機動戦士ガンダムSEED DESTINY REVERSE 作:meitoken
クレムは食事をしながら隣の少年が傷ついた身体を起こそうとするのを見た。しかし、傷が痛んで思うように動けないらしい。それとほぼ同時にカガリ・ユラ・アスハと髪が外側にはねた少女が入り、駆け寄った。
「大丈夫かよ、おい。」
「う、うん……姉さん達は?」
「大丈夫よ。リュウは軽傷だったし、ユリ達も大した怪我じゃなかったから。」
少女の言葉にキラという少年は「そう。」と安心した声を出した。
「お前の方も、酷くなくて良かったよ。」
「でも…フリーダムを……」
フリーダム、このキラという少年があの伝説のMSフリーダムのパイロットなのだろう。そして、会話と彼の様子、先日の振動からしてザフトとの戦闘でやられたのだろう。生きているのは大した物であるが…
「インパルスにやられたんだって?ザマミロ。」
前のベッドで食事をしていたネオが馬鹿にしたようにけなし、食事を進める。キラやカガリが彼を戸惑いがちに見つめる。まるで、同じ顔の誰かを見ているようだ。
「真っ直ぐで、勝ち気そうな小僧だぜ。インパルスのパイロットは。どんどん腕を上げている。」
「会った事、あるんですか?」
「ああ……一度な。」
その一度とはおそらくステラを返しに来たというコーディネイターの事だろう。
大佐…あの子の事を気にしているのね……
しかし、そのパイロットというのはおかしな物だ。コーディネイターのくせに元々ナチュラルであるステラをこちらに返した。あのキラもコーディネイターらしいが、ナチュラルであるカガリを初めとしたこの艦のクルーと完全に打ち解けている。
「しっかし、この艦は何やってんだ?この間は俺達と戦ったって思ったら、今度はザフトが…」
この艦の艦長らしき女性が入室し、その顔を見た途端ネオの言葉が途切れ、バツが悪そうに「敵かよ。」と呟いた。
「そうね…」と艦長が答え、キラの前に座る。
「大丈夫なの、キラ君?」
「ああ…はい、もう。」
「そう、よかったわ。アークエンジェルも大分酷い状態だけど、見つからないように上手くルートを選べば、何とかオーブまでたどり着けるでしょう。」
そういうと艦長は再びネオの方を見る。空気が気まずくなったような気がした。
「…あ、ほら食べろって!お前も!」
「え?あ、ああ…」
それを打ち消そうとするかのようにカガリがトレーのハンバーグをフォークに刺して、キラへ向ける。
全く、変な艦ね…元々ウチの艦でコーディネイターと戦っていたのに当たり前のようにコーディネイターが乗ってるなんて。
しかも、キラは自分が抱いていたコーディネイターのイメージとは全く合わない。まあ顔はかなり可愛い。あの艦長もソウジが見れば口説きそうなくらいの美人だ。
「オーブの艦なの?やっぱり、この艦は。」
クレムの問いに艦長が「どうなのかしらね。」と曖昧に答える。全くはっきりしない連中だ。ダーダネルスとクレタで両軍を相手に暴れ、ベルリンで自分達の邪魔をして今度はザフトに攻撃された。ナチュラルとコーディネイターが一緒にいるからこうなるのではないか?
「じゃ、そこであたしらどうなるの?同盟関係の連合に渡すの?それとも、あんた達は同盟反対派だからあたしら処刑?」
皆が黙り込み、クレムは止まっていたスプーンを動かし、ピラフを口に運ぶ。そして、今度はネオが口を開く
「ムウ・ラ・フラガってのは…あんたのなんなんだ?」
ネオの再びの問いに艦長はしばし間を置き、寂しげな笑みを浮かべて答える。
「戦友よ、掛け替えのない…」
ムウ……確か彼らはネオの事をそう呼んでいる。他人の空似というやつなのかもしれない。しかし、艦長からは本人曰く戦友以上の物を抱いているように見える。
「でも、もういないわ。」
もう、いない。先の大戦で戦死したという事だろう。そんなに似ているのか?その男とネオは……
またも気まずい空気になり、クレムは誤魔化そうとして食事を進め、気になっている事を聞く。
「ねえ、あたしと一緒にいたのは何やってるの?」
外ハネの髪型の少女が「あ。」と声を上げてこちらへ来た。
「大丈夫です。ここに来る途中で食事を持って行ったところで、今食べていると思います。」
「そう。」
グレンも無事だと安心すると共にクレムはディオキアで会ったザフトの少年の事を思い出した。
あの子…今、どこで何をしてるのかしら?
「ユリ、無事でよかったよ。」
「…ごめんね。心配掛けさせちゃって。」
グレンは医務室に運ばれたコーディネイターの少女とオーブ軍の制服を着た少年の会話を聞きながら食事をしていた。
この艦の空気は妙だ。ネオとエリスを全く別の名前で呼ぶ事もそうだが、コーディネイターとナチュラルが当たり前のように話している。その光景を見るたびに、ディオキアで会ったザフト兵の少女と言葉を交わした記憶が蘇る。
おかしな男だ…ナチュラルなのにコーディネイターの女に随分入れ込んでいる。惚れているのか?
ナチュラルがコーディネイターと恋に落ちる。ばかばかしくはあるが、アークエンジェルがオーブの艦だとすれば筋は通らなくもない。それでも、グレンにはナチュラルとコーディネイターが当然のようにいる光景を信じる事はできなかった。
「何故、俺達を助けたんだ?」
グレンはこの艦で目を覚ました当初から気になっていた事を聞いた。ベルリンでデストロイの砲撃に巻き込まれて撃墜された時、死を覚悟した。なのに彼らは殺すどころか手当をして、今自分に食事を与えている。一拍おいてベッドのユリという少女が優しく微笑む。
「そうしたいと思ったからよ、私たちが。」
「ここで俺が暴れてお前達を殺す事になってもか?」
「その時は、その時かしら?」
助けたいと思ったから助けた?その時はその時?こいつらは一体どういう頭の構造をしているのだ?自分は連合の兵士で彼らは反連合勢力だ。しかも、ナチュラルとコーディネイターが一緒にいる。どう見ても異色で、双方から討たれる存在だ。そう思った瞬間、自分も僅かだがその異色に入っていた僅かな時の記憶とその発端の少女の顔が脳裏をよぎった。
アリス・シュナイダー、彼女もコーディネイターでザフトの兵士だったな……
知らなかったとはいえ、コーディネイターの彼女と当たり前のように話し、食事をした。その時の自分とこの艦のクルーはよく似ている。
そして、二年前に聞いた話が脳裏をよぎる。あの時、パナマでザフトは投降した連合兵を手当たり次第に殺したそうだが、この艦のコーディネイターやアリスはとてもそうは思えない。果たしてコーディネイター全てが本当に悪なのか?グレンの中で彼自身の認識への疑念が生じ始めていた。
エリス・ティーゲルことレイラ・ウォンはグレン達と別のスペースでベッドに眠るレナを見る。怪我はたいしたこともなく、先ほど食事も取っていた。しかし、レイラの心は彼女の無事に対する安堵よりも彼女達の敗北の衝撃が大きかった。
まさか、キラ達が負けるなんてね……誰がやったのか…
レイラが知る限りであのインパルスのパイロットもキラやアスランには及ばないと思っていた。しかし、現実にキラ達は破れた。
今頃フリーダムを失って落ち込んでいるキラを想像した後、レイラはまた別のことへ思考を巡らす。デュランダルの演説だ。死の商人ロゴス、ファントムペインを影で操るロード・ジブリールも含まれるそのグループを滅ぼす。その理屈はジブリールやファントムペインの基地の将校が言っていたコーディネイター打倒と何も変わらない。
結局、世界は二色のまま……あの子が世界を憎んだのも、少しだけ分かるわ………
レイラの脳裏にかつて世界の全てを憎み、滅ぼそうとした遺伝子上の娘の顔がよぎる。
ねえ、貴女は今の世界をどう思う?母さんに教えて……
デュランダルはミーアを連れて、地球へ向かうシャトルに乗り込んだ。あの演説の後、民衆の多くが決起してロゴスメンバーの一部の邸宅を襲撃、数人が命を落としたという。だが、ブルーコスモスの盟主であるロード・ジブリールを筆頭に何人かは連合の本部のヘブンズベースへ逃げ込んだ。
デュランダルも士気高揚のために自らジブラルタルへ向かうことになる。そして、シャトルに乗り込んだデュランダルはあの作戦の報告をチェックする。
〈アークエンジェルの撃沈は未だ確認できぬものの、フリーダム、ブレイブ、アフェクション撃破は間違いなし。〉
出来れば、アークエンジェルもあの兄妹共々始末したかったが取り逃したようだ。しかし、問題の三機を撃破したのであれば問題はない。キラ・ヤマト、ユリ・ヤマト、レナ・クールズの三人が死んだのであれば好都合だ。カガリ・ユラ・アスハ、フブキ・クラ・アスハ、リュウ・アスカの三人は残っているが、キラ・ヤマトら三人を始末したならば目的の半分以上は達成している。アスラン・ザラとシオン・クールズはこちらにいる。そして、最強の駒も充分に育ってきている。
これでチェックメイトか?
デュランダルは勝ちを確信しかけるが、まだ問題が残っていた。
いや、油断は出来ない。白のクイーンは強敵だ。
エンジェルダウン作戦から数日後、カーペンタリアを出てインド洋、ガルナハン、ディオキア、ロドニア、ダーダネルス、クレタ、ベルリンとうんざりするほどの回り道をしてきたが、ようやくミネルバは当初の目的地であったジブラルタルへ到着した。
〈こちら、ジブラルタル・コントロール。LHM-BB01ミネルバの到着を歓迎する。ビーコン確認をどうぞ。〉
「こちらミネルバ、了解。」
バートとメイリンが基地からの指示に従い、パネルを操作する。ミネルバに並んで曳航するボズゴロフ級や海上艦を見てアーサーが感嘆する。
「いやあ、すごいですね!付近の全軍に招集命令が出ている事は知っていましたが、こうしてみると壮観です!」
無邪気にはしゃぐアーサーを視線で諫め、タリアはため息をついた。
「剣を取らせるには、まずその大儀が重要である。」
アーサーが「は?」と呟き、後ろにいるメイリンもぽかんとしてみている。
「誰だったか忘れたけど、指揮官講習の教官が言っていた言葉よ。ま、当たり前よね。討つべき敵とその理由が納得できなければ、誰も戦えないもの。今、私達にはそれが示された。」
そして、その言葉はアスラン達には残酷である事をタリアは理解している。アークエンジェルとそれを討つ理由、タリア自身も納得のいく物ではあるかどうか今でも迷っている。それは抗議したアスラン達が納得をしておらずそれを討たれた時の顔を見たからか、それとも単に自分がひねくれているだけか。
「はあ…」
「ありがたい事かしら?軍人としては。」
ジブラルタルへ着いた途端、司令部からシン、アスラン、シオン、カイン、アリスの5名が呼び出された。しかし、シオンは営巣にいる間も酷い有様だった。食事を持ってきたクルーに襲いかかり、危うくフォークで目を潰されるところだった。カインやアリスでも同様で、アスランとミサキでようやく沈静化していた。もはや、シオンはアスラン富崎以外は全て敵と認識しているような状態だった。
暴走の件までも不問に付されたが、クルー達はシオンをにらみつける。
「どういう手を使ったんだよ…」
「評議会のお嬢様が何かせこい手使ったのか?」
ミサキがにらみつけるが……
「大体、妹なんて出任せ言いやがって。本当だとしても、自業自得じゃねえか。」
その言葉が、半ば虚ろになっていたシオンに生気を取り戻した。
「今、なんて言った?妹のことが自業自得?出任せ?何を根拠にそんなこと言っている?」
「根拠って…あんたの妹なんだから、ザフトに着くのが当たり前だろう?」
「そうよ。ちゃんとした貴方や貴方の妹ならそれが当たり前じゃない。」
付き添っていたミサキも怒りを露わにした。
「なんですって……ちゃんとしたシオン?ちゃんとしたシオンの妹って何よ?あんた達の注文通りのことをするのがシオンやレナの正しいあり方?誰が、そんなこと決めたの?あの子がアークエンジェルにいるのを不幸だって言ったの?」
「そんなの聞かなくたって分かりますよ。大体、あんたの妹のくせにザフトに入らなかった方が悪いんだ。」
「きさまらーーーー!!!」
シオンがまたも暴れ出すが、アスランが羽交い締めで抑える。
「よせ、シオン!」
「また邪魔をするか、貴様!!キラもカガリさんもユリも、キールやラスティもその程度なのか!?」
「そうじゃない!」
「だったら、邪魔するな!!殺してやる!この間の奴ら、皆殺しにしてやる!!」
「やめろ!!」
「なんだよ…どうせ、この前俺がやった奴らだって明日には元通りだろうが!お前の父が散々自慢していたコーディネイター様の叡智を持ってすればな!」
「なんだと!!あんたのせいで顔が元に戻らなくなったり、一生腕や足が元に戻らなくなったんだぞ!!」
「騙される物か!」
シオンはあっさりとクルー達の言い分を嘘と断じた。
「百歩譲ってそうだとしてもそれは普段万能だとかなんとかほざいてたお前らが悪い。アークエンジェルのことがお前らが悪くないなら、お前らを壊したのもお前らの自業自得。俺は悪くないね。」
「てめえ!!」
だが、シオンは胸ぐらを捕まれても揺らがない。
「なんだ…ロゴスの件以来、お前らが得意げに言ったことをそっくり返しただけだ。理不尽じゃないか。それとも、議長様がお認めになったこの偽アークエンジェルのクルー様にしか効果がないのか?」
「に、偽アークエンジェルだと!?」
「そうじゃないか。」
「シオン、もうやめろ!」
アスランが下がらせ、ミサキもクルー達をにらみつける。そして、今度はアスランを睨む。
「アスラン……まさか貴方、この期に及んでまだ議長を信じるんじゃないでしょうね?」
「違う…議長を問いただす。」
「問いただす」…それは本心だった。そして、憔悴したシオンとその暴走を見たアスランは改めてキラ達がもういないということを実感し、心の中にどうやっても決して埋まらない穴が開いたのを感じた。しかも、シン達を見た途端にまた襲いかかろうとした。保安兵が五人がかりでようやく抑え、アスランとミサキも協力したところでようやく落ち着いた……
案内の兵士について行くと、そこは大きな格納庫だった。そして、そこにはデュランダルとミーアもいた。彼の顔を認めた途端、シオンの顔色が変わった。
六人はデュランダルの前に立ち、敬礼をする。しかし、シオンとミサキはその気配はなかった。
「お久しぶりです、議長。」
「先日のメッセージ、感動しました!」
カインとアリスも同様の挨拶をするが、ミサキと彼女に支えられているシオンだけは挨拶をせず、侮辱を口にする。
「それはそうだ。『貴方は何も悪くありません。』という素敵なお言葉だ……貴様らには
さぞお似合いだろうよ。」
「なに!?」
「本当のことだ……俺にあんな責任転嫁は効かない。」
その眼には明らかにデュランダルへの憎悪と敵意があった。それを見下ろすデュランダルはいつもの笑顔を向ける。
「嫌われたものだね……シン、君達の活躍は聞いているよ。色々あったが、よく頑張ってくれた。」
シン達が同時に「ありがとうございます!」と答え、デュランダルの手を握る。しかし、ミサキはシオンを庇うようにデュランダルを睨み、その手から遠ざけてシオンを抱きしめた。シンが不信の眼差しを向けるのが見えたが、いつものように抱きついてきたミーアに視線が移ってしまい、分からなくなってしまった。
「さて…知ってのとおり、事態を見かねて私はとんでもない事を始めてしまった。」
「いえ、立派だと私は思います。」
自嘲するような自分に先日の件を肯定したカインにデュランダルは「ありがとう。」と礼を言い、周囲にある巨大な影を見る。
「また、話したい事もあるだろうがまずは見てくれるかな?先ほどから気になって仕方がないだろう?」
ライトがつき、デュランダルの背後に一機、彼らの左右にそれぞれ二機のMSが姿を現した。どの機体もXナンバー系統の機体のようだ。唖然とする彼らにデュランダルが中央の機体を説明する。
「XGMF-X42Sデスティニー…」
次に右手の機体に視線を移す。
「ZGMF-X43Sリドレス、ZGMF-X44Sクリエイター。」
最後に左手の機体を示す。
「ZGMF-X601Sフェイブル、ZGMF-X666Sレジェンド。詳細は後ほど見て貰う事になるが、おそらくはこれがこれからの主力となるだろう。」
「議長、それはつまり…」
ミサキが何か問おうとするが、次にデュランダルが発した言葉に封じられた。
「君達の新しい機体だよ。」
「え?」
「…俺の、新しい!?」
当惑するカインとアリスとは対照的にシンが誕生日に欲しかった新しい玩具を父親に買って貰った子供のように顔を輝かせて五機の新型MSを見回す
実はシオンの暴走…手足の切断や目を抉る、腸抉って「コーディネイター様なら元に戻るだろう」って嘲笑うのも考えたけど、流石にやり過ぎだからやめました。
まあ、そういう万能論は文字通りバラバラにでもされないと覆らないとは思います。
そして、前編でのロゴスが悪いんだから自分は悪くない。「だから、アークエンジェルは一緒に戦ったアスラン達の自業自得」というあいつらの言い草。
ロゴス理論の行き着くところはそれだし、遅かれ早かれシンじゃなくても誰か言ったでしょう。