悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第43話 帝都騒乱・破の二

「あっ、あれはたぶん、『限定的な不死能力』を持っていましてですね! 同時に全部の首を落とすとかしないとダメなヤツじゃないかなぁって……へへへ……」

 

 騒がしい劇団員……ミツコには彼女流の処世術がある。

 

 それは、

 

(偉そうな人には逆らわない!!!)

 

 というものであった。

 

 普通、戦ってる蒸気甲冑がいる戦場に乱入する者などいない。

 危険だからだ。

 

 だが、この少年は乱入し、しかも、蒸気甲冑部隊が一撃ではせいぜい体表に傷をつける程度しかできなかった化け物の首を一撃で断ってみせた。

 

(明らかに名のある大名家でしょ! こんな剣士が浪人のわけない! 逆らわないのが吉! 今日のラッキーアイテムは服従!)

 

 自分でもわけのわからないことを考えながら、知りうる限りを説明する。

 

 なお、このあいだにも『一撃で首を断った剣士』をヤマタノオロチは脅威と見て狙っており……

 

 その剣士はなぜか、ミツコの蒸気甲冑の頭の上に立っているので、ミツコは回避しながら質問に答えるという器用なマネを強要されていた。

 

「ふむ。限定的な不死能力、なるほど現実だとそういう処理になるか。で、貴様らの部隊人数は?」

 

 しかもアクロバティックな軌道をしているというのに、頭上に吸い付いたように離れず、普通に質問してくる。

 ミツコの『限界』はこうして更新され続け、『もうどうにでもなれー!』の気持ちが、今、彼女の実力を色つき蒸気甲冑乗りレベルへと押し上げていた。

 

 ミツコ。

 いっぱいいっぱいになると強い。あまり演劇に向いていない性質の劇団員である。

 

「えーっと十いましたけど今はなんか四しかいませんねぇ!? どこ行った!?」

 

「貴様らはアレに有効な攻撃ができるのか?」

 

「一回首を撃ち砕きました! でも火力がもうなくて表皮に傷をつけるぐらいしかできません!」

 

「ふむ。使えんやつらだ」

 

「申し訳ございません!」

 

「だが、貴様の態度は気に入った。喜べ。この俺が指揮をとってやるゆえ、貴様らは質問なく、言われた通りに動くのだ」

 

「イエス、サー!」

 

 だがこれに反発しそうになったのは、この部隊を率いるリーダーである。

 

 ミツコのクソデカボイスでおおむね状況を把握していたリーダーは、遠くから大きな声で叫ぶ。

 

「唐突に出てきたどこの誰とも知らんガキに指揮権を渡せるわけ──」

 

 リーダーの蒸気甲冑が唐突に高度を落とし始めた。

 見れば甲冑の片足が斬られている。……蒸気甲冑は、『甲冑』とは言っても胴部のコクピットに乗り込んで操作をするので、足や腕が斬られても中の人は無事である。

 だがそこそこの高度から降下していくので、姿勢制御に必死なリーダーの哀れな声があたりに響いた。

 

 頭上の剣士が、問いかける。

 よく見れば、その剣は、振り終わったあとの残身状態にあった。

 

「他に異論がある者は? なるべく減らしたくないのだが」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 なさそうだった。

 仮面の剣士は「ふん」と鼻を鳴らす。

 

「では指揮権を譲り受ける。一名、落ちていくヤツを回収して安全圏に退避せよ。残り二名、飛べ」

「飛んでます!」

「もっと高く飛べ。限界高度まで飛べ。俺が『いい』と言うまで飛べ。もしくは落ちるか?」

「飛びます!」

「よろしい。では各々役割を認識し指示に従え。質問はもう受け付けんぞ」

 

 質問したら落とされる予感がビシビシにあって、ミツコは「了解であります!」と叫ぶし、もう一人はもう、何も言えずに笑っていた。

 

 かくして唐突に出てきた子供の命令に従い、二機の蒸気甲冑が高度を上げていく。

 

「ひいいいいいいいい!? 蛇が! 蛇が! 無防備なあたしのお尻に食いつこうとしているううううう!」

「貴様、声がデカいな」

「発声練習を頑張っています!」

「よろしい。努力の成果を見せてみろ。そのまま大声で叫びながら飛べ」

「いいいいいいいいいいいやあああああああああああああああ!!!!」

 

 迫る迫る迫る迫る。

 

 上空へ逃げ去ろうとする蒸気甲冑に何らかの策略を感じたのか、蛇が八本の首で追いすがる。

 ガチンッ! ガチンッ! と一瞬前まで蒸気甲冑がいた空間で牙が噛み合わされ、毒液がまき散らされて蒸気甲冑の尻を溶かす。

 

「うひいいいいいいいいいいい!!!」

 

 甲高い声で叫びながら飛び上がるミツコは、その頭に『首を一撃で断った剣士』が乗っていることもあり、蛇にとっての優先的な討伐目標になっているようだった。

 

 蛇。

 その全長は頭から対角線上にある頭まで、おおよそ一町(百mほど)

 つまり、頭の長さはその半分である半町ほどになるはずだ。

 

 それは何もない平原を直線で真っ直ぐ進むだけならそう長い距離ではなかった。まともな身体能力の十歳児でも十秒ほどで走り切ることができる。

 

 だが、高度、それも真後ろから食いついてくる蛇の攻撃をかわすような軌道をとりながら上がっていくとなると、なかなか到達できない高度ではある。

 

 そもそも、蒸気甲冑の限界飛行高度は十尺(三十m)ほど。

 飛行機などを知る現代人から見るとかなり低く感じられるが、蒸気の甲冑が蒸気の噴射だけで飛ぶという奇跡がそもそも起こっているので、そこに現代人の感覚を当てはめるのは野暮であろう。

 

 つまり、限界を超えないと、尻を食われる。

 

「ひいいああああああああああ!?」

 

 何が目的で飛べなどという指示をされたのかはわからない。

 だが、ミツコにとって、単純な指示を守るというのは向いていることであった。

 

 ミツコは複雑なことを考えられない。

 器用ではない。追い詰められないと力が出ない。

 

 だが、彼女には、思い切りの良さがある。

 

 尻の後ろで聞こえる『ガチンッ! ガチンッ!』という音から逃げ、背中に目でもついているかのような動作で蛇の首による殴打をかいくぐる。

 限界高度が迫り、蒸気甲冑の機体がみしみしと軋む。

 ミツコは歯を食いしばって、力いっぱいに蒸気バーニアのレバーを握りこんだ。

 

 ガタガタガタガタと機体が震える。

 

 ここまでの上昇は設計で想定されていないのだ。理論上、限界高度を超えると蒸気甲冑は推進力が機体重量を下回って落ちるとされていた。

 だが。

 

「いいいいいいいいけえええええええええええええええええええ!!!」

 

『声で気合を乗せたところで、兵器が限界を超えられるわけがない』。

 ……それはこの世界の常識ではない。

 

 コクピットのミツコの全身からとてつもない量の神威(かむい)がほとばしる。

 それは愛機の全身へと行き渡って、色なしの予備員(モブ)用蒸気甲冑の全体を、黄金色に輝かせた。

 

 光の筋を曳きながら、黄金の蒸気甲冑が昼の空へとのぼっていく。

 高度五十mを突破して進むそれは、光の柱。人の想いが起こしたまぎれもない奇跡。

 

 その奇跡を見上げて、

 

「ようやく、斬りやすいように首が伸びたなァ?」

 

 少年は仮面の下で凶悪に笑う。

 

 空を踏んで立つ彼は、この状況を待っていた。

 

 八又の蛇。そのすべての首が真上を目指して伸び切る瞬間。

 それすなわち、一刀ですべての首を断てる瞬間──

 

 肩に担ぎ、刃を横に寝かせる。

 風が集まる。

 それは刃の長さを補った。長く、長く、長く、長く……

 

 視界に映るものすべてを両断できるほどに長くした刃を、少年は横薙ぎにする。

 

 八本の首を断つために振るった刃。

 手に返ってきたのは、ほとんど抵抗もない、『スッ』という感触のみである。

 

 血振りのような動作──氷邑家の血振りは、刃の切っ先を相手側に向けて、柄の頭を叩きながら剣を回転させるというものである──をしてから、鞘に納める。

 

 次の瞬間、蛇の魔物の八つある首が一斉にズレ、地に落ちて行く。

 

「風の刃を伸ばして巨大なモノを断つ。先ほど甲冑の脚を斬った技法だが、ここまでの距離を伸ばすとなるとまったく別な技だな。……空断(そらたち)とでも号するか」

 

 蛇の立てられていた首が、頭を失い、すさまじい轟音を立てながら地面へと落ちて行く。

 もう再生しない。

 それを見届けて……

 

 少年(ばいせつ)は、その場をあとにした。

 

 西区での騒乱、状況、収束。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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