悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第121話 プール・パレード 終幕の一

 異界の騎士ルウは、舌打ちをしていた。

 

(見えている。だというのに、あの女の剣……いつ振られているのかわからない!)

 

 雷を圧し固めたような斬撃が飛んでくる。

 動きはまったく速くない。ゆったり歩きながら、緩慢に剣を振る。

 

 ルウはクサナギ大陸的区分で言えば剣士でもある。

 ゆえに見えている射手から放たれる投射攻撃など通じない。

 

 だが、見えているのに、ギリギリの回避となる。

 その理由は……

 

(『意』がない……あれだけ狂った殺人女が、なぜこんなに殺気も敵意もない状態で剣を振れる!?)

 

 ルウにとって不可解である。

 戦いを楽しむ者ほど、殺しを手段ではなく目的に据える者ほど、その攻撃には意が宿りやすい。

 たとえば信頼している相手が軽く頬に触れてくる動きと、敵対者が頬に張り手をかまそうとする動きは、もちろん後者の方が速いが、後者の方が対応が容易である。

 そういう場合に対応を容易とするのは、相手の攻撃の意思、すなわち『意』を肉体が読み取っているからだ。

 

 これは殺気、剣気などと呼ばれる場合もあるが……

 相手を倒そうと前のめりになる者ほど、こういう意を隠すことができない。

 

 だが、剣聖、明らかに斬ることが目的のくせに、まったく意を感じ取ることができないのだ。

 

 なぜならこの剣聖、常在戦場。

『話す』『食べる』『歩く』『殺す』が並列的に行動順にあり、話すように殺す。食べるように殺す。歩くように殺す。

 多くの者が他者を加害しようとする時に『意』を発してしまうのは、その者らにとって『傷つける』『殺す』が特別な行動であり、ある程度の度胸と感情のボルテージが必要だから。

 だが、自然と殺す者にそういった『心構え』はいらない。ゆえに剣聖の剣には『意』が乗らないのだった。

 

 加えて剣聖の斬撃そのものの速度。

 剣の振りは遅くとも、そこから放たれる雷は光の速度で迫る。

 ミカヅチは『多くの者が観測できる光』、すなわち『雷』を司る神。人の願いが神の権能を強化も弱体もするこのクサナギ大陸において、雷とは気付いたら落ちているもの、すなわち目にもとまらぬものである。ゆえにその速度、光に等しい。

 

 ……が、それを避けられているという事実は、シンコウにとって興味深いものであった。

 

神威(かむい)の流れを肌で感じていますね」

 

 割った卵の中に落とした殻をつまもうとしても、白身の中にある殻はうまくつまめない。

 殻に触れる前にどうしても白身に触れてしまい、白身が殻を押して遠ざけてしまうからだ。

 

 ルウが行っているのは、自分という『殻』の周囲に神威によって『白身』を纏うことによって、いつ放たれたかはわからなくとも自分に干渉してくるミカヅチの神威を感知し、押されるのに逆らわず遠ざかるといった技術であった。

 

 ルウは吐き捨てるように応じる。

 

「あなた、あまりにも見えすぎているな。よく人から気味悪がられないか?」

「どうでしょう、気にした覚えはありませんが」

「だろうなあ!」

 

 水柱が立つ。

 スライダープールの上を二人の女が流れていく。

 

 全長七百mのスライダーを滑りながら戦う光景は、遠くから見れば黒い墨のような神威を棚引きつつ動くルウと、黄金の輝きを瞬かせながら動くシンコウとが、協力してアトラクションを使ったパレードでもしているかのようだった。

 

 黒い神威と黄金の輝きが巻き付くように動き、時に衝突して飛び、また引き寄せられるように絡まりながら爆ぜる音を響かせる。

 帯電した水の上で行われる戦いはあまりにも美しかった。だが、迂闊に近付く者あらば、何人たりとも生きては帰れないほどに危険なものである。

 

 ルウは神威によって生み出した剣で斬撃を弾きながら、舌打ちをした。

 

(確かに隙はできた。だが、なんて計算高い隙だ! 斬り込んだ瞬間斬り捨てられる罠にしか見えないぞ!)

 

 負けが頭をよぎる。

 

 これまでは『勝つに勝てない』だった。

 だが、今は、『負け』。

 

 ルウは、クサナギ大陸にとっての異世界で、王に仕えていくつもの敵を滅ぼしてきた。

 部隊を率いたこともあったが、その多くは単身で国家単位を滅亡させる活躍である。

 

 第三者が呼ぶところによる氾濫(スタンピード)四天王。

 その四天王の中で戦果と正面衝突的な戦闘能力における最上の者を選べと言われれば、多くの者がこの『異界の騎士ルウ』を選ぶであろう。それほどの実力者。

 

 もちろん、クサナギ大陸で彼女と一対一で渡り合える者はそう多くない。

 

 このルウ、膂力という分野でもとんでもないのだ。

 ゆえにその攻撃はすべてが『線』ではなく『面』。剣を振ったついでで出来上がる『剣圧の面』でさえも、軍勢を圧し殺すことが可能なほどのパワーファイターである。

 

 ゆえにこの女に対抗するには、パワーにぶつかることができるほどのパワーを持つ、たとえば氷邑(ひむら)銀雪(ぎんせつ)のような者か……

 

 すべてのパワーを自分の力に変えてカウンターを放つ、対格上用剣術の担い手である、剣聖シンコウのような者が必要であった。

 

 そのシンコウがよりにもよって、目的である異界剣フラガラッハを所持しているこの状況……

 

「私は昔から、運がないらしい!」

 

 不幸属性というのか、苦労人属性というのか。

 ルウが仲間たちとの旅路において負ってきたポジションは、だいたいそのようなものだった。

 

 その不幸はルウから様々な物を奪ったが……

 同時に、様々な経験と、技を与えた。

 

 ……その技。

 

 なぜ、ルウは、帯電したプールの上を動いて、なんの支障もないのか。

 なぜ、ルウは、神威を体の周囲に巡らせたり、神威で剣を作り出したりという、普通の剣士ができないことができるのか。

 

 その理由。

 

「まさか、二刀流だけではなく、使う属性まで同じとは!」

 

 シンコウの剣より放たれた雷の斬撃。

 それにようやく合わせられるまで慣れたルウが放ったのもまた、雷の斬撃。

 

 神の加護ではない。

 そもそもルウは剣士ではない──

 

 否。

 

 クサナギ大陸の区分で分類しようとするのが、間違いである存在。

 

 剣士のように肉体に神威を巡らせること、可能。それゆえに剣士でもある。

 ただし、道士のように外部に神威を干渉させることも、可能。

 ようするに、その職分は。

 

「ここからは、魔法剣士としてお相手するしかなさそうだ」

 

 魔法剣士ルウが神威の剣を交差させるように構え、体に黒い雷を纏わせる。

 ……様々な不幸に見舞われ、個人で様々な状況に対応するしかなかった彼女が編み出した戦い方。

 剣も魔法も使えないとどうにもならなかった人生の産物が今、シンコウへと牙を剥く。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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