悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第264話 九十九州大決戦 一

 ……そもそも。

 

 この戦場は、なんなのか?

 

 整理すれば、もともと、九十九州の民たちは『日常的に争っていた』という背景を持っている。

 争いの理由は様々だが、争いの結果としては『土地をとる』ということが起こる。

 そしてすべての勢力が『九十九州のすべての土地をとり、九十九州を自分の下に統一する』という目標を一応は抱いている。

 

 ……一応は、なのだ。

 

 全員が争う大義名分みたいなものはそうなのだけれど、じゃあ、そのために真剣に、手段を選ばずに争っているかと言われれば、そうでもない。

『統一できた人が優勝の、レギュレーションのある競技をしている』というのが実態に近い。

 

 Conquwst(征服)Sports、C-Sportsとでも言いたくなるような有様のこの状況の中で……

 

 龍ゾン寺(ドラゴンゾンビ・テンプル)家が、レギュレーションを破った。

 だから紳士協定的に、龍ゾン寺家への敵意が高まっており……すべての領地の矛先が、龍ゾン寺へ向くところだった。

 

 だが、龍ゾン寺も龍ゾン寺で弱い勢力ではないので、すべての勢力が『機』をうかがっていたところ……

 

 魔界からの大きな穴が空き、魔界の者どもがこの世界に溢れ出してくるという『魔異(まい)』が起こる。

 そうして状況が一気に動き出した──というのが、現状だ。

 

 だから、九十九州の勢力どもの目標は、『龍ゾン寺を倒すこと』。

 逆に龍ゾン寺側の目標は、『生き残ること』になる。

 

 それとは別に、氷邑(ひむら)家の勢力の目標は、『龍ゾン寺領西にあるニニギの迷宮に向かうこと』『可能であれば帰りの安全確保のために(迷宮入り口で出待ちされないように)龍ゾン寺を倒す』というものである。

 

 現在、氷邑銀雪が、島津(しまづ)イエヒサとともに、『魔異』への対応にあたっている。

 

 氷邑梅雪は、島津トシヒサとともに、龍ゾン寺くま(ベアー)本隊とラップバトルをしている。

 

 イバラキは、大友(おおとも)国崩(えくす)と聖騎士団を率い、龍ゾン寺家軍師の暗殺者(アサシン)と戦い、これの前から離脱し、まずは南にいるであろう梅雪との合流、そして『氾濫(スタンピード)四天王の魔法使いが来ているかもしれない』という情報を伝えるべく、暗殺者に追撃されながら移動している。

 

 九十九州における大きな駒たちがこのように動いている現在──

 

 龍ゾン寺領が、空いている。

 そして、龍ゾン寺を狙うのは、氷邑、島津、大友だけではない。

 

 ルールを無視して『勝ち』を取りに行く龍ゾン寺家は、九十九州じゅうから狙われてる立場なのだ。

 

 だから──

 

「兄貴、誰もいませんね」

「ああ、龍ゾン寺の勢力はのきなみ、大友と戦ってんのかもな……」

 

 肉色の塔がそびえたち、ショッキングピンクの雷が降り注ぐ、龍ゾン寺領……

 通常はゾンビやおぞましい触手どもがうろついているこの場所は今、ほとんど素通り出来るほどに手薄だった。

 

 龍ゾン寺領の特徴として、そこらじゅうが肉っぽいオブジェまみれなのと、あと、地面が非常にぬかるんでいる。

 

『その勢力』は不気味な湿地の中を少数で進んでいる。足音を殺そうとしているものの、ムツゴロウにまみれた湿地では、どうしても足を踏み出すごとにぴちゃぴちゃと音がしてしまう。

 これが音に敏感なゾンビどもに、侵入者の存在を気付かせる。だからこそ、こういう『隠密裏に浸透する』といった侵攻方法がとりにくい領地でもあったわけだが……

 

 今は、ゾンビも触手も、反応しないようだった。

 

 朝か夜かもわからない、暗雲に閉ざされた領地の中を、小集団が進んでいく。

 この集団の頭目らしき白髪頭の青年は緊張した面持ちで周囲を警戒しているが、部下たちには次第に油断の色が見え始めていた。

 

 そんな時だ。

 

 ──ギシッ。

 

 湿地まみれ、家屋の一つもないその場所で、木造の家がきしむような音がした。

 

「止まれ!」

 

 白髪頭の青年が部下たちを止める。

 さすがの部下たちも警戒した面持ちになり、武装である短銃を手に手に、周囲を見回し始める。

 

 ……だが、しばらく見回しても、何もない。

 

 いるのは無害なムツゴロウぐらいなもので、ゾンビも、サメも、化け猫も、触手もいない。

 急激に高まった警戒。その反動である弛緩を、集団が襲った。

 

「……なんだよ、驚かせやがって!」

「油断すんじゃねえ! ここは、龍ゾン寺の本拠地だぞ!」

「でもよ兄貴!」

 

 兄貴と呼ばれている白髪頭の青年は、先ほどから、異常な何かを感じていた。

 それは恐怖、かもしれなかった。あるいは、後悔、かもしれなかった。

 

 ここに来てから、前髪がざわつく。背筋がずっと、泡立つような感覚がある。

 死地に踏み入ってしまった──そういう気分が、抜けてくれない。

 

 この青年は、優れた危機感知能力で、今日まで、自勢力を維持してきた九十九州の雄の一人。

 その能力が告げているのだ。『間違えた。踏み入るべきではなかった』と。

 

 だが、仲間たちは何も感じていないらしい。

 

(……俺がビビッてるだけ、か)

 

 そう思おうとした。

 

 ……だが。

 

 不意に、震動。

 立っていられないほどの地震が、急に来た。

 

「うおおおっ!?」

「な、なんだぁ!?」

 

 一同はバランスを崩し、びしゃびしゃと湿地に尻や手を着いて倒れ込む。

 

 白髪頭の青年が尻もちをついて見た先──

 

 龍ゾン寺領の象徴でもある、ピンク色の塔──魔界塔。

 それが、震え、震え、震え……

 

 先端から、何かをどびゅるるるるるるっと発射した。

 

「な、なんだあ!?」

 

 さっきよりトーンの高い驚きの声が上がる。

 

 塔から発射されたものは、真っ白い、どろりとした──保護粘液。

 

 その保護粘液は空高く放たれ、放物線を描きながら落下していくうちに、だんだんと剥がれ、中身があらわになっていく。

 

 その中身──

 

 人型だった。

 ただし、あまりにも巨大。

 

 女性的なシルエットだった。

 西洋甲冑をまとった、腰の位置が高い女性──そういう、シルエット。

 

 兜をかぶっていた。剣を帯びていた。

 その『中身』は、人型の、巨大な、剣を帯びた、騎士のようだった。

 

 その『中身』は白銀に輝く甲冑をまとった、兜のスリットから鋭い眼光を光らせる、女騎士──

 

 ずばちゃあああああ!!! という音とともに、湿地帯の水気を巻き上げながら、『中身』が着地する。

 白髪頭の青年たちが、着地の反動で吹き飛ばされる。

 

 そして白濁の保護粘液に絡められて、また落ちて行った。

 

『中身』は──

 

 全高三十メートルを誇る、巨大な騎士。

 これこそ、龍ゾン寺の秘密兵器。魔界通販により注文していたものが、お急ぎ無料便により届けられた存在。

 

 DX(デラックス)ギンチヨロボ。

 

 最後の胡乱が、今、九十九州に着地した。

 

 白濁液まみれになった男たちに見守られながら……

 

 ギンチヨロボ、注文者の元に自らを配達、開始。

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