悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第37話 帝都観光

 夕山が顔をすっぽりと頭巾で隠した姿になって、デートが始まっている。

 

 氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)は困惑していた。

 

「あ、そ、そ、そ、そういえば、(みかど)の妹と、氷邑家の嫡男の婚約が大々的に発表されましたよね! もっとみんな祝ってくれてもいいと思うんですけど、なんか、あんまり歓迎されていなくって……あなたはどう思います!?」

「そうですね。良き縁かと思います」

「ですよね!? わたし──じゃなくて姫様と、名門の御曹司ですもんね!」

 

 

「ここのお菓子、わたしが考えたんです。あ、あの、パンケーキって言って……」

「初めていただきました。大変おいしゅうございます」

 

 

「あちこちに汽車が走ってるの、すごい光景ですよね。大正ロマンみたいっていうか」

「大正ロマン?」

「あ、いえ、なんでもないですぅ。うへへへ……」

 

 

「それでですね、わたしの好きな物語の中に、令嬢に転生した女の子が、不幸になるその令嬢の代わりに能力とチートで成りあがって、女の子を幸せにする話が……」

「なるほど」

 

 

「和菓子もいいんですけど、たまにはチョコレートとか食べたくなりますよね」

「……」

 

 

「舞台演劇が盛んですけど、わたしはアニメ……あ、ええと、絵を複数枚重ねて動画にするやつも好きで……」

「…………」

 

 

(こいつ、異世界転生者であることを隠そうとしないな!?)

 

 いや、隠している感じはある。

 感じはあるのだが、隠し方がお粗末すぎて隠せていない。

 

(まぁ、異世界転生という概念を知らず、知っていても実際にそれが起こるという認識がないならば、『こいつ、もしや異世界転生者か!?』とはならぬのだろうが……それにしても……)

 

 ここまで迂闊(うかつ)な人間、いる? というぐらい、嘘がつけない。

 

 梅雪は理解した。

 

(なるほど、もしやこいつ、俺のファンか)

 

 カンナに剣桜鬼譚(けんおうきたん)の知識があるかどうかはわからないが、たぶん、氷邑梅雪のことは知っていた。

 それで梅雪推しだったのだろう。

 

(……俺を? どの点がいいんだ?)

 

 ゲームの梅雪は外道のやられ役であるので、ファンになるようなたぐいの人気はないはずだ。

 だがそういえば、一部界隈には梅雪を救うIF(イフ)などを小説で投稿している人たちもいたと聞く。そういった人たちの一味だろうか……

 

(しかし実際にこの世界で暮らしてみて、あの氷邑梅雪の妻になりたいと望むか?)

 

 こうして冷静かつ客観的に見ていくと悲しい事実ばかりが思い浮かぶのだが、氷邑梅雪、顔の良さと外道にも一定の人気が出ることから、推すまではありうる。

 だが実際にこいつと結婚したいかと言われると絶対に嫌だ。もう本当に無理だと思う。傍点つきで強調してもいいぐらい、嫌だ。

 

 もちろん最近の梅雪は急激にマシになっているので、それを知っていれば結婚を考える者もいるかもしれない。

 しかし、カンナが最近の梅雪を知る機会はないはずだ。少なくともカンナの護衛筆頭であろう、いかにもな隠密女は、最近の梅雪について知らず、梅雪が知能がありそうな言動をしたことに驚いている様子だった。無礼な女なので今度土下座させようと思った。

 

(しかし俺への態度、それにこの……なんだろう、出会いの演出というのか……『街で出会ったあの人が実は婚約者だった』というシチュエーション作り、加えて俺のために命を懸けるユニットであること……こいつ、完全に俺との婚約を望んでいやがる)

 

 自分との婚約を望まれることを不可解と言いたくはないが、まあ、不可解ではある。

 

(まさか十割趣味で『帝の妹』が『外道素行不良剣士才能皆無統率一煽り耐性ゼロ男』と婚約をするわけがない……そこにはきっと帝の思惑があるはず……)

 

 カンナはこのように自分の影響力と政治的な意味をぜんぜん認識しないで信念のままにふるまうので、周囲を勘違いさせる系転生者であった。

 

 もう転生者であることは隠せていないし、だんだん、『さる貴族のご令嬢』という設定もはがれてきていて、帝の妹であることを隠さなくなってきている。

 今や隠せているのは顔ぐらいなものであり、それも、周囲が不自然なまでに人払いしていなければ、ちょっと危ないシーンもあった。

 

 カンナは梅雪を連れて街汽車に乗りつつ、最後部の座席でとても楽しそうにしていた。

 油断が極まっているカンナは、誰も車内にいないと知るや、普通に頭巾を取って顔をさらした。

 

 その横顔の美しさに、梅雪は思わず目を奪われる。

 

 カンナの毛先に行くにつれ様々な色になるピンクの髪、虹の瞳、快活にして優美、されどふと遠くを見ると物憂げにも見える顔立ちは、造形的に間違いなく美しかった。

 だが、それ以上に梅雪の心を奪うもの、それは……

 

(……ああ、そうか。俺は、俺といて楽しそうにする者の顔を、はる以外に知らなかったのか)

 

 本当に裏がないだけに、カンナの楽しそうな様子には、『ステータスが見えるから』という以上の説得力でもって、裏がないことを梅雪に理解させた。

 

 仲間は増えた。

 

 だが、アシュリーもウメも家臣である。

 そこにはどこか、この世界なりの身分制度が(かお)る。彼女らにとって梅雪は見上げるべき相手であり、その命を守るのは職務という理由もある。

 

 ……しかし、カンナには、そういう身分制度の中にいる感じがまったくなかった。

 

 つまり、

 

(……これが、もしや、友人というものなのか?)

 

 あらゆるしがらみを脇にどけて笑い合える関係。

 (はら)に何もないからこそにじみ出る屈託のなさ。

 

(…………いや、いくらなんでも急激に好意が高まりすぎだ。スキルの効果を疑ったほうがいい)

 

 たとえば『愛し子』などが怪しい。

 ゲーム的な補正はどうかは知らないが、いかにも人を魅了しそうなスキルだ。

 

 梅雪はちょっと冷静になった。

 しかし、事実としてカンナには陰謀の気配がないのだ。好意しか含まれていない真っ直ぐな表情には、小理屈をねじ伏せて人の心を貫く威力がある。

 

 自分の感情に自分で戸惑いながら過ごしているうちに、いつの間にか夕刻になっていた。

 

 別れの時間だ。梅雪は宿をとるつもりであり、『さる貴族のご令嬢』たるカンナもまた、帰るべき家がある。

 

「よかったらうちに……」

「姫様!」

 

 護衛のメガネ女がもう『姫様』って呼んじゃってるのだが、正体を隠しているつもりでいるはずのカンナからさえ、突っ込みはなかった。

 

 さすがに帝の住まう蒸気塔に招くわけにはいかないのだろう。っていうか、そこに招いたらもう、正体をバラすタイミングになってしまう。

 のちほど『あなたはあの時出会った!?』をするためには招けない。

 まあ、氷邑家嫡男であり、帝の妹を迎えに来ているので、相手的にはむしろ招くべきなのだけれど、奇妙な演出のせいでそれができなくなっているのだ。なので梅雪も急遽宿をとらねばならなくなっている。迷惑な思いつきではあった。

 

「あなたとはまた出会える気がします」

 

 このセリフを言いたかったんです、という顔で言われてしまうともう、どうしていいかわからず、ちょっと笑ってしまうのだが……

 

(何もかもあけすけで、めちゃくちゃな女だ)

 

 梅雪はこれを『おもしれー女』と見ていた。

 

 ここで『しょうがない、最後までロールプレイに付き合ってやるか』というサービス精神がわいてきたのも、この女のことを気に入ってしまったから、なのだろう。

 

「私も、そのような気がしています」

 

 演出されたロマンチックの中で見つめ合う。

 梅雪は表情作りにかけても天才的であった。だが、カンナはそんなこともなく、シリアスな顔をしたいのだろうが、ニヤニヤがこらえきれておらず、唇がむにむにと動いていた。

 もしかしたら前の世界でこの女の『中の人』が作っていた二次創作梅雪夢小説で、こういうシチュエーションを書いたことがあるのかもしれない。

 

 このままだと永遠にお見合いしていそうな気配を察したのか、ロールプレイが長すぎた時に先のシーンへの進行を促すTRPGのゲームマスターのごとく、メガネ女が「本日はありがとうございました。こちら謝礼です。姫様、帰りましょうね」とカンナを引きずっていく。

 

 それを見送ったあと、梅雪は手の中に残された『謝礼』に視線を落とした。

 

 謝礼は結構な金額だったが、梅雪は金ならあるので特に価値を感じず、そのままウメに渡そうと振り返る。

 

 するとそこにいたのは、今日一日、ほぼ無視されて、しかも目の前でラブコメをひたすら見せつけられていた二人の女なわけだ。

 

 醸し出される空気は地獄であった。

 

 二人とも笑っているが目は笑っていない。

 特にウメ。普段表情を変えない女がにっこりしていると、これほど恐ろしいのかと実感させられる。

 アシュリーは笑顔を浮かべながらむくれているのでわかりやすいが、ウメはどうしたらいいかわからない。

 

 しかしこういう時に『ご、ごめん』とか言わないのが梅雪である。

 

 不満たっぷり、地獄の空気を醸し出す女二人に、梅雪はもらった『謝礼』を投げ渡して、鼻を鳴らす。

 

「帝都滞在の予定を一日延ばすゆえ、明日、その金で行きたい場所を考えておけ」

 

 父は言った。甲斐性の限り、いくらモテてもいいと。

 ならば甲斐性を見せる。それこそが氷邑家嫡男である。

 

 もっとも……

 

 人の金での甲斐性だが。

 

 女二人はそのあたり、あまり気にしないようだった。

 

 みるみる機嫌よさそうになっていく単純なお子様二人を前に、梅雪は内心で考える。

 

(一人に一日で、合計二日やったほうがいいやもしれん)

 

 機嫌よさそうになり、しかし互いを一瞬見て、それからまた梅雪に視線を戻して、圧の強い視線を向けてくる二人の様子に、梅雪は戦略的計画変更を決定したのだった。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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