悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第46話 帝都騒乱・急の二

『カドワカシ』が帝都火撃(かげき)団を狙うのには理由がある。

 みな、容姿がいいからだ。

 

 カドワカシはかわいい女の子が好きだ。

 男なら誰だって当たり前にそうだろう? 『人の良さは、性格の良さ、つまり、心の綺麗さこそが、人の美しさなんだ』と言うやつだって、結局は『最低限の容姿』を前提にして物を言っているにすぎない。

 ずっと目にするのは姿であって心ではない。だから、容姿で人を好きになることは何もおかしくない。

 

 ただし彼には二点ほど欠点があって、それは生まれつきの容姿の醜さ、それから彼の愛し方の独特さにあった。

 

 彼にとって『愛する』というのは、『すべてを受け入れてもらうこと』だった。

 ところが彼のすべてを受け入れると、女性というのは壊れてしまう。

 

 嫉妬を、憎悪を、暴力衝動を。

 

 彼にとって暴力は甘えだった。容姿に優れた強い女を屈服させ、泣きわめき助けを求めるしかできない状態にする時、彼はとてつもなく興奮し、愛を感じることができた。

 

 彼にとって憎悪は懺悔だった。醜くてごめんなさい。醜いせいで美しい人を恨んでしまってごめんなさい。顔がいいってだけでいい扱いをされて、顔がいいなりの夢を目指せる人が許せないんです。自分が最初から奪われていた選択肢を選び取れる人が憎いんです。どうかあなたも失ってください──そういう想いを吐き出すように凌辱する。すると、相手が自分以下に堕ちていく感じがして、安らぐことができた。

 

 彼にとって嫉妬とは当然抱いて許されるものだった。だって、こんなに醜くて、太くて、怠惰で、心の中にずっと、恨みつらみがあるんです。美しければ。背が高ければ。金持ちならば。きっと、こんな苦しい想いを抱えて生きずに済んだのに。どうして、どうして、自分はこんな、美しい連中ならするはずのない苦労を神から課せられているのか──

 

 許せない。

 

 自分は神に選ばれたこの世の最底辺だ。

 

 だから人からいくら奪っても許される。

 

 奪う相手は優れた者がいい。

 

 容姿がいい者。家柄がいい者。才能がある者。選択肢がある者。希望がある者。

 

 未来が、ある者。

 

 ゆえに、

 

 彼は、

 

 子供が、好きだ。

 

 美しい子供が、好きだ。

 希望と可能性にあふれていて、好きだ。特に目に自信とか使命感みたいなものが感じられる子供がいい。自分はあんなに愛されていなかったのに、あいつは誰かに愛されていると思うと、()る気がみなぎる。

 

 だから、この戦場に子供が二人乱入した瞬間、彼のターゲットはその二人に変更された。

 

「『騎兵殺し』ィ! あいつらは俺がもらうぞぉ!」

 

 異常に細長い腕と異常に巨大な武器を持つ『騎兵殺し』は、『勝手にしろ』とでも言いたげに肩をすくめた。

 前髪に隠れた目には侮蔑の色がある。彼らは一時的に協力関係にある凶悪犯同士ではあるのだけれど、それは互いの間に信頼があることを意味しない。

 

 そして『騎兵殺し』もまた外道である。

 子供が凶悪犯罪者『カドワカシ』の毒牙にかかろうというのを止めてやるような義侠心もなかった。

 

「待て──!」

 

『カドワカシ』に(かどわか)された者の末路を知っている桃井(もものい)は、蒸気甲冑のバーニアのレバーを握りこみ、その太った背中に刃を突き立てんとする。

 だがこれを阻むのは『騎兵殺し』の細長い腕であった。横薙ぎに振られた斬騎刀(ざんきとう)が桃井の進撃を阻み、ここに『騎兵殺し』vs桃井、『カドワカシ』vs女の子二人という最悪の相性の対戦(カード)が成立してしまう。

 

 どうにか横薙ぎをかわしつつ、桃井は視線を子供たちの方へと向けた。

 

 なぜ、この場所に子供たちがいるのかはわからない。

 騒ぎの中で逃げ遅れたのだろうか? それとも──捨て置かれたのだろうか?

 

 ありうる話だ。あの子供たちは天狗(エルフ)と獣人、それも半獣人である。

 天狗の方は騎兵乗り用のパイロットスーツだが、獣人の方は下働きの服だ。おそらく剣士襲来の混乱の中で主人に見捨てられたのだろう。

 

 ……桃井は、必死であった。

 

 それゆえに、失念していたのだ。

 

 自分の突撃を阻んだ機工甲冑を誰が投げて落としたのか。

 

 桃井からは投げる姿は見えていなかったとはいえ、超質量の機工甲冑が勝手に空から降ってくるわけでもなし、誰かが投げたに決まっているのだ。

 

 それをしたのが誰か、彼女はうまく認識していなかった。

 

 ゆえに、桃井の視線の先で起こったことは──

 

「四肢を焼いて持ち運びしやすくしてやるからねぇ!」

 

『カドワカシ』が手のひらから炎の弾を放つ。

 それは直径二尺(六十cm)はありそうな巨大なものであり、速度もまたかなりのものだ。

 込められた神威(かむい)量も相当であり、あんなものを食らっては、四肢どころか全身を一撃で呑まれて焼け(ただ)れかねない。

 

 逃げて、と桃井が叫ぶ暇もなく、絶望的な火炎が獣人の少女に迫る。

 

 その時、獣人の少女が、ゆっくりと腰に差した刀の柄に手を乗せた。

 

 桃井は、ようやく気付いた。

 

(下働き服の女の子が、帯剣?)

 

 これまでまったく連続性を持ってつながらなかった複数の事実が、急激に桃井の中でつながっていく。

 

 機工甲冑は誰が投げたのか。

 自分の決死にして必殺の一撃の軌道を阻むように落ちてきたのは偶然か必然か。

 明らかに凶悪犯とわかる風体の男に襲い掛かられているのに、獣人の女の子の、あの奇妙な落ち着きはなんなのか。

 なぜ、彼女は刀を差しているのか。

 

 彼女の主人は、本当に彼女を見捨てたのか──

 

 その答えが、次の一瞬に詰まっていた。

 

 赤い髪の犬獣人の少女は、刀を抜く動作と同時、地を舐めるように低い姿勢になり、炎の弾と地面の間を通り抜ける。

 なびいた赤い髪がわずかに炎に触れて、その毛先が一瞬で燃え尽きるのも構わず、少女は地を這うような低さで回転しながら抜刀。

 

 その時にはすでに、『カドワカシ』は刀の間合いにおり……

 

 少女の刀が、一撃で、『カドワカシ』の右腕を、前腕の半ばから断った。

 

「………………は?」

 

 それは桃井の声だったのか、それとも『カドワカシ』か、もしくは『騎兵殺し』の声だったのかもしれない。

 誰もが少女を侮っていた。なんの抵抗もできずに、凶悪犯に好き放題されるだけの被害者だと思っていた。

 

 だが、彼女の主人は、この強さを知っていた。

 

 ゲーム剣桜鬼譚(けんおうきたん)における名は『トヨ』。まぎれもない天稟(てんぴん)を持った剣士。

 

 その剣術の才は剣聖に誘拐されてから数年で愛神光(あいしんひかり)流の皆伝を受け取るほどであり──

 

 その剣士としての才は、世界に愛された主人公と並ぶほどである。

 

「はああああああああああああ!?」

 

『カドワカシ』のそれは、驚きであり、疑問であり、そして、半ばから欠けた己の腕から発する痛みのための絶叫であった。

 

「お、俺の腕ェ……!? 俺の腕がああああ!?」

 

 慌てふためく『カドワカシ』。つい、動きを止める桃井と『騎兵殺し』。

 

 それを見て少女はつぶやく。

 

「……情けない」

 

 ほんの幼い少女の呟きの意味を正確に推測できる者が、この場に一体何人いようか?

 

 彼女は腕ではなく首を断つつもりであった。だが、初の命懸けの実戦で知らずに腰が退けてしまい、間合いを半歩読み違えて、結果、無防備に立てられていた腕を断つ程度になってしまったのだ。

 

 彼女が『情けない』と述べた相手は、己自身である。

 

 きちんと修行通りにやればこの一撃で終わることができたのに、という後悔が、彼女の口から漏れて出たのだ。

 

 だが、その言葉は……

 

「な、な、な、情けない、だとぉ……!?」

 

 幼い少女に腕を断たれ、喚くだけであった『カドワカシ』に刺さった。

 

 ゴンッ、ゴンッ。空気が燃え上がる音がする。

 見れば『カドワカシ』の腕の断面から炎があふれ、目さえ燃え、口からもまた、荒い吐息の中に炎が混じっていた。

 

「この俺がァ……情けないだとォ!? お前のような綺麗で愛されたガキに何がわかる!? 醜く弱く生まれついたというだけで、普通の人より多くの努力をしなきゃならなかったこの俺のことを! 恵まれたガキが語るなぁ!」

 

 少女の顔には表情らしきものが浮かんでいなかった。

 

 それゆえに、その表情は、見た者の内心を映す鏡となる。

 

「世間の厳しさを教えてやる……自分が恵まれて生まれ育っただけだってことを、教えてやるぞ、ガキぃぃぃぃぃぃ!」

 

『カドワカシ』の全身から炎が吹き上がる。

 

 それを見て、少女──ウメの後ろで、漆黒の機工甲冑、阿修羅が問いかける。

 

「手伝うか?」

 

 ウメは応える。

 

「いらない」

 

「わかった」

 

 少女たちのやりとりはたったそれだけだった。

 

 そこにあるものを信頼だと表現されれば、きっと、彼女たちは否定するだろう。

 そこにあるものを友愛だと表現されれば、彼女たちはイヤそうに顔をしかめるだろう。

 

 彼女たちは別に、仲がいいわけではない。

 

 ただ──

 

 彼女たちは、一人の主人を愛する者である。

 

 その共通点でのみ結ばれた彼女たちは、主人の命令を破るようなことだけは互いに許さない。

 

 だからウメは『勝って生き残り、名を上げるから邪魔をするな』という意味で応じた。

 

 アシュリーは、ウメが単身で目の前の男に挑んで生き残れることを信じた。

 

 なぜなら、主人に命を懸けることを許されていないのだから。

 

「じゃあ──オレはこっちだな」

 

 漆黒の、まんまるい機工甲冑が、重々しい、だというのに音のしない不可思議な歩行で、『騎兵殺し』へと近付いていく。

 

 ウメに名を上げろと主人は言った。

 

 だが、それはそれとして、あとから来た女に負ける気は、アシュリーにもない、し……

 阿修羅にも、ない。

 

 氷邑忍軍頭領の名は伊達(だて)ではない。

 それを証明すべく、彼女も、彼女の敵へと歩み寄っていく──

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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