悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する 作:稲荷竜
ピッチャー二十七人、腕を回して、投げた。
全球
第一級にして第二十七球。
デッドボール。
素早さ、長打力、
地獄の
急加速からの相手を一刀両断する袈裟懸けは、桜が師匠である剣聖シンコウに対抗するため生み出したものだった。
桜が修めた
対シンコウ用に編み出した突進袈裟懸けは、奇しくも愛神光流の弱点であった『先制攻撃手段の少なさ』を補い、さらに、不死者向きの剣術として、桜が不死となったあとも、幾多の敵を斬り裂いてきた。
しかしピッチャーにバットを振り下ろすという一発シーズン出禁間違いなしの暴挙に、物言いが入った。
黒い雷光がバッターとピッチャーの間に割り込む。
バッターの目が、驚き、見開かれ、けれど、口元は笑った。
「ルウ!」
「間に合ったようで何よりだ」
背後。己が背負った守るべき者──サトコへと、向いている。
サトコは被った帽子を軽く下げると、再び投球モーションに入る。
バッターに
サトコの投球モーションに合わせて、他のピッチャーたちも思い思いの球を握り、モーションに入る。
呼吸の合わせ方は抜群に上手い。投擲攻撃・投射攻撃を集団で行う場合、息を合わせて一斉に放り投げ、弾幕を形成しなければ意味がない。
ルウが二刀を以て桜に斬りかかり、桜がピッチャーを攻撃する隙をなくす。
その背中を巻き込むように、ピッチャー、第五十四球、投げた。
デッドボール。
ただし味方陣営には一球たりとも当たらない。二十七の球は、それぞれ、カーブ、シンカー、スライダー、フォークとやりたい放題に変化して、見事に味方の背中を避ける。
恐山学園都市荒夜連は、誰かの背中に隠れてひたすら石を放り投げるいじめみたいな戦法を長年研鑽してきた。
その理念により磨かれた投球は、『対・雪女』、そして『対・剣士』を想定された道術投射攻撃だ。
ボールに異物を塗り込んで変化を出すなど通常の球技であれば反則だが、二十七人のピッチャー登板が許される尋常ならざるデス・ソフトボールにおいて、放り投げる石に道術を絡めて異常変化を起こすことは一切禁じられていない。
直角フォーク、鋭角カーブ、二段変化。なんでもありの軌道が正確に桜にだけデッドボールする。全ソフトボールファンは刮目せよ。これがおおよそ人の一生で見る量を超えたデッドボールが、一堂に会する瞬間である。
デッドボール。
いくつかの球は桜の体を貫き、穴を空ける。頭部を貫いたものもあった。
高野連の乙女たちは黒と白の球を使い分ける。白い方が攻撃力があり、変化させやすい。黒い方は、妖魔を捕獲できる。
桜の頭を貫いた球は黒かった。だが、天才術式開発者・マサキが作製した妖魔捕獲ボールをして、まだ桜を捕らえるには弱らせ足りない。
無尽蔵のスタミナを持つバッター。
ここでルウを抜け、妖魔を斬り、サトコに一直線に襲い掛かる。
この集団のリーダー的なポジションを、桜は察した。あの青髪の少女。すべてのピッチャーの動きの起点はあの少女だ。だから、潰す。あまりにも戦術的な判断。
だがしかし、ここで攻守交替。
防御側、恐山学園都市荒夜連に代わりまして……
重圧が増す。
周囲から、朗々と唱えられる
氷邑梅雪の第一手、毛利モトナリによる超・隔絶級大規模道術はまだ途中。
増した重圧から、桜は、毛利モトナリの結界が次の段階に進んだのを確信した。
何が来るか──などとのんびり考えている暇はなかった。
防御側は交代した。
だが、別に……
交代しても、マウンドに残ってゲームに参加はできる。
増した重圧により動きが封じられた桜へ、第八十一球が襲い掛かる。
刀を持つ手が上がらない。
桜に向けて、笑い声が降って来る。
「帝都に攻め入ったのは、愚かと言うよりほかにないなァ」
そちらを見ることも出来ない。
だが、傲慢に、見下すように笑う梅雪の顔は、ありありと想像出来た。
とても、いい顔をしているに決まっていた。
「ここは俺の膝元だ。普段、貴様がしているような超物量による飽和攻撃──この帝内地域であり、あらかじめ貴様が攻めてくることがわかっている状況であれば、俺は人材の動員によって行える。貴様はクサナギ大陸の端っこに出て、俺が全部の手駒を展開出来ないように立ち回るのが、一番勝率が高かったんだよ」
これは、勝ち誇り──
(──じゃない。欺瞞だ)
桜は、見抜く。
何度か梅雪に勝ち誇られている桜には、わかっていた。
梅雪が本気で勝ち誇っている時は、もっとテンションが高く、早口になる。
だいたい──おかしいじゃないか。
もしも飽和攻撃による処理落ち狙いだとしたら、どうして梅雪は、そこで見ているだけなのか?
飽和攻撃による処理落ちは、注意力を散漫にして、普通では当たらない必殺を当てる準備だ。
ならば梅雪が参加しない理由がない。対・自分戦において、誰かが『必殺』を担うなら、性格から言ってそれは梅雪だろうし、そもそも、梅雪の戦い方は、相手の処理力を飽和させるのに向いている。
剣の達人が、十全に剣戟をしながら、多角的に道術攻撃まで行ってくるのだ。今の状況にそれを加えられたら、桜はもう、思考も動きも絶対に追いつかない。
それなのに、梅雪はただ見ている。
ウメも、その横に控えて、ただ見ている。
(投石攻撃に巻き込まれないように距離をとってる、なんていう理由じゃないよね。それを怖がる性格じゃないし、怖がってるとみなされるのを許せる性格でもない)
そして、この飽和状態は、三手目ではない。
梅雪は『一手』を一手と数え聞かせていた。
性格から言って、三手目が発動したなら、『三手』と発声し、桜に聞かせるだろう。
何かを隠している。何を?
(……それがわかれば、苦労はしないんだよなあ!)
だから桜は場当たり的に対応するしかない。
……だが。
やられっぱなしでいるほど、大人しくもない。
桜の主な能力は、『影の召喚・使役』、『不死性』、『愛神光流剣術』に、今は『ミカヅチの雷撃』だと思われているだろう。
けれど、『主人公』は進化を止めないのだ。
梅雪の変化が剣聖シンコウに進化を促したように、桜もまた、梅雪を意識することによって、進化を遂げている。
それは梅雪が知りようのない一手だと、桜は確信していた。
『主人公』は、剣術使いの剣士である。
道術は、からっきし。
しかしそれは、初期状態の説明文だ。育つうちに、『主人公』はあらゆるものに適性を持つ。桜もまた、同じように、進歩した。
道術──
そして、クサナギ大陸……
剣士。
道士。
それから──騎兵。
筋肉と魔法、科学・機械の三すくみが、剣桜鬼譚の売りである。
「装着」
桜のつぶやいたキーワードに従い、どこからともなく、金属部品が、桜に向けて飛んでくる。
高速で飛翔する、まったく想定になかった金属部品は、荒夜連の乙女たちの攻撃を一瞬止め、桜に装備を更新する隙を与えた。
……それは、騎兵である。
すべての騎兵は、ミカヅチの加護を持つ者の前だと、動作に異常をきたす。
だが、その騎兵だけは、例外なのだ。
甲府山中に存在するミカヅチ。それを代々受け継いできた、
もともとあった主家の滅びの際に山中のミカヅチ迷宮と周囲の大名を糾合して大大名となったその家は、かつて、剣聖シンコウを奴隷として飼っていた家でもある。
その家には、ミカヅチの加護を持ちつつ操ることができる、一つの機体が伝わっていた。
桜の装備が終わる。
脚には、スラスター付きの機械脚甲。
腕には、ウィングと、やはりスラスターのついた、機械手甲。
胴体装備だけがやけに薄いが、周囲に浮かぶ八枚の盾が、この機体の防御力を担保している。
ただしそれは、盾に見えるだけで、盾ではなかった。
ゲーム剣桜鬼譚において、クサナギ大陸最高硬度の機体がアシュリーの駆る
八枚の盾のように幅広で巨大な刃を浮かばせる、穴山家の前にあった大名家伝来の騎兵。やたらと胴部装甲の薄い、空を駆け、ミカヅチにさえ影響されず動作するそれは……
「
装着者の速度と攻撃力を飛躍的に伸ばす、脚甲、手甲、そして八枚の刃を持つ騎兵。
搭乗した桜が、駆ける。
その速度は、先ほどまでの比ではなかった。