悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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十章 興亡の戦
第293話 夕べに白骨となる


 事の始まりは、氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)九十九州(きゅうじゅうきゅうしゅう)に経った直後になる。

 

「ネオアズチで大規模な謀反が起こったようです」

 

 帝都、蒸気塔──

 

 帝の居城たるその建物。幾多のパイプが絡まり合うような構造の、ところどころから熱い蒸気の上がるその塔。

 内部、上層に位置する軍議の間。

 

 そこには現在の帝の家の首脳と呼べるメンバーが集まっていた。

 

 帝の軍は帝都東西南北にそれぞれ守護となる軍がおり、その他に遠征部隊かつ儀仗隊の役割も兼ねる帝都火撃(かげき)隊、そして帝の傍らを守る侍大将直轄の部隊、そして隠密衆という構成になっている。

 ……ちなみにこの編成、熚永(ひつなが)アカリを始めとして首脳も含む複数人による同時多発謀反(クーデター)『帝都騒乱』から一新されたものである。

 

 特に軍議の間にまで帝都火撃隊のメンバーが入るというのは、当時の活躍と、現代の帝都の状況を鑑みた結果だった。

 基本的に『音に聞こえた犯罪者がいる位置を特定したあと、空爆をしてその対象を倒し、帝の威光を示す』といった役割だった火撃隊は、『帝直轄』の部隊ではあっても、『首脳』に数え上げられることはなかった。

 だがしかし帝都騒乱の最中もあとも、(氷邑家を除けば)最も大きな武功を立てたのは火撃隊と言える。

 鳥組筆頭のアカリが謀反したという罪はあれど、アカリの罪はどちらかと言えば『御三家の失態』に数え上げられている事情もあり、帝都騒乱以降、人気と武功を鑑みて、火劇隊の中でもエースの取りまとめ役である桃井(もものい)が、重要な軍議に列席するようになっていた。

 

 ……もっとも、桃井本人は、役者かつ、別に軍略・戦術について勉強もしていない自認がある。

 経験から多少はわかるものの、首脳に混じって戦略会議という場は、基本的に居心地が悪い。

 しかしじゃあ、『火撃隊も参加してくれないか』という帝の打診を断れるかと言えばそういうことは当然できないし、自分以外の火撃隊のエースメンバーは、ショタコンの白瀬(しらせ)、乱暴な黒沢(くろさわ)、そして常に気味の悪い笑みを浮かべて放っておくと自他に最も被害が出る方向に進んでいく青田平(あおたたいら)なので、まあ、自分が出るしかないよな……と背負っている感じだった。

 なお新しい鳥組エースはまだ選出されていない。三年経ってこれなので、もう永遠に欠番の可能性があった。

 

 そしてもう一つ大きな変化は、帝都の東西南北にそれぞれ同格の大将を置き、その上が帝であるという制度にしたことだろう。

 

 基本的には侍大将が帝から委任されてこれら四隊の指示をとるわけだが、帝が指揮官としての色を濃くしたことによって、帝都騒乱の時のように、『侍大将が行方不明なので一瞬、指示機構が麻痺する』ということにはならない……と、いいなあ、という狙いがある。

 

 突ける脆弱性はいくらでもあるのだが、帝都騒乱を下地に考えると、こうとしかまとまらなかった結果──とも言える。

 

 かくして一新された結果、侍大将の軍内権力を弱める方向に力が集まってしまったこの会議にて、帝に『軍事』の報告を直接上げるのは、家老となった。

 

 この(いわお)のような男は親戚筋をたどれば御三家のうち一つ七星(ななほし)家に関係を持つ男であり、帝都騒乱の際に倒れた元家老と同じ家に属する者、とも言える。

 ただし元家老七星義重(よししげ)が七星本家の親戚筋(その当時の七星家当主のいとこ)であるのと違い、現在の家老は七星家侍大将の家系である。

 現七星家侍大将七星彦一(ひこいち)叔父(おじ)にあたる。

 

 巌のような顔をした家老は、ぎょろりと小さな目で周囲をねめつけ、言葉を続ける。

 

「各々方もご承知の通り、ネオアズチと我が帝都とは、積極的な友好関係を築いてはございません」

 

 これが日本の幕府の発言であれば、『さっさと処理した方がいい敵対的国家です』という意味になるのだが、クサナギ大陸の帝家の場合、そういう意味にはならない。

 そもそもこの大陸の国家は独立独歩の気風が強いし、それを帝家も認めている。

 帝家の祖からして『大陸全土を自分の手元で治めるのは無理』というスタンスであったので、各地の独自性を尊重し、自治権を強めに認め、法なども統一させない。

 ただし年貢と戸籍だけは持って来させて、収穫と人口のデータは管理するという方針での運営である。

 

 その上で『積極的な交友関係を築いている相手』に数え上げられるのは、御三家と、それからいくつかの小国、あとは最近だと毛利家がそれにあたるだろう。

 

「もとより上帝(じょうてい)──」帝都へ軍を率いて上ることを指す。「──の気配はあった不穏な国家ではありますが、領地の独自性ゆえによそへの侵攻は難しく、そこの解決が可能かどうかに関しては、密偵を放って探らせておりました」

 

 ネオアズチはサイバネ武将とクローン清州(きよす)兵の領地であり、これらを生産するには独自のプラントが必要になる。

 そして独自のプラントは土着の技術に根差したものなので、ネオアズチはよそに侵攻し侵略に成功したところで、よその土地で自分たちの兵を生産できないという脆弱性があった。

 別に現地で徴兵すればいいだろう、という話を現代日本の意識だと思ってしまうのだが、クサナギ大陸は、特有の将には特有の兵がつくのが当然と思われている場所である。

 たとえば龍ゾン寺(ドラゴンゾンビ・テンプル)の兵はゾンビだし、大友(おおとも)国崩(えくす)の兵は聖騎士だ。それ以外はない。

 兵の特徴を揃えるというのは、兵の中に間諜が入りにくいということであり、それなりの有効性がある。

 しかし現地徴兵が難しいという欠点があった。兵になるためには『文化まるごと、どころか生物としての種を変えてください』と言われるのだ。

 それが『当たり前』と思われる文化が根付いていた──もちろん前提として、わざわざよそに侵攻しなくても良い状況があったために、クサナギ大陸は『他家へ侵略するコストが戦国日本より一つ多い』という、面倒さによる平和(もちろんそれだけが理由ではない)が保たれていた、というのもある。

 

 兵が生産できなければ国防にかかわる。国防が不十分であれば、せっかく侵略して得た土地を守れない。守れないなら土地をとる意味はない──

 

 ──意味はないのだ。

 

 攻める目的が『土地をとること』ならば。

 

「……その結果、ネオアヅチの領主『ノブナガ・オダ』が、謀反により倒されたことが、発覚いたしました」

 

 軍議の間がざわついた。

 

 謀反が起こった──軍議の冒頭でも言われたことではある。

 だが、誰もがそれを信じられず、どこか、言葉が耳の上を滑るかのようだった。

 

 ノブナガ・オダ。

 

 ゲーム剣桜鬼譚(けんおうきたん)において、開始地点である帝内(ていない)地域。

 その東側に位置する『最初の壁』として立ちふさがるのが、サイバネティック・ネオアヅチという場所だ。

 

 史実では弱卒だったという話もあるが、ノブナガ・オダはプレイヤーにとっては強く、そして厄介な相手である。

 ……ただしそれは『まともに戦えば』の話、でもある。

 

 謀反。

 

 ノブナガ・オダなので、その領地には謀反イベントがある。

 

 クローン清州兵を率いるサイバネ武将の二大巨頭。ノブナガ・オダに忠誠を誓い決して裏切ることのないガイノイド・トウキチロウと、もう一人……

 

 イベントを進めていくと、ノブナガ・オダに謀反を起こす──ネオアズチにおける唯一の『人間』。

 クローンではなく、サイバネ手術も受けずにいたが、ノブナガ・オダに忠誠心を植え付けるためのサイバネ手術を強要されることになるその人物は……

 

 明智(あけち)光秀(みつひで)

 

 日本史においてもっとも有名な『裏切り者』。

『変』、すなわちクーデターを一部だけとはいえ成功させたその事件は、日本人であれば誰もが知っているだろう。

 

『本能寺の変』。

 

 戦国日本をモチーフにしていると言い張る剣桜鬼譚には、当然、本能寺の変イベントも存在する。

 

 ……だが、それには、光秀に協力する外部勢力が不可欠であった。

 

 つまり……

 

 出たのだ。

 外部勢力が。

 

 それこそ……

 

「……その謀反には、『氾濫の主人』が絡んでいるようです」

 

 (さくら)

 

 そもそも剣桜鬼譚において、本能寺の変は、主人公が光秀に接触することにより起こる。

 ノブナガ・オダに対する嫌悪感、本能的な恐怖から逃れるべくノブナガ・オダを倒そうとする光秀に協力し、謀反イベントを起こす。

 すると、その後、光秀は裏切ることのない仲間と化すのだ。

 

 なぜなら明智光秀の人生目標は、そこで終わりだから。

 

 明智光秀は、流れ着いた先で親切にされ、重用され……

 しかし、ノブナガ・オダに、『都合のいい、決して裏切らない、自分のために尽くすことを喜びに感じる機能を備えたガイノイド』にされかけたことに傷つき、絶望し、心の底、本能の底から、ノブナガ・オダを嫌悪した。

 ……複数の『男』が出るエロゲーにおいて、主人公の活動する圏内のそばに置くのに都合のいい、『外道な男と、それに無理矢理手籠めにされる女』の構図が、この二人のシナリオだった。

 

 そしてそれが終わると、『明智光秀』には、何もない。

 

 何もない彼女は、自分の人生目標を達成させてくれた主人公にとっての、『都合のいい、決して裏切らない、自分のために尽くすことを喜びに感じる機能を備えた女』になった。

 

 今、このクサナギ大陸だと……

 

 桜の手駒の一つになった。

 

「氷邑と七星に軍を編成させましょう」

 

 軍議の間に居並ぶ東西南北大将の一人が発言した。

 肯定も否定も飛ばなかった。なぜなら、それは『当然のことを、一応、口に出しただけ』だから。

 

「しかし、氷邑家の当主一族は今、九十九州に……」

「であれば七星の侍大将に(みことのり)を発して……」

 

 軍議が進んでいく。

 そうトラブルもなく、この軍議は終着するだろう。

 

 帝都騒乱以来、次にもしも何かあった場合にどうするかという方法は、詰められに詰められてきた。

 それをなぞるように軍議は進んでいく。また、再編・新生した帝家の首脳は、『おかしなこと』をしない。そうしないようなメンバーが集められている。

 

 だからこの軍議は、『七星彦一に率いさせた、氷邑・七星連合を派遣する』というところに落着するだろう。

 この軍議の間に集まった瞬間から、誰もがそうぼんやりと確信していた。その道をなぞるだけの軍議──

 

 

「待て」

 

 

 ──それにストップをかけたのは、この軍議の間の最奥にいる人物だった。

 

 その人物……

 

 赤やオレンジなどの暖色系をメインにした、しかし、『何色』とは言い難い、とりどりの色の髪を、長く伸ばしている。

 瞳は見る角度によってきらめきの色が変わる摩訶不思議なものだ。

 男性であるというのは、一目でわかる。だが、女性的だなというのを、誰もが感じる。

 総じてしまえば『美しい』。ただただ抜群に美しい。男性だの、女性だの、そういう観点からその美貌を論じることが愚かに思えてしまうほど、圧倒的に美しい──

 

 その者の衣装が僧衣に似ているのは、その者の祖の出自ゆえだった。

 

 祖。

 

 その者の祖は、とある名家に産まれた九男坊だった。

 家督争いを避けるため寺に入れられ、普通であれば、そのまま還俗することなく寿命を迎えるはずであった。

 

 しかし乱れる都や人心を前に立つことを志し、最終的に、クサナギ大陸を統一し、氾濫(スタンピード)の鎮圧を成功させる。

 その者の祖とともに旅をした三人は、現在、氷邑、熚永、七星という家の祖として祀られている。

 

 その者は──

 

(みかど)──遮那(しゃな)の王」

 

 ──太陽をその名とする者。

 

 現在のクサナギ大陸の最高権力者。

 未だ二十代半ばにさしかかろうという若さで、しかし王としての責務を果たし、帝都騒乱を始めとする『前世代までであれば想像もしなくてよかった脅威』の処理に見事にあたる、帝その人であった。

 

 その名を呼んだ者こそ、この遮那の王が自ら選んだ家老である。

 

 この厳めしい顔つきの家老、忠義の者であるが、唯々諾々と上意に従うだけの者ではない。

 帝を相手に意見し、その結果、腹を召すことになろうが構わない覚悟を抱いた者である。

 

「そもさん。何を待てとおっしゃいますか」

 

 ……そしてこの家老は、帝の今の発言の裏にある、重い覚悟を感じ取っていた。

 

 ゆえにこそ、そもさんと問いかけた。

 

 クサナギ大陸の帝は、代々、武家の最高権力者であるとともに、宗教的にも最高権力者である。

 そもさん、というのは僧から僧への問いかけで使われる言葉だ。

 

 ゆえに、家老が今放ったたった一言は、『このまま事前に想定していた流れの通りに進めるよりも、民心を安んじる発言ができるのか』『拙速が求められるこの急転直下の状況で、話を止めてまで言うべきことがあるのか』という意味を含む問いかけであった。

 

 遮那の王は──

 

「せっぱ」

 

 ──堂々と、答えた。

 

「出るべきは氷邑でも七星でもなく、我らだ。我自ら、出陣すべきである」

「……若さゆえの功名心、義弟の梅雪(ばいせつ)殿の華々しい戦物語に感化された──などというのならば、到底、承服いたしかねまする」

「確かに、御三家は、我らの家を守る盾であり、我らの敵を探し出す目である。あるいは……我らの敵を射抜く、矢である」

「……」

「だが、熚永は滅びた。氷邑は七星と(よしみ)を通じ、毛利とも縁深い。なるほど、氷邑に頼り、氷邑からの覚えめでたい、あの誠実なる七星彦一に率いさせ対応させるのが、『大将』として正しい決断であることは、論を()たない。しかし──それは本当に正しいのか?」

「帝都騒乱より今に至るまで、重ねられてきた議論の結論でございます。軽々に帝の足元に火を点けるわけには参りませぬ。それでは、民心は再び恐怖と不安を覚えるでしょう」

「一つ、抜けている視点があることに気付いた」

 

 遮那の王が指を一本立てた。

 それだけで、場の空気が動かされる。

 

 ……話を、無視できない。

 言葉を、軽んじることができない。

 

 帝の血筋には、圧倒的な魅力が備わっている。

 

 だからこそ、家老は、己を律し、その魅力に参ってしまわぬよう、『正しさとは何か』を、常に問い続ける、苦行僧のようなことが求められる。

 

 遮那の王が、魅力的な声を発する。

 

「民心に未だ不安が残るのはなぜだ? それは、いざという時に、我らがなんの役にも立たなかったからであろう」

「……」

「我らは武家である。帝だ、クサナギ大陸の最高権力者だ、あるいは天の座主だと言われていても、我らは、力によりクサナギ大陸を統一した者を祖に戴く武家なのだ。……この武家が、足元に上がった火にぴいぴいと泣いて、氷邑と七星の陰に隠れ、『倒してたもれ』と袖を振るだけ。……この姿が、武家か?」

「しかし、」

「我らが祖が打ち倒した、腐りきった公卿のようではないか」

「……」

「逸っていること、認めよう。梅雪の活躍に感化されたことも、認めよう。……だがな、これは勢いや功名心ではない。帝として、あるいはクサナギ大陸を広く安んじる経の伝道者としての判断だ。力を示さねばならぬ」

 

 家老は──

 

 何も、言えなかった。

 

 ……しばしば、『正しさ』とは、『失敗確率が低いこと』『失敗したとしてダメージが少ないこと』と言い換えられるようなものになる。

 正しいのだ。今ある立場を捨ててリスクをとる必要もないのにリスクをとることは愚かなのだ。

 

 正しいのだ。クサナギ大陸が戦乱ではなく、帝の権威が未来永劫保持される空気の中であれば、帝は氷邑と七星を使って、東の動きを収めさせるのが、正しいのだ。

 

 ……だが、今の時代──

 

 すでに戦乱の入り口である。

 

「民を安んじるならば、正しき者が、強い力を持っていると信じさせてやらねばならん。……それは、氷邑でもいい。あるいは、七星でも、毛利でもいい。民が安んじるのであれば、我らが支配者でなくとも、いいのだ」

「……」

「しかし、今、力を示すべきは、どう考えても我らだ。帝都騒乱より三年が過ぎて、今なお帝都の民心が安んじられないのは、なぜだ? ……我らに力がないからだ。力ない大名の元の民は、侵略に怯えねばならんからだ。今、我らを信じ、我らの直轄領に住まう者たち。……我らを信じ、クサナギ大陸の問題を差配すると思い、我らを帝の家と、クサナギ大陸の最高権力者と仰いでくれているすべての者ら。それらに安心を与えるには、我らの力を示さねばならん」

「……敗北したならば、いかがなさいます」

「うん、敗北は怖いな。氾濫の主人──あの梅雪も手を焼く相手だ。負けるかもしれん。負ければ、すべてを失うかもしれん。私個人の死ならば、まだいい。私の死が、すべてを崩し、この世界に戦乱の時代の訪れを告げるやもしれん」

「しからば」

「で、あるならば」

「……」

「……であるからこそ。ぐだぐだ生き延びていかがする」

「……」

「氷邑がいる。七星がいる。めでたきことだ! 我が死せども代わりはいる! 良いか、皆の者。失敗した時に恐れるべきは、我の死でも、帝の家の滅亡でもない。新たなる民の守護者がいないことだ。どこかで我らは力を示さねばならん。そして、それは、今だ。氷邑や七星に、新たなる民の守護者を任せられる、今、この時代、この時なのだ。我らは──一つの武家として、世界に迫る脅威を退ける尖兵にならねばならん」

 

 若さはあった。青さもあった。

 勢いはあった。それに任せている側面も、あった。

 愚かさもあろう。もっと『賢い』選択もきっとある。

 

 だが……

 

『旧来の正しさ』にしがみついて滅びの道を選んだ家が、あった。

 熚永家──彼らは正しかった。彼らの正しさを認めた上で、それでも結果的に彼らが間違っていた理由を挙げるならば……

 

『そういう時代ではなかった』。

 

 この一点になるだろう。

 

 ……そして、今がどういう時代で、今、自分たちがいると思っている『時代』が、変わっていく最中なのか、変わらないのか、あるいはとっくに変わったあとなのかというのは、なかなか、判断できない。

 後世から振り返れば時代に区切りをつけて、名前をつけて、ラベリングできるだろう。

 だが、今まさにここに生きている者らには、自分が今いる時代が変わったかどうかは、なかなかわからない。

 

 だから、『わからない者ら』は信じるしかないのだ。

 

 時代に対する嗅覚。

 それを、自分たちが戴く指導者が、持っているのだと。

 

 帝の選んだ家臣たちは……

 

「氷邑・七星に、『いざという時』の土地割譲と、民の受け入れについて書状──いや、走った方が速い」

「部隊の編成をしましょう。帝自ら率いられる部隊の編成を」

「民の恐慌を抑える役割は、歌劇団が!」

 

 帝の、『時代に対する嗅覚』を、信じた。

 

 会議が進んでいく。

 

 家老は、帝にこっそりと、語り掛けた。

 

「……帝都騒乱の発生を読み切れなかった──という、過去の実績がございます」

「わかっている」

「それでも、己の『嗅覚』の正しさに自信がございますか」

「ああ、自信がある。今、出るべきだと、確信している。祖を前にも、同じことを言える」

「……であれば、何も申し上げることはございません。……失敗には備えます。どうぞ、ご存分に」

 

 家老が会議に入っていく。

 

 遮那の王は──

 

「──夕山(いもうと)の魂を懸けてさえ惜しくないほど、確信しているよ。ここが……」

 

 時代の転換点。

 そして……

 

「……私の最後の戦いだ」

 

 真の平和へ向かうための、命の燃やしどころだと。

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