悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第160話 恐山学園都市荒夜連 十一

 妖魔。

 

 クサナギ大陸における『人類の敵』。

 そのすべては神威(かむい)生命体である。

 

 神威、異世界においては魔力などと呼ばれるエネルギーである。なので神威生命体とは、ようするに血肉のない、血も涙もない生き物のことを指す。

 

 妖魔になる経緯は様々である。最初からそう発生するモノもある。世界の敵認定された結果世界によって神威生命体に堕とされる場合がある。

 特例として神喰(かっくらい)状態にある氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)もまた神威生命体状態だが、それを世界や人がどう判断するかは不明である。

 

 ともあれこの妖魔という存在、神威生命体──クサナギ大陸でそこらじゅうにあふれているエネルギーで形成されたモノゆえ、倒されても散逸するのみで、時間が経てば復活する。

 復活までの時間は様々だが、妖魔を完全に倒そうと思えば、妖魔ごとに異なる条件を満たすか、妖魔を封印する特殊な道具・術式を用いなければならない。

 

 マサキは妖怪と融合したことによって妖魔となった。

 

 これをたとえば神威を消し飛ばしきって消失させ散逸させることに成功しても、その後、いつかはわからないが、クサナギ大陸で復活することになる。

 そうなったら天才・マサキの最後の術式である『天上天下(てんじょうてんげ)』が起動してしまう。

 

 この術式は、荒夜連(こうやれん)術式解析班によれば起動したら東北が終わるといった効果だとされていた。

 その効果の具体的なところは、『恐山を出て七歩歩き、天上天下唯我独尊(ゆいがどくそん)と唱えると、一定範囲内のすべての人間と妖怪が強制的に融合する』といった効果である。

 

 すべての命を等しく尊いというのを世界に認めさせる、世界改変術式──

 

 マサキは一度、恐山、それも地獄の内側から外に向けてこの術式を発したことがあった。だが、その時は地獄の扉すぐそばの妖怪と荒夜連の乙女数名を融合させただけに留まった。

 

 それは恐山が特殊かつ強力な霊場であるがゆえ、術式が乱れてうまく拡散しなかったという、マサキさえ使うまで想定しきれなかった事態が起こったお陰の幸運であった。

 

 だがその被害はすさまじい……

 そもそも、妖怪と人間の融合というのは不可能なのだ。

 

 マサキは雪女と融合して自我を保ち、さらにどんどん地獄の妖怪どももその身に取り込み続けて純粋に強化されていくのみである。

 これは、そもそもマサキの精神性やありかたが人類から外れていたうえ、誰も知覚していなかった特異な体質ゆえに、たまたま成功した、という特例にしかすぎない。

 では、その術式を浴びて強制的に使役していた妖魔と融合させられた、『特例』ならぬ荒夜連の乙女たちがどうなったか?

 

 人でも妖魔でもない化け物に成り果てた。

 

 ゲーム剣桜鬼譚(けんおうきたん)においては『イタコゾンビ』という敵指揮官ユニットが登場する。

 これはマサキ戦の前哨戦で現れるものであり、その正体は荒夜連のイタコの変わり果てた姿だ。

 これに自我はなく、肉体は死しているのに神威によって動き、ただただ周囲にいる人間と同化しようと行動するか、天上天下の術者であるマサキに従うしかできない。

 ちなみにゾンビの知性で行える『同化のための行動』は『捕食』である。人間を食う。そして適合してしまうと、噛まれた人間もゾンビになる。

 

 マサキと戦い敗北すると迎えるエンディングに『東北ゾンビパンデミック』というのがあるが、これこそ天上天下発動後に起こることであり、マサキが企図した『妖怪の救済』の結末ということになる。

 

 エンディングではゾンビまみれになった東北が一枚絵で表現され、そのゾンビどもが新しい融合先を求めて南下していく様子がテキストで語られる。

 そのゾンビどもの背後でマサキが満足げに微笑んでおり、ゾンビパンデミック、すなわちマサキの思い描く妖怪救済とまったくズレがない現象であるということがうかがえるのだ。

 

 そもそもマサキはなぜ妖怪に優しいかと言えば、彼女は『自分よりかわいそうで弱い、自分に逆らわないものにだけ優しくなれる』という性格の持ち主である。

 ゆえに自分の意思がなく、知能もなく、マサキの意思に絶対に逆らわず、マサキの『すべての妖怪を救う』という目的のために放っておいても勝手に動いてくれるゾンビども、マサキにとって理想的な『救ってあげたい存在』なのだった。

 

 そのエンディングを目指し、無数の肉片となったマサキ──

 

 己を殴って爆散させた衝撃で飛び散った肉片の中から、もっとも梅雪たちから遠いところに飛んだ物を基点に再生する。

 

 すぐさま背後から梅雪らが迫る。だが、『己を爆散させて逃げる』はさすがの歴戦の勇士たちとはいえ想定外。反応は遅れ、追いつくまでに数秒の時間を要した。

 その数秒でマサキはまた己を殴って爆散させ、無数の肉片に分かれて飛び散る。

 

(どうよ!? どうよ! ど~~~~~よ!? ざまぁみろぉ!!! クソうざいガキ! 妖魔のくせに私に敵対する黒いの! 頭のおかしい騎兵! お前らがいくら強くても、賢い! 私の! 勝ちだぁ!)

 

 勝ち誇りながら爆散逃亡を繰り返す。

 

 マサキは勝利を確信していた。

 

 実際、梅雪らは追いつけない。

 神威濃度を見て本体を見つけることが可能な梅雪たちではあるが、そもそも目の前で爆散されて冷たい爆煙(ばくえん)が上がると、普通に視界がふさがれる。

 そのあと無数に飛び散った肉片の中から神威濃度が高いものを探すのだが、単純に見るべきものが多すぎて把握に少しの時間がかかる。

 なおかつマサキが肉片から再生する時間は一瞬だし、再生した時にはもう己を爆散させる体勢に入っており、追いついた時にはもう爆散完了している。

 

 繰り返すだけでどんどん梅雪たちを引き離すことができる。

 

 マサキも向かう方向の制御はできないが、まっとうな下山道を歩まねばならないのは人間にのみ課せられた不自由。雪女と融合した神威生命体・マサキには関係ない。断崖だろうが雪崩の中だろうが、普通に進んで下山可能である。

 

 このやりかたを選んだマサキを捉えるには、単純に頭数が足りない。

 

 山のふもとで待つ夕山(ゆうやま)らを戦闘能力の有無にかかわらず動員したとしても梅雪たちの頭数では八名。たった八名で恐山のふもとを囲うようには布陣できない以上、マサキのとっている爆散逃走戦術は必勝の一手。

 

 己で己を無数の肉片に砕き再生するというのはマサキの神威をゴリゴリと削ってその出力を弱めてはいる。

 だが天上天下、発動に神威が必要ない。そもそも東北中を覆う想定の術式である。最初から神威量が必要な設計などしない。術式の天才の本領が最悪の形で発揮され、ついに『複雑かつ効果が絶大であるのに代償がない』という奇跡の術式が誕生してしまっていた。

 

 すべての術式に付与できる効果ではない。ゆえにマサキにとっても天上天下は奇跡の産物。同じようなものをもう一度生み出せと言われても不可能である、努力を続けた天才が生涯で一度のみ発現できる奇跡。神の息吹の宿った術式である。

 

 恐山霊場領域から出て七歩歩き『天上天下唯我独尊』と唱えるだけで済むその術式、いよいよふもとに近付いたマサキ、あと数十秒で発動が可能なところまで迫っている。

 

 東北が終わるまで、残り一分未満。

 

 梅雪たちが追いつくまで、あと一分と少し。

 

 勝敗は決した。

 

 ……否。

 

 ゲーム知識を持った梅雪がマサキの前に出現した時点で決していた。

 

「あっははははははははは!!! ざまぁ! ざまぁ! ざまぁ! 馬鹿なガキ! 私を馬鹿扱いしたガキ! 妖魔のくせに敵対する黒いの! 変な白いの! みんなまとめて妖怪と一つになれェ!!!」

 

 高笑いしながら滑走する。

 スピードスケーターのようなフォームで滑ること十秒。もう、恐山霊場と『外』との境はすぐそこ──

 

 その時。

 

 マサキの腹部に、何か丸い物が命中した。

 

「オ、ゴッ!?」

 

 度重なる自己爆散によって神威量が目減りしていたマサキにとって、不意に腹部に命中する球体の衝撃はかなりのものだった。

 あと数秒で恐山霊場の外に出られるところであったのに、つい、その足が止まる。

 

「な、に、が」

 

 マサキは、自分の腹部に命中し、雪上に落ちた丸い物を目で追う。

 

 ぽて、と雪の上でわずかに転がるその球体……

 

 白球であった。

 

 見覚えがある。

 この磨き上げられ、特殊な装飾が施された、白い石──

 

 イヤになるほどに。

 見るだけで一瞬でブチギレそうになるほどに。

 

 見覚えがある。

 

「なんで」

 

 だからこそマサキの口から疑問がまろび出た。

 

「なんでよ、なんで……お前らは! 全員! 凍らせて! 私の養分にしただろうがぁぁぁぁ!!!」

 

 その認識は正確ではない。

 凍らせて、養分にしている、最中──

 

 氷邑梅雪の放った神威による攻撃……

 能動的な神喰(かっくらい)によって、永久凍土ごと食われて消え去った。

 

 氷の中にあり、氷と同化して妖魔化状態にあったその者らが……

 

 今、雪煙の向こうから姿を現す。

 

 白と黒を基調にしたソフトボールウェア風和服を身に纏った乙女たち。

 手に手に投擲用ボールを持ち、投球動作に入る──

 

 ──東北恐山学園都市荒夜連の生徒たち。

 

 梅雪らの戦いに唯一足りなかった頭数。

 

 恐山のふもと、試合終了(コールドゲーム)直前で──

 

 投手(ピッチャー)九人体制にて、一斉に登板した。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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