悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第248話 優雅(パワー)な朝

「ところで銀雪(ぎんせつ)様、我が領地で探し物というのは、一体、なんですの?」

 

 九十九州入り二日目── 

 

 朝。

 大友(おおとも)家の居城、見晴らしのいい高塔の上に、氷邑(ひむら)銀雪と大友国崩(えくす)はいた。

 

 二人の周囲には誰もおらず、遠く、調練をする聖騎士団の声が響いて来る。

 九十九州は暑い地域だが、朝早く、高塔の上で感じる風は爽やかで、わずかばかり冷たい。

 ……冬が迫っているのだ。それはもうじき、実感出来る形でこの身を包むだろう。

 

 銀雪は、

 

「実のところ、あれは真実ではないんだ。……私は、梅雪(ばいせつ)と別行動をとりたかった」

「つまり──わたくしと息子に秘密で逢瀬を重ねるために」

「『それは違う』と断言しておくよ」

「連れないお方! 実に瀟洒(エレガント)ですわァ~!」

「……私は梅雪の戦いを、ずっと、後ろから見ていた」

 

 それは砂賊糾合事変において、梅雪に『すっこんでろ』と言われてからのこと──だけでは、ない。

 ずっと、そうだった。

 

 梅雪が癇癪持ちの利かん坊であった時代……

 そこから少し進んで、忍軍を連れ戻すと言い出した時。

 さらに剣聖シンコウとの初めての戦いの時。

 そこから、帝都騒乱を超え、大江山での活動があり、大嶽丸(おおたけまる)ざぶざぶランドでの剣聖との二回目の戦い、さらにそこから発したクサナギ大陸を北上し恐山を目指した紀行……

 

 すべて、後ろから見ていた。

 活躍を事後に報告されてきた。

 

「後ろで座って見ていると、本来の大きさがわからない」

「……」

「私は梅雪の本来の大きさを知りたい。そのために──今回は、横から眺めることにしたんだ」

 

 一歩引いて、しかし、同じ舞台に立ち、同じ目的のもと、眺める。

 梅雪の実力を正確に把握するためには必要なことだった。

 

「だから、梅雪がここを出て行くと言い出した時には、『ちょうどいい』と思ったよ。状況を利用させてもらうことにした」

「しかし、九十九州は戦争にあふれた土地です。……息子を放って不安ではございませんの?」

「この場所は確かに、戦争を繰り返す蟲毒(こどく)だ。洗練された兵たちもいよう。だが──有象無象に負けるほど、我が息子は弱くない」

「南には島津(しまづ)、西には龍ゾン寺(ドラゴンゾンビ・テンプル)。さらに他にも、わたくしが名を認識する猛者がこの地にはおりますが」

「だから?」

「……」

「そういう有象無象に負けるほど、梅雪は弱くない」

「信頼しておいでなのですね」

「……かつての私は、息子を信じなさ過ぎた」

「だから、今は信じると?」

「いや、『きちんと見る』ことにしたんだ。盲目的に信じること、これは愚かだ。だが一方で、すべてを管理し、姫のごとく環境を整え、守ってやること……これも、愚かだ」

「……」

「私は今さら、『息子との適切な距離感』を探っている。……父親として、本当に失格だけれどね」

「いえ。ご立派だと思いますわ」

「……そのために、君の好意を利用している」

「……」

「君には本来、私をここで世話する理由はない。だが、私に好意を向けているという一点で、君は、私がここで、城の食客がごとく振る舞うことを許可している。感謝をしても、し足りない」

「……どういたしまして」

「そして、それを盾には結婚を迫らない。……だから甘えてしまうのだが」

「……」

「年下の、しかも、息子と同年代の女の子に甘えてばかりというのは、あまりにも情けない。なので……働きで返そうと思う」

 

 銀雪は拳を握りしめ、太陽にかざすように持ち上げた。

 

「君に放り出された時にはこうしよう、と考えていたことがある」

「……どのようなことでしょう?」

「九十九州で群雄割拠する勢力、二つ三つ根切りにして、自分で勢力を立ち上げることだ」

「……」

「だが、あまりこの孤島の状況に介入したくないのも事実。食客という立ち位置は、そういう意味で望むところなんだよ。だから、本来やろうとしていたことを、君の食客としてやろう。──大友国崩」

「……はい」

「土地を君に捧げようか。どこがいい? 好きな場所を指さすといい」

「…………」

「ああ、ただ──龍ゾン寺だけは、勘弁しておくれよ。あそこは、梅雪とともに進み、蹴散らす場所と決めているんだ。他の土地であれば、この身一つで行って、すぐにでも()って来よう。どうする?」

「銀雪様……」

「何かな」

「やはりわたくしは、あなたを愛しているようです」

「……どうしてそのような話に?」

「『土地を君に捧げようか。どこがいい? 好きな場所を指さすといい』は、あまりにも、あまりにも……素敵(ノーブル)過ぎますわ!」

「………………そうか」

 

 若い女の子の考えることはわからないな、と銀雪は思った。

 

 国崩は鼻息荒く、腕の筋肉が盛り上がる勢いで拳を握り、

 

「これはあまりにも高貴(ノブレス)! わたくし、やる気がたぎってきましたわァ~! ──大友聖騎士団のみなさーん!!!」

 

 国崩が大きな声で呼びかけると、調練中だった聖騎士団が、一斉に動きを止め、国崩のいる高塔を見上げた。

 国崩はエレガントに高塔のふちに片足を乗せ、

 

「今日のわたくしは国を三つぐらいとれそうな気がいたします! 大友聖騎士団整列! これから戦争に行きますわよォ! 優雅に(パワー)! 典雅に(パワー)! 艶やかに(パワー)!!!」

 

優雅に(パワー)! 典雅に(パワー)! 艶やかに(パワー)!!!』

 

「聖騎士団出撃ですわ! 高貴(ノブレス)!」

 

高貴(ノブレス)!』

 

 国崩は高塔を飛び降りてだいたい30mぐらいの距離を落下。

 地上に両足でしっかり着地し、そのまま駆け出していく。

 

 取り残された銀雪は……

 

「……私が土地をとってくるという話をしていたはずなのだが……」

 

 特に希望を言われなかったので、困ってしまう。

 やはり若い女の子の考えていることはわからない……

 

 しかしそもそも、大友国崩を『若い女の子』とラベリングするのは無理があるような気もしなくもなかった。

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