悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第244話 九十九州は大戦乱孤島

「どうなっているんだ九十九州ゥ!」

 

 氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)はキレていた。

 大友(おおとも)領を出た途端、あちこちから戦争を吹っ掛けられるからだ。

 

 梅雪ら一行は良くも悪くも目立つせいか、どこの誰とも知らない連中がわらわら寄ってきてなんか普通に殺そうとしてくる。

 九十九州──大戦乱孤島(アイランド)九十九州はまあ『そういう場所』だというのはゲーム知識でも、この世界で仕入れた情報でも知っていた。

 剣聖シンコウとの修業時代のウメが放り込まれた場所であり、そのウメの口から直々に聞いていたのだ。

 だからわかっていたし、覚悟は出来ていたつもりだった。

 

 だが……

 

「いくらなんでも多すぎだろう!?」

 

 九十九州において人は畑から生えると言われている。

 ぶっちゃけるとこのあたりは異界の門が開きやすい地域──中国(なかくに)地方より先はだいぶそういう場所なのだが──なので、次々に異界からの侵略者だったり、追放者だったり、放浪者だったりというのが来るのだ。

 そうしてこちらに来た異界の勢力は目的はともかくとしてこの世界にすでにいる連中に戦いを仕掛ける。

 そういう好戦的な異界からの侵略者どもを集めて互いに潰し合わせる場所こそが大戦乱孤島九十九州であり、稀人入管センターがそういう連中を本州に入れないようにする蓋の役割を持っている、のだが……

 

 気付けば梅雪は流れ流れてジャングルのような場所まで来ていた。

 

 広い葉っぱを付けた独特な樹皮を持つ木々がうっそうと生い茂り、梅雪の腰まであるような長い草が地面にわっさわっさと生えている。

 もう夕暮れ時で、もう少しすれば夜になるというのに気温はじめじめと高く、よくわからない鳥や虫の鳴き声がそこらじゅうから聞こえていた。

 

 そして人間の怒号もそこら中から聞こえていた。

 

 どうにも梅雪、仕掛けられる戦争を蹴散らしているうちに、どこかとどこかが争っている場所に乱入してしまったらしい。

 最初はいくつもの雑多な勢力がとにかく勢いこんで戦争を仕掛けて来るという様子だったが、今、梅雪に戦争を仕掛けてきているのはどうにも二つの勢力であり、これら勢力はある程度の『戦術』を用い、隊列を組んで襲ってきている。

 

 別に敵対しているわけではないのだが、九十九州の兵に『お前たちと敵対する理由はない! 自分はただの旅行者だ!』などと言ってみたところで通じない。

 ここの連中に必要なのは『敵対する理由』ではなく、『敵対しない理由』である。デフォルトが『戦う』なので、『わざわざ戦いをしない理由』を挙げねばならないのだ。

 そして梅雪側に、戦いをしない理由──理由なく戦争する連中がわざわざ矛を収める理由を提示することは出来なかった。

 

 なので結果として、今、二つの勢力から敵対されている。

 

(どこのどいつだ本当にこいつらは!? 剣桜鬼譚(けんおうきたん)でも見覚えのない旗印ということは、名も知らぬモブ連中なのだろうが……)

 

 隊列を組み槍を突き込もうとしてくる連中を、風の道術で吹き飛ばす。

 だがまた別な方向からも別な軍勢が来る。

 だいたいこの繰り返しであり、図らずも二つの勢力が波状攻撃をかけてきている状態だ。

 一撃で蹴散らせはするものの、相手もそれなりの耐久力らしく、片方を吹き飛ばしている間にもう片方が攻め寄せて来る、というありさまだった。

 

(……九十九州、舐めていたと言わざるを得ない。戦争を繰り返して蟲毒化したこの場所では、モブの雑魚がこの面倒くささか。しかも、連中は夜には戦争をやめるとはいえ、朝になればまた始める──おまけにジャングルのようなこの環境。いざとなれば野宿でもいいかと思ったが、どうにも冷静さを欠いていたか)

 

 実際問題、梅雪はなぜ大友国崩(えくす)の言動にあそこまでの不愉快さを覚えたのか、まだ分析出来ていない。

 考えれば考えるほど、『そこまで怒ることではない』と思えるのだ。

 ……だが、一つ。

 

 自分が特に不愉快さを覚えた国崩の言葉を思い返してみれば、答えも見えてくるのだけれど。

 ……それは梅雪にとって、少なくとも、十三歳の梅雪にとって、なかなか認めがたいものではあった。

 

 だがそういう感情を制御出来ない未熟さが現状を招いているのも事実。

 

「ご主人様」

 

 連れて来た郎党(パーティメンバー)のうち一人、ウメが横に立つ。

 梅雪が視線をそちらに向けると、赤毛の犬半獣人は、黒いドレスの裾をはためかせながら接近してくる相手を斬り払い、

 

「南へ。伝手、あります」

「……」

 

 ウメの言いたいことはわかった。

 シンコウとの修業時代、ウメが特に世話になった家が二つある。

 片方は先ほど飛び出してきた大友家だ。

 

 そしてもう片方は──

 

「背後から敵襲!」

 

 ──梅雪が『その家』のことを思い浮かべたまさにその時。

 敵対していた二勢力が、同時に叫ぶ。

 

「旗印は!?」

「ネコミミ十字!」

島津(しまづ)か!?」

 

 家名を叫んだその瞬間、敵軍の背後で爆発的な声が挙がった。

 それは慣れない者からすると『声』というよりも、『音波』という印象の、甲高い、しかし細くはない、圧力のある声だった。

 

 猿叫(えんきょう)と呼ばれる独特の声であり、それが幾重にも幾重にも重なりながら、軍勢が駆ける震動を伴って近づいて来る。

 

「ぜ、前方に退避! 退避いいいいい!」

 

 背後から迫る猿叫と足音と震動にすっかり浮足立った軍勢が、梅雪らの横を通り過ぎて駆け抜けていく。

 

「チッ」

 

 梅雪は思わず舌打ちをした。

 

(……感情を制御しきれず大友家を飛び出し、身が入らぬ戦いで雑魚どもを蹴散らしきれず、おまけにウメの伝手の島津に救われる、か。……ふん、いいところがないではないか)

 

 未熟さだ。

 力の不足ではない。頭脳が拙劣なのでもない。

 ただただ、精神が未熟なのが、現状の引き金となっている。

 

 猿叫が近付いて来る。

 

 先頭にいるのは寅耳を生やした幼げな少女。

 なぜか寅縞ビキニを着て、猫の手脚のような手甲、脚絆(きゃはん)をつけた、黒い瞳の女の子。

 年齢は確か十三歳であり、ウメや梅雪と同い年であったはず。

 

 島津イエヒサ──

 

 その人物が「きいいいえええええええ!!!!」と叫び声を上げながら、背後に軍勢を引き連れて近付いてくる。

 

 梅雪は横に立つウメを見た。

 

「……ちなみにだが、島津イエヒサは、お前を見てあの突進を止めると思うか?」

「……知り合い、で、友人です。でも、そういうの、関係ない」

「………………そうか」

 

 九十九州人なので、別に知り合いであることが戦いをやめる理由にはならない。

 

 梅雪は凍蛇(いてはば)を突き出すように構えて備える。

 ウメもまた、剣を鞘に戻して、居合の姿勢をとる。

 

 二人並ぶ主従に、

 

「きいいえええええええええええええええええええ!!! あ、ウメだ! やっほー!」

 

 イエヒサが親し気に笑い、刀を持つ左手を離して手を振りながら、

 

 斬りかかってきた。

 

 完全に殺す気の袈裟懸けである。

 

 すさまじい勢いの一刀をウメが避けつつ抜刀。

 こちらの居合もまた、完全に殺す気の横薙ぎであった。

 

 ウメとイエヒサ、互いの必殺の初撃をかわし、距離をとって見つめ合う。

 イエヒサはにこにこと人懐っこい笑顔を浮かべながら身の丈を超える長さの長刀を大上段に構えているし、ウメもまた所持する名刀・貪狼(とんろう)の切っ先をだらんと下げるように脱力しながら構えている。

 

 互いに殺し合いを続ける気満々であった。

 

「……九十九州、本当にいい加減にしろよ」

 

 梅雪はつぶやきながら、イエヒサの背後の軍の相手を始める。

 連れて来た他の郎党もまた同じように戦いを始めた。

 

 かくして──

 

 夜も間近に迫った夕暮れ時。

 なんかウメに曰く『泊めてくれそうな相手』という感じで名前を挙げかけた島津軍との戦いが、始まった。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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