悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する 作:稲荷竜
他領との戦争に積極的な九十九州大名にしては珍しく、その動きは静かで、自分から戦争を仕掛けるということをまずしない。
だがしかし掟破りの暗躍はしているらしく、新しく軍師に起用した
はっきり言って、意図が見えない。
ので、
「きょ、今日はこのトシヒサがあんたたちの身柄を預かるわよ! いい!? これはデートじゃなくて戦争なんだからね!? 勘違いするんじゃないわよ!」
九十九州二日目、昼。
九十九州特有の『情報収集ということは……戦争を仕掛ければいいのか!』というアグレッシブすぎる常識に合わせる形である。
「あと、イエヒサ! あんた付いて来るのはいいけど、勝手にうろちょろするんじゃないわよ!? すぐ迷子になるんだから!」
「わかってるってー。トシヒサねーちゃんは心配性だなー」
「あんたね、普段の自分の行いを見返して反省しなさいよ」
虎柄ビキニアーマーの姉妹がそのようなやりとりをしている横、島津本領ジャングルにて、梅雪は自分の
まず、ウメ。
護衛や梅雪の身の回りの世話が主な役割の犬系半獣人である。
身に着けているのは
立場的には護衛兼メイドなのだが、これが夕山の手縫いの衣装を賜るということで実は面倒くさい問題が発生したりもしていたのだけれど、まあそのへんは済んだことだ。
得物は名刀・
また、ウメが本気で戦う際に武器や身体にまとう炎にも耐えきれるものとなっている──夕山の縫った衣装も当たり前のように被害を受けていないのは、ウメが細かい調整をして服が燃えないように頑張っているのか、なんか不思議な力によるものなのかは、誰にもわからない。
そして、氷邑はる。
今回は家族の時間をとるというテーマもあったので連れて来た妹である。
兵科としては剣士になる少女だ。それも、氷邑家後継者にふさわしいほどの、強く、優れた剣士である。
その才能は開祖
戦い方としてはこちらも業物ではあるが長刀を用いる。ウメと違って『習っていることを秘密にする』ということもないため、氷邑一刀流を扱うことが出来る。
ここまでで『武器が長刀と長刀で被ってしまったな……』という感じなのだが、実はもう一人連れてきている人物がいる。
「アシュリー」
意外でもなんでもなく、氷邑忍軍頭領にして、梅雪の側室の一人、アシュリーである。
まず、はるの母であるトモリ、最近子飼いになったヨイチは、家での役割があるために連れて来ることが出来ない。
夕山神名火命も梅雪がいない間『奥方様』としての役割があり、夕山が来ないとムラクモも当然のような顔をして来ない。
また、今回は稀人入管センターという『異界絶対殺すロボ』を備えた場所を通過するので、異界の騎士ルウと、それのイタコであるサトコも連れて来ることが出来なかった。
そうなると残るは家中においては
外部には
その中で九十九州の戦争にまあまあ対応出来そうな人材を探すと、もうアシュリーしかいなかった。
梅雪は、アシュリーにたずねた。
「ベルトは扱えるか」
今回、アシュリーは機工甲冑に搭乗していない。
もう十一歳になったとはいえ、機工甲冑に搭乗していないアシュリーのスペックはおおむねただの女児である。
戦争に駆り出すにはあまりにも頼りない、が……
アシュリーの胸には、ボディバッグのように、
梅雪が
アシュリーはベルトのバックルを確認して、
「大丈夫、だと思います」
「そうか。新しい機工甲冑も入っているのだな?」
「はい」
アシュリーは今、どのような機工甲冑にも搭乗しておらず、そばに
だが、昨日、梅雪を阿修羅で守りながら戦っていた。
では島津本邸に機工甲冑を置いたまま戦場に臨もうとしているのかと言えば、そういう話でもない。
……恐らくはニニギが生み出したと思しき、梨太郎のベルト。
キビダンゴを喰わせることで、一瞬で機工甲冑を出現させるその不可思議な機構──
アシュリーはそれを解析し、新たな機能を付け加えた。
「改めて見せてみろ、お前の新しい力を」
梅雪が命じると、アシュリーは真剣な顔でうなずき、手の中にキビダンゴを出現させる。
そして──ベルトに食わせた。
ベルトが、叫ぶ。
『
カジノのルーレットめいたベルトのバックルの機構の上を、金色の玉が転がる。
その玉が次第に勢いを失い……
ある名前の上で止まった。
その名前は──
『
アシュリーの全身が光り、その光が肥大化していく。
そうして次の瞬間に現れたのは、下半身が蛇になった機工甲冑の姿だった。
黄金の蛇──ラミアのような形状。
背後には雷太鼓のようなものを四つ背負っており、それは一つ一つに細かな穴が無数に空いて──ちょうど、スピーカーのようになっていた。
アシュリーは──
否。
摩睺羅は、語る。
「ドンツクドンツクデュクデュクドゥー……」
マイクを片手に発する音でリズムを刻むその語り。
いわゆるところのヒューマンビートボックス。
梅雪はちょっと困った顔になった。
「……また独特なのが出て来たな」
「ズンボンバグバンシューシューカァン!」
「まともな会話は出来んのか?」
「Ah、ビートの刻まない? くだらねぇ。いいか見てろよ、半端ねぇ。やめらんねぇ、マジ中毒性。オレのビートがヒートしてショート。ヒキニート、飛び出すたまんねぇ。戦場に刻むぜこのハート。ミュート? してる暇なんかねぇ。M・A・G・O・R・A、摩睺羅が刻むぜドゥンツクドゥンツクデュクデュクドゥーン……」
「……そうか」
九十九州に来てからというもの、梅雪は会話を試みる労力を損切りすることを覚えていた。
「島津家も話がまとまったようだ。では、威力偵察といくか」
なんとも九十九州らしい一日が、こうして始まった。