機動戦士ガンダムSEED DESTINY REVERSE 作:meitoken
オーブを出港したアークエンジェルは月面都市コペルニクスに入港した。ここは嵐の大洋に造られたこの年は完全中立の自由都市として成立している。そして、キラとアスランが通っていた幼年学校もここにある。
「じゃあ、僕がやられたインパルスのパイロットはそのシンって子が…リュウの弟?」
「ああ、今はあの赤い翼の機体、デスティニーに乗っている。」
キラとアスランはリュウを交え、デスティニーのパイロットについて話していた。
「カガリ達も会ってたんだね。」
「ああ、ミネルバがオーブに来る際にリュウにもメールで伝えたんだ。」
その後、リュウからキラ達には黙っていて欲しいと頼まれていた。
「…ごめんなさい。貴方達に心配をかけたくなかったの。」
「リュウ…でも、それでシオンとレナや、僕とアスランみたいなことに。」
リュウは涙をこぼしそうになりながらも答える。
「それでもね……私は、あの子が死んだと思って諦めてしまったから。だから、ああなっちゃった責任は私にもあるの。」
「リュウ…でも、生きていたならまだチャンスはあるよ。僕とアスランのように本気で殺し合ったら君か彼が一番苦しむんだよ?」
「キラ……」
「相変わらず甘いな。」
シオンがミサキと共にやってきた。
「シオン…」
「お前達のそういうところが俺は好きだよ。だが、俺はお前達のように聖人じゃない。俺は奴らを地獄に送るし、金輪際信用しない。それで俺を憎むなら、それでいいさ。アスランやリュウにとってはそうする理由がある。」
「シオン、それは…!」
「何度も言わせるな!お前が奴らを止めたいのなら否定しない。だが、俺も自分の復讐を譲る気はない。」
「…アスラン、私もこればかりはシオンにつくわ。あいつらはレナの存在を空想、挙げ句の果てにシオンの妹なんてつまらない理由でザフトにつくべきと決めつけ、そうじゃないなら邪魔なんて言ったの。妹になる子をそこまで言われて聞き流すほど、私もお人好しじゃないの。」
「………ごめんなさい、うちの弟が。」
「お前のせいじゃないよ。全部、あのガキが自分でまいた種だ。」
アスランはシオンとミサキが去って行くのを見届けた。そして、リュウの決意を理解してしまった。
リュウも本気で自分の手でシンを殺す気でいる。自分がシオンやアスランを憎みたくないから…だが、シオンは自分やリュウの憎悪を覚悟の上でシンを殺そうとしている。そして、アスランの意志を頭ごなしに否定しないのがシオンの最大の譲歩なのもアカデミー時代からの付き合いで分かった。
シンは力だけを求めた。その結果、自分の姉と周りの人々がこうなってしまった。それさえもデュランダルに誘導されて良いように利用されている。
戦う人形になった結果をシンはまだ知らない。シオンは知ったところで他人のせいにしてヒーローごっこに酔いしれるだけと既にシンを含めザフトも支持者も信じていない。アスランに譲歩するだけ、まだ踏みとどまっていることは分かった。
本当に、俺達と同じ轍を完全に踏む前にシンを止めないと。
デュランダルは報告を受けていた。それはアークエンジェルが月面都市コペルニクスに入港したという報せだ。オーブの方はあれ以来、同盟からの脱退はまだしていないが事実上連合の影響を離れている。セイランの政権のまま潰せなかったことがこのままだと尾を引くだろう。
ジブリールは既に死んで、ダイダロスのレクイエムも既に叩いた。後の障害は白のクイーンのみ。
「さて、そろそろ切るべきかな?」
コペルニクスには既に使えなくなってしまった駒がある。白のクイーンを排除するのも兼ねて処分してしまった方が良いだろう。もう使うことは出来ない。使ったところでまた同じ事になるのが関の山だ。
いつものチェスボードで駒を動かし、白のクイーンを取る布陣を整える。
コペルニクスはオーブとも交流のある都市であるといっても、連合に加盟しているわけではない。かといってプラントでもない。アークエンジェルがいるからと言って、軍を差し向けるわけにはいかない。ならば、打つべき手は。
アークエンジェルがコペルニクスに入港して暫く経った日……若いパイロット達は市街に出ることとなっていた。特にラクスはアークエンジェルとエターナルを行き来していたために息抜きも必要であった。
そのために護衛としてキラ、アスラン、メイリン、リュウが行くこととなり、少し間を置いて他のパイロット達も休息を兼ねて艦を出る手はずとなっている。また、万が一に備え彼ら全員には発信機と通信機も持たせていた。
〈じゃあ、行ってきます。ラミアス艦長。〉
「ええ、でも気をつけてね。」
キラ達の車が市外へ出て数分後……次はシオンとミサキ、イリアとレナの車が出て行った。最後にユリとシュウ、グレンとクレムの車が出るのだが…クレムがブリッジに通信を繋いだ。
〈じゃあ行ってくるけど……大佐。〉
「ん?」
〈一泊ぐらいしてきましょうか?せっかく艦長と二人っきりになれるチャンスなんだから!〉
ナタルが頬を赤くし、怒鳴り出す。
「外泊など認めん!日帰りだ!」
「大丈夫よ。私が艦長に手を出さないようにこのおじさんを見張るから。」
エリスが冗談じみた返し方をして通信が切られた。
「中佐、俺はおじさんじゃないぞ。」
「あら、おじいさんが良い?」
ネオが黙りこみ、観念したように洩らす。
「おじさんでお願いします…」
市街に出て行ったキラ達は休息を楽しんでいた。それこそ、度が過ぎるのではとアスランが懸念する程に。特にラクスは人に見られたらまずいというのにハロを連れているだけでなくCDの試聴のためにフードまで脱いでいる。キラはおろか現役の軍人であるメイリンまでが何の危機感も感じていないのが信じられない。
これではユリ達が勘違いで飛び出す恐れもある。キラは大丈夫と言っているが、アスランの眼にはとてもそうは見えなかった。この調子だと、あの幼年学校を見に行こうなんて言ってラクスが顔を見せないかさえ心配になってくる。
「ねえ、アスラン。貴方の方こそ、少しリラックスした方が良いんじゃないの?」
リュウが缶ジュースを手渡し、それを受け取る。
「どういうことだ…」
「うちの弟のこととか、ミネルバでのこととかでまた何か考え込んでない?カガリさんが言ってたようなハツカネズミに…」
以前、メンデルでカガリにも言われたことだ。
「そうやって、ぐるぐるぐるぐる考え込むから騙されてフブキやユリに怒られるのよ。」
付き合いがキラやイザークに比べれば短いリュウにまでここまで言われると、アスランは黙り込んでしまった。
「貴方とキラはここで過ごした時間長いんだから、色々と案内してね。」
「…分かったよ。」
だが、本当に大丈夫だろうか?こんな調子で。
「ねえ、シュウ。」
「なんだ?」
「これとこれ、どっちが良い?」
ユリがシュウに見せたのは、緑のレース付きワンピースと白のパーカーとジーパンのセットだ。シュウがうなり、暫くしてワンピースを指さす。その答えに納得したのか、ユリはそれをレジへと持っていった。
「ああしていると、同じだと感じるな。ナチュラルもコーディネイターも。」
グレンの感傷に浸った言葉にシュウは「ん?」と問う。クレムが左脇から現れて笑う。
「ほら、あたしらってコーディネイターは悪魔だとかなんとかって、教えられてたからさ。あんたら見てると、何度も先生の言っていたイメージと合わなくてね。」
確かにとシュウは思う。彼らは子供の頃から戦闘訓練とコーディネイターを殺す洗脳教育しか受けていない。だからコーディネイターと買い物をする事もこうして普通に話すことに違和感があるのだろう。
「ま、俺もエイプリルフール・クライシスでコーディネイターにお前達ほどじゃないけど、良い感情がなかった。でも、戦場に居合わせて偶然会った女の子がコーディネイターで…一緒にいる内に同じだな、と思うようになったんだ。」
グレンが「そうか。」と頷いたが、クレムは何か笑っている。
「その女の子……ユリじゃないの?」
「……ばれた?」
「そりゃあ、その話をしている時ユリを見てたんだから。このクール気取りの馬鹿はともかくあたしの目はごまかせないわよ!」
「お前は軽すぎる。」
「なによ!」とクレムが食ってかかり、グレンは「事実だ。」と返し、また突っかかる。
シオン達は服や雑誌、小説を買った後にレストランに入って昼食を取っていたが、イリアにとってはいささか面白くない展開であった。暫く会っていなかったのだから仕方ないが、シオンとレナは兄妹で盛り上がっており、ブティックで二人が互いに服を選んでいたら店員に恋人と間違われた時には本当に焦った。現在座っているテーブルもイリアから見て三つ前の席にシオンとレナが座っている。
「あいつら…兄妹だからってベタベタしすぎだろう。」
注文したフライドチキンの最後の一本をかじりながらイリアはシオンとレナをにらむ。二人は相変わらず楽しそうで、レナはシオンの汚れた口元まで拭いている。
「そうね。流石に私でもちょっと焦るわ…」
魚のソテーを食べ終えたミサキも不満を口にしている。話している間に食後に頼んだコーヒーが届いた。
「あちらといい貴方達といい、お似合いのカップルですね。」
店員の分析にイリアは慌てて席を立つ。
「んなわけないだろう!誰がこんなじゃじゃ馬と!」
「なんですって!?軽薄軟派男のあんたにじゃじゃ馬なんて言われたくないわよ!!」
「なんだと!?ちょっとレナより胸あるからっていい気になりやがって!」
「アンタはシオンより背が低いじゃない!」
「関係ねえだろう!」
「関係なくないわよ!」
「関係なくなくねえ!!」
それから凄まじい口喧嘩を続け、双方の恋人が仲裁に入る事でようやくこの喧嘩は収まったが、四人とも店から厳重注意を受けた。
ユリ達とは別のブティックでラクスが試着をしていた時、聞き覚えのない電子音声が聞こえた。すると、一枚の紙を挟んだ赤いハロがラクスの手の上に飛び乗った。
「これミーアの!?」
アスランが辺りを見回すが、周囲には誰もいない。ラクスが紙を手に取ると、そこには簡単な地図と一文のメッセージが書かれていた。
[助けて、殺される!ラクス様!]
「なんか…思いっきり罠ですね。」
メイリンに言われるまでもなく、キラもそれくらいの事は想像がつく。
「それじゃあ、アスラン…この子が。」
「そうだ。ミーア・キャンベル…議長のラクスだ。」
赤いハロはラクスの手を離れ、ラクスのピンクのハロと遊んでいるが、アスランはそれに目もくれずにキラを見る。
「俺はシオン達と彼女の方に行く。お前はユリ達と一緒にラクスを連れて、艦に戻れ。…いや、応援を呼ぶ。どこを狙われるか分からない。」
「私も参りますわ。」
「は?ラクス、それは!」
「この方が呼んでいるのは、私ですわ。……それに、いずれ何処かではっきりとさせておかなければならないのですから。ね、キラ?」
キラはうなずき、アスランにそういう事だと目を移す。
「アスラン、僕もラクスも分かっているから。姉さん達と一緒に…行こう。」
そして、リュウも入る。
「帰り道を襲われるかもしれないなら、行っても行かなくても同じでしょ?危ないのはどこも一緒だから。」
アスランは頭をかきむしり、「分かった。」と答えた。
前編はコペルニクスでリラックスしているキラ達。特にファントムペイン組は生でコーディネイター、ナチュラルのグループと話して少しずつ成長しています。
ラクスの試着…ユリがいたらキラの淡泊な反応に耳を引っ張って
「あんたね、こういう場合は『そっちの方が可愛いね』、とか『こっちなんてどう?』って自分でも試着を勧めるものなのよ!!」
ってお説教して女子全員から顰蹙を買うでしょうね。シオンはレナとミサキで慣れてそうだけど、アスランはとばっちり食うでしょう。