機動戦士ガンダムSEED DESTINY REVERSE 作:meitoken
シンは直ぐさまステラに駆け寄ったが、既に彼女は虫の息であった。「好き…」と最後に言い遺し、もう二度とその瞳を開く事はなかった。シンは彼女の亡骸を抱いてインパルスをベルリンから離れた湖に着陸させた。
もう、君をいじめる奴は来ないから…安心してお休み……
ステラの首に初めて会った時に貰ったあの貝殻をペンダントにして下げたまま、シンはそっと彼女の身体を湖へと沈めた。その姿が見えなくなるまで、シンはそれを見つめ続けた。そして、見えなくなった後、シンは呻くように泣いた。
守るって、決めたのに……死なせないって……
何故、海が好きであんな無邪気に踊っていた少女が死ななければならない?誰のせいだ?
……そうだ、全て奴のせいだ。あいつが約束を破って、ステラを乗せた。そして、奴が殺した。
シンの心に開いた穴の答えは、一機のMSへと集約された。そう、自分があの惨状を招いたという認識さえ、シンはなかった。
巨大MSが破壊された後、壊滅した都市にザフトからの救援が来た。その様をシオンは上部デッキから見下ろしていた。改めて見ると、酷いとしか言いようのない状況だ。ミサキが憂いの声を発する。
「滅茶苦茶よ、連合は。ザフト支配地域の解放って…こんな事をするなんて……」
たしかにそうだ。名目がザフトからの地域解放だというのは理解できないわけではない。だが、これは解放ではなく、ただの虐殺だ。
「正確にはブルーコスモスだがな。」
繰り返さない方法を模索するためにとレナと違う道を選択した。しかし、ダーダネルス以来自分の選択に疑念を抱いている。もしかしたら、オーブへ戻った方が良かったのかもしれない。
一度スカンジナビア王国へ戻ったアークエンジェルはベルリンで二機のMSと四人のパイロットを収容した。問題はその内の二人であった。一人はあの大戦の後、共にオーブへと渡って間もなく消息を絶った『新星の隼』レイラ・ウォンだった。彼女は地球軍の動向を探るためにヤキン・ドゥーエでMIAとなった人物の軍籍を得て第八十一独立機動群…通称ファントムペインに渡ったと証言した。その証拠に彼女はエクステンデットやブーステッドマン、強化を施された兵士に関する情報の入ったディスクを持っていた。彼女の生存は喜ぶべきではあるが、レイラは今の自分はエリス・ティーゲル中佐と言い、捕虜として扱われる事を希望した。
そして、同じく第八十一独立機動群所属ネオ・ロアノーク大佐。彼の顔は最終決戦で戦死したムウ・ラ・フラガと瓜二つであった。最初は他人の空似だと思ったが、艦に残ったデータベースにあるフィジカル・データから彼はムウ・ラ・フラガだと判明した。肉体的にではあるが……
現在ネオ・ロアノークはアークエンジェルの医務室に寝かされ、別の部屋ではレイラとブルーコスモスが育成したパイロットも拘束されている。
キラ達はブリッジをナタルに任せ、医務室を訪れた。そこではマリューが先ほどと変わらず側に着いていた。ベッドに眠るネオを見つめるマリューの顔は明らかに戸惑いの色が出ていた。無理もないだろう。帰らぬ人となっていた恋人が別の名前と軍籍で今目の前にいるのだから。戸惑いがちにマードックがキラに詰め寄る。
「少佐なのか?この男は。」
「そのはず…なんですけど。」
「いつから少佐になったんだ?俺は…」
下から聞こえた声に驚いて視線を移すといつの間にかネオは目を覚まし、不機嫌面をしていた。
「捕虜になったからって、勝手に降格すんなよ!」
顔だけではない。声から態度、口調、何から何までがムウ・ラ・フラガと同じだ。マリューが震えながら見つめるのに気付いたネオが振り向いた。
「何?一目惚れでもした?美人さん。」
まるで他人のような態度にマリューは口元を押さえながら医務室を飛び出していき、外にいたユリとミリアリアが後を追った。
「ムウさん!」
「誰だよ、ムウって?」
レナの叱責に対してのネオの態度にキラ達も固まってしまった。
「あ……すみません、人違いだったのかもしれません……」
リュウが謝罪をし、皆が医務室を出て行った。通路には泣き崩れたマリューがユリとミリアリアに支えられて歩く後ろ姿が見えた。艦長の弱々しい姿を見つめながらシュウが呟いた。
「記憶が、無いのか?」
シュウの問いにキラも戸惑いを隠せなかった。
「無いって、言うか…違うみたいだね。」
「でも…あの機体の操縦とか、顔も…」
レナの言う通り、あのウィンダムの動きも、声も口調もこの艦にいる殆どの人間が知るムウ・ラ・フラガの物だ。そして、ダーダネルス以来キラはムウの気配のような物を感じた。ユリも同じようにダーダネルスでレイラの気配を感じた。かつてムウとレイラはL4のコロニー・メンデルで生み出された自身の家の業とも言うべき者の存在を感じていた。キラとユリもそのつながりか、二人の気配をダーダネルスで感じていたのだ。だから、ユリと相談して真実を確かめるために……しかし、実際にはレイラはともかくムウの方は。
「だが、記憶がないにしろ別人にしろ…ラミアス艦長には辛いぞ。」
マリュー達が立ち去った方向を見つめるフブキが辛い現実を口にした。
カインはアリスと共に突然、シンの部屋に引きずり込まれた。何故か、レイとルゥもいる。それを見ていると……
「これ、フリーダムの?」
「ちょっと、何をしているの?」
モニターでは今までのフリーダムの戦闘記録があった。いや、ブレイブとアフェクションも入っている。
だが、シンは答えない。その時、アスランが来た。
「シン…?何をしているんだ!」
アスランの問いさえシンは無視している。
「くそっ、フリーダムもブレイブもアフェクションもインパルスよりパワーが上…それをこんなに!!」
「カメラが捉えてからの反応が恐ろしく早い。スラスターの使い方も見事だ。」
「シン!何をしている!?」
アスランの声を聞き、シンは応える。
「強いからです。俺の知る限り、今一番強いのはこいつです。あのデストロイだって撃破したんですから、何かあったときこいつを倒せるのがザフトにいないと困るでしょう?」
「な、何かって…」
「だが、キラ達は敵じゃない!」
「はあ?」
「何故です。ダーダネルスで本艦を撃ち、ハイネがアレのせいで命を落としたではないですか?」
ルゥがもっともらしい正論でアスランを言い負かす。が…
「ダーダネルスで撃ったのは本当だが、ハイネを直接撃ったのはお前が帰したあの子だろう?」
「何言ってるんだよ。ステラは連合の被害者なんだ!ステラは悪くない!だから、ハイネを殺したのはあいつだ!」
「な!あんた…そんな責任転嫁を!?」
カインは絶句した。いくら何でも無茶苦茶な責任転嫁だ。彼女が連合の被害者なのは認める。だが、シンの言い分はただ彼女がやった全てをアークエンジェルに擦り付けたいだけじゃないのか?
「よろしければ、アスランも経験からアドバイスを…シオンとミサキにも意見を伺いたいのですが?」
カインはまたも言葉を失った。彼らはアークエンジェルと共に戦った仲間だぞ!?今は敵でも…昔の仲間を殺すのを手伝え!?
「良いよ、レイ。負けの経験や口先だけの役立たずの言葉なんていらないよ。」
「シン、あんた!」
「アリス、お前とカインはどっちの味方だ?」
アリスがルゥに詰め寄られ、レイはアスランを追い出すように退室を促した。
「カイン、アリス…お前達にも付き合ってもらう。ブレイブとアフェクションを撃つためにな。」
「あ……ああ…」
「わ、分かったけど…」
だが、カインは言い出せなかった。あの時、シンがあのデストロイに向かって叫んでいた名前……ステラ。あのエクステンデットの少女がアレに乗っていたのだとしたら、あの惨状はシンが招いたのだ。なのに、シンはその責任を全く自覚していないどころか彼女が命を落とした結果だけ見て、それさえも自分がその一端を担ったという事さえ忘れ、全てフリーダムのパイロットのせいにしている。
アカデミーの頃は教官に反抗することはあったが、ここまで酷くなかったのに……何が、どうして?
「フリーダムは…俺が倒す。」
そうだ。全て奴らのせいだ。家族が死んだのも。アスハ家の兄妹のせい、家族を殺して、姉さんを騙してヤキン・ドゥーエで戦わせた。アスランもシオンもミサキもあいつらを信じてるが、馬鹿馬鹿しい。
奴らは戦争を利用して名前を売り出しているんだ。そう、同盟を止めるためにダーだね津に現れたのもそのため。ステラを使ってハイネを殺し、あの惨状を売名のために使って用済みのステラを殺した。
俺は何も間違っていない。悪くない。悪いのはステラをアレに乗せたネオだ。俺のしたことは何一つ間違っていない。あのベルリンの惨状もステラは悪くない。返した俺も悪くない。
俺もステラも被害者なんだ。
もはやシンは、自分が被害者であるというその過去に縋って、酔いしれていた。
アリスはシンの顔が怖かった。あの通信がもし、聞き間違いでなければあの子が乗っていたことになる。だが、
「アリス、ブレイブにシオンが入れ込んでいるのは知っているだろう?」
「え?ええ…」
ルゥに突然、関係のないことを聞かれるが…事実を応えた。
「シオンをたぶらかしているんだ。奴を葬れば、シオンは目が覚めるさ。」
「シオンが…目を覚ます?」
「そうだ……奴らがシオンの判断を狂わせているんだ。」
「な、おいルゥ!?」
「カイン、お前は一旦戻れ。今はアリスと対策する。」
レイがカインを半ば強引に追い出したが、アリスはそれを気にとめる余裕はなかった。
「アリス…シオンを取り戻したいのなら、奴らを撃つしかない。」
シオンを取り戻す……シオンの、妹?いや、違う!あいつは妹なのを利用して、私のシオンをたぶらかしているんだ!
伝説のエースのシオンに相応しい女になろうとした。なのに、シオンは私を見てくれない。ミサキがいるからだ。いや、それ以上にあの魔女がいるからだ!
「ええ…ブレイブは受け持つわ。」
ミサキはアスランから聞いたことが信じられなかった。シン達がフリーダム、ブレイブ、アフェクションを敵と決めつけて対策を練っている。確かに、今アークエンジェルの立場は不明瞭だ。だが、ベルリンでは連合の侵攻を阻止した。少なくとも、積極的にザフトと戦う意志はないのに!
シオンにもそのことを伝えた。流石にシオンも動揺しているが…
「だが…無駄だ。経験値が違いすぎる。俺やアスランだって勝つのが難しいんだぞ。」
「そ、そうよね……キラ達が、負けるわけないもの。」
アスランだけでなく、シオンもミサキも……彼らには全幅の信頼を置いていた。いくらシン達が対策を練ったところでキラ達に勝てるわけなどない。
アリスはシオンへの気持ちをルゥに見破られ、それを焚きつけられました。元々燻っていた嫉妬を燃え上がらせました。
そして、シンのアレは実質書いたような心情だと思います。
本編始めてみたときも…自分がアレを引き起こしたという自覚もなければ、自分がステラが死ぬ原因を作ったとさえ思ってない。只の我が儘で自己中のガキにしか見えなくなりました。