機動戦士ガンダムSEED DESTINY REVERSE 作:meitoken
あのラクスの乱入の後、ミーアはデュランダルからこのコペルニクスに身を潜めるように言われた。それっきり、デュランダルからの連絡は何もなくミーアは毎日ジブラルタルから逃げ出す時に発したアスランの言葉に脅え続けていた。
『だが、君だってずっとそんな事していられるはず無いだろう!そうなれば、いずれ君だって殺される!』
ラクスが現れた事で両者の違いが現れてしまい、デュランダルにとって自分はもうラクスの役割を果たす事が出来ない。
だから、私も殺される?アスランのように?
そう思うたびにそんな事ないと言い聞かせても、恐怖は収まらない。そして、そんな彼女に付き人…いや、監視役の方が正しいかも知れないサラがある計画を掲示し、そのために必要なある物を手渡し、それは今ミーアのバッグの中にある。そして今そのためにミーアは野外劇場の席に座っていた。
本当に、来るのかしら?
そんな疑問が頭の中を通った時、舞台の影からミーアの赤いハロが飛び出し、その直後に現れたよく知る顔にミーアは息をのんだ。
「ミーア!」
アスラン・ザラ。死んでしまいもう会えないと思っていた人だ。
「アスラン?アスラン!」
サラに舞台に上がれと言われた事も忘れ、ミーアはアスランに駆け寄る。
「アスラン!貴方生きて…」
「そこで止まれ。」
アスランは銃を突きつけ、ミーアは信じられない表情で立ち止まる。
「アスラン?」
「メッセージは受け取った。罠だという事も分かっている。だが最後のチャンスだ、ミーア。だから来た。」
最後のチャンス…その言葉は今ミーアが考えていた可能性を指し示している。もし、この計画が失敗すれば自分は殺される。
「アスラン、そんな状態ではまともにお話も出来ませんわ。」
自分と同じ顔、声の人が現れミーアは愕然とした。同時に怒りが煮えたぎるのが分かった。そして、恐怖が。
あのシャトルを奪われたときに気づいてしまった。自分が受けていた歓声は本当はこの人のものだ。ばれれば、全て失われる。そして、今失っている。
「あ、アレはあたしよ!あたしだわ!!」
「ミーア!」
アスランが宥めようとするが、ミーアの目には自分の得た果実を奪った歌姫しか映っていない。
「あたしがラクスだわ!だって、そうでしょう!?声も、顔も同じなんだもの!」
そうよ!あたしよ!議長の言葉を人々に伝えて、ここまで導いたのはあたし!あたしがラクス!!
「あたしがラクスで…何が悪いの!」
バッグの中にしまってあった銃を取り出し、ラクスに向ける。それよりも早くアスランが銃をはじき飛ばした。
「ミーア、もうやめろ。」
聞きたくない。しゃがみ込み耳を塞ごうとするが、同じ声が静かに語りかける。
「名前が欲しいのなら、差し上げます。姿も。」
涙に濡れた顔でミーアはラクスを見上げる。
「ですが、貴女は貴女です。私も貴女も、違う物にはなれないのです。」
違う物?あたしは、この人のようにみんなを助けたかった。この人に…なりたかった……?
違う…あたしは…あたしの声で…歌で平和を……
「貴女の夢は貴女の物です……誰かに踊らされては…」
「ラクス!」
アスランがラクスを抱えて飛ぶ。それと同時に銃弾が地面を弾く。ミーアは気付いた。この計画を持ちかけたサラが撃ったのだ。
「キラ!」
アスランがラクスを託し、キラはラクスを舞台の影に引き込む。その間にアスランはミーアを連れ込んだ。一緒に来ていたリュウとメイリンも銃を持って隙間から様子をうかがう。
「シオン!」
アスランが無線で隠れていたシオン達を呼ぶ。
〈了解!〉
シオンが答えると同時に黒服の男達とライフルを持った女が現れる。ミーアを利用してこの計画を立てた者達だ。
「ったく!随分と連れ込んできてくれちゃって!!」
アスラン達がいる舞台の屋根に潜んでいたイリアが拳銃で客席側の黒服達を牽制し、シオンは狙撃用のライフルで男達を撃つ。
後ろで銃声が響く。ミサキが側面側の男を撃ったのだ。
「何人連れ込んでいるのかしら?」
素人のレナも黒服達を牽制して呟く。
「数える暇があったら撃て!死ぬぞ!!」
妹を叱咤し、シオンは黒服をまた一人撃つ。
「ふぅーん、あの子生身も強いんだ。」
アスラン達より遠くから劇場を見張っていた事でグレン達のチームは敵の後ろを取ることが出来た。黒服を一人撃ち倒したクレムは一人で大立ち回りをするアスランの身体能力に感心する。そこへ後ろから殺気を感じ、振り向いて銃を撃とうとするが先にユリが蹴り倒した。
「あらら。」
「油断しているとミューディーとソウジのところに逝くぞ。」
もういない同僚の名前を口にしながらもグレンは今ユリが蹴り飛ばした黒服にナイフでとどめを刺す。
「それはいやよ。どうせ死ぬならいい男見つけてからあの世で自慢する。」
「だったら、ボサッとするな。」
ネオは外出していたアスランから要請を受け、エリスと共にMSで出撃していた。
〈大佐、あれ。〉
「ん?おい、なんだ?」
報告にあった野外劇場ではキラ達が銃撃戦を行っており、今キラとメイリンが女の投げた手榴弾を銃弾で撃ち返した。
「急いだ方が良いな、中佐。」
〈ですね。〉
アスランが最後に残った黒服を撃ち殺し、その直後にアカツキとツキユキが到着した。
「大丈夫か、坊主共?」
「ムウさんもレイラさんも遅いですよ。」
〈まだ、言うか!〉
〈もう良いでしょう。〉
ムウがキラにぼやき、エリスが仲裁する。
「んなことより、さっさとずらかろうぜ!」
「そうね、先にラクス達をお願い!」
イリアとレナに急かされるまでもなく、長居は無用だ。アカツキがラクスに手を差し出す。
〈ほら、お姫様。〉
ラクスがアカツキの手に乗り、キラがミーアに手を伸ばした。
「さ、君も。」
ミーアはしばし戸惑い、キラの手を取ろうとした時……
「危ない!」
飛び出し、その直後に一発の銃声が響いた。
その場にいた皆が目を大きく見開いた。ミーアの身体が舞台に倒れ込み、ラクスが駆け寄る。真っ先に反応したキラとアスランがアカツキの影で死角になっていた女を撃ち、シオンとミサキが右に、レナとイリアが左に、グレンとクレムがキラ達の後ろにいるかも知れない伏兵に銃を構え、ユリとシュウ、メイリン、リュウはラクスを護るように囲む。
「ミーアさん!ミーアさん!」
「あ、あたしの…歌……命…忘れ…ない…で…」
ミーアはバッグの中から一枚の写真を取り出し、ラクスがそれを見る。
「これが貴女?優しい…とても良い笑顔ですね。」
「ミーア!」
「大佐!早く彼女をアークエンジェルに!」
アスランが駆け寄り、グレンが叫ぶ。
「もっと…ちゃんと……お会い、したかった………ごめ…な…」
それきり、ミーアの瞳は永遠に閉じられた。
「ミーアさん!」
「ミーアーーー!!」
息を引き取ったミーアを連れてキラ達はアークエンジェルに帰還した。クルー達が道を空け、アスランがミーアの亡骸を抱いてキラ達が後に続く。
霊安室にミーアの亡骸を安置した後、キラがアスランに問う。
「プラントの子だよね。名前の他は?」
「いや、何も聞かなかったんだ。俺も…」
シオンは察した。アスランは距離を置いていたのだ。付きまとわれることとはまた違う意味でも。
椅子に座るラクスがミーアのバッグを探っていると、一枚のディスクを取り出した。
「それは…」
ラクスが取り出したディスクを部屋まで持っていき、端末に入れる。
〈十月十一日、今日やっと包帯がとれた。なんだか不思議な感じ、鏡を見るとそこには本当にラクス・クラインの顔が映ってた。〉
「これ、もしかして…」
「あの子の…日記?」
ユリとレナが呟き、ミーアの音声が入力された日記が流れる。その文章にはラクスへの純粋な憧れ、平和への願いが込められていた。彼女が考えていたアスランのイメージ、平和のためにラクスとして振る舞おうとする真摯な思い、デュランダルへの信頼。
しかし、日が進むにつれてそれに影が差してきた。アスランの脱走を機に…
それからの彼女の日記には役割を果たせなくなった時の不安と恐怖……そして、ある一文が記されていた。
〈ラクス・クラインってほんとは何だったんだろう?〉
これ以上いたたまれなくなり、アスランは部屋を出てキラと共に展望デッキへ上がる。そして、ジブラルタルでのミーアの叫びを思い出す。
『あたしはラクス!ラクスなの!ラクスが良い!』
あの言葉の意味が今なら分かる……ミーア・キャンベルとしての自分が必要とされていない…だから、人々に必要とされるラクスが良いと。
「俺が最初に認めなきゃ良かったんだ……こんな事はダメだと。」
あの時…プラントで初めて会った時に言ってあげるべきだった。『誰からも必要とされていないなんて事はない。』と…嘘の片棒を担がされるのがイヤで、彼女を煙たがって……その末路があれだ。あるのは、あの時無理矢理にでも連れ出すべきだったという後悔だ。
「うん…でもやっぱり、すぐにそんな風には言えないよ。後になんないと…わかんないことも多くって……」
士官室でシュウの肩にもたれながらユリは呟く。
「私もキラもラクスも…あんな事がなければ、議長を信じていたかもしれないわ。」
「だな…戦わないほうが良いと言った人だからな。」
食堂で水を飲んでレナは暗い口調で洩らす。
「でも、ラクスがこうだからと言って決めるのはダメよ…そうじゃないラクスは贋者だ、いらないなんて……」
「ああ…質の悪いお人形さんごっこだ。俺はそんな世界も…それを良いという者も認めない。」
シオンはグラスを強く握る。アスランとシオンでも同じだ。ジブラルタルでの出来事がシオンの脳裏に蘇る。デュランダルの世界とはそういう物だ。役割やイメージにそぐわない者は無用の長物。そして、人知れず消される。彼女のように……
俺達はMSの部品じゃない!!
クレムはラクスから借りたミーアの写真を見つめる。これが彼女の素顔…
「言っちゃ悪いけど…地味ね。ナチュラルのあたしから見てもそう思う。」
自分の容姿はそれなりに良い方だと思っている。だが、彼女の本来の顔はとても遺伝子操作の賜で容姿の水準が高いコーディネイターとは思えないほどに冴えない物であった。
「ラクスは確かに、美人だ…」
そう、グレンが言う通り整形前と後で極端な差がある。整形の技術は流石プラントと言うべきだが、彼女は自分の容姿にコンプレックスでもあったのかも知れない。
「だから、美人で人気者のラクスの顔や名声にも惹かれたのかもね。」
「その結末が…その機能を果たせなくなった結果が、あれか。」
そう、彼女はエクステンデットと同じだ…コーディネイターを殺すための役割…MSの部品として機能しなければ消される……彼女も同じだ。デュランダルの代弁者としてのラクス…その機能を本物によって阻害されたから消された。
「その世界…あの子のような人がどんどん出来るのかしら?ちょっと反発しただけで。」
「かもしれない。」
グレンの呟きにクレムは壁を蹴りつける。
「あたしらは人形じゃないわよ。」
連合から解放されて彼らは初めて自分の意志を得た。今まで、ブルーコスモスの作った檻の中からフィルターを着けられた世界しか見てこなかった彼らは初めて、自分の目で世界を見た。
アークエンジェルのナチュラル達がそうしたように、自分の意志でコーディネイターと共にある。だが、デュランダルの作る世界になれば自分達は考えることが許されなかったあの頃に逆戻りだ。
「あんな事になるのは…あたしらだけで充分よ。」
ラクスは霊安室へと入る。そこには、同じ顔が穏やかな表情で横たわっていた。
『ラクス・クラインって、ホントは何だったんだろう?』
ミーアの日記に綴られていた文章の一つがラクスの頭の中によみがえる。それは他の誰でもない。ラクス自身が知りたい事だ。
『ラクス・クライン』とはなんだ?平和を歌い、人々を導き、必要とあらば戦場へ出る歌姫。人々はそう言うだろう。本人の意志や人格を無視して……そして、平和を望み、純粋にそれを演じようとした結果がこれだ。その結果は自分が招いた。あの時、オーブで自分が表に出てきたために……いや、それ以前に二年前にオーブに渡ったせいで。
これは…私の罪……私のせいでこの人の夢と、命が奪われた…
ラクスは涙を流し、ミーアのディスクを強く握る。そこへ、キラが肩に手を置き、優しく微笑む。それを見た瞬間、ラクスはキラの胸でこらえていた物を全てはき出すように泣き崩れた。
『忘れないで……』
ミーアが最後に残した言葉をラクスは思い出す。
「わすれないわ、ミーアさん。私は決して……」
たとえ、人々が忘れても私は決して忘れない。貴女の歌を…夢を…生命を……
そして、アークエンジェルではミーアの告別式が行われた。ミーアは白いドレスを着せられて棺に入れられ…ラクスが最後に彼女の棺に花を添える。そして、彼女の遺体を乗せた霊柩車が走り出し、参列した者達が彼女を敬礼して見送った。あれほどまでにデュランダルの支持者を憎んでいたシオンでさえも。夢を、平和を願ったもう一人の歌姫を……
〈今私の中にも皆さんと同様の悲しみ、そして怒りが渦巻いております。何故こんな事になってしまったのか?考えても、既に意味のない事と知りながら、私の心もまたそれを探して彷徨います。〉
宇宙要塞メサイアからデュランダルの演説が全世界に向けて放送される。
〈私達は遂先年にも大きな戦争を経験しました。そして、その時にも誓ったはずでした。こんな事にはもう二度と繰り返さないと。にも関わらず、ユニウスセブンは落ち、努力も虚しくまたも戦端が開かれ、戦火は否応なく拡大して私達はまたも同じ悲しみ、苦しみを得る事となってしまいました。〉
アークエンジェルのブリッジでもキラ達はその声明を聞いていた。
〈本当にこれはどういう事なのでしょうか?愚かとも言える、この悲劇の繰り返しは?……一つには先にも申し上げました通り、間違いなくロゴスの存在所以です。敵を作り上げ、恐怖を煽り戦わせて、それを食い物としてきた者達。長い歴史の裏側にはびこる彼ら、死の商人達です。だが我々は、ようやくそれを滅ぼす事が出来ました。〉
この放送を聞いた人々はザフトの勝利を喜んだだろう。これで完全に戦争がなくなると思い込まされた人々は……しかし、ここからが本当の始まりなのだ。デュランダルにとっては。
〈だからこそ、今あえて私は申し上げたい。我々は今度こそ、もう一つの最大の敵と戦っていかねばならないと。〉
「始まったわね…」
「はい。」
マリューの呟きにラクスは答える。
〈そして我々は、それにも打ち勝ち解放されなければならないのです。皆さんにも既にお分かりの事でしょう。有史以来、人類の歴史から戦いが無くならぬ訳……常に存在する最大の敵、それは何時になっても克服出来ない我ら自身の無知と欲望だという事を。〉
ミネルバのブリッジで演説を聴いていたタリアは悟った。これは追悼声明ではなかったことを。
〈地を離れて宇宙を駆け、その肉体を、能力を、様々な秘密を手に入れた今でも、人は未だに人を判らず、自分を知らず、明日が見えないその不安。同等に…いや、より多く、より豊かにと飽くなき欲望に限りなく伸ばされる手。それが今の私達です。〉
確かにその通りだ。だが…タリアはそれを肯定しきれない。人とはそういう物であり、それが今を築いたと彼女は考えるから。
〈争いの種、問題は全てそこにある。だがそれももう、終わりにする時が来ました。終わりに出来る時が。我々はもはや、その全てを克服する方法を得たのです!全ての答えは、皆が自身の中に既に持っている!〉
「ギルバート…!」
タリアは遂に悟った。全てこのためだったのだ……かつてまだ二人が愛し合っていた頃…デュランダルは互いを理解する事が出来れば争いはなくなると言った。それを実行に移すのだ。子供が欲しいがために自身を捨てたタリアへの復讐という形でゆがませて。
「議長…」
シンはデュランダルの演説には聞き覚えがあった。ジブラルタルでフリーダムの、ブレイブとアフェクションのパイロットを不幸だと言った。これはそれと同じだ。
〈それによって人を知り、自分を知り、明日を知る!これこそが繰り返される悲劇を止める唯一の方法です!私は、人類存亡を駆けた最後の防衛策としてデスティニー・プランの導入実行を今ここに宣言いたします!!〉
ミーアの死とデスティニープラン発表です。
シオンはデュランダルの支持者も憎んでいますが、こうなっては流石に後味が悪くミーアを見送ってました。ある意味、自分の末路を見たからでしょうね。
そして、ファントムペインの二人は街でユリ達と回って、同じコーディネイターなのに味方しないという理由で殺すのも転機になりました。