悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する 作:稲荷竜
「ところで
九十九州入り二日目──
朝。
二人の周囲には誰もおらず、遠く、調練をする聖騎士団の声が響いて来る。
九十九州は暑い地域だが、朝早く、高塔の上で感じる風は爽やかで、わずかばかり冷たい。
……冬が迫っているのだ。それはもうじき、実感出来る形でこの身を包むだろう。
銀雪は、
「実のところ、あれは真実ではないんだ。……私は、
「つまり──わたくしと息子に秘密で逢瀬を重ねるために」
「『それは違う』と断言しておくよ」
「連れないお方! 実に
「……私は梅雪の戦いを、ずっと、後ろから見ていた」
それは砂賊糾合事変において、梅雪に『すっこんでろ』と言われてからのこと──だけでは、ない。
ずっと、そうだった。
梅雪が癇癪持ちの利かん坊であった時代……
そこから少し進んで、忍軍を連れ戻すと言い出した時。
さらに剣聖シンコウとの初めての戦いの時。
そこから、帝都騒乱を超え、大江山での活動があり、
すべて、後ろから見ていた。
活躍を事後に報告されてきた。
「後ろで座って見ていると、本来の大きさがわからない」
「……」
「私は梅雪の本来の大きさを知りたい。そのために──今回は、横から眺めることにしたんだ」
一歩引いて、しかし、同じ舞台に立ち、同じ目的のもと、眺める。
梅雪の実力を正確に把握するためには必要なことだった。
「だから、梅雪がここを出て行くと言い出した時には、『ちょうどいい』と思ったよ。状況を利用させてもらうことにした」
「しかし、九十九州は戦争にあふれた土地です。……息子を放って不安ではございませんの?」
「この場所は確かに、戦争を繰り返す
「南には
「だから?」
「……」
「そういう有象無象に負けるほど、梅雪は弱くない」
「信頼しておいでなのですね」
「……かつての私は、息子を信じなさ過ぎた」
「だから、今は信じると?」
「いや、『きちんと見る』ことにしたんだ。盲目的に信じること、これは愚かだ。だが一方で、すべてを管理し、姫のごとく環境を整え、守ってやること……これも、愚かだ」
「……」
「私は今さら、『息子との適切な距離感』を探っている。……父親として、本当に失格だけれどね」
「いえ。ご立派だと思いますわ」
「……そのために、君の好意を利用している」
「……」
「君には本来、私をここで世話する理由はない。だが、私に好意を向けているという一点で、君は、私がここで、城の食客がごとく振る舞うことを許可している。感謝をしても、し足りない」
「……どういたしまして」
「そして、それを盾には結婚を迫らない。……だから甘えてしまうのだが」
「……」
「年下の、しかも、息子と同年代の女の子に甘えてばかりというのは、あまりにも情けない。なので……働きで返そうと思う」
銀雪は拳を握りしめ、太陽にかざすように持ち上げた。
「君に放り出された時にはこうしよう、と考えていたことがある」
「……どのようなことでしょう?」
「九十九州で群雄割拠する勢力、二つ三つ根切りにして、自分で勢力を立ち上げることだ」
「……」
「だが、あまりこの孤島の状況に介入したくないのも事実。食客という立ち位置は、そういう意味で望むところなんだよ。だから、本来やろうとしていたことを、君の食客としてやろう。──大友国崩」
「……はい」
「土地を君に捧げようか。どこがいい? 好きな場所を指さすといい」
「…………」
「ああ、ただ──龍ゾン寺だけは、勘弁しておくれよ。あそこは、梅雪とともに進み、蹴散らす場所と決めているんだ。他の土地であれば、この身一つで行って、すぐにでも
「銀雪様……」
「何かな」
「やはりわたくしは、あなたを愛しているようです」
「……どうしてそのような話に?」
「『土地を君に捧げようか。どこがいい? 好きな場所を指さすといい』は、あまりにも、あまりにも……
「………………そうか」
若い女の子の考えることはわからないな、と銀雪は思った。
国崩は鼻息荒く、腕の筋肉が盛り上がる勢いで拳を握り、
「これはあまりにも
国崩が大きな声で呼びかけると、調練中だった聖騎士団が、一斉に動きを止め、国崩のいる高塔を見上げた。
国崩はエレガントに高塔のふちに片足を乗せ、
「今日のわたくしは国を三つぐらいとれそうな気がいたします! 大友聖騎士団整列! これから戦争に行きますわよォ!
『
「聖騎士団出撃ですわ!
『
国崩は高塔を飛び降りてだいたい30mぐらいの距離を落下。
地上に両足でしっかり着地し、そのまま駆け出していく。
取り残された銀雪は……
「……私が土地をとってくるという話をしていたはずなのだが……」
特に希望を言われなかったので、困ってしまう。
やはり若い女の子の考えていることはわからない……
しかしそもそも、大友国崩を『若い女の子』とラベリングするのは無理があるような気もしなくもなかった。