悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第216話 備中高松オアシス水上戦 四

 そもそも、七星(ななほし)家は突撃・運動戦に向いていない。

 

 彼らの想定する『戦場』は天眼(てんがん)を使っている最中の主人を守る防衛戦であり、その想定敵は天眼の価値がわかる人間である。

 水上を駆け抜けて無限増殖する艦隊を倒し上陸するということには向いていないのだ。

 

 こういった状況に対応するための戦術ノウハウはなく、家伝の武術も大型の敵を相手にするには向いていない。

 ……いや。

 

 向いていなかった。

 

「おおおおおおお!!!」

 

 獅子のような男が、獅子のように吠え、奮迅する。

 七星彦一(ひこいち)。七星家侍大将。

 その太く分厚い体格と実直すぎる性格から、力押しをとりがちと思われるが、実際には戦術も使う。硬軟織り交ぜる。政治も多少はやれる。指導もまた同じく出来る。

 教科書通りのことならば大抵なんでも出来るという優秀な男である。

 

 そう、彼の強みは『教科書通りのことならば大抵なんでも出来る』ことだ。

 それは彼の物覚えの良さを表さない。

 

 この事実が表すのは、彼の真面目さだ。

 教えを守り、それを分析し、反復を欠かさず、骨身に馴染ませるまで幾度も幾度も行い続ける。

 修正を怠らず、正しくはどうかを突き詰め続け、妥協も惰性も許さず、血肉になるまで行い続ける。

 

 真面目さというのは極限状況の一瞬で発揮される性質ではない。

 普段の生活の中で発揮され続けてこその真面目さだ。

 

 それゆえに、七星家は教科書を作った。

 

 大江山(おおえやま)での戦いの後、七星家は現代の戦いを知り、自分たちの仮想敵の範囲が狭すぎることを反省した。

 そうして真っ先に行ったのは『人外対策』である。人ならざるモノどもがどう動き、どう攻めてくるかを想定し、人型でない、自分たちより大きなモノをどう倒すかを研究し、方法を編み上げた。

 方法を編み上げて後は、当然、これを骨身に沁みさせ、血肉とするまで訓練を繰り返した。

 

 彦一が砲弾を打ち返したのは偶然ではない。

 訓練の賜物だ。

 

 人間を相手にする武術というのはあまり『吹き飛ばす』ことをしない。距離をとるのは回避手段であり、殺し合いならば間合いの内側で動きを崩し、それからトドメを刺すのが普通だからだ。

 だが大型の人外相手では『吹き飛ばす』ことが肝要となる。そもそも、一人一殺(ひとりいっさつ)の想定で術理を編んではいけないのだ。大型の化け物を相手には大勢でかかることを前提とすべきであり、大勢でかかっている想定であれば、自分に接近してきた相手はまず吹き飛ばす、押しのけるなどのことをして距離を作り、他の仲間が噛める隙間を作る。それこそが対大型人外武術の肝である。

 

 発勁(はっけい)──というのは『(ちから)を発する』ことを意味するので、人間が何か力を発すればすべて発勁ではある。

 だがその中でも、特に『発勁』と述べた時にイメージされやすい、『ゼロ距離の相手を吹き飛ばす、テイクバックのない打撃』を七星家は特に訓練した。

 そうして大型の敵を相手にはまずこれを行い、吹き飛ばし、吹き飛ばされた化け物を複数人で囲んで叩く、突き刺すなどのコンビネーションを訓練した。

 

 その成果が今、

 

「おおおおおおおお!」

 

 砲弾を打ち返し、

 

「おおおおおおおお!!」

 

 戦艦を吹き飛ばし、

 

「おおおおおおおおおお!!!」

 

 吹き飛ばして横倒しになった戦艦を、集団で取り囲んでボッコボコに叩きのめすという流れを生み出していた。

 

 人は唐突に器用になれない。

 急に危地で打開手段を閃く人に変わることは出来ない。

 

 だが、血肉とし、平常動作とした行動を、とっさに取ることは出来るし……

 地道な訓練だけなら、才能がなくとも出来る。

 

 七星家は機転、直感、咄嗟の行動といった意味での才能はない、凡人の集団であった。

 だがしかし、実戦を経験し、足らぬを知り、それを埋める努力を重ねることの出来る秀才の集団である。

 

 特別な戦術、特殊な陣形、必要なし。

 心理を読む感性(センス)、死を賭すことを厭わぬ度胸、まったくいらぬ。

 

 凡人が修練を重ね、日常やっていることをそのままやる。

 それだけで人は強くなれる。

 

 七星家一党──

 

 ただ進み、ただ殴り、ただ倒し、ただ着岸に成功する。

 

「ここに陣を築き、氷邑様を待つ!」

 

 彦一の号令に七星家一党が応じる。

 彼らは増殖する艦隊を吹き飛ばし、取り囲み、叩きのめし、道を作る。

 血肉となったその行動は実戦を経て洗練されていき、ただ囲んで殴るだけの戦い方が、増殖よりも早く黒船艦隊を減らしていく──

 

 同じころ。

 

 

「大粒と小粒に分けたら大粒に喰らいつく。わかりやすくていいねぇ」

 

 イバラキは笑う。

 

 ……ヨイチと違い、『主人の兵を減らしてはならない』などということは思わず。

 彦一と違い、日常から訓練を共にして信頼関係を築き、血肉に戦い方を刻みこむということもしない。

 

 彼女の戦術は敵も味方も利用する。

 心理戦の相手は敵だけではないのだ。人を奮起させ命を懸けさせるための方法は、何も覚悟や忠誠だけではない。

 

 誰だって、そうだろう?

 

 功名心、虚栄心、『あいつには負けたくない』という気持ち。

 美味しい想いをしたいという気持ち。格好よく戦いたいという気持ち。

 

 誰だって持っている。

 

 だから、人は操ることが出来る。

 

 彼女が着岸をした方法は、まさにそういうものだった。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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