悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第219話 備中高松迷宮攻略戦 一

「やっぱりすごいなあ、氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)は」

 

 ペリーの艦隊が抜かれたことを感じ取り、(さくら)は暗闇の中で微笑んだ。

 かすかな焚き火に照らし出された顔は、炎によって揺らめく影によって、目が見えたり、口元が見えたりした。

 見える部位によって、桜の感情が違っているように、シカノからは思えた。

 だけれど、どの部位も嬉しそうだった。嬉しさの中に混じるものが、違っているのだ。

 

 桜は──

 わずかな情念を感じさせる目を見せながら、語る。

 

「師匠、あなたの気持ちが、少しだけわかった気がします。一人の人間から気持ちを強く向けられるというのは、それが殺意であっても、こんなにもときめくものなのですね」

 

 梅雪が聞けば『俺は剣聖に感情など向けたことは一度もない!』と激怒するであろう。

 だが実際には、向け続けていた。誰も肯定しないけれど──剣聖が向ける感情に対する嫌悪感、あるいは反応としての殺意だったけれど、梅雪は確かに、剣聖に気持ちを向け続けていた。

 

 桜は──

 わずかな興奮を感じさせる口元を笑ませ、語る。

 

「戦いなんか、ない方がいい。……でも、あなたとの戦いは、楽しいな。苦しくて、楽しい。息が切れそうで、楽しい」

 

 ペリー。

 必殺の水上防衛兵力──

 

 ──では、なかった。

 

 ペリーが得意とするのは、海異(かいい)のような水中・水上生物である。

 それも、大型のものの処理を得意とする。

 

 相手がただの人をぶつけて来た時点で、それはペリーに適した戦場ではなくなっていたのだ。

 記憶はなくとも、桜は『察する』ことが出来る。それははっきりとステータスが見えているわけではないが、仲間の力を察するこの能力もまた、『主人公』ならではのチート、と言えるだろう。

 

 そうして分析した結果、ペリーは必ず抜かれる兵力だった。

 ただし、相手を減らせる壁でもあるはずだった、が……

 

 思ったより、相手は兵を減らしていない。

 

 苦しい。辛い。怖い。──楽しい。

 

 桜は──

 興奮で赤らんだ耳を見せながら、語る。

 

「もう、戦うしかなくなっちゃった。……うん、仕方ないよね。だって、こんなに苛烈に来るんだもの。……これは、しなきゃいけない戦いだ」

 

 言い訳めいていた。

 と言うか完全に言い訳だった。

 

 桜は戦いを好まないし、戦いそのものを目的とすることに罪の意識もあった。

 傷は強いるものではない。死はなるべく減らそうと思うべきものだ。

 だからこそ桜は誰も死なないやり方を選んでいる。きっちりと仲間になり、きっちりと絆を結んだ相手。つまり、能力で『影』に出来る相手以外の兵力は頼っていない。彼女にとって傭兵を雇ったり、仲間以外を相手にぶつけるよう誘導したりというのは、『無駄に関係ない人の命を散らす、許されざる行為』に分類される。

 

 しかし戦いというのは、巻き込もうと思わなくても多くを巻き込むものだ。

 だから桜が戦いを挑む時には、なるべく早く決着をつけるように立ち回る。……それが『犠牲を厭わず人の夢のために命を賭す尊い姿』として人の目に映るのだ。

 

 だからこの戦いも、本当は籠城などするはずではなかった。

 打って出るつもりがあった。

 

 だが、間に合わなかった。

 間に合わなかったから──『家』に引き込むことにした。

 

 迷惑をかけないように。

 あるいは、邪魔されないように。

 

「……これが、人生目標かあ」

 

 再び桜の目が焚き火に照らし出された時、そこに宿る情念は先ほどよりずっと熱く燃え滾っていた。

 

「『氷邑梅雪を、殺す』。…………なんだか、恥ずかしいな。えっと……『氷邑梅雪を、殺す』。……うん、そう、そうなんだ。『氷邑梅雪を殺す』──ああ、これ、この感覚なんだ。これが、『自分の目標』なんだ。すごいな。本当にすごい。本当に……世界が、輝いて見える……」

 

 その声音も顔も、恋する乙女のものだった。

 好きな人の名前を家でこっそりと呼んでみる乙女の顔。自分の名前を彼の名字の下に書いてみて、恥ずかしくなって消してしまう。そういう、ささやかな恋を抱く乙女のような興奮が彼女の中にはあった。

 

 ただし発言内容は、そういうものではありえなかった。

 

 その想いは、殺意という名のものだ。

 

「あなたを殺すのが、借り物の目標じゃなくなったみたい」

 

 桜は目を閉じて、胸を押さえた。

 大事な人のことを考えている彼女は、嬉しそうで、穏やかで、それから、高鳴る心音を懸命に、周囲に聞こえてしまわないように抑える、恥ずかし気な姿だった。

 

「……氷邑梅雪。あなたを殺す。……殺したいな。ねえ、殺して、いいかな。……~~~~~! ああ、だめだめ! こんな、こんなの、だめですよ、師匠。本当に、どうにかなっちゃいそう……!」

 

 恋に悶える乙女の顔で、たぎる殺意を暗闇に告白する。

 

 シカノはその姿を見せつけられて、震えていた。

 

 ……もはやこの戦いは、砂賊と大名連合の戦いではなかったことを、思い知らされる。

 シカノや他のみんなの夢を叶えるためのものでも、なかった。

 

 この戦いはここに至り、ただの惚気話と化した。

 

 初めての感情に戸惑う乙女(さくら)が、自分を追いかけて殲滅しようとしてくるイケメン(ばいせつ)への想いに気付き、悶え……

 精一杯、心から、その気持ちを成就させようとする、惚気話。

 

 桜はしばらく悶えたあと、

 

「……あ、いっけない! 最後の一人がやられちゃった。あーあ、足止めもここまでかあ……じゃあ、邪魔が入る前に、早く決着をつけないと」

 

 桜の神威(かむい)が輪転する。

 広がる影の中から、黒いヒトガタが生えて来る。

 

「全員戻して、一気に決めよう。……みんな、大名家連合が来るよ。一緒に戦おう。…………あ、でも」

 

 桜は恥ずかし気に頬を押さえ、

 

「……氷邑梅雪だけは、通してもいいよ」

 

 顔を赤らめ、「きゃあああ!」などと悲鳴をあげながら、地団駄を踏んだ。

 

 ……初めて抱いた『感情』に悶える乙女が──

 

 ──死者の軍勢を放つ。

 

 かくして備中高松迷宮攻略戦が幕を開けた。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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