悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する 作:稲荷竜
「あのさ、
寅耳ビキニアーマーの女は、ツインテールの片方を引っ張りながら、何かを言おうとしている。
これから発しようとしている言葉は、彼女にもまだ整理がついていないものなのか、なかなか口から出てこなかった。
だが、ようやく──幾度も視線を彷徨わせて、幾度も喉から声を発しかけて、幾度も髪を乱暴に梳いたあと、ようやく、「あの」と口から声が出て……
その瞬間。
ヴォン! という音がして、梅雪らのいた地面──プレスされてぺちゃんこになった魔界塔の頂上に、魔法陣が出現する。
氷邑梅雪はこれを回避しながら一瞬で解析──この術式、未知のものである。ニニギ検索を使えば類似のものはヒットするかもしれないが、少なくとも、ヴィヴィアナ戦で必要とした知識の中にはなかった。
その魔法陣、色は赤。紋様は……七つの角があるものの、星の象形だろうか。
効果は見たところ、単純な攻撃。
この場に残った者──島津四姉妹および兵、ウメ、アシュリー、イバラキ、銀雪。誰をとっても、当たるものではない。当たったとして、さほどのダメージもないだろう。
ただし、足元に、何の気配も感じさせずに出現したことは厄介──
分析を終えたあと、魔法陣が発動する。
梅雪らのいた場所に火柱が立った。
威力はそれなり。雑兵であれば一撃で消し炭になるであろう。
神の攻撃と比べてしまうから情けなくも見えるが、かなりの実力者のもので間違いない。
梅雪は神威を目でたどる。
すると、細い細い糸のようなつながりが見えて、その先に……
軍が、あった。
異形の軍勢だ。
触手などの魔界のモノがいる。
あきらかに人と海洋生物を混ぜたような……異海のモノさえ、いた。
他にもクサナギ大陸固有とはとても思われない、異形の人種が数多くいる、軍隊。
それは、
「出島の連中!?」
何かを言いたげにしていたトシヒサが、驚いた声を出す。
出島──
現実世界で言えば長崎県にあたる場所。
そこに集まっている出島の異人ども。
強力かつ立地の問題で九十九州では『アンタッチャブル』な扱いを受けている連中が、そこに、ひとまとまりの軍を率いて立っていた。
「……思ったより疲弊していないな」
その集団の先頭に歩み出る、ひときわ巨大な人物? がいた。
その人物の姿は、異形が集う出島勢の中でも、特に異形に見えた。
それは……
チューリップだ。
でかいチューリップが、根っこで歩いて、しゃべっている。
ド渋い声のチューリップが、花弁を巡らせて、たぶん梅雪らを見回してから、言葉を続ける。
「だが、島津に
異人の軍が鬨の声を挙げる。
氷邑梅雪は……
「くそ! 何やらモチベーションが高そうだが、モチベーションに乗りきれんぞ……!?」
カステラとワインを奪われた──まあ名産品を奪われるのは大変なことなのはわかる。
我ら自身を輸出してやれ──まあ、チューリップなので。輸出品の項目なのだろう。
しかしわからない。言葉のチョイスとか、姿かたちとか、何もかも、梅雪の心を震わせてくれない。
懐かしささえ、覚える。
これだ、この感じこそが──九十九州。
胡乱の塊。混乱の坩堝。
誰もが軽いノリで戦争をし、誰もが夜になれば何もかも忘れて家に帰る。
そういう『ついていけない土地』が、九十九州であった。
「……梅雪! 行って! 出島の連中はあたしたちが引き受けるから!」
「と、トシヒサ殿……」
梅雪が言葉に詰まったのは、今まで『まとも側』の発言がちょいちょい見られた島津トシヒサが、あっというまにあの胡乱な軍を相手にシリアスをし始めたからであった。
ついていけるのだ。九十九州人だから。
「あのね、梅雪……言いたいことが、あるの。でも……それは、この戦いを終わって、九十九州を統一したらにするわ!」
「いや、別に言葉で済むことなら今言ってもらった方が、俺としてもいいのだが」
「何よ!? 島津じゃ九十九州を統一できないって言いたいわけ!?」
「いや……」
そういえばトシヒサは面倒くさいツンデレだったな、と梅雪は思い出した。
「……とにかく、これ以上は九十九州の問題よ。たくさん助けてもらったからこそ、今は、あたしたちが、アンタたちの背中を守る番でしょ」
「……協力して蹴散らしても構わんが」
「これ以上、助けは借りられないわ。それに──領地をいつまでもほったらかしにはしてられないでしょ、そっちも」
まあ確かに。
あの出島勢、梅雪やアシュリーに気配も感じさせずにあそこまで接近し、さらに梅雪さえも発動直前まで気付けなかった道術──魔法を使ってみせた。
強敵なのは間違いない。つまり、時間がかかるだろう。
リーダーが歩くデカいチューリップなのも、実は梅雪は知っていた。
出島の強力なユニットなのだ、あいつは。ちなみにアレも仲間にできる。
あと出島には風車と『意思を持つカステラ』『自鳴時計の大きなのっぽのおじいさん』などが登場する。
そんなのが合計七体もおり、名乗る名前が『
九十九州のノリに慣れていると『まあそういう土地だよね』と受け入れられるのだが、先ほどまで普通にシリアスな戦いをしていたので、温度差で風邪を引きそうだった。
とはいえここまで協力して当たった島津を、このまま
その時。
とてつもない勢いで、この場所に近寄って来る『震動』を感じる。
梅雪らは思わず、その震動の方向を見た。
そこにいたのは、巨大な、鎧武者だ。
女性らしい曲線的な鎧を身に着けた、巨大なそいつは……
「
龍ゾン寺が叫ぶ通り、DXギンチヨロボ。
ゲーム
「……なんだか混沌としてきたな」
梅雪は思わずつぶやく。
ここまで挨拶をする暇もなく立ち尽くしていた
梅雪は、直感した。
『このままここにいると、収拾がつかなくなる』と。
なので。
「……わかった、トシヒサ殿! 後ろを任せる!」
全部投げて帰ることにした。
まあ無事だろう、島津と龍ゾン寺だし──という感じで。梅雪は考えることをやめたのだ。
「北条の方々、父上、はる、アシュリー、ウメ、それとイバラキ、まずは九十九州を脱出しよう! それからゆっくりと話を!」
何か言いたげな人々に強引に指示をして黙らせつつ、梅雪は最後に、島津へと向き直った。
「ヨシヒサ殿、ヨシヒロ殿、トシヒサ殿、イエヒサ殿、世話になった。いずれ返礼を」
「それは充分よ! 今度は──お、お、お互いの、家の関係について……」
「…………?」
「何を言わせんのよ!?」
「何も言われてないのですが」
「と、とにかく、行きなさい! 早く!」
トシヒサに追い立てられるようにして、梅雪は出発をよぎなくされる。
一方でイエヒサが「じゃあなーウメとでかばいせつー」などと気楽に見送りをしたあと、
あの切り替え、まさに島津。
……いや。
切り替えては、いないのだ。
九十九州の者どもは……
平和に戦争をし。
ふざけたシリアスをし。
混沌の中で秩序を持つ。
そういう、感覚の理解しがたい者たち。
「まったく、世の中は広いな」
梅雪はその場から撤退しながら、つぶやくしかなかった。
九十九州遠征──
──ともあれ、ようやく、ドタバタと。
名残を惜しむ間もなく、これにて、終了であった。
そして。