悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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side 草津温泉ぽんぽこ紀行 二

 群狸(ぐんり)県──

 

 竪穴式住居が立ち並び、民たちは狩猟により生きている場所である。

 動物たちというのは危機を察する力を本能的に持っているようで、巨人どもが倒れるやいなや、早くも関東平野へと進出したらしい。

 巨人に踏まれまくり、塩をばらまかれまくり、死の大地、穢土(えど)と化した関東平野に果たして動物が求める食料があったのかは甚だ疑問ではあるが、生きているのでどっかにはあったのだろう。

 

 このクサナギ大陸において、狸がかかわった物事をシリアスに考えるのはそれだけで損なので、狸が存在するすべてのエピソードは深く考えてはいけないのだ。

 

 そう、だから……

 

 巨人の進撃。

 かつて人類が平野を巨人どもに支配されていた時代。その最後の徒花(あだばな)である、北条と巨人との戦い。

 北条家秘密兵器小田原城ロボこと黄金龍(ゴルディオン・ドラゴン)を出撃させ、ついに人類を長らく悩ませてきた巨人を殲滅してから、約二年。

 巨人塩が回収できぬほど土壌にばらまかれ、関東一円は死の大地と化した。

 塩害によるダメージは重い。まして面積が関東一円なので、『土を入れ替える』とか、『真水で洗い流す』とかの手段もとりようがない。すなわち、土壌回復までは長い時間がかかるであろう状況──

 

 その状況から約二年。

 

 群狸県は、ジャングルと化していた。

 

「……豊かになったものだな」

 

 氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)、なるべく何も考えないようにしているのだが、つい、頭がシリアスな思考を始めそうになる。

 

 うっそうと生い茂る杉の木はどれも樹齢数十年は経っていそうなほど立派で、そばに来るだけで特定の者にとっては目と耳と鼻と喉が幻花粉症(げんかふんしょう)を起こすほどである。

 その杉の木材を利用して建てられた竪穴式住居と高床式倉庫が立ち並び、人々はなんの植物から作ったのかよくわからない腰(みの)を巻き、木と石の簡素な槍を持ち、顔にペイントなんかしつつ交流していた。

 

 あたり一面からほこほこという湯気が立ち上るここは、狸が掘り当てた温泉を中心に約二年で形成されたスパリゾート、草津温泉郷ぽんぽこの湯である。

 

 外部からの湯治客もそれなりの数おり、腰蓑衣装の亜人どもが案内している姿も見てとれた。

 

 どういうルートを通ってこういう文明になったのか、梅雪は分析しそうになるのだが、ここはそういう真面目な歴史とかを考えてはいけない空間なんだな、というのはわかる。

 ようするに狸と、この土地の神様のせいだ。

 

(というか狸の地域侵略速度がすさまじい……)

 

 外来種の害獣である。間違いない。

 あるいは支配したい地域に狸をダース単位で送り込むと、その土地がファンシーに支配されるという軍事利用もできそうだが、たぶんそういう感じの利用はできない不思議なプロテクトがかかっているような気もする。

 あと、これより始まるかもしれない氷邑梅雪の覇道で、狸を軍事利用したなどという不名誉な歴史は残したくない。

 

 ともかく。

 

(……そうだな。認識を改めるべきだ。狸がかかわる限り──ゆるく、いこう)

 

 そう思うしかない感じなのでそうします。

 

 梅雪がとってもシリアスな顔をしている横で、元気いっぱいにはしゃぐ人もいる。

 

 今回、梅雪が温泉旅行に連れてきたのは、四人。

 

 夕山(ゆうやま)

 ハンバーガーについてくるポテトみたいな感じで夕山についてくる人、ムラクモ。

 アシュリー。

 それと、妹のはる。

 

 特にはるは、お兄ちゃんの梅雪の旅行とか連れて来てもらったことなかったし、おおはしゃぎだ。

 でも、教育がしっかりしてるから、アシュリーみたいには騒がない。アシュリー、ほんと騒いでる。もう浴衣とか着てる。地元の人は腰蓑ファッションなのに、旅行客は浴衣だ。なんでだろうとか考えたら、だめです。

 

「見て見てご主人様! おまんじゅう売ってる!」

「買っていいぞ」

「やったあ!」

 

 アシュリーがはしゃいでいるよ。かわいいね。

 

 そのまままんじゅう屋に走って行った。

 群狸県草津温泉郷ぽんぽこの湯では、温泉まんじゅうと、超ぶっとくて平たいうどん、味噌田楽などがそのへんの屋台で売られている。

 温泉まんじゅうは温泉のお湯で温める『蒸し』と、味噌だれを塗って焼く『焼き』がある。

 蒸しのほうはほこほこの湯気で仕上げる皮までもっちり甘くて、中のあんこがほかほかして最高のやつで、焼きまんじゅうは、あんこがないけれど、串に刺したまんじゅうに甘辛の味噌だれを塗って焼くやつで、香ばしさと他ではあまり味わえない不思議なふわ甘味噌味が最高のやつ。

 

 他にも『味噌と小麦とこんにゃくしかないが、それが何の問題であろうか(最強)』みたいな名物がたくさんある。

 実は水がいいというのが一番の売りで、ネギなども美味しく育つし、巨人がいなくなったここに真っ先に来たのが牛なので、牛もいる。

 塩害……? 難しい話はわかりません。

 

 梅雪が遠い目をしていると、両手の指の挟めるところ全部に串の打たれた焼きまんじゅうを挟んでウルヴァ〇ンみたいになったアシュリーが戻ってきた。

 

「ご主人様! おまけしてもらいました!」

 

 最近十歳になったばかりのアシュリー、成長に栄養が必要なのか食いしん坊になっている。たくさん食べて大きくおなり……という顔をした夕山に見つめられながら焼きまんじゅうをほおばる金髪の子であった。

 

 すべての思考を手放した梅雪が優しい顔で見つめる中、そこにいるヤツが「みなさん」と声を上げた。

 

 たぬきだ(たぬきではない)。

 

「温泉郷を早速楽しんでくださり、ありがとうございます。わたくし、正信(まさのぶ)と申します。竹千代より皆様の案内を仰せつかっております」

 

 正信。

 たぬきだ。

 

 もう少し狸への執着があれば他のたぬきとの違いも語れるのだろう。

 でも毛むくじゃらの生き物の違いはよくわからない。たぬきだ。

 

「以前は事件が起きてぽんぽこパークをお楽しみいただけなかった模様……竹千代不在のおり、わたくしもまたうなぎの営業に出向いており、不在でして。戻って、パークを救ってくださったお方に『うなぎぬるぬる捕獲体験』も『夜のおかし体験』もしていただけないと聞いた時には、思わず家臣を怒鳴りつけてしまったほどでした」

 

 ちなみに正信、竹千代よりも年上だが、一応竹千代の家臣らしい。

 実は竹千代のファミリーの初代はぽんぽこパーク形成に尽力した偉いたぬきであり、正信の家と竹千代の家はそのころからの付き合いになるようだが、難しい話はまあいいでしょう。

 

「そういうわけでこのたびは、草津温泉郷を骨の髄まで楽しんでいただくべく、この正信が責任を持って……」

 

「ああああ……! たぬきはもうだめです……!」

 

 なんか、聞こえちゃったね。

 

 梅雪が声のほうを見ると、たぬきが頭を抱えてうずくまっていた。

 

 一人うずくまると、その周囲にどんどんたぬきがうずくまっていく。

 

 そうして数十秒後には中で過ごしたら一冬暖房いらなそうなたぬきのけむくじゃらドームができあがっていた。

 アシュリーが「でっかいおまんじゅう」とつぶやいた。あんな毛だらけのまんじゅう、嫌ですね。

 

 そこで正信、くわっと目を見開いて、

 

「だめでしょー!」

 

 たぬきまんじゅうに駆けていく。

 

「だめでしょー! お客さんの前でそんなことしちゃ! 見えないところでこっそり困りなさい!」

 

 たぶん怒鳴っているのだけれど、口調が柔らかく、声が子供なので、迫力はぜんぜんない。

 

 でもたぬきには怖いらしい。たぬきまんじゅうが「ごめんなさーい!」と謝って解散していく。

 そうすると最初に困っていたたぬきが取り残される。

 あとからあとからたぬきが来たから、一番下で下敷きになってしまって、動けなかったんだね。

 

 正信が目をカッと開いたまま聞いちゃう。

 

「困ったことがあったら目安箱に書いて入れときなさいっていつも言ってるでしょー!?」

「ひいい……そ、そうでした……でも目安箱どこですか……?」

「ぽんぽこパークのあっちこっちにあります!」

「草津には?」

「まだない!」

「…………」

「………………」

「……………………たぬきはもうだめです!」

「何が駄目なの?」

 

 対たぬきになると、正信の口調もやわやわになるようだ。

 梅雪たちの相手の時にはがんばって固い口調でしゃべっているのかもしれない。

 

 そしてたぬき、「えっと……」と言いかけたところで、梅雪の姿を発見する。

 

「あ、あなたは……かみさま!」

 

 かみさま?(梅雪)

 かみさま?(アシュリーが梅雪を見る)

 かみさま。(夕山がうなずく)

 ムラクモは夕山の顔をずっと見ている。当年とって十四歳になった姫様の御尊顔、ますます美しくなりにけり……

 

「かみさま、また我らをお救いに……!?」

 

 たぬきにキラキラした目で見つめられる梅雪だった。

 なんだろう、拾って帰ってほしいのだろうか。梅雪はただ、優しい顔でにこにこしている。普段から考えすぎるぐらい色んなことを考えて、いっつも文句言われる妄想をしているので、たぬき関係で何も考えないようにしていると、とても顔が優しいのだ。

 

 つまり今の梅雪は『無』なので問い返したりしない。

 

 たぬきがちょこちょこ近付いてきて、梅雪の足にすがりついた。

 

「実は、草津の源泉が……いじわるな天狗(エルフ)に支配されてしまったのです……! どうかまた、お救いください……!」

 

 一度助けられることを覚えたたぬきが再びすがりつく。

 氷邑梅雪──

 

「……いや、まあ、知らんが」

 

 今回はマジで助ける義理も理由もないので、普通に断った。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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