悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第185話 剣桜鬼譚・異聞 二

 剣桜鬼譚(けんおうきたん)異聞(いぶん)──

 

 シンコウは、この術式の効果を実感させられていた。

 

(確かに、迷いがない)

 

 氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)、先ほど剣を合わせていたころは、どこか腑抜けていた。

 もちろん技量は冴えわたり、剣は何か小さなミスでもしようものならばシンコウの身を斬り裂いていただろう。

 

 だが不思議なほどに殺気がなかった。

 互いに互いの失敗を待つような、剣を用いての睦み合い──それが、先ほどまでの戦いであったのだ。

 

 だが、今は……

 

「どうした剣聖!? 困惑が剣に出ているぞォ!」

 

 殺意が、ある。

 あふれんばかりの殺意がある。剣が『相手のミスを待つもの』ではなく、『相手を殺すもの』に変わっている。

 

 この三年間で梅雪は仕上がった。

 だが、幼いころのような、ギラついた殺意がなくなってしまっていた。

 

 それは紛れもなく人としての円熟である。

 戦う者としていい変化かと言われれば、先ほどまでのシンコウ、『昔の方がマシだ』とさえ思っていたぐらいである。

 

 しかし今の梅雪には、かつてのギラつきがある。

 

 成長で丸くなったわけではなかった。

 それが、たまらなく、嬉しい。

 

「失礼」

 

『なんの意味もないが布教のためだけに異世界を創造した(当然、莫大な神威(かむい)を消費する)』という行動のあまりの情報量にやられていたシンコウも気合を入れ直す。

 互いの剣が交わり、火花が散る。

 火花、すなわち、鋼と鋼がぶつかった衝撃を、シンコウが吸収しきれていない。

 

 速いだけではこうはならない。

 強いだけでもこうはならない。

 

 術理だ。極まった術理。心理の裏側から刺してくるような剣筋。悪辣なほどの──殺意。

 それが成す火花。この火花はすなわち、殺意をもとに磨き上げられた存在がぶつかる時に散るものである。

 

 加速していく。

 

 帝都を走る汽車がひときわ高く汽笛を鳴らし──

 

 景色が、変わる。

 

 乾いた砂交じりの風が吹くここは、『魔境』。

 

 その中でシンコウが──シンコウではない『この世界のシンコウ』が、誰かに何かを問いかけている。

 

「『まつろわぬ民』を助けたくば、魔境の外に土地を求める以外にはありません」

 

 シンコウの言葉だ。

 それをかけられているのは、なんとなく(さくら)と似た雰囲気の男性。

 それに、成長したウメ。それから、黒い肌の天狗(エルフ)

 

 そこに、シンコウと梅雪、斬り結びながら乱入する。

 

「師匠ッ!」

 

 桜に似た男性が剣を構え、対応しようとする。

 しかし、この世界のシンコウがそれをかばうように前に出る。

 

 斬り合いが、始まる。

 

 シンコウとシンコウ、そして梅雪。

 同一存在が相手だろうとお構いなしの三つ巴。唐突に始まったわけのわからない戦いの中でも、シンコウの完成された術理は勝手に反応する。

 

 三人での斬り結びの最中、桜に似た男性──『この世界の主人公』とウメ(トヨ)が乱入してくる。

 

「くそ、なんだってんだよ!?」

 

 混乱しつつも『この世界の主人公』は、『この世界のシンコウ』を助けるように動く。

 ……だが、この段階の『主人公』、今のシンコウと梅雪との戦いについてこられるほど強くない。

 

 嵐に巻き込まれた小舟がそうなるように、『この世界の主人公』がシンコウの刃を受ける──

 直前、『この世界のシンコウ』が、その刃を代わりに受けた。

 

 口元が驚きに染まっている。

 思ったより速かった。思ったより強かった。死ぬとは思っていなかった。そういう顔だ。

 

「師匠ぉおおおおおおおおお!」

 

『この世界の主人公』が叫ぶ。

 彼の身に、黒い神威が集まっていき──

 

 景色がまた、変化する。

 

 氷邑領都屋敷が『主人公』の軍勢に囲まれている光景。

 主人公のそばにはトヨ(ウメ)と梅雪の妹のはるがいる。忍軍のアシュリーも、阿修羅(あしゅら)に搭乗した状態で存在した。

 

「おのれおのれおのれェ! 有象無象どもが! この俺を……この、名門! 氷邑家の当主たるこの俺を!? 『魔境』に住まうゴミどもが殺す!? 受け入れられるわけがあるかァ! 誰か! 誰か、あの連中を殺せ! 誰か! ええい、くそ、使えぬ雑魚どもが!」

 

『この世界の梅雪』が叫ぶ。

 

「みっともないなぁ、『俺』」

 

 梅雪は、過去の己を嗤う。

 

 シンコウと梅雪は氷邑家本丸に降り立っていた。

 

 梅雪は、『己』を斬り殺した。

 それは見ていられないほど醜悪だったからであり、あそこでいきなり死ぬことが、『自分』にとって救いであることがわかっていたからである。

 

 そうして『氷邑梅雪』を斬り殺した現場に、『主人公』たちが乱入してくる。

 

 梅雪とシンコウは構わず斬り結び合い……

 

 また、景色が変わっていく。

 

 高いビル群が立ち並ぶネオンきらめく大都市、サイバネティック・ネオアヅチ。

 クローン清州兵を率いるガイノイド・トウキチロウを巻き込みながら斬り合う。

 

 ドデカ湖には七色にきらめくUFOが沈んでおり、その中では宇宙から飛来したモノどもが未だに地上侵攻を狙っていた。

 斬り合いの中でついでに斬り捨てる。目の大きい、痩せた子供のような体格の、灰色の皮膚をした連中が、古い電子音声のような声で何事かを叫ぶ。構わずシンコウと斬り合っていると、ついでのように死んでいく。

 

 軍神領にて火を噴き上げる巨大な酒樽の前で戦う。

 巨人のうずまく小田原城で黄金龍(ゴルディオン・ドラゴン)の槍を避けながら戦う。

 黄金の都で体を黄金にされそうになりながら、あるいは荒夜連(こうやれん)でマサキの術式を避けながら──

 

 シンコウと梅雪は、戦い続ける。

 

 それは、『この世界の主人公』が通るルートだった。

 いつでも主人公はあと一歩というところで乱入し、梅雪らに向かって何事かを叫び、斬りかかってきた。

 

 だが、そのようなものはどうでもよかった。

 梅雪は、斬り合いながら問いかける。

 

「どうだシンコウ、この世界は」

 

 シンコウは微笑む。

 

「至極、どうでもいい。今、あなたが目の前にいる。それ以外の何も、必要ではありません」

「はぁ。これだから風情を解さぬ変態女はダメなのだ。同じ変態でも風情がわかる夕山(ゆうやま)の方がずいぶんマシだぞ」

「……」

「いい世界だと思わんか? 自由で、とんでもなくて、一生を過ごしても飽きぬ世界だと、そうは思わんか?」

「何が言いたいのですか?」

「こんな楽しい世界で──貴様は未来を経験することなく、今日、死ぬのだ」

「……」

「惜しみながら死ね。俺は運命をぶち壊して、未来に行く」

 

 死の運命に魅入られたキャラクター、氷邑梅雪。

 手にする刀は世界呑(せかいのみ)凍蛇(いてはば)

 神器剣アメノハバキリを呑んだ刀。

 

 その刀が、神威によって長く、長く、長く、長く伸びていく。

 

 ……いつの間にか、二人はスペース五稜郭の艦橋にいた。

 周囲にあるモニターには宇宙が映し出されている。艦長のトシゾウ・ヒジカタおよびスペース新選組が唐突に出現した梅雪らにどよめき、何かを怒鳴り、刀を抜く。

 

 刀。

 

 たかが鋼の塊である。

 たかが刃物である。

 

 だが、クサナギ大陸において、それは……

 

 宇宙戦艦の主砲よりなお強い武器である。

 

 凍蛇がスペース五稜郭の天井をぶち抜き、伸びる。

 

 剣聖シンコウは次の一撃に備えるように体から力を抜く。

 

『準備』が必要、とシンコウの肉体が判断していた。

 来る攻撃すべてを自然と受け流し、その衝撃を逆用する。それが骨身にまで浸透しているシンコウが、次の一撃には、受ける準備が必要だと判断しているのだ。

 

「シンコウ、貴様への沙汰を改めて言い渡す。死罪だ」

「……素晴らしい。あなたは、神に成ったのですね」

 

 最後まで、言葉は通じない。

 

 ──景色が変わる。

 

 映し出されたのは、甲府。穴山領。

 穴山領のミカヅチ迷宮は険しい山であり、罠や化け物のみならず、地形もまた探索する者を阻む。

 

 梅雪とシンコウは、祭壇にいた。

 ミカヅチを祀る、祭壇。

 

 そこにのぼってくる、ぼろぼろの身なりの、蜂蜜色の髪の少女がいた。

 その少女は、黒い瞳を祭壇で向かい合うシンコウと梅雪に向けている。

 

 目を逸らす様子はなかった。その場から退避する様子もなかった。

 

 その少女、『この世界のシンコウ』。

 その幼い時代──ゲームにおいて、回想シーンでのみ存在する一枚絵の姿。

 

 未来、剣聖となる少女の見つめる先で、梅雪の剣が振り下ろされる。

 それに合わせてシンコウが動く。

 

 莫大な神威。神の風と神の雷がぶつかり合う光景を、少女は目を逸らさずに見ていた。

 

 視線の先。

 黒い瞳が光に焼かれて黄金へと成っていく先で──

 

 世界が、砕ける。

 

 二者の殺し合いに、決着が、ついた。




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そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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