悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第276話 魔法使いヴィヴィアナ討滅戦 二

 そもそもの話。

 

 異世界勇者の故郷世界は、いったい、いかにして滅びたのか?

 

 まず、異世界における『真の勇者』とは、世界の危機に際して、神々が連名で加護を与える『滅びへのカウンター』としての存在である。

 

 そして『滅び』というのは、実際のところ、神々にもどんなものかわかっていない。

 世界が危機に陥る前兆を『予知』の権能を持つ神が感知するのだが、その『予知』の内容というのが、非常に曖昧……どころか、『やばいと感じる』程度のものでしかないのだ。

 

 もちろん、予知を司る神の予知であるから、間違いはない。

 だがしかし、映像が見えるとか、音が聞こえるとか、そういうものではないため、どう備えていいかわからない。

 

 その世界は発生以来ずっとそういうものであり、だから予知された『滅び』に対しては、『とにかく神の加護をいっぱいぶち込んだ対滅び用リーサルウェポンを作る』といった方法で対処されてきた。

 

 そうして出来上がったのが真の勇者クロード。

 現在はこのクサナギ大陸において『(さくら)』と呼ばれている個体の大本となる存在であり、世界を救う使命を背負わされた少年であった。 

 

 この少年は運命の神の寵愛も受けているため、必要な人たちと出会い、得るべき導きを得る。

 

 そうして成長した少年は、見事に世界の滅びを倒す──

 

 ──ことは、なかった。

 

 その世界ではその時、二つの大きなバグが発生していた。

 

 まずは真の勇者クロードという名のバグ。

 何がバグかと言えば、これの人間性がバグだった。

 

 この者は『先約』を優先し、そのためなら、すでにある国家や大軍を向こうに回すことをまったく恐れない。

 ゴブリンに育てられ、奴隷商人であったそのゴブリンに従うまま、少数の種族や、希少種族たちとよしみを結んだ。

 

 その結果、いわゆる『覇権国家』『覇権種族』と敵対する道を選ぶことになってしまい、そうして神々の加護を全部盛られた力でもって、その世界における統治機構を次々と滅ぼすこととなる。

 

 だがしかし、真の勇者クロードは運命の神の加護も受けている。

 なのでその道行は、経過はどうあれ『滅び』に対するものではあるはずなのだ。

 

 神々も『あれ、おかしいな?』と思いつつ、それでも真の勇者クロードの運命を信じた。

 そもそも神々が優先して対処するのは『世界の滅び』であって、『国家』というものにはさほど興味がないのもある。

 また、その当時、すでに既得権益として固まっていた者たちが、真の勇者を私欲で悪用しようとした動きもあり、神々は『覇権国家』『覇権種族』に、ある意味で見切りをつけた、というのもあった。

 

 そうしてもう一つのバグが、その流れを最悪の方向に落着させてしまう。

 

 その『もう一つのバグ』こそが、神から堕とされ精霊となった魔法使い・ヴィヴィアナである。

 

 彼女は『勇者』を任命する力を持っていた。

 とはいえ『真の勇者』とは異なる。ヴィヴィアナの能力は『運命の凝結』であり、彼女に勇者にされると、命の危機に瀕した時に選択肢がわかるようになる。

 その選択肢こそが凝結した運命──こまごまとした『生き残るが動けないほどのけがを負う』とか、『死ぬが目的は達成される』とか、そういう『ハッピーやバッド、どちらとも言えない可能性』を切り捨て、『生き残る』か『死ぬ』かに未来を限定することにより、本来は生存の目がない状況でも生き残る運命を掴み取ることが可能になる、というものだ。

 

 神々が直接『滅び』を倒しにいけない理由でもあるのだが、人には『運命』というリソースがある。

 神にはこれがない。

 

 なので最も『運命というエネルギー』に満ちた者である『真の勇者』、あるいはそれほどではなくとも『勇者』は、このエネルギーを使用して、本来は生き残れない状況でも生き残ったり、手に余る奇跡を起こしたりということができるのだ。

 

 ただし、選択肢を与えられた者は、通常、死ぬまではいかない状況でも、死ぬことがありうる。

 

 中途半端な運命をすべてリソース化することにより、生存できない状況でも生存を拾えることの弊害だ。死亡しない状況でも死亡という運命を拾うことになる。だから多くの勇者は早死にする。本来、死ななくてもいい場所で、死ぬことがありうるからだ。

 

 この『生か死か』に未来を絞る権能が、悪さをした。

 

 真の勇者クロードは、ついに『命を懸ければ世界を救える』状況に陥ったのだ。

 

 だが、彼は生存を望んだ。

 

 それは彼自身の願いというより、彼の養父のような存在の願いだった。

 生きてほしいと願われた。だから、生きることにした。

 言ってしまえばそんな理由で、真の勇者は世界の滅びを見逃したのだ。彼は、自分が誰かの願いを叶えた結果がどうなるかを勘定しない。ただ、願いを背負ってどこまでも行く、人間というよりは機構に近い精神性の持ち主だった。そのバグと、ヴィヴィアナというバグがかみ合って、そうして世界は『滅び』により、絶望的な状況となった。

 

 とはいえ、真の勇者は世界を滅ぼそうという意思はなかったし、世界で暮らす人々のことを愛していた。

 

 なんか結果的に滅びちゃったというだけで、彼は世界の滅びを嘆いたし、そこで暮らす人々の無事をどうにか確保したいと思っていた。

 

 そこで囁かれたのが、『異世界侵略』。

 

『空』の環境が近い異世界を侵略し、そこで生き残りたちと暮らそうという提案である。

 真の勇者クロードはそれを呑んだ。他に有効な方法が思いつかなかったし、実際、存在しなかったからだ。

 

 その『異世界侵略』を囁いた者が、魔法使いヴィヴィアナであった。

 

 ……だが。

 彼女は別に、『生き残りを救いたい』とか、そういう意図で、異世界侵略を囁いたわけではなかった。

 

 彼女の動機はどこまでも『興味本位』だ。

 

 今も──

 

「猫耳がいいですねえ」

 

 ──氷邑(ひむら)はる。

 異世界勇者四天王にも及ぶ才能。まだまだ経験は足りないが、力だけでもヴィヴィアナを圧倒しうる天才。

 

 それを前にしてもやはり、魔法使いヴィヴィアナは、趣味を優先する。

 

 ヴィヴィアナの使う術は、『動きを止める』ものが多かった。

 

 閉じ込めて、動きを止めて──お人形として、愛でる。

 なので傷つけないように尻子玉を抜く(殺す)目的で、まずは動きを止めにかかる。

 

 そのおぞましい目的意識をなんとなく察している氷邑はるの表情は険しい。

 技術的には兄の梅雪(ばいせつ)や父の銀雪(ぎんせつ)にまだ及ばないものの、若々しい才覚のみで、相手の術式を強引に振りほどく。

 

 長刀を以て斬りかかる。

 だが、当たらない。

 

 ヴィヴィアナの近接戦闘の技術は高かった。

 だが、はるは、さすがにヴィヴィアナよりは近接戦闘技術を持っている。生きた時間は長くとも、ヴィヴィアナは戦闘術に興味がなく、彼女は興味がないことは修めないからだ。

 

 力も、はるの方が強い。

 速さも、はるの方がある。

 

 だがしかし、当たらないのだ。

 当たると思った攻撃もかわされる。逸れるはずがない切っ先が絶妙に逸らされる。

 

 反応速度が早い──ようにも、見える。

 そして実際に戦ってきた時間の長さからくる、熟練度もある──ように、見える。

 

 だが、はるは、それだけではないと看破した。

 何か不思議なことをされている。そういう感触が、剣を振るたびに、全身に不愉快にまとわりつくのだ。

 

 看破は、できない。

 だが、予想はできる。

 

「……時間を止めている?」

 

 はる側からできる予測は、そのぐらいであった。

 半分正解だ。

 

 ヴィヴィアナは『時』に干渉できない。

 しかし、『運命』に干渉することができる。

 

 運命の凝結──他者を勇者に任命した際には、『生きるか死ぬかの選択肢を提示するだけ』のこの権能。

 しかし持ち主が使えば、もっと丁寧に細かく、『死ぬほどの攻撃を避けられる可能性を拾う』ことができる。

 

 つまりこまごまと、自分が攻撃に当たりそうになるたびに『選択肢』を発生させている。

 勇者に対するものよりも選択肢が多く、結果も『生きるか死ぬか』という極端なものではない選択肢を発生させ続けている。その選択の間、結果的に時間は止まる。だから、半分正解だった。

 

 プールでウメが驚かされた近接戦技術は、経験よりもむしろ、この運命への干渉が要素として大きい。

 近接戦の手練れの攻撃に当たらない運命を拾った場合、偶然、最適な動きをする必要がある。その動きは素人のものだというのに、結果として武術的な動きになる。

 だが、ヴィヴィアナは戦闘技術においては経験はあっても素人だ。だから『奇妙に攻撃が当たらない。熟練はしているが、武術をかじっている様子はない』という印象になる。

 

 ……魔法使いヴィヴィアナが勇者パーティとして脅威視された理由は、もう一つある。

 

 彼女は──ずっとずっと昔から、探していた。

 

 異世界転移術式を完成させ、実験するために、自分が生きられそうな『空』のある異世界を探していた。

 

 そうして探され、見つかった世界がクサナギ大陸。

 

 古い時代から、ウンディーネや獣人、ドワーフなどを送り込み、そいつらが生きていける世界を、探した。

 そうして河童(ウンディーネ)や獣人、(ドワーフ)はクサナギ大陸の種となった。だが、その原種は、ヴィヴィアナのいた世界のものなのである。

 

 つまり、彼女は、『運命への干渉』と、『通常魔術』『術式』の他に、もう一つ、武器があることになる。

 

 その『武器』とは──

 

「──うーん、素早いし、強いし、困っちゃいますねえ。他の魔力もどんどん近付いてきてますし……」

 

 ──彼女が、この世界に来た方法。

 

 ──彼女が、この世界に、ウンディーネらを送り込んだ方法。

 

 その『武器』とは──

 

「あなたは、いったん、取り置きましょうねえ」

 

 ──異世界転移。

 

 ここにいるのは紛れもなくヴィヴィアナの本体である。

 その彼女がどのようにして死国の封印を抜け出したのか?

 

 異世界転移と再転位によるテレポートである。

 

 氷邑はるの足元で、あらかじめ用意されていた術式の一つが起動する。

 

 魔界──触手の世界からの侵略拠点である魔界塔。

 この場所は異界と繋がりやすい九十九州の中でも、もっとも魔界とつながりやすく……

 

 ヴィヴィアナをしてある程度の準備が必要な『異世界転移』を、術式一つで発生させることも可能な環境となっていた。

 

 はるは、足元から発せられた赤紫色の光から脱しようと飛びのく。

 見事なカンであった。これまで、ヴィヴィアナの投射術式や設置術式を構わずその身で受けながら斬りに行っていた彼女が、『これは避けなければならない』と感じたのである。

 

 だが、一瞬遅い。

 

 氷邑はるの姿が、その場からかき消える。

 

 かくして……

 

 氷邑はるは、触手の世界に、異世界転移させられた。

 

 クサナギ大陸から、消え去ったのだ。

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