機動戦士ガンダムSEED DESTINY REVERSE 作:meitoken
〈デスティニー・プランは我々コーディネイターがこれまで培ってきた遺伝子工学の全て、また現在最高水準の技術を持って施行する究極の人類救済システムです。人はその資質の全て、性格、知能、才能、また重篤な疾病原因の有無の情報も本来体内に持っています。〉
演説から間を置かずにデスティニー・プランの概要を説明するビデオが流された。それと同時に各国にもその詳細なデータが送られる。画面には人の遺伝子図等、その結果が表示されている。
〈今の貴方は不当に扱われているかもしれない。誰も、貴方自身すら知らないまま貴重な貴方の才能が開花せずにいるのかもしれない。それは人類全体にとっても、非常に大きな損失なのです。私達は自分自身の全てを、そしてそれにより出来ることをまず知るところから始めましょう。これは貴方の幸福な明日への輝かしい一歩です。〉
「こんな、議長…!」
シンはプランの概要を聞いて愕然とした。
「お前が驚くこともないだろう。議長が目指されていた世界がどんな物かはお前も知っていたはずだ。」
誰もが幸福に暮らせる世界…確かにそう言っていた。だが、何かが違うような……
対照的に冷ややかなレイの言葉がシンの胸に突き刺さる。
「あ、うん…それは……でも、いきなりこんなこと言ったって世界は……大変だよ!」
「ああ、分かっている。だがだからといって、議長は諦める方ではない。それはお前も知っているだろう?………今は俺達もいる。議長が言う、誰もが幸福に生きられる世界。そしてもう二度と戦争など起きない世界。それを作り上げ守っていくのが俺達の仕事だ。」
「え?」
「…そのための力だろう?デスティニーは。そのパイロットに選ばれたのはお前なんだ。」
「あ…ええ?」
まるで話が読めないシンはただ困惑するだけだ。
「お前が選ばれたのは……お前が誰よりも強く、誰よりもその世界を願っていたからだ。」
「え……俺?」
〈シン。シン!〉
混乱する頭を整理しようとするシンの耳にルナマリアの声が入ってくる。
「今大事な話をしている。後にしろ。」
レイの余りに邪険なあしらいにシンは息を呑んだ。同じ仲間だというのに、まるで邪魔者として扱っているみたいだ。
「レイ、なにする…」
「だが、お前達の言う通り本当に大変なのはこれからだ。」
同じようにカインもアリスと共にルゥから議長の世界について話されていた。
「何時の時代でも、変化は必ず反発を生む。それによって不利益を被る者、明確な理由が無くともただ不安から異を唱える者が必ず現れる。」
不利益を被る……その言葉にカインは反応する。
「不利益って…そうだろう。だってこれは、婚姻統制を徹底化した遺伝子基準の管理社会じゃないか!」
西暦の時代、あのベルリンがまだ東西に分裂していた時代で片方は当時でも苛烈な情報機関が国を牛耳っていたという。家族を政府機関に売り渡すなど当たり前だったと聞いたこともある。どこまで本当かは分からない。だが、要するにこれはその手段が遺伝子になっただけだ。
しかも、不利益を被る。もし、これを今の最高評議会に適用したらどうなる?政治家に不向きで、別の仕事に就けと言われて納得できるか?親のコネだけで出世するような無能な軍人や政治家、起業家は排除される。逆に、コネの出世が不本意で違う道で努力した矢先にコネで出世したルートが最も適している、等と言われたら?
もし、あのカガリやフブキがプランで国家元首を辞めろと言われたら?そんなことしたら、王政の国家は瞬く間に崩壊してしまう。当たり前だ……向き不向きは別にして後継者としての教育を受けてきたのが無駄と決められてしまう。
それに、もしプランで優秀な軍人になった人が事故か病気で再起不能になったらどうする?そのリカバリーや他に最適な職業に就けるようなシステムなのか?
「いきなり導入実行するなんて……せめて、プラントや親プラントの地域で試験的に導入する段階を」
「議長が仰るとおり、無知な我々には明日を知るすべはないのだから……」
だが、ルゥは耳を貸さない。まるで、会話を放棄しているかのようだ。
確かに自分達は無知だ。例えコーディネイターであっても、ルゥの言う変化による明日など知る事はできない。
「ええ…それは……」
アリスも頷き、ルゥが突然強く出る。
「だが、本当に人は変わらなければ……永遠に救われない!」
いつも冷静なルゥにしては妙に熱くなっている様子にカインは一瞬気圧された。心なしか顔色が悪い。
「あの、シンが救おうとしたエクステンデットの少女のような悲劇を二度と繰り返さないためにも……これは…やり遂げな、けれ…ば……」
言い終えるより先に、ルゥの身体がベッドに倒れ込んだ。
「ルゥ?ルゥ、どうしたの!?」
アリスが揺するが、ルゥは反応せず息づかいも荒い。
「医務室に運ぼう!」
カインがルゥの左肩を担ぎ、アリスが右肩を担いで部屋を出る。
「強くなれ…シン。」
「え?」
「お前が守るんだ…議長と…その新しい、世界を……」
突然レイの様子が変わった。ゆっくりと起ち上がり、ノロノロと歩きながらベッドに座り込む。
「それが、この混沌から人類を救う……最後の道だ…」
「レイ、どうしたんだ?」
「何でもない…!構うな!」
レイはいつもと違う態度でシンを振り払い、ベッド脇の棚からピルケースを取り出してその中の何錠かを飲んだ。
拒否の姿勢を表明するオーブ行政府でカガリは各国の情勢をフブキに確認する。
「では、はっきりと拒否を表明しているのはまだ我々とスカンジナビア王国だけなのだな?」
「ああ、どの国もロゴスのグローバルカンパニーが崩壊して政府も軍もガタガタな上にこれだからな。判断に困っているのだろう。しかし、既に導入を決めている国ではサンプルの採取が始まっている。彼のプラン通りなのだろうな。」
フブキが忌々しげに呟く。彼の言うとおり、これもデュランダルの計画通りだろう。ロゴスが撃たれて世界の経済も政治も破綻している。しっかりとした対応のとれる国の方が珍しいかもしれない。
「だがもう、これ以上世界を彼の思い通りにはさせない!かつてウズミ代表は連合の侵攻に際し、『人としての精神への侵略』という言葉を使われた。これはそれより尚悪い。」
これは精神以前に『人の存在への侵略』だ。そのようなプランもそれにより作られる世界を安易に受け入れるなど出来ない!楽な道を選択したからといって、それが最善とは限らない。苦難でも他の道を探す。それが、この戦いでカガリとフブキが学んだことであった。
「カガリ…オーブの理念、なんとしても守り抜くぞ。」
「ああ、それが必ずや全てを守ることとなる!」
「はい!」
新たな首長達もそれぞれの決意を胸に強く頷いた。
デブリにいるエターナルとコペルニクスのアークエンジェルは久しぶりに話し合いの場を設けた。
〈思った通り、世界の反応は緩慢な物だな。〉
「思った以上に、じゃない?」
バルトフェルドの感想にマリューは俯きながら返す。
「よく分からないのでしょうね。」
「だな、人種も国も飛び越えて…いきなり遺伝子じゃ誰だって判断困るよ。」
エリスとネオの発言に対してナタルはプランのメリットを口にする。
「しかし……あれだけ聞くと、本当に良いこと尽くめです。不安が無くなる、戦争が起きない、幸福になれると。」
「議長は信用もあるしね。もうプラントや地球の親プラント地域でもサンプルを取り始めている国もあるって、さっき地上のクラウドさんから。」
ユリもバツが悪そうに呟き、対してシオンが舌打ちをする。
「議長だから大丈夫、か!考えもしないで安易に決めやがって!!」
各国の政府がガタガタなのだから仕方ないといえばお終いだ。しかし、考えることの尊さを主張するシオンにとっては考えないことは許せないのだろう。
『デュランダル議長のやることだから正しいに決まっている。間違いなどあるわけがない。だからこのプランも良いことだ。』
そう言って、皆何も疑わない。ユニウスセブン落下とその救助、積極的自衛権行使の元での最低限の防衛戦とユーラシア西部への支援、ロゴス討伐……全てがこの土台作りだ。アスランも一度そうして騙され、そのためにミーアは切り捨てられてアスラン達も殺されかけたのだ。
「でも、これがプランの発表だけで終わらないわよね。」
「うん。」
レナの懸念にキラが首を縦に振って肯定し、イリアも同意する。
「導入実行、だからな。」
「オーブは?」
アスランはミリアリアに問う。
「もう防衛体制に入っているわ。プランの拒否が採択されるのは間違いないもの。」
だが、リュウは……
「ヘブンズベースでロゴスの引き渡し要求をしたように、導入実行の見直しの交渉をする気、ないのかしら?」
「ここまで来て、そんな気あると思う?」
クレムがリュウの考えを切り捨てる。
「あたしでも分かるわよ。『世界から戦争をなくすとっても良い方法です』、『慎重論?嘘だ、お前ロゴスだ。』って、みんな大喜びでオーブを攻めるわよ。只でさえ、ジブリールの件もあるんだから。」
そう、セイランの独断でもジブリールを匿った結果がまだ記憶に新しい。例え、ジブリールがなくてもロゴスとこじつける。
「『戦わない者は臆病だ』、『従わない者は裏切りだ』……自分達がそれを実践しているのを分かってないだろうな。どこが進化した人類なんだか。」
グレンもため息と共に呆れ果てる。
「でも…実際に力押しで来られたら、もう戦うしかないものね。」
「戦うしかない、か…」
キラはぽつりと呟いた。
「キラ?」
ユリが探るような表情を向ける。
「いや、あっちもそう思ってるんだろうなって思って。戦うしかない、これじゃあ戦うしかないって……結局、僕達は戦っていく。プランも嫌だけど、こんなこと本当にもう終わりにしたいのに…」
キラの言う通りだ。このプランが実行されれば平和な世界が訪れる。自分達が求めていた世界になるというのに、今自分達はそれを拒否しようとしている。
やっぱり、ワガママなのかしら?人々がこれを求めているというのに……
「でも、今は戦うしかないわ。そうでしょ、ラクス?」
「はい。夢を見る、未来を望む……それは全ての命に与えられた生きていくための力です。何を得ようと、夢と未来を封じられてしまったら私たちは、既に滅びた物として……ただ存在するだけの物となってしまいます。」
ユリの問いにラクスは頷く。
「全ての命は未来を得るために戦っていく物です。戦って良い物です。私たちは戦わなければなりません。今を生きる物として、議長が示す死の世界と。」
そういうことか……これはもっとも原始的な戦い。生きるための戦いなのだ。例えプランを受け入れても、訪れる物は生きながらの死と同じなのだ。その世界で人々は生物学的には生きていても、ただの部品になるのだから。
「ステーションワン、間もなくポジションに付きます。レクイエムコントロールシステム、全て正常に作動中。」
「チャージは初めておいてくれ。どのみち一度は撃たなければならない。テストもかねてね。」
「は!」
士官は何の疑いもなく答え、デュランダルは秘書官へ向く。
「各国に何か新たな動きは?」
「ありません。未だ明確なのは早々に拒否を表明したオーブとスカンジナビア王国のみです。」
デュランダルはパネルを操作し、オーブの公式発表を見る。
〈よって我が国はこのデュランダル議長の唱えるプランの導入を断固拒否する!〉
やはりとデュランダルは心の中でうなる。今後脅威となるのは彼女とラクス・クラインだろう。しかし、もう遅い……彼女達は大きく出遅れた。セイランが実権を握っているままならもっと楽に潰せたのだが……
「ですが、これに呼応してかアルザッヘル基地に少し動きが見られます。」
「おやおや……」
連合はこの期に及んでまだ徹底抗戦の構えを崩さないらしい。スタンピーダーで核が通用しないと知らしめられた上に強引な同盟は各国の反発で只でさえとれていなかった統制がロゴスの暴露によって完全に瓦解し、世界安全保障条約も事実無効状態。正式に脱退をしていないオーブを含め殆どの国は既に大西洋連邦の影響下を離れている。
ヘブンズベースもダイダロスのレクイエムも失っている今、もはや連合に勝てる見込みはほぼ無いというのに……どうやら大統領のコープランドは完全に袂を分かつようだ。
「大西洋連邦大統領は議長にコンタクトをとりたいと、各国の首脳同様申し入れもしてきているのですが…」
「なるほど、コープランドも大変だな。彼女のように頑張ることもできないのに、一国のリーダーなどをやらなくてはならんとは。どうすればよいか指示してくれるロゴスももういない…」
所詮あの男はジブリールらロゴスのバックアップがあったから大統領になれただけ…カガリやラクスのように己の主義主張や同志と呼べる者もいない小物に過ぎない。
「まあ、良いだろう。ではまず、アルザッヘルを撃つ。準備を始めてくれ。オーブはその後で良い…」
「はい。」
秘書官が答えた後、デュランダルはデスクにあるチェスボードに目をやる。
「私はちゃんと言ったはずだがな。これは人類の存亡をかけた最後の防衛策だと。なのに敵対するというのなら、それは人類の敵ということだ。」
アルザッヘルに動きがあるという報告を聞いたミネルバと月艦隊は迎撃のためにアルザッヘルへと向かった。
「やっぱ連合軍…まだ戦う気なんだ。」
「ああ、そのようだ。」
シンの懸念もレイはサラリと受け流し、端末を開いた。
「さっきのことなら気にしなくていい…驚かせて悪かった。持病のような物だ、気にしなくていい。」
それを戸惑ってみるシンにレイは顔を見せないまま謝罪した。
「そんな事より、その前に私が言ったことを忘れるなよ。」
医務室で目を覚ましたルゥは連合の抵抗を懸念するカインとアリスに先程の件で釘を刺す。
「これから先、何が起ころうとも、誰が何を言おうと議長を信じろ。世界は変わる……私達が変える。だが、そんなときには混乱の中、これまでとは違う決断をしなければならない。訳も分からず、逃げ出したくなる時もある。議長を信じれば大丈夫だ……正しいのは彼なのだからな。」
「うん、それは良いわよ…でも……」
アリスがバツの悪そうな顔をし、カインが歩み寄る。
「どうしたんだ、いきなり。まるで遺言だぞ?」
「なんか、それじゃドラマの死んでいく親父みたいだぞ。やめろよ。」
シン本人としては冗談も入っていた。だが、レイの口から出たのは思いも寄らない言葉だった。
「実際、俺とルゥにはもう…余り未来はない。」
「え?」
「テロメアが短いんだ、生まれつき。」
テロメア……人間が細胞分裂を繰り返す上で徐々に減っていく組織の名前だ。それが長ければ長い程人間は寿命が長いという。だが、それが生まれつき短い?
「遺言か……その通りだ。私の身体は、もうそう長くは保たない。」
「長く…ない?」
アリスが呆然と聞き返した。
「先天的なものなんだ。身体や臓器の機能が低下し始めている。さっき倒れたのもそのせいだ。」
臓器の機能の低下…彼から知らされた自身の身体の内部にある爆弾……
「私は…」
「俺は…」
「出来損ないのコーディネイターなのさ。」
「クローンだからな。」
ミネルバ、ゴンドワナと共にアルザッヘルに向かっていたボルテール……そのオペレーターが突然声を荒げた。
「月の裏側に高エネルギー体発生!」
その報告にイザーク、ディアッカ、ニコルはオペレーターへ向く。そして、次の報告にイザークは耳を疑った。
「ダイダロス基地……これは…レクイエムです!」
「何だと!?」
真っ先にイザークが反応し、それにディアッカとニコルが続く。
「一体どこが照準だ!?」
ディアッカに問われてオペレーターが屈曲点を分析する。
「屈曲後コース…エリア4から11!」
「まさか、オーブかスカンジナビア王国!?」
ニコルの懸念にイザークが訂正を入れる。
「いや、アルザッヘルだ!」
ミネルバでも同様のやりとりがなされており、アーサーがまた大げさに反応する。
「ええ?では、これは我が軍が!?」
「当たり前でしょう?あそこにもう連合はいないわよ。」
既にジブリールも死に、基地の司令部も壊滅し残存戦力も降伏したダイダロスは完全にザフトの領土だ。ならばこの砲撃もザフトによる物だ。
それから間もなく、アルザッヘルから巨大な噴煙が上がった。
アークエンジェルのブリッジにキラとアスラン、ユリが上がってきた。
「マリューさん!」
「あれは…」
「レクイエムを!」
モニターに映ったのはアルザッヘル基地のあった場所から上がったキノコ雲だ。おそらく基地はもう壊滅しているだろう。それだけの兵器は今ダイダロスのレクイエムしかない。
「破壊したんじゃなかったんだな、あいつ…」
ネオが呟き、キラは唇をかみしめる。もうデュランダルは穏健派の指導者であることも放棄し、力ずくでプランを実行に移そうとしている。
「これで、残っていた連合の戦力もほぼ全滅だわ。」
「あれの破壊力もジェネシスに劣らない。中継点の配置次第で、地球のどこでも自在に狙えるぞ。」
アスランの言う通りだ。そして、間違いなく次はオーブを撃つつもりだ。
「艦長、オーブに連絡を。エターナルと合流します、すぐに発進準備を始めてください。」
「ええ。」
ラクスにマリューが頷いた。
「従わねば死というのなら、どちらにしてもこのままでは世界は終わりです。」
連合が完全に壊滅した今、もはやデュランダルを止められるのは自分達しかいない。
「逃げ場はありません……行きましょう!」
「ああ。」
「真の歌姫が戻る。暗号座標フラジャイル!繰り返す、真の歌姫が戻る!」
発進したエターナルからバルトフェルドが各方面に呼びかける。それからしばし置いて、ナスカ級やローラシア級、それだけでなくこちらに以前から賛同していた連合の艦隊が合流する。
コペルニクスからアークエンジェルが発進した。更に、かつて共にヤキン・ドゥーエを戦ったクサナギに続いてスサノヲ、ツクヨミ、クシナダの三隻の新たなイズモ級が発進する。
ルウは出来損ないのコーディネイターでレイスやラウとなれば、多分察する人は察するでしょうね。
誰だって、成功があれば考えるでしょう。第二のジョージ・グレンと同じようにと……
あと、オーブのイズモ級は一隻増やしました。理由はこの次で