悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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エピローグ 過去と未来
第327話 朝から晩まで


 大人の世界に踏み入ると、人生のほとんどが事後処理に費やされるということに気付く。

 

 氷邑(ひむら)家当主梅雪(ばいせつ)が異世界勇者侵攻後に着手したのは、氷邑領の被害状況をまとめさせることと、民衆に対する補填、その財源をどこにするかを決めるということだった。

 

 幸いにも氷邑領に被害者らしい被害者はいなかったものの、氾濫(スタンピード)で湧いて出た異界のモノどもに直接攻撃をされた者は少数でも、避難する際に他の民衆とトラブルになったり、ただの紛失か盗まれたかそれとも嘘かは知らないが、家財を失くした者も一定数いた。

 また、家族とはぐれてしまった、いなくなった子供が戻らない、などのこともあり、これらの処理が梅雪の最初の仕事となった。

 その結果、梅雪は思う。

 

「戦争はクソだ」

 

 事後処理と財源確保が大変すぎる。

 しかも相手が異世界勇者であり、被害を出すだけ出して消えてしまったので、賠償金のとりようもない。

 

 自分の代でもし戦争をするなら、充分な賠償金をとれる相手としかやらない、と梅雪は固く誓った。

 そして氷邑家から見て充分な賠償金がとれる相手というのは、毛利か帝か七星(ななほし)ぐらいのものである。

 

 

 七星家侍大将七星彦一(ひこいち)は、このたびの異世界勇者侵攻で片腕をなくす大怪我を負った。

 これは帝やその部隊を明智光秀の自爆から庇う際に負った傷である。

 

 この命を賭した忠勤は大いに評価され、七星彦一には数々の褒章・勲章、そしてその主家たる七星家にも帝から直々にお褒めの言葉が下されることとなった。

 ……またしても功績を挙げすぎた氷邑家とバランスをとるという裏の意味もあったものの、彦一の忠勤は事実であり、その結果、帝とその部隊の被害が抑えられたこともまた、事実である。

 

 かくして彦一は『忠義の士』として半ば伝説的な存在となり、それを題材にした演目も複数作成された。

 異世界勇者侵攻後における大英雄となり、一時は、彦一を扱った演目が、帝の祖を扱った演目(その中でも鉄板とされるもの)よりも多く上演されるなどということが起きた。

 

 これは実のところ、七星彦一にとってあまり歓迎されることではなかった。

 

 まず彼は芝居の演目となることがなんだか恥ずかしく、そして、芝居の主役、つまり自分の役の俳優がやたらと顔がよく、恥ずかしいセリフを堂々と大声でしゃべるのが見ているだけで恥ずかしく、帝都などに行くと多くの人が自分を見て手を振ったり声をかけてきたりするのに応じるだけで疲れ果ててしまう性格の持ち主だった。

 

 そしてこのたびの大活躍、『七星家の武、彦一にあり』とまで言われる随一の活躍を経て、そしてその活躍により片腕をなくして、このような問題が浮き彫りにされてしまったのだ。

 

「それで彦一よ。……嫁はどうする」

 

 妻というものを得ないといけない立場なのはわかっている。だが、なかなかどうして、なんだろう、まあ、その……という感じでずるずる先延ばしにしていて、最近は何も言われなくなったので逃げ切れるかなと思えたところに再び浮上した後継者問題は、彦一を大いに悩ませた。

 

 そもそもにして七星家侍大将・七星彦一は、より取り見取りの立場にある。

 

 それがこのたびの大活躍でさらに選べないほどの量の嫁候補が名乗りを上げ、彦一がなんか嫁をとらない気配だったのであきらめていた家もこの機に乗じるべく勢いを増し、彦一に自家の娘を嫁がせようと躍起になった。

 

 忠義にあつく、実力があり、人望があり、冷静で物分かりがよく、立場があり、当然、収入もあり、しかも安定している。

 顔は迫力がありすぎるが悪いわけではない。体つきも筋肉でふくらんでいて力強い。

 最初から七星彦一は超優良物件であり、そもそも『この人』と指示せばすぐにでも結婚できた。そういう人材なのだ。

 

 だがその状況が逆に彦一に結婚を控えさせた。

 誰かを選ぶこと、すなわち誰かを切り捨てるということが、彦一は苦手だった。これが軍事であれば必要性からそういった選択をすることもできただろうが、嫁とりとなると……申し訳なさで、誰かを選ぶことができそうにない。

 

 しかしそのような時、誰もが黙らざるを得ない相手が、彦一の妻に名乗りを上げた。

 

 先の帝都騒乱で夫たる帝家の隠密頭を失っていた、帝の実姉である。

 

 この隠密頭、死亡が確定したのはつい最近のことであり(帝都騒乱の前に行方不明になっており、潜伏が警戒されていた)、喪に服していたところだった。

 その喪が明けたタイミングで異世界勇者侵攻が起こった。

 

 そうして七星彦一大活躍となり、しかし嫁がいないという状況で、帝家でも『なんであれだけの男がまだ独身なんだ』『性癖が異常なのか』などと噂になり、調査をさせた。

 かくして彦一を取り巻く『誰を妻に選んでも角が立ちそうな状況』と、『その状況で誰かを選ぶことができない彦一の性格』が浮き彫りになった結果……

 

 帝の実姉が、名乗りを上げた。

 

 こうすると他の彦一の嫁候補は黙らざるを得ない。

 先の帝都騒乱で夫を亡くした悲劇の人であり、一方で未亡人であり、年齢も、二十代とはいえもう『嫁入り』には遅い──クサナギ大陸の感覚だと武家の者の結婚は十代ですべきである。

 そういう人なので、『後釜』とかも狙えるかな、という打算もあり、彦一に嫁入りしようとしていた人たちも大人しく黙ったと、そういうわけだった。

 

 もちろん政治的なバランスも考えられている。

 現在は氷邑・七星が『帝の両輪』として存在しているわけだが、氷邑家当主が帝の妹を娶ったのに対し、七星侍大将家は三代前まで遡っても帝の縁者の血が入っていない。

 

 両輪はどちらかが大きくなりすぎると横に転ぶ。そういうわけで、何もかもがちょうどいい──帝の実姉と彦一の年齢も、クサナギ大陸的な価値基準からするとちょうどいいので、二者の結婚が決まった。

 

 もちろん恋愛での結婚ではなかったが、根っからの従者気質である彦一は帝家隠密頭と性格的に似たところがあり、帝の実姉との相性はよかった。

 彦一の方もまた、『妻を迎える』というのは苦手に思っていたが、『貴人にお仕えする』──ようするに尻に敷かれるのは得意であったので、この二人の仲は『夫婦』と呼ぶと少し違うところもあるが、睦まじいものとなる。

 

 二年後には第一子も生まれ、幼名として牛太郎(ぎゅうたろう)という名がつけられた。

 幼名文化はクサナギ大陸の武家にはなく、基本的に帝家にのみ存在する。牛太郎は七星家侍大将後継者と望まれてはいたものの、ことさら母からの寵愛甚だしく、帝家に連なる者の作法で名づけられた、というわけだった。

 

 この牛太郎と同じ時期には、氷邑梅雪の第一子も生まれる。

 

 牛太郎と氷邑梅雪の娘とは将来の結婚を望まれ幼いころよりたびたびともに遊ばされたが……

 

 氷邑梅雪の娘には、問題が一つ……二つ……三つ……それなりに、たくさんあった。

 

 まず性格が苛烈であること。

 そして……

 

 ……勇者の資質を備えていること。

 

 この二つが、とりわけ大きな問題であった。

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