悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第157話 恐山学園都市荒夜連 八

 妖魔最大の特徴。

 老いない。

 

 ゆえに妖魔だけはローテーションをせずとも『老』の術式を実質的に無効化しながら戦うことができる。

 生徒がローテーションするたびに前線戦力が総入れ換えとはならず、ただ単に妖魔の後方から石を投げ続ける生徒たちが入れ替わるのみである。

 ゆえにこの戦法こそ対マサキの定石であった、が……

 

 異界の騎士改め、雷の精霊神ルウ、舌打ちする。

 

(まずいな、最初に聞いていた話と変わってきている)

 

 サトコが嘘を言ったとか、説明不足だったとかではない。

 

 今回のマサキ、サトコが持っている情報よりもかなり強い。

 

 まずその神威(かむい)総量が多い。

 そのせいで術式一つ一つが強化されており……

 

(私を構築する魔力が散逸していっているのがわかる。これは『老』の術式が強化されているのか)

 

 マサキが地獄へ追放される理由となった、妖魔と人を融合する術式である『人妖(じんよう)習合曼荼羅(まんだら)・色即是空』──

 マサキの術式の中で『曼荼羅』の名があるものは、あらかじめ術式を構築しておく必要のある、いわゆる儀式道術の一種となる。

 

 七星(ななほし)家の天眼(てんがん)などもそうなのだが、儀式道術は『行使に準備を含め時間がかかる』『行使中に儀式場から動けない』『莫大な神威を必要とするゆえに連続使用ができない』などの制約がある。

 

 その代わり範囲が広かったり効果が永続だったりという通常の道術では実現できない効果を発揮するのだが……

 

 マサキの融合にも、時間がかかる。

 

 そして、マサキ、数百年前からコツコツと融合を続け今日に至っている。

 

 その結果、地獄にいる妖怪のほとんどを純粋神威化してその身に宿すことに成功しており……

 

 現在。

 

 地獄に封じ込められた当初の数十倍の神威総量を誇る大妖怪と化していた。

 

 そこに加え、荒夜連の乙女たちの生気を吸収していた影響も甚大であった。

 妖魔ではなく特に妖怪と称される者たちは、その多くが『とある条件を満たすと相手の防御や対策など無視して設定された現象を起こす』という能力を使う。

 

 マサキのメインは雪女。

 傷ついた体を癒し、散逸した神威を取り戻すためとはいえ、荒夜連の乙女たちとともに氷漬けになった。

 

 雪女伝承──

 その多くは『愛を誓い合った男が裏切った時、男を凍らせる』というものだ。

 だが中には『男とともに凍る』という伝承もある。

 

 マサキ、愛憎深い仇敵である荒夜連の乙女たちとともに氷漬け心中状態になったことにより、妖怪としての成功体験が増加。そのパワーアップたるやすさまじいものがあり……

 

 すなわち、進化している。

 

 進化すると技の性質が変わるのは何もルウやノヅチに限った話ではない。

 マサキも進化により術式も神威総量および神威の質の変化とともに強化されており、それが今、ルウの身を少しずつ削いでいた。

 

(……まずいな。小僧が来るまでもつかどうか──まったく、どうして私はこう、『誰かが来るまでの時間稼ぎ』とか『一体も後ろに通せない殿(しんがり)』とかの役目ばかり負わされるのだか……)

 

 まさか異世界に来てまでそういう損な役回りを負わされるとは思っていなかった。

 己の運命の強固さに笑ってしまう。

 

 笑う──余裕が、ある。

 

(そうだな。こういった状況は初めてではない。そして、幾度も超えてきた。ならば、今回もそうするのみ)

 

 ルウの二刀が交差するように、マサキに迫る。

 

 マサキ、これを視線を向けて中空に氷を発生させ留める。

 剣の軌道が変化することを加味した、大きな氷の壁である。

 

(神威総量に任せて強引に防御範囲を広げたか!)

 

 素人はいきなり玄人にはなれない。

 だが、技術的に未熟でも、パワーさえあれば玄人を倒し得る。

 

 ルウとマサキの戦いは『玄人』対『絶大なパワーを持つ素人』のものであり……

 

「ああああああああああうざいうざいうざいうざいうざいいいいいいいいいい!!!! 死んで死んで死んで死んで死んでえええええええええ!!!!」

 

 狂乱としか表現できない様子で頭をかきむしりながらマサキが叫ぶ。

 その瞬間、巨大な氷の立方体(キューブ)が空を塞ぐほどの数出現し、ルウに向けて降り注ぐ。

 

「くそ!」

 

 ここでルウが苛立たし気に叫んだのち、マサキから距離をとる。

 攻撃の範囲が広すぎる。後方にいるサトコも巻き込む──

 

 だが、その対応は悪手だった。

 

 振り返ったルウのすぐ目の前に、氷の板が浮かんでいる。

 

 美しい一枚氷だった。透明度が高く──

 

 よく背後の光景を映す。

 

 背後から鏡を見るマサキと、目が合った。

 

「…………!」

 

 慌てて視線から逃れようとするが、遅い。

 ルウの全身が、サトコのもとに駆け付けようと前のめりになっていたせいで、頭部から凍り始める。

 

 永久凍土──

 

 マサキが全体的にパワーアップしているとすると、その氷、パワーアップ前のもの──梅雪が呑み込んだものより数段丈夫になっている。

 

『死』の術式。もともと氾濫(スタンピード)四天王三人分の神威量を誇る、異常に硬い氷である。

 その術式が強化された果ての氷、どこまで丈夫かわからない。

 

 ゆえに頭部を凍らされたルウ、このまま全身を凍らせられるしか道はなく……

 

 は、ない。

 

 ルウ。

 己の首を刎ねる。

 

 首を刎ねられたルウ、体だけで前進。

 ばらばらと降り注ぐ巨大な氷のキューブの下をくぐるようにし、サトコのもとまで駆け抜ける。

 そうしてサトコを救い出して……

 

「……いや、まったく。なるほど、『認識』が重要なのか」

 

 その首から上に黒い神威が集まり、再生していく。

 

「首を刎ねられる、心臓を貫かれる。それで『死んだ』と思わなければ、もう死なない体になっているのだな。……はあ、本当になんというか……生物離れしていくのは、あまり心地いいものではないな」

 

 妖魔ゆえに──

 

 凍り付いた頭部を切り離し、体全部が氷漬けになるのを防ぐことに成功する。

 

 キューブ落下による攻撃もすっかりかいくぐり、状況はまた相対状態に戻る。

 

 マサキはルウを見ている。

 だが、ルウは凍らない。『死』の術式──永遠に存在を固着させる術式の発動には、一瞬の溜めがいる。そのことを見抜かれている。

 

 もし溜めればルウはすぐさま移動し視線から逃れるだろう。

 

 そのことがわかって、マサキは……

 

「チッ」

 

 舌打ちを、

 

「チッ、チッ、チッ」

 

 幾度も、幾度も、

 

「チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ」

 

 幾度も幾度も幾度も──

 

「どうして」

 

 幾度も舌打ちをしたあと、不意に問いかける。

 

 答えるべき相手はルウであろう。

 だが、ルウは、こう感じていた。

 

(こいつ、目の前にいるのに、私と……いや、誰とも会話する気がないな?)

 

 マサキは問いかけのような言い回しやお願いのような言い回しを多用する。

 だが、対話していない。そのような言い回しは言うなれば『世界』へ向けたものであり、目の前にいる人、言葉を交わせる距離にいる人と会話をしようという気がない。

 

「どうして私の人生はこんなんばっかりなの? 意味わかんない。意味わかんない。うっざ。うざいんですけど。私、一生懸命やってるじゃん。なんでわかってくんないかなぁ……本当にアホばっかり。物事を適切に評価できない馬鹿ばっかり。負けて居所をなくした妖怪たちを助けたいだけだって言ってるじゃん。そうしたら妖怪たちは私に感謝するじゃん。妖怪と人間が争うこともなくなるじゃん。かわいそうだと思わないの? たった数百、数千程度の人間を殺して村を焼いただけで地獄に落とされるなんて。そんなのもう『人』っていうか『数』じゃん。昔の話じゃん。だから私が優しく救ってやろうって言ってるのにさあ。どいつもこいつも。私のこと利用するだけ利用して、それで最後は地獄にポイ? 私が何した? 私、悪いことしたか? お前たちアホにも使えるようなもの作ってあげたじゃん。私のお陰でしょ。だったら私のために働けよ。私のお願い一つぐらい叶えろよ。おかしいでしょ。ねぇ、おかしいでしょ? おかしいに決まってるよね? ねぇ、ねぇ、ねぇ!」

 

 世の中には答えただけ損する問いかけというものがある。

 

 その問いかけを拾ってしまうと延々どうでもいい話をされ、アドバイスでも求めているのかと思えばそんなことはなく、求めているのは『人間』ではなく『相槌を打つ壁』だという、そういうことが、よくある。

 そこで『相槌を打つ壁』になるのも優しさであろう。対話の中にはそういう役割に徹するべき場面というのは確かにある。

 

 ただし、それは。

 相手がいつか、自分に『壁』以上の価値を見出す可能性がある場合に限る。

 

 マサキのように、延々と『壁』としての役割を他者に求め続け、決して相手にターンを渡そうとしない存在とは、会話するだけ損なのだ。

 ゆえにこの『ねぇ』に答えてはならない。ひたすら面倒くさいことになるだけである。

 

 だが……

 

 

「俺が貴様の疑問に答えてやろう」

 

 

 すべての視線が、声の方向に注がれた。

 

 あらゆる者の目を集めるその声の主人こそ、氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)

 

 ただしその姿は平時の銀髪碧眼ではない。

 透き通るような青い頭髪に、普段の碧眼より透明度の高い青い瞳──

 さらに曇り氷で削りだしたかのような西洋風甲冑を纏い……

 

 手には、白銀の長刀。

 

 その姿はまるで、銀舞志奈津(ぎんまいのしなつ)を帯びた、父・銀雪(ぎんせつ)のようであった。

 

 梅雪はゆっくりと歩いてマサキに接近しながら、言葉を続ける。

 

「貴様が報われない理由、貴様が評価されない理由、周囲が貴様の話を聞いてくれない理由……この俺にはわかるぞ。喜べ、教えてやる」

 

 ここでマサキが『なんだこいつ』というような顔をしたのは、彼女の言葉が同意以外の何物も求めておらず、『意見』『答え』を表明しようという他者を異物としか認識できない性格の証左であった。

 

 ゆえに梅雪の述べる答えは、こうなる。

 

「貴様が性格ブスだからだ」

「……………………ハァ?」

「言葉の通じぬ低能生物は貴様のような者の方をこそ言う。ゆえに、貴様を煽るのはつまらんので……」

 

 長刀の切っ先を正面に突き出すように構える。

 体の前に円錐があると想像し、その円錐の内側にどのような攻撃も入れぬよう備える。それが成せれば、ただ進むだけで切っ先が相手に届く──その理念にて編み出された半身(はんみ)平正眼(ひらせいがん)の構え。

 

 すなわち、氷邑(ひむら)一刀流(いっとうりゅう)

 

 梅雪は傲慢に笑う。

 

「……貴様にはさっさと『終わり』をくれてやろう。この俺からのクリスマスプレゼントだ。受け取れェ!」

 

 氷邑梅雪──

 

 神喰(かっくらい)状態にて、参戦。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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