悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第286話 運命の女神斬滅戦 六

黄金(ゴルディオン)──(スラァァァァッシュ)!!!」

 

 小田原城ロボ──黄金龍(ゴルディオン)ドラゴンが槍を振るう。

 それは魔界のモノどもを吸収して肥大化した女神ヴィヴィアナの玉体(ぎょくたい)を大きく削った。

 

 その巨体と『巨人特効』──実際には『魔界特効』によって、ヴィヴィアナがニニギの迷宮方面に向かうのを阻み続ける。

 

 そうして黄金龍がヴィヴィアナの足を止めている間に、氷邑(ひむら)銀雪(ぎんせつ)が、島津(しまづ)家が、大友(おおとも)家が、そして龍ゾン寺(ドラゴンゾンビ・テンプル)が、ヴィヴィアナに攻撃を加えていく。

 

 それは神の歩みを止めるに充分な攻撃だった。

 

 ……だが。

 

 歩みを止める以上の成果はなかった。

 

 銀雪の剣は魔界とこの世界とのつながりを断ち切る。

 だがしかし、断ち切られたつながり──塞がれた『穴』は、ヴィヴィアナによって空けられ、そこから入り込んだ魔界のモノらが、削ったヴィヴィアナの体に吸収され、また肥大化させる。

 

 黄金龍がヴィヴィアナに組み付くようにしてその歩みを止める。

 黄金龍に搭乗している北条(ほうじょう)家の者たちは、この巨大なスライムが敵であることしか情報を持っていない。

 だが、『どこかへ進もうとしていること』はわかる。ならばこそ、それを止めるのが、自分たちの役割だと理解し、それを完遂すべく行動を続け、成功している。

 ……成功、している。

 

 だが、神の歩みを阻むというのは、人が命を燃やさねば到達できない奇跡だった。

 

 幾度も幾度も『必殺』を放つ。

 だが、それは女神の玉体を削る程度の効果しかない。

 

 倒し切れない。

 すべての力を合わせて、すべてを出し切るような戦いを続けて、『もう、ダメだ』と思うほど力を振り絞り続けて、それでもなお、『歩みを止める』程度のことしかできない。

 

 今、女神をこの場に留めることができていることこそ、まさに奇跡。

 命というリソースを燃やして発する最後の火花。それを以て成立する奇跡。

 

 ただの一撃で体中の神威(かむい)を根こそぎ持っていかれるような黄金斬を連発している北条も、同じように出し尽くすつもりで神威を放ち続けている面々も、すべてが、限界を迎えつつあった。

 ……人には、『限界』があるのだ。どうしようもなく。

 

 まず崩れたのは、島津だった。

 

 四姉妹のうち三人が揃い、兵たちもこの場にいる。

『集団』の力でこざかしく立ち回っているが、そもそも島津の軍法は──否、この九十九州で『雄』に数え上げられる者たちは、持久戦に慣れていない。

 

 島津の斬獲(ざんかく)攻撃は『猿叫(えんきょう)を上げながらとにかく全力で突っ込み、全力で斬る』というものであり、全速力・全力・全軍による突撃は、あらゆる戦場において、登場しただけで主導権を奪うほどの衝撃力を持つ。

 だが、息切れも早いのだ。全力であるだけに、息切れも早い。

 それを『気合』によってどうにか維持していたが……

 

 気合だけではカバーしきれない段階に入った。

 

 人体の限界である。

 

 島津軍が崩れ始める。

 体力に劣る者から陣形を維持できなくなり、脱落し始める。

 

 島津は強壮──とはいえ、兵たちの質は、領主たちよりも劣る。

 集団の力で上手く立ち回ってはいたけれど、陣が崩れ、突撃の威力が減り始めると、一気に崩壊した。

 

 島津の三女トシヒサは、周囲に目をめぐらせる。

 

(どこか、どこかに……)

 

 隙を探しているのだ。

 軍を数秒でも休ませるための隙。

 

 だが……

 

 どこまでもどこまでも肥大化する黒いスライム。

 放つ触手は無限。極太触手による薙ぎ払いは銀雪や黄金龍が止めているものの、細かい触手がこちらに届き始めている──銀雪もまた、確実に疲労しているのだ。

 

 全員が、いっぱいいっぱい。

 

 自分たちの次に『数』がいる大友も、全員が必死で戦っている。

 

 どこか一つが手を抜けば崩壊するのが、一目でわかる。

 

(……どこにもない。軍を休息させる隙が、ない。このままじゃ……)

 

 トシヒサは頭を使って戦う方だけあって、先の状況をどこか冷静に見てしまっていた。

 

 負ける。

 

 そもそも、『戦い』というのが『勝敗を決する』ものであるならば、これは戦いでさえない。

 最初から決まっている『負け』をどう先延ばしにするか。そういうたぐいのものでしかないのだ。

 

 もちろん、その『先延ばし』の先に勝利があるというのは、理解している。

 氷邑梅雪(ばいせつ)の帰りを待つ。氷邑梅雪がニニギの迷宮で知識を獲得するまでの時間を稼ぐ。

 

 ……だが、トシヒサは考えてしまう。考えすぎてしまう。理屈で詰めてしまう。確率を見てしまう。

 

 もしも、氷邑梅雪の帰還が勝利につながらなかったら?

 

 信じるには付き合いが浅い。……それでも、信じているつもりでいる。

 だが、どうしようもない不安はある。そもそも相手は神なのだ。その神に対する応手を出さなければ負けなのだ。……可能なのだろうか? 不可能であった場合……

 自分が死ぬ程度ならいい。『死ぬ程度』なら、それでもいい。

 だが、死よりもっと酷い運命が、自分の兵や家族たちに降りかかるとしたら……

 

(……理性は、『逃げろ』と言ってるのよね)

 

 そもそも神は祈るものであって、手向かうものではない。

 だから、自然災害に行き遭った人が『災害をぶっ倒す!』という方針で行動しないように、するべきは『避難』なのだ。

 だが……

 

(……でも。『逃げるな』って言ってる。理性じゃなくて、直感? 本能? が……『逃げるな』って、言ってるのよね)

 

 恐らく、この場で戦っている全員がそうだろう。

 

 梅雪を見送った大友国崩(えくす)も、なんだか参戦している龍ゾン寺も。

 梅雪がどこにいるのか知らないであろうイエヒサや銀雪。それに、何か急に来た黄金の巨大ロボも──

 

 待っている。

『逃げるな』という、本能の叫びに従っている。

 

 この絶望的な状況で。

 確実性もないのに。

 勝利のために、死力を尽くしている。

 

 それは……

 

(期待)

 

 神という絶望的な相手を目の前にして。

 ……それでもなお、期待してしまう。氷邑梅雪には、なぜか、そういう力がある。

 

 そもそも、九十九州の大友と島津を、流れとはいえまとめたのも、そういう力のお陰だ。

 

 なぜ、期待してしまうのか?

 島津トシヒサは根拠を探す。

 

 ……そんなことをしている場合ではないのに。

 

 弱った軍が速度を落とす。

 トシヒサの率いる部隊から、脱落者が出る。

 

 銀雪の防御も、黄金龍の妨害も間に合わない『触手』が、迫る。

 

 運命の袋小路──トシヒサは道術に詳しくはない。だが、梅雪がそう言っていたのを聞いている。

 これはただの体を貫く攻撃ではない。もっとヤバいものだというのは、わかっている。だから、避け続けた。

 

 だが、今……

 

 トシヒサには、理解できない状況を目の前にすると、まず理解しようと思ってしまう悪癖がある。

 

 そうして頭を働かせるのは、肉体的にすでに限界で、神威も尽きかけ、精神にも強い負荷がかかっているゆえの逃避行同──『今、考えるべきではないことを考える』ということによって脳を休ませる人体の働きでもあった。

 

 だが、そんな余裕のある状況ではなく──

 

 トシヒサに、触手が迫る。

 すでに回避をできる見込みはない。

 

 走馬灯──

 思考の流れが加速して、光景が遅延する。

 

 だから、考える。

 

(誰かに期待をしちゃう、理由)

 

 たとえばイエヒサ。

 島津家の四女はやることなすことめちゃくちゃで、行動に合理性はなく、本人も何も考えていない。

 だが、不思議と、島津の者たちは、イエヒサに期待している。イエヒサの『めちゃくちゃ』を許すし、彼女の自由を阻まない。

 

 それは、島津家がイエヒサに期待しているからだ。

 

 イエヒサならば、何かを成し遂げるだろうと思っている。

 そうして実際、イエヒサは島津の窮地を救ったり、島津の領土を広げたりという大きな活躍をしてきた。

 

 そういった実績が、イエヒサへの期待を高めている?

 ……それも、今は、あるだろう。だが、最初の最初、イエヒサがなんの実績もないただの暴れん坊だったころから、イエヒサには期待が集まっていた。

 

 なぜか?

 

(期待をされる人間の、共通点)

 

 一方で自分は──三女のトシヒサは、あまり『期待』をされていたようには思えない。

『やれることを確実にやる』という方面では信用されている。だが、苦境で大きな成功を掴むというふうには、期待されていない。

 

 期待と信用。

 

 イエヒサと自分。

 

 梅雪という存在。

 

 トシヒサは思考する。

 

 だが、結論より早く、ヴィヴィアナの触手が、彼女の胸に触れた。

 鋭い先端がビキニ状の鎧を貫き、皮膚に触れる。

 

 触れて──

 

(あ、そうなんだ)

 

 ──トシヒサは、『なぜ、期待してしまうのか』という問いの答えに指先を引っかけ……

 

(期待される人って)

 

 結論に間に合わず、絶命する──

 

 

「なんだその醜い姿は? 貴様の心根でも反映されているのか?」

 

 

 ──その運命を否定するモノが、トシヒサに突き刺さりつつあった触手を断った。

 

 トシヒサは片膝をついた姿勢で、その背中を見つめる。

 

 銀髪の、背の高い少年の背中。

 

「まぁいい。『運命』よ、待たせたな。好き勝手はそこまでだ。──この俺が、貴様の存在を否定してやる」

 

 トシヒサは、結論を掴んだ。

 

 期待される人は。

 こんなふうに、『ダメかもしれない』なんて一回も考えたことがないような態度で。

『できないかもしれない』なんていう可能性なんか頭によぎったことがないみたいな、自信満々な声で。

『自分には、身に余る』なんてこと、人生で一度も思ったことがないみたいな姿でいる──

 

「──ばか」

 

 考えなし、ではない。

 きっと、考えている。

 

 それでも、馬鹿だと、トシヒサは思った。

 

 自分たちはきっと……

 

 こういう馬鹿が大好きなのだと、思った。

 涙が出るほど、好きなのだと、思った。

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