機動戦士ガンダムSEED DESTINY REVERSE 作:meitoken
「デスティニーは火力、防御力、機動力、信頼性、その全てにおいてインパルスを凌ぐ最強のMSだ。リドレスは対ビームコーティングを施したアサルトシュラウドを装備した火力と防御力を、クリエイターは特殊装備による近接戦闘を想定した攻撃重視の機体だ。どちらもそれぞれの分野ではデスティニーを凌いでいる。そして、レジェンドとフェイブルは量子インターフェイスの改良により誰でも操作できるようになった新世代のドラグーンシステムを搭載する実に野心的な機体でね。全て工廠が不休で作り上げた自信作だ。気に入ってもらえたかね?」
「はい!凄いです!」
無邪気に機体を見つめてデュランダルに答えるシンと対照的にシオンは吐き気がした。それだけの機体ということはその分多くの人を殺すという事だ。より強力な人殺しの兵器…つまりMSを。だが、初めてシューターに乗った時の自分もパイロットとして快感とも言える物を抱いていたのに気づき、自分の矛盾に顔を伏せる。
「デスティニーには特に君を想定した調整がされていてね。」
「え?俺をですか?」
「最新のインパルスの戦闘データを参考にしてね。」
最新の戦闘データ。その最新の戦闘データはレナの、キラ達の命で作り上げられた物だ……
「君の操作の癖、特にスピードは通常を遥かに超え始めているようだね。インパルスにあった機体の限界なども、これならもう無いだろう。私が保証するよ。」
「はい!ありがとうございます!」
シンは嬉しそうだ……軍のトップにこれだけ眼にかけられていれば当然だろう。しかし、それが自分の友の、妹の命によって得られた物であることがシオンの中で更にシンへの怒りを強くするのははっきり分かる。アークエンジェルを、アスランやイザーク達を罵倒した件で恨んでいるからだ……そして、自分の行いを他者のせいにしている事への憎しみだ。
はっきりと分かる………俺はこいつを、このガキ共を殺したいと思っている。
「リドレスにはアリスの、クリエイターにはカインの操縦データをフィードバックした。」
「え…」
「我々を、ということは。」
つまり、ユリとレナを殺したご褒美だ。
「アスラン、シオン、ドラグーンシステムはどうかね?私は君達なら扱えると信じているが……」
デュランダルの言葉を、シオンを支え続けているミサキが阻んだ。
「議長、その前にお聞きしたいことがあります。アークエンジェルの事です。」
アークエンジェルという名前に反応してシオンはあの作戦開始時から抱いていた疑念を思い出し、頭の中が若干だが晴れた。
「アンタ達、まだ…!」
「五月蠅い!」
シオンは議長の前というのを忘れて反論するシンを黙らせ、目の前の男を睨む。
「議長!何故ロゴスと何の関係も無いアークエンジェルを討てと命じたのです!」
カインとアリスが怯むのを感じた。デュランダルは自分達を静かに見つめ、アスランも一歩前に出る。
「彼らは確かに不用意な介入をして状況を混乱させました。しかし、その思いは同じでした!戦争を終わらせたいと!こんなことはもう嫌だと!」
「そうよ!ベルリンに向かったのもミネルバより早かった!なのに、何故あんな問答無用で討つような命令を!しかも、こいつらはそれどころかヤキン・ドゥーエまで自作自演なんて言って嗤った!!」
「俺を不問にしたのはこれに乗せるためだろう!冗談じゃない!こいつらのお仲間なんてごめんだ!!」
「なに!?」
シンが反発するが、シオンが「黙れ!」と怒鳴る。
ミサキも食って掛かるが、デュランダルはそれすら意に介さず、問う。
「では…私も聞くが、ならば彼らは何故私達の元へ来なかった?」
尤もな問いにシオンは反論の言葉を失い、アスランとミサキも黙ってしまった。
「思いが同じなら、彼らがこちらへ来てくれてもよかったはずだ。私の声は届いていただろう?なのに何故彼らは来ようとせず、戦ったのだ?機会がなかったわけでもあるまい。グラディス艦長も戦闘前に投降を呼びかけたと聞いている。」
「それは!」
アスランが憤慨してラクスの贋者を睨み付け、シオンも贋者に視線を向ける。
白々しい!自分が一番よく知っているだろう!
だが、デュランダルは贋者に柔和な笑顔を向けた。
「ラクスだって、こうして戦おうとしているのに。」
アスランが息を呑み、ミサキも顔色を失った。ディオキアで抱いていた予感は当たっていた。この男は最初からラクスを消して、このミーア・キャンベルを本物に仕立て上げる気だったのだ!
「議長!」
「ちょっと、落ち着いて…」
カインがデュランダルに食いつくアスランを諫めようとするが、アスランが「邪魔だ!」と突き飛ばした。しかし、アスランとミサキの怒気すらも意に介さずデュランダルは顔を伏せた。
「君達の憤りは分かる。何故こんなことに?何故世界は願ったように動かないのかと。実に腹立たしい思いだろう。だが、言ってみればそれが今のこの世界、ということだ。」
突然哲学的な話になり、シオンも怒りを失ってしまった。
「今のこの世界では、我らは誰一人、本当の自分を知らず、その力と役割を知らず、ただ時々に翻弄されて生きている。」
「誤魔化すな!!」
だが、すぐにシオンはくってかかる。もはや、この男はこいつらと同じにしか映らない。
「誤魔化してなどいないよ。アークエンジェル…いや、アスランの友人のキラ・ヤマト君にしてみても……そうだな。私は実に彼は不幸だったと、気の毒に思っているよ。」
「不幸?」とアスランが聞き返した。シオンも一瞬、憎悪を忘れて聞き入る。
何故そこでキラの名前が?何故彼が不幸だと?
「あれだけの資質、力だ。彼は本来戦士なのだ。MSで戦わせたら当代彼に敵う者はいないと言うほどの腕の。」
何だ?……キラが本来は戦士だと?元々はただの学生のキラが?
「だが、誰一人彼自身それを知らず、知らぬが故にそう育たずそう生きず、ただ時代に翻弄されて生きてしまった。あれほどの力、正しく使えばどれだけのことができたか分からないというのにね。」
歩み寄ってくるミーアの肩を抱き、デュランダルは淡々と続ける。
「ラクスと離れ、何を思ったのかは知らないがオーブの国家元首を攫い、ただ戦闘になると現れて好き勝手に敵を討つ。そんなことのどこに意味があるというのかね?」
シオンはミーアを射殺すような視線で睨み付ける。そのラクスが最初からキラといることを知っていた彼らにとっては茶番でしかなかった。
「しかし、キラは!」
「以前、強すぎる力は争いを呼ぶと言ったのは攫われた当のオーブの姫だ。ザフト軍最高責任者として、私はあんな訳の分からない強大な力を野放しにしておくことはできなかった。だから討てと命じたのだ。それは、仕方のないことだろう?」
またも食いつくアスランに対し人の言葉…よりにもよってカガリの言葉を使い、更にそれを奪われた人の目の前で仕方のないの一言で済ませ、挙げ句それを偽物扱いして討たせた張本人にシオンは怒りをふくらませていく。
「カガリさんとフブキを偽物扱いした張本人が…どの口がほざくの!!」
ミサキも食いかかるが、それさえデュランダルには聞こえていない。
「それについては弁明しない…だが、本当に不幸だった、彼は…いや、彼に限ったことではない。彼の姉のユリ・ヤマト君、シオンの妹のレナ・クールズ君に至っても同じだ。」
キラに続き、ユリとレナの名前まで出た。全部、知っているのかこの男は!?
「彼女達も君達に勝るとも劣らぬ戦士だった。彼らがもっと早く自分を知っていたら。君達のようにその力と役割を知り、それを行かせる場所で生きられたら……彼ら自身も悩み苦しむこともなく、その力は讃えられて幸福に生きられただろうに。」
キラに続きユリとレナの名前まで出た。ミサキがシオンからそっと離れ、デュランダルに詰め寄る。
「じゃあ、議長はキラが!ユリとレナが最初からMSのパイロットにならなかったのが、ヘリオポリスの学生だったのが不幸だったというんですか!?」
ミサキの問いにもデュランダルは「そうだよ。」とさらりと答え、シオンはこの男の本質を理解した。
この男がレナを、キラとユリを不幸だと言うのは、自分のMSパイロットとしての力と素質を知らずに育ったのが、ヘリオポリスで学生をしていたことが不幸という意味だ。時代のうねりで多くの物を失ったから不幸という意味ではないのだ。
戦後の軍事法廷でデュランダルが自分やイザークの弁護をし、不問にしてくれた事を思い出す。最初はシオンも本気で自分達の想いを理解してのことだと思った。
だが違った。最初から自分の力が惜しかっただけだ。いや、自分だけではない。イザークもディアッカもニコルも、ミサキも同じだ。この男にはその人間の力さえあればいいのだ。思いなどいらないのだ。キラ達を知っていたのならば下手をしたら、いや…イリアとリュウも目を付けられていたに違いない。
話の流れに戸惑うアリスがおそるおそる問いかける。
「幸福…というのは?」
デュランダルは一息つき、アスラン達を見る。
「……人は自分を知り、精一杯できることをして役立ち、満ち足りて生きるのが一番幸せだろう?」
シンが間を置いて「…はい。」と答え、デュランダルはデスティニーを見上げながら口を動かす。
「この戦争が終わったら…私は是非ともそんな世界を作りあげたいと思っているのだよ。誰もが皆、幸福に生きられる世界になれば、もう二度と戦争など起きはしないだろう。夢のような話だがね…」
シンが心酔するような目を向け、カインとアリスもそれに呑まれているような顔をしていた。デュランダルは再びこちらに向き直る。
「だが、必ずや実現してみせる。だからその日のためにも、君達にも今を頑張って貰いたいのだ!」
「はい!」
シンが勇んで答え、カインとアリスも慌てて「はい。」と答える。しかし、シオンは答える気にはなれなかった。悟ったからだ。
この男は最初から同志などではなかった……自分と相容れないパトリック・ザラと同じ存在なのだ。そして…こいつらもそもそも、最初から敵だったのだ。それが分からず…いつか分かってくれるなどという希望を抱いて、僅かな情すら抱いた己の愚かさを恥じる。
そして、もはや何を言っても無駄だという事と同時にもう一つの過ちを悟った。
間違っていた……復隊などするべきではなかった。あの後…レナ達と共にオーブへ行くべきだったのだ。レナ……俺は…俺は駄目な兄だ。
シン達は完全にデュランダルに取り込まれている。シオンはデュランダルに答えず、ただうつむき続けていた。
妹と友を失った彼の心は再び闇に閉ざされてしまった。
ジブラルタルにはデュランダルの演説以後、連合からの脱退を表明し対ロゴスに協力する軍も賛同してきた。現在も東アジア共和国から合流した艦隊が入港してきた。
同盟軍の集結はアスランも聞いていた。ニュースでもあの演説後、決起した民衆がロゴスメンバーの邸に押し入り、私刑によりそのメンバーは死亡したと報じられた。世界はロゴスという悪に対抗するデュランダルの元で一つにまとまりつつあった。憎み合っていたナチュラルとコーディネイターが手を取り合う。確かにそれはキラやアスランが、カガリが
望んでいた世界だ。しかし、余り変わっていない気がする。
世界がまとまっているのはロゴスという悪がいるからだ……それでは、父の時と何も変わっていない。
今こそ、キラと会って話したい。自分が歩むべき道を探したい。しかし、彼らはもういない。自分が殺したも同じだ。
「キラ…くそっ……!」
思い悩むアスランの耳にノックの音が入ってきた。
ミサキはシオンの元へ食事を持って行く最中であった。あの作戦後、シオンはどんどん窶れていき、このまま死んでしまうのではと思った。
ジブラルタルに着く頃になってもいっこうにシオンは回復しなかった。もう、彼がMSに乗れなくても構わない。シオンが立ち直って、側にいてくれればそれで。その想いだけでミサキはシオンを支え続けてきた。
シオンの元へ向かう中、脇から来たレイとルゥにぶつかり、トレーを落とす。
「すみません。」
ルゥが謝罪し、ぶつかった拍子に落ちた書類をミサキもトレーを廊下の隅に置いて拾い集める。
「いえ、こっちこそごめんなさい。……誰かに用事?」
「はい、議長に。」
議長に用事。この二人は確かにデュランダルと個人的に知り合いだ。だが、その言葉にミサキは薄ら寒い物を感じた。レイはこちらの心境に気付かないのか、いつものように敬礼をする。
「では、失礼します。」
二人は自分が今来た方へ歩いていった。見送った後で落ちた食事の包みを拾おうとした時、ある物が眼に入った。何かの写真のようだ。さっき二人が落としていったのか、拾い損ねた物だろう。それを拾い、何気なく映っている物を見ると、ミサキはその光景に息を呑んだ。
これ…あの時レナ達に会った時の!?
シオンとミサキの背中が映っていることからして後ろから取った物だろう。あの時シオンが言ったとおり尾行者がいた。そして、ミサキの脳裏に基地に着く前日のレイとルゥの会話内容が蘇る。
『レイ、アスラン・ザラは……』
『ああ…とても力を出して役割を果たすとは思えないな。そっちはどうだ?シオン・クールズは。』
力を出して役割を果たす。それは先程格納庫でデュランダルがキラ達を不幸だと言い、彼が唱えた幸福と酷似していた。それを二人はなんと言った?
『もう無理だな。レナ・クールズが生まれたのが不幸の始まりだ…』
『ギルに報告する?』
もう無理、つまり役割を果たすことはできないという事。
『ああ…処分はそれからだな。その証拠になる物もある。』
処分…その証拠になる物。つまり、これを……自分達が敵であるアークエンジェルと通じていたという証拠にして、始末するのだ。となれば、アスランにも同様の危機が!
これが議長の……シオンに知らせないと!
ミサキはトレーを無視してシオンの部屋へと走り出した。
レイとルゥに、そしてあの男に言わせればレナはシオンの不幸の象徴。
身勝手極まりない話ですよ。
そして、シン達も「議長がそう言うから、シオンの妹は悪」と言う。
シオンが見限るのも無理はない、程度に思っていただければ良いです。
そして、ザフトは『伝説のエース』の信用をもはや未来永劫失っています。