悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第313話 氾濫の主人殲滅戦 三

 二千年間、クサナギ大陸を『異界』の侵攻から守り続けた、イツクシマの長・毛利(もうり)モトナリによる大規模道術とは、何か?

 

 (さくら)は効果らしきものを受けながら、分析する。

 

(重圧がある。でも、梅雪(ばいせつ)も、犬耳の子も影響を受けてない。私だけ──見た感じ、陣の範囲が帝都まるまる囲むぐらい大きいのに、私にだけ影響を及ぼすなんてこと、ある?)

 

 頭上を見た。

 

 ヴィヴィアナ──誰だかわからないけれど、きっと大事な人だった気がする──がそこで浮かび、次々と『異界との穴』を空け続けている。スタンピードはまだ続いている。

 当たり前のように浮遊している。重圧は、ヴィヴィアナにも、異界との穴から出て来るスタンピードの異人たちにも、影響を及ぼしていない。

 自分だけ。

 自分の神威の受けた『影』にさえ、影響していない。この『桜』という肉体にだけ、重圧がかかっている──

 

(飛行能力を奪って、制空権をとるつもり? ……違う。この道術は、事前に準備されてた。梅雪は、私が飛行するのを知らなかったはず。でも予測はできたのかも……本当、頭のいい人は『どこまで予想してたか』が読めなくて、分析しにくいなあ!)

 

 桜はじりじりと高度を落としていく。

 上からは、梅雪と、犬耳の子──ウメが、桜に向けて、攻撃を放ってくる。

 風と、炎。

 桜は、雷で対抗するが、やはり、『上をとられる』というのは、やりにくい。特に梅雪は、『相手の上をとった際の戦い』に慣れていた。決して近付かず、上から『当たると弾ける(つぶて)』を落とすだけだ。

 爆撃による面制圧。空対空の戦いではあまりとられない戦法だが、人間という生き物の構造からすると至極やりにくい上に、現在、帝都は避難が済んでいる。誤って地上に道術礫を落としてしまっても、人的被害は起こらない状況が成立していた。

 

 落ちていく高度。蒸気塔のてっぺんが、桜の頭のラインと重なる。

 浮上できない。

 

 本当に、桜が飛行をすると予想した上で、一定のエリアでの飛行を禁じる道術、ということなのか?

 それにしては大仰すぎる。桜が飛行するかどうかを確信する材料はなかったはずだ。さすがに、梅雪もそこまで読んだ一点賭けはしないだろうと分析する。

 

 桜は知識が足りなかった。

 

 戦闘時思考能力は低くはない。やり口は『物量』『不死』に任せて大雑把だが、剣術は剣聖より免許皆伝を言い渡された腕前で、ミカヅチの加護による雷撃も師匠のやりようを見て覚えた。

 そうしてクサナギ大陸をあちこち回って、そこらで騒ぎを起こした──本人に言わせれば、引き受けた頼みごとをこなしていっただけ、ということになるけれど。

 

 だが、知識が足りなかった。

 

 基本的には記憶喪失の外来者であり、桜が味方をするのはいつでも少数の側であり、彼女はその性質から、戦いによって願いを叶えるという手段をとることが多かった。

 もしもプレイヤーが入っていたのなら、日常パートがある。拠点を構え、そこで、一般常識を教えてもらうなり、知識を仕入れるなり、内政に役立てる知識を教えるという名目で、ゲーム内知識を誰かが開示するパートがある。

 

 だが、桜は戦い続けた。

 人の願いのために。困っている誰かのために、戦い続けた。

 

 だから知らないのだ。毛利モトナリは、シカノのアマゴ家にとっての仇であり、中国(なかくに)地方の大部分を治める大大名である。

 軍事力があり、巫女の軍勢をいくつも持っている。

 そのぐらいの知識が必要だったが、そのぐらいの知識で充分だった。だからそれ以上のことを、深堀はしなかった。

 もしも、砂賊糾合事変の時に、毛利モトナリが前線に出ていれば、もっと、毛利モトナリについて深堀したかもしれない。だが、なかった。

 

 それが、桜をハメる布石になった。

 

 毛利モトナリ。

 帝の両輪たる氷邑(ひむら)七星(ななほし)両家。そのうち片方、七星家の祖の直属の上司であったこともある存在。

 七星家の祖は道術、特に大規模な術式を得意とし、氾濫(スタンピード)の主人を封じた死国(しこく)の結界もまた、七星家の祖の作である。

 ……何より、七星家の祖は、敵からすれば性格が悪いメスガキで、味方からすると機転と思考の柔らかさによって敵をハメることを得意とする、敵に回したくない厄介者だった。

 

 その祖、七星シズカの上司であり、師匠であった毛利モトナリ。

 実は性格が悪い。

 

 かつて七星シズカが『結界は完成すると壊されるので、結界内の妖魔全部ぶっ殺す結界を途中まで仕上げて、ぶっ殺しの前段階である中から出られない状態で止めとこ』と結界術を応用したように、桜の高度をみるみる下げているこの作用、とある結界の完成効果の、途中である。

 

 まず、『ある場所』に対象を引き寄せる。

 この引き寄せ効果が現在、発動している。

 

 高度が下がった桜は、自分を降ろそうと引っ張っている場所の存在を感知した。

 そして、そこで待ち受ける者を、見つけた。

 

「二手目」

 

 梅雪の声が降って来る。

 

 一手目が完成する前に発動する、梅雪の仕掛け。

 三手で桜を詰むと宣言した彼が用意した二つ目の策とは……

 

「軍を展開した場所に誘い込む」

 

 そこに待機していたのは、梅雪が(よしみ)を結ぶことで、クサナギ大陸にその存在が認知された集団であった。

 その集団は、はるか北の雪山に学園都市を展開していた、特殊戦術のエキスパート。

 妖魔を封印するボールを投げることに特化し、その妖魔に対する必殺となるボールを当てるため、妖魔を使役する戦術に長けた人材。

 

 桜は、自分が引っ張られている場所の形が、ダイヤモンド型であることに気付いた。

 そして、そのダイヤモンド型を中心に、スタジアムが設立されている。

 

 もともとは帝都歌劇団の野外公演上として設計されたそこは、ベースボールスタジアムと化していた。

 そこに展開する乙女たちの名は──

 

「──恐山(おそれざん)学園都市荒夜連(こうやれん)。この俺が、まさか最後の三手目だけ必殺で、あとはカスみたいな時間稼ぎをするかと思ったか? 残念だったな。三手、すべて必殺だ。耐えてみろよ、妖魔」

 

 妖魔の軍勢が展開する。

 乙女たちが黒と白のボールを構える。

 

 一手目の仕掛けさえまだ効果が判然としないこの段階で、弱った状態で当たればあらゆる妖魔を封印するボールが、ダイヤモンドの内外から、桜に向けて投げられる。

 

 かくして始まった今シーズンの目玉試合。

 

 氾濫の主人vsピッチャー二十七人。

 奇跡の一戦、死合開始(プレイボール)

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