悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第301話 帝都決戦 一

 氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)──

 

 黄金龍(ゴルディオン・ドラゴン)の背に乗っての、帝内(ていない)地域、凱旋(がいせん)である。

 

 九十九州(きゅうじゅうきゅうしゅう)を出た直後に『帝都襲撃』の報告を──これは正確ではなく、『宣戦布告があった』というのが正しい──受けた梅雪は、大急ぎで帝内地域に戻る必要にかられた。

 

 途中で寄り道をする必要があったものの、全速力でのとんぼ返りが求められたわけである。

 

 この場合、実は梅雪一人で駆け付けるのが、最も早い。

 

 しかし『帝都襲撃』が対応せねばならない問題であるから、郎党も置いては行けない。

 

 特に速力という面では、梅雪旗下(きか)でシナツの加護(バフ)がかかってもイバラキが他の者より一歩か二歩劣る。

 しかしことが宣戦布告からの戦争行為であるから、集団に当たるために、特にイバラキは置いて行けない。

 

 そういった問題を解決したのが、黄金龍であった。

 

 この北条(ほうじょう)家が『対・巨人』の秘密兵器として温存し続けた(実際にはパイロットになれる五名が揃わなかったため、テスト起動さえ出来ない状態だった)黄金龍は、神威ある限り凄まじい速度で飛行が可能となる。

 

 だが、その神威消費の重さと、『五人のパイロットの神威の色を揃えなければ動かない』という制約が足を引っ張っていたが……

 

 梅雪は他者に神威を譲渡する術を心得ている。

 

 本来は他者治癒の方法を試していた際に生まれた副産物的な効果であったが、このたび、北条ジャーに神威を外部から譲渡し続けることにより、『黄金龍を置いて九十九州を出る』という事態を引き起こさずに済んでいたし、郎党全体の長距離移動速度も大幅に上がった。

 

 また、梅雪の神威量はほとんど無限と言ってしまえる……数日間の全力戦闘程度なら耐えきれる量があるものの、体力の方はやはり、剣士ほどとはいかない。

 その体力面をカバーするためにも、黄金龍での移動は、助かるとこであった、が……

 

 なぜ、梅雪は、飛行する黄金龍の背中に乗っているのか?

 

 もともと黄金龍は小田原城なので、内部には人が入れるスペースも存在する。

 変形の時に内部にいるとコックピット以外の場所は大変なことになるので非推奨だが、変形後ならば中の居住スペースに入ることは可能だし、実際、アシュリーや銀雪(ぎんせつ)、イバラキなどはそうしている。

 

 では、梅雪(とそれに付き合わされたウメ)が黄金龍の背に乗って向かい風を全身に受けている理由はと言えば、ただの趣味だった。

 

 なんとなく飛行する巨大兵器の背中に乗って、両足を肩幅に開いて、腕を組んで立ちたい衝動というのが、男の子には存在する。

 

 梅雪の行動はその衝動に任せたものであり、言ってしまえば無駄に神威を消費して(向かい風から身を護るなど)いるだけの行為でしかないのだが……

 

 これが、功を奏した。

 

「……! 北条の方々、前方注意!」

 

 梅雪は目視により、遠く──帝都蒸気塔の頂上から、チカッと何かが光るのを目撃した。

 

 それは梅雪、というより、『中の人』にとって、見知ったものである。が……

 

「白色破壊光線が来るぞ!」

 

 ……白色破壊光線を放つもの。

 それは、墨俣(すのまた)一夜砲である。

 

 この比類なき破壊をもたらすマップ兵器は、ノブナガ・オダの領地を攻め滅ぼす際に、『明智(あけち)光秀(みつひで)裏切りイベント』──通称『本能寺の変』を起こさないと、プレイヤーの前に立ちふさがるものである。

 

 元ネタは墨俣一夜城──史実において、斎藤家攻めの際にどうしても防衛拠点を敵の眼前に造らねばならなかった織田家が、『猿、どうにかしろ』と木下(きのした)藤吉郎(とうきちろう)(後の豊臣(とよとみ)秀吉(ひでよし))に無茶ぶりした結果、川を使って資材を運びツーバイフォー方式によって一夜で造り出した防衛拠点である。

 

 豊臣秀吉のことを語ろうと思えば、その最初期ぐらいに出て来る『伝説の行い』であろう。

 

 それが剣桜鬼譚(けんおうきたん)世界においては、『七日間の太陽光チャージで一夜まるまる破壊光線を振りまける超兵器』になっている。エネルギー効率がエネルギー問題に直面している世界をまるごと救えるレベルであった。

 

 ……が、そういった変更から、墨俣一夜砲は、サイバネティック・ネオアヅチから動かせない仕様になっていたはず。

 

 まあここは『中の人』にとってはゲームの世界でも、実際に人が生きている現実なので、『台座から取り外して蒸気塔まで運びました』もありえなくはないのだが……

 

 風により、詳細なデータを集めた梅雪は、こちらを狙う墨俣一夜砲の変質を発見した。

 

(……ガイノイド・トウキチロウを組み込んで、死者扱いにして影としたのか!?)

 

 ネオアヅチのサイバネ武将にして、ノブナガ・オダに絶対服従の副官として登場する、ガイノイド・トウキチロウ。

 全体的に白いつるりとしたボディのサイボーグ少女と化した、『元ネタの要素どこですか』という変更を加えられたガイノイド・トウキチロウ(サイボーグであり猿耳と尻尾が生えているあたり)。

 

 そのトウキチロウを墨俣一夜砲に改造してから殺すことで、どうにも……

 

 (さくら)は、墨俣一夜砲を自由に出し入れできるようになっているらしい。

 

 ……時系列順に、梅雪の知らない事実を語れば、『ノブナガ・オダが追い詰められた結果、トウキチロウのサイバネ化をして、トウキチロウに墨俣一夜砲を組み込んだ』→『それを鹵獲して思考回路を抜いた状態で桜が運用、その砲撃で帝もろとも吹き飛ばそうとした』→『それをヨイチに破壊されたので、改めて死者となり、桜がその想いを継いだ』という順序になる。

 

 つまりトウキチロウの改造はノブナガの仕業であり、桜の影化はつい先ほどヨイチが墨俣一夜砲を破壊した瞬間に行われたことになる。

 

 だが、経緯がどうあれ、恐るべき事実に梅雪は確かに気付いていた。

 

(ふざけるな……! しかも、桜の影になったということは──)

 

 ──第一射。

 

 梅雪の警告は間に合い、黄金龍は軌道をズラして一夜砲を回避する。

 

 だが、墨俣一夜砲はそもそも『一夜放ち続けられる』という設定を持っている。

 レーザーが空を薙ぎ払うように、黄金龍を追いかける。

 

 それを複雑な軌道を描くことで回避しながら、黄金龍は真っ直ぐに、帝都蒸気塔のてっぺんを目指して空を駆けた。

 適切な判断だ。あんな超兵器、放置できない。さっさと射程の内側──墨俣一夜砲の威力に、砲自身が巻き込まれかねない距離に近接して、砲そのものか術者を殺すのが最善手である。

 

 ……だが。

 

 墨俣一夜砲から放たれていた、白色破壊光線が止まる。

 

 梅雪は同時に、風により、事実を捉えていた。

 

 墨俣一夜砲そのものが消えている。

 

 ……そう、これが懸念点。

 

 梅雪は思わず舌打ちをした。

 

 そして、警告を発するより早く──

 

 

「ごめん、待ってるつもりだったんだけどさ」

 

 

 フッと。

 黄金龍の進む先、すぐそこに、唐突に──異世界転移でもしてきたかのように出現する、人物。

 

 女性であるのはわかるが、凛々しさから男性の雰囲気も持つ、女。

 黒髪をポニーテールにして、帝都でよく着られるシャツ袴を着た、そいつ。

 右手に、花が舞い散るような複雑な刃紋の刀を持った、そいつは──

 

 

「早く会いたくて、来ちゃった♡」

 

「桜ァ!」

 

 異世界勇者。氾濫(スタンピード)の主人。

 剣聖シンコウの弟子にして、梅雪から二度、逃げおおせた『主人公』。

 

 桜。

 

 梅雪は風を蹴って、中空にいる桜に斬りかかる。

 

 だが、一歩遅い。

 

 すでに『それ』は顕現している。

 

 ──墨俣一夜砲。

 

 砲塔の上にガイノイド・トウキチロウと思しき上半身が組み込まれており、影となってカラーリングが真っ黒になったそれが、宙に唐突に出て、その砲口を黄金龍に向けている。

 

 ……墨俣一夜砲は、一度発射されれば、七日のチャージを必要とする。

 

 ……だが、その際にチャージされるのは、太陽光を神威(かむい)に変換したもので──

 

 ──神威さえ充填できるならば、連続発射が可能。

 

 そして、桜の影である以上、神威は桜から供給される。

 育てばあらゆる職種に適性を持つ、『主人公』から。

 

発射(ファイア)

 

 桜が指で銃のような形を作り、ウィンクしながら、声を発する。

 

 同時。

 

 黄金龍の至近距離から、白色破壊光線が放たれた。

 

 どうあがいても、回避は間に合わない。

 発射前に斬り捨てることも、叶わない。

 神喰(かっくらい)は──

 

(──さすがに、この量の純粋な破壊光線を喰らうことは、できん!)

 

 運命操作などの複雑な効果が付与されていないとはいえ、『土地を薙ぎ払う』破壊光線を身に受けて回すには、まだボルテージが足りない。

 神威というのは言ってしまえば『気分により出力が変化するもの』だ。

 

 桜の奇襲は、梅雪のボルテージが上がる前に、至近距離での破壊光線発射を成立させた。

 

 黄金龍が、白色破壊光線に呑み込まれる。

 

 梅雪は、すぐ真横を通り過ぎていく破壊光線を、舌打ちしながらにらみつけ……

 

「こっち見てよ」

 

 ……どういった技法か、宙を蹴って接近して来る桜と、鍔迫り合いをする羽目になった。

 

「気色悪い女め!」

「殺し合おう、梅雪。楽しみにしてたんだよ」

 

 ……かくして。

 

 帝都入り早々、梅雪は、厄介な女のお出迎えを受けることになる。

 

 帝都決戦──

 

 ──梅雪vs桜によって、幕を開けた。

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