物があると信じて、そして私たちは、やはり無いのだと、また知るために…』
そしてアスランとラクス、二人は遺伝子とは違う相手と出会い彼らを選んだ。アスランはカガリ・ユラ・アスハ、ラクスはキラ・ヤマトを。何故?デュランダルは今ミネルバの艦長をしているタリアと愛し合い、過ごした日々を思い出す。あの頃の二人は未来に希望を抱いていた。結ばれ、共に生きたいと願った。しかし…
『仕方がないの…もう決めてしまったの。』
あの日のタリアの悲痛な声が蘇る。
『私は子供が欲しいの。だからプラントのルールに従うわ……だから、もう…あなたとは一緒にいられない。』
二人の未来は遺伝子というどうにもならない溝によって阻まれた。デュランダルとタリアの遺伝子では次の世代は生まれない。そして、彼女は自分ではない他の男性を選びその人の子を産んだ。その時、デュランダルの心には絶望の風が吹いた。
誰が決めたというのだろう?何を?
婚姻統制によって引き裂かれた二人……タリアは我が子を授かりたいという女の願望を選んだ。そのために…デュランダルを捨てた。
あの時、自分は他の男に肩を抱かれ背を向けた彼女をただ見送っただけだった。
仕方がなかった…では、それは本当に選んだことか?選んだのは本当に自分か?選び得なかった道の先にこそ、本当に望んだ物があったのではないか?
男がまたも現れ、嘲る。
『そうして考えている間に、時はなくなるぞ……選ばなかった道など無かったも同じ。もしも、あの時…もしも、あの時…いくら振り返ってみても、もう戻れはしない。何も変えることなどできない。我らは常に…見えぬ未来へと進むしか無いのだ……』
女が男の隣に現れる。
『今ではない何時か…ここではない何処か…それを求めて。きっとそこにはある素晴らしいもの……それを求めて永劫に血の道を彷徨うんでしょう、貴方達は?不幸なことだわ…』
血の道を彷徨う。その通りだ。彼らがそこまで膨れ上がらせた戦争…だが、二人は直接手を下していない。その道を用意したがその道を選んだのはパトリック・ザラ、当時のブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルだ。
だが、その血の道を彷徨いながらも違う道を求める、今ではない何時かを求める。
失敗作のユリ・ヤマト……ブルーコスモスの欲望に染められたフブキ・クラ・アスハ……兄妹でありながら、違う道を歩んで同じ未来を目指すシオン・クールズとレナ・クールズ……そして、時に翻弄されて弟と引き裂かれたリュウ・アスカ……
彼らはあの二人の示した未来を砕いた。どうして、どうやって?分からない……救いを信じたのか?
デュランダルがソファーの脇のスイッチを押し、ラクスの歌が流れる。そして、かつての自分が現れ問う。
『救いはないと?』
だが、男はそれすら笑い飛ばす。
『救いとはなんだ?望む物が全て、願った事が全て叶うことか?こんなはずではなかったと、だから時よ戻れと祈りが届くことか?ならば次は間違えぬと、確かに言えるのか?君は…誰が決めたというのだ?何を?』
時は戻らない。喪われた命は戻らない。だから、デュランダルは決めた。
ならば私が変える。全てを。戻れぬというのなら初めから正しい道を。アデニン…グアニン…シトシン…チミン……己のできること、己のすべきこと…それは、自身が一番よく知っているのだから……
デュランダルとあの男の語らいは凄く重く感じるし、あの二人の語りが運命では特に好きです。
こっちではあの女も絡んでいます。二人で分割している感じで語ってます。
彼女もまた、ラウと違う意味で世界の、ひいては人間の悪性の被害者でしょう。救いがあるとすれば、正に彼女の場合は母が自分を産んだときに死なず、憎いあの女が生まれなかったこと。
でも、あの女は生まれてしまったから。