恋敵はブレイズミートシチューでした。   作:猫好きの餅

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 今回、私の別の作品のキャラクターが出てきます。ご了承くださいませ。

 気になる方は「好きな子にズッ友宣言されたんだけど」をチェック!
 


好きな子と海とか心躍る

 

 

 

「……ぁ〜…」

 

 テイワット七国の1つ、炎の国ナタ。

 

 その中の部族のひとつ、流泉の衆の集落で、温泉に浸かった俺は身体を伸ばしながら情けない声を上げる。

 

 少し熱めの心地よい温度。体をあっためながら、近くに浮かせたお盆の上の冷たいミルクを1口飲む。チビ竜クッキーをかじり、それをまたミルクで流し込んだ俺は満足そうに息を吐いた。

 

「よ。随分くつろいでるな」

「ん、イアンサじゃん」

 

 もうここに一生居る……と身体をリラックスさせてうとうとしていると、頭上から声が掛けられた。聞き覚えがある声でその主もすぐわかったのだが、この集落にいるのは珍しい。目を開けて身体を起こした俺は、水着姿で腰に手を当てて立っていたイアンサに片手を上げて挨拶した。

 

「イアンサがこっちにいるのは珍しいな」

「まぁ、ちょっとトレーニングに来ただけだ。水泳は全身運動だからな。お前も一緒にどうだ?」

「んー、俺はいいよ。現に今こうやってくつろいでる」

「……ちなみにヴァレサもいるぞ」

「んぶっ」

 

 イアンサから出た名前にミルクを吹きかけた。温泉に落ちてないことを確認して一安心すると、呆れた目をしてくる彼女を見る。

 

「……お前達、この前から様子がおかしくないか?」

「…そんなことないよ?」

「嘘つけ。ヴァレサもお前と同じ感じだったぞ?」

 

 その言葉に俺は目を逸らす。俺とヴァレサはあのキャンプのあとから何となく顔が合わせ辛くなっていた。今の話でヴァレサの方も俺と同じだったことを知って少し安堵する。

 

 1週間前のヴァレサとのキャンプ。あの時俺はちょっとおかしくなっていたような気がする。普通、女の子と同じテントでくっついて寝るとかありえないだろ。いくら向こうが良くても俺は断るべきだった。

 

 でも、結果一緒に寝てしまって。そして起きたら俺はヴァレサの胸に包まれてるようにして寝ていたんだ。当然飛び起きた。

 

 ヴァレサも顔が真っ赤で、お互いに謝ってそそくさと片付けをしてそのまま別れたんだけど、その後集落で顔を合わせる度になんだか恥ずかしくなって顔が見れなかった。

 

 今日流泉の衆に来たのだって半分はヴァレサと顔を合わせなくするためだったのに。イアンサから話を聞いたらヴァレサが急に泳ぎたいと言い出したらしい。多分向こうも同じ考えだったみたいだ。

 

「……ま、アタシ達は向こうの海で泳いでるから、気が向いたら来てくれよな」

「……善処」

 

 とてとてと歩いていくイアンサを見送り、視線を温泉に戻しながら深いため息を吐く。とても温泉でリラックスする心境じゃなくなったので、俺はミルクを飲み干すと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 服を着替えて、それとなく海側を避けながら集落の中を歩く。流泉の衆はマリンスポーツが盛んで、ここの部族以外にもサーフィンをしている姿が目に入った。そして海で冷えた体を温泉で温める。集落の内側に目をやるとカップルと思わしき男女が仲睦まじく温泉に入ってる。

 

 それをげんなりとした顔で眺めた俺は、とりあえず流泉の衆の数少ない友人に会いにでも行くかと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぅ、……ぐすっ………なんでだよぉ……」

「いや、何があった?」

 

 数分後、その友人の家で俺は困っていた。俺の目の前の人物は大きな青色の瞳から大粒の涙を流し、膝を抱えてブツブツと何かを呟いている。

 

 青色髪に白のメッシュ。細身ながらも鍛えられた体に可愛らしい女顔に影が差している彼に、俺は声をかけた。

 

「……とりあえず泣きやめって。つーか何があった?ムアラニにフラれでもしたのか?」

「……振られた方がどんなに良かったか……」

 

 彼氏の名前はウルという。流泉の衆に住んでいる少年で、俺の数少ない友人だ。彼も同じ集落のムアラニという女の子に恋をしており、お互い頑張ろうな!…と前回会った時に腕を組み合ったばかりなのだが。

 

「……ずずっ、……何があったって、……はは………事実上の、死刑宣告……かな」

「いや、さっぱりわからん」

「……死刑というか、拷問というか……………俺、友達だってよ」

 

 その言葉に俺は首を傾げる。友達ならまだチャンスあるんじゃねぇの?こちとら振られてんだぞ。

 

 とか思ってた俺は、続いた言葉に固まることになる。

 

「……ずっと、……友達だってよ。……つまり、俺は永遠にムアラニとは付き合えないってことさ……」

「……お、おま……な、なんだそりゃ。………え、……絶望?」

「だからそうだって言ってんだろぉ!」

 

 ムアラニとは何度か話したことあるから、あんまし恋愛に興味無さそうなのは知ってるけど、まさかそんなことを言ってくるなんて。

 

 ちょっとヴァレサと俺で当てはめてみよう。

 

 ずっと友達、つまりズッ友。ズッ友ってことは、嫌われてもなく、むしろ好意的に思われている………が、恋人はナシ。

 

 自分が彼女と完全に関係を切り離すまで、本当にずーっと友達ってことだ。

 

 つまり、ヴァレサに好きな人ができたとしよう。それを相談されるってことだ。そして俺は血涙を流しながらそれを応援しなきゃいけなくて、付き合った報告も、なんなら結婚も、彼女から報告されて、ヴァレサが幸せになっていくのを間近で見せられてうわああああああああああ(限界)。

 

 なにそれ、辛すぎるだろ。

 

 つまりウルは今、そんな状態だということだ。

 

「お、おお前はそれでいいのかよっ?すっごい辛いぞっ?」

「うう、やだよこんなの。………でも、ムアラニと関係は切りたくないし、……でもムアラニから恋愛相談とかされたら破裂する自信ある」

 

 そう言うウルの瞳に光は無い。そんな彼が哀れに思った俺は肩をポンポン叩いた。

 

「……とりあえず飯でも食いに行くか?家に一人でいても病むだけだぞ」

「……ああ」

 

 なんかウルの闇のオーラが俺にも移ってきたような気がする。なんか俺も力抜けてきたんだけど。

 

 とりあえず、俺とヴァレサの今の状態も良くないことはわかった。振られてるって事実がチクチクと刺してくるが、目の前の友人よりはマシだなと思うとちょっと気が楽になった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ、で、ディルくんっ!?」

「…あれっ、ウルっ?こんなとこで奇遇だねっ。お昼ご飯食べに来たのっ?」

 

 ………うっそだろ。

 

 

 ウルに飯でも奢ろうと連れていったところでまさかの遭遇。横のウルがこっちを見て笑ったムアラニを見て固まったのがわかった。哀れ。

 

「……あー、2人もお昼ご飯?」

「ディルガも久しぶりっ。サーフィンしてたらイアンサとヴァレサちゃんが泳いでたからあたしも参加したんだ。そっちの2人は?」

「俺たちも普通に昼メシ」

 

 ムアラニに手招きされて同じ席に座る。頬杖をついてウルに話しかけるムアラニを尻目に、隣に座るヴァレサをちょっと見た。

 

 さっきまで泳いでいたのかフリフリが付いたピンク色の水着がとても似合っていて、3秒以上見たら目が焼かれそうだ。ヴァレサの方もチラチラと俺を伺うようにして見てきて、1回目が合ってしまった。

 

「「っ!」」

 

 そしてお互いに目を逸らす。逸らしてから、もう一度こっそり見ようとして、同じことをしているヴァレサと再び目が合った。

 

「で…ディルくんはなんで流泉の衆の来てるの?」

「あ、ああ。ちょっと息抜きに…。ヴァレサはトレーニングだよな?さっきイアンサに会ったよ」

「うん、泳ぐのってすごくいい運動になるから…。最近暑いし、気持ちいいよ?」

 

 そこまで話してから、ヴァレサはちらっともう一度俺を見た。なにか伺うような、少し期待したような表情。…というか上目遣い可愛いからやめようね可愛いから(語彙力)。

 

 気まずいは気まずい。でも俺の中でやっぱりまだ恋心が大きいのだろう。気恥しさよりも、会えて嬉しい気持ちの方が強感じる。

 

 俺は真っ直ぐにヴァレサを見た。俺と目があったヴァレサもあわあわしながら目線を返してくる。

 

 無言で見つめあっている俺たちの横では、ムアラニとウルが楽しそうだ。というか、ムアラニのウルへの接し方の距離が近いような気がする。ムアラニも話しながらずっとウルの目を見ていて、なんならちょっと腕や肩まで触りながら何を食べるか話し合っている。

 

 ウルの方はというと、ムアラニに近付けて嬉しそうではあるんだけど、やっぱりちょっと目が死んでる。ムアラニの真意はまだわからないけど、これでも友達とか、地獄かなんかですか?

 

 ……俺もああはなりたくねぇな。

 

「な、ヴァレサ」

「な…なに?」

「この後、また泳ぎに行くのか?」

「う、うん。一応この後は自由にしていいってコーチに言われてるけど、やっぱり水が気持ちいいからねぇ。少し泳いでから温泉に入ろうと思ってたんだ〜」

 

 ヴァレサはそう話して、俺をじっと見る。まるで何かを期待してるように見えるのは気のせいだろうか。俺は勇気を振り絞って口を開いた。

 

 

「…それ、俺も着いてってもいい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4人でご飯を食べたあと、ムアラニとウルとはその場で別れた。

 

 ……っていうか、あの2人を見てて思ったことがあるだけどさ。

 

 ………ムアラニ、普通にウルのこと好きじゃね?

 

 いやだって、ウルと他の男を見るときで全然雰囲気が違う。ご飯食べながら喋ってた時も、俺がウルの昔の話をしたら謎に対抗してウルの話をされたし、後日泳ぎの練習に誘ってみたら「あ、あたしの方が流泉の衆だし、適任じゃないっ?」ってすごいアピールしてた。

 

 ……ただ、ズッ友がチラついてウルは遠い目をしてたけど。ムアラニのデレに素直に感動できないの本当に可哀想。

 

 

 

 で、俺たちはその足で海辺に来ていた。「準備運動は大切だからねぇ〜」って隣で屈伸しているヴァレサを俺は一体どう見ればいいんですか??

 

 ヴァレサってば、毎回「いっち、にっ、さーんっ、しっ」ってリズムつけてるせいでその度に色々揺れるんですよ。

 

 というか、こういう場合水着の感想とか言った方がいいんだろうか?…でも、ヴァレサはトレーニングに来てるわけだし、それに途中から来た俺が言うのも変じゃないか……?

 

「ディルくん」

「うわっ…ど、どうした?」

「え、えと、……その、水着……どうかな?」

「いいと思います」

 

 え、ど、どうかな………って、あれ、俺もう答えてね?なんか口が反射で勝手に動いたんだけど。

 

「そ、そうかなぁ……?…でも、ありがと…」

「う、うん」

 

 最早ヴァレサ対して俺の体が言うことを聞いてくれねぇ。顔を赤くしたヴァレサは、手を身体の前で合わせてもじもじしながらこっちを見てくる。こういう時ってどこ見たらいいんですかね?顔を見ると可愛すぎて俺が死ぬし、身体を見ると俺が社会的に死ぬんですが。

 

 とりあえず、俺は海の方に目を移して問いかける。

 

「で、これからどうするんだ?泳ぐって言ったって……」

「とりあえず、海に入ろぉ?…えいっ」

「ちょ、うわっ!」

 

 ヴァレサに背中を押されて海へドボン。深さはまだ浅瀬で、顔の水を吹いて立ち上がると俺の胸くらいの水位だ。桟橋の上で楽しそうに笑うヴァレサに癒されながら、なんだか気まずさがどこかで飛んで行っちゃった俺は彼女に手を伸ばす。

 

「掴まるか?」

「え、…う、うん」

 

 控えめな声とともに、手に柔らかい感触が。きゅっと握ってくる小さいヴァレサの手に、思わずびっくりする。直後、とぽんと音を立てて海へ入ってきたヴァレサは、バランスを崩して俺の胸に寄りかかった。

 

 おごぉうっ!?(着弾)

 

 でかぁい!説明不要っ!!

 

 あまりの威力に意識が飛びそうです。

 

「わっ、ご、ごめんねっ」

「だ、大丈夫……!!ケガないか?」

「うん、…支えてくれてありがと」

 

 そういい、俺から離れるヴァレサ。俺は今の感触を一刻も早く忘れるために、そのまま泳ぎ出そうと………したんけど。

 

「……えへへ、やっぱり海気持ちいいねぇ〜」

「…うん。そうだな」

「……よぉし、じゃあゆっくり泳いで……あっ」

 

 お気づきになられましたか。

 

 ヴァレサはさっきから繋いだまんまの手を見て慌てて離した。謝りつつも、チラチラとこっちを伺うように見てくる顔と、何より恥ずかしげな表情が可愛すぎるんだけど俺どうすればいいんですか?あ、泳げばいいのか(錯乱)。

 

 しばしお互いにまたもじもじした俺たちは少しして並んで泳ぎ出した。

 

 狩人やってる身として泳げないのはまずいので、大概の泳ぎは習得済み。今は水面に顔を出したまま平泳ぎでゆっくり進む。ヴァレサの方を見ると、気持ちよさそうな顔で同じ泳ぎ方をしていた。

 

 

「午前中泳ぎまくってた人に聞くのは変かもだけど、ヴァレサは泳ぎ得意なのか?」

「…うーん、普通かなぁ?陸上を走った距離の半分も泳いでないのに、同じくらいお腹が空くんだよねぇ〜」

「まぁ、全身運動だしなぁ。普段使わない場所の筋肉も使うから、意外と疲れるよ」

 

 そうは言いつつも、ヴァレサの顔に疲れはない。なんなら結構視線を感じるくらいだ。

 

「……どうした?」

「んーん、なんでもないよぉ?疲れたら何時でもわたしに掴まっていいからね?」

「女の子に掴まって泳ぐのは男としてなんかごめんだなぁ」

「……いつも思うけど……ディルくんって、なんでわたしの事……女の子扱いしてくれるの?」

「なんでって、そりゃ、ヴァレサは女の子じゃん」

「……う、そうじゃなくて…」

 

 いや、わかるよ?ヴァレサが何を聞いているのか。

 

 い、言い難い……!……でも、なんか、ここの俺の発言でこれからの俺の何かがどうにかなる気がする。…不明瞭すぎるけども。

 

 とりあえず、誤魔化さず、取り繕わず。思ったままに言ってみようか。何せもう振られてんだ。怖いものなんてない。

 

「……可愛い子を女の子扱いして、何が悪いってんだ」

「……ぇ、……そ、そんなこと…わ、わたし、別にかわいくなんてないよぉ?」

「可愛いだろ。いっぱい食べるところとか、表情豊かなところとか」

「…でも、わたし、別に強くもないし…」

「帰火聖夜の巡礼のこと気にしてんのか?……別に、魔物相手に戦えればそれでいいだろ?魔物相手ならヴァレサ、めちゃくちゃ強えし、実際あの時だって、里を守ったんだからさ」

 

 あの時っていうのは数ヶ月前にあったナタへの魔物の大侵攻だ。辛くも炎神様や英雄たちの力で「夜猟者の戦争」を引き起こし、無敵となったナタの民で魔物を滅ぼした。

 

 特に豊穣の邦はナタの末端の半島なだけあって逃げ道がなく、俺たちは里にこもって耐久戦をするしか無かったのだ。

 

 そこで、ヴァレサが大活躍をした。人相手なら実力を出せない彼女だが、魔物相手、それも国を滅ぼそうとしている敵たち相手なら話が違う。

 

 ヴァレサは夜猟者の戦争が始まる前から魔物達をちぎっては投げちぎっては投げて集落を無傷で守り抜いた実勢がある。

 

 俺が泳ぎながら真っ直ぐヴァレサを見て言うと、ぼふっと音を立てて顔が真っ赤に染まった。

 

「……でも、ヴァレサが強いってみんな知っちゃっし、小さい頃からも力が強くて怖がられたりしてきただろ?本人はすごい優しいのにさ。だから、俺だけでも、女の子扱いしたいよ。ってかさっきも言ったけどヴァレサ女の子だし」

「……ぁ………ぅ……」

 

 よぉし顔を崩さずに言い切ったぞぉ!

 

 俺は熱を帯び出す顔を見られないようにそっぽを向くと、速度を上げて逃げようとした。

 

 が、その俺の横を顔を真っ赤にしたヴァレサがすごいスピードで泳ぎ抜ける。

 

「…ちょ、ヴァレサっ!?」

「うぅ、……わ、わたしっ、先泳いでるね!?」

「ちょ、待っ……って速っ!?」

 

 あれバタ足か?ヴァレサの脚の方からものすごい水しぶきが上がってて、最早泳ぐとかそういうレベルじゃない速度まで彼女を加速させている。

 

 でも、俺の言葉が届いたみたいで良かった。リアクションも、悪くなかっ………たのかなこれは?彼女泳いで行っちゃったけど……。

 

 とりあえず、俺も後を追うかと全力で脚を動かしたところで。

 

「……ッぅ!?」

 

 

 突然俺のふくらはぎを走った激痛に、俺は水中でもんどり返った。

 

 あ、脚つったァ…!!

 

 あまりの激痛に俺は脚を抑えて悶絶するしかない。そういや俺さっきヴァレサに見惚れてて準備運動してねぇや。昼間は温泉でぐでぇってしてた、そりゃいきなり動いたら釣るわな。海で脚が冷えてたの悪かった。

 

 こういう時浅い場所なら何とか片足を底につけて一息つけるんだけど、結構と遠くまで泳いだせいで水深は5mを超えてる。悶絶している為体が力んでどんどん沈んで行く。

 

 やっべぇ…!何とか顔だけは上を向けないと……ッォアアア!?!?

 

 つった脚を離して、もう片方の脚で必死に立ち泳ぎをした結果、もう片脚も無事につりました。終わった。

 

 もう痛すぎて頭が上手く働かない。両足を片手ずつで押さえた間抜けな格好のまま、どんどん沈んでいく俺。

 

 正直、まだ息に余裕はあるから、このまま痛みが引くまで待とう。そう思いながら、集中するために目を閉じた瞬間。

 

 

 

 なんか、ものすごい勢いで引っ張り上げられた。

 

 一気に水面から顔が出て、驚いて目を開けると、泣きそうな顔のヴァレサが鬼気迫る様子で岸目指して泳いでいる。

 

 さっきの超バタ足で進んでるみたいで、抱き抱えられながら過ぎ去っていく水面をぼーっと眺めていると、砂浜に寝かせられた。

 

「ディルくんっ…!やだっ、死なないでぇっ…!」

 

 大丈夫、大丈夫だから、ちょっと待ってね?今痛すぎて喋れないだけだから。もうちょっとしたら引くから痛みが。

 

「…うぅ、……こうなったら………!」

 

 声は出せないけど、せめて無事なことは伝えようと目を開けたところで、何やら決心した様子の、目を閉じたヴァレサに鼻を摘まれた。…なんで?

 

 そのまま、ヴァレサは頬を朱に染め顔を寄せてくる。

 

 ヴァレサは後を着いてこない俺を心配して戻ってきたんだろう。そしたら海に沈んで目を閉じている俺。

 

「……ディルくん……」

 

 つまり、今ヴァレサは俺が溺れたと思ってるわけで。

 

 ……ヴァレサが俺の鼻をつまんで気道を確保したってことは…。

 

「……んっ……」

 

 俺が飛び起きようとした直前に、唇に柔らかい感触。俺はあまりの衝撃に目を見開く。

 

 広がった俺の視界には────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───青い空と……目を閉じて、俺と唇を重ねるヴァレサが映った。

 

 

 

 

 






 人口呼吸って、いいよね(ただし、された側は普通に起きてる)



 ちなみに、ディルくんの本名はディルガといいます。ヴァレサだけが愛称でディルくんと呼んでいます(はよ付き合え)
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