悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第47話 帝都騒乱・急の三

『なあ、なんでアンタはそんなに、騎兵に躍起(やっき)になるんだ? 騎兵に親でも殺されたのかい?』

 

 仲間内でいつの日にかあった笑い話を、『騎兵殺し』は思い出す。

 

 不思議なことに、『騎兵殺し』が騎兵に執着する理由を、みな求めるのだ。

 

 それも、何か特別なエピソードを、だ。『親を殺されたのか?』だの『恋人を寝取られたのか?』だの。

 そう聞かれるたびに、『騎兵殺し』はうざったい思いとともに、こう答える。

 

『なんとなくだ』と。

 

 強いて自己分析をするならば、それは、騎兵というのが『騎兵殺し』にとってちょうどいい獲物だからということになるだろう。

 

『騎兵殺し』自身について──

 

 まず、身の丈。これが大きい。六尺(百八十cm)を超えている。

 そして腕力。腕は細いが長い。それに神威(かむい)も、量だけなら剣士の中でも上位に数えられるぐらいはあるだろう。ゆえにリーチが長く、威力も強い。

 さらに武器。どうにも普通の武士が使うような刀は短くてなんとなく振っていてもつまらない。なので、大型を、さらに大型をと求めていたら、大陸から流れ着いた巨大武器にたどり着いてしまった。

 向こうの『馬』に乗って戦場を駆ける騎兵を馬ごと斬る武器らしい。これなら馬どころか、騎乗兵器さえ斬れる。この大きさ、重さ、威力、すべて気に入っている。

 

 そうやって好みの通りの戦いをするなら、ちょうど斬りごたえのある相手というのが、デカくて丈夫な騎兵になった。

 

 執着と言うよりは食いでの問題であり、好みの問題だ。別に好んで苦戦したいわけではなし、手頃な斬り応えのある相手を斬りたい。弱くても強くてもダメ。脆すぎるのもダメ。そうやって突き詰めていった結果、騎兵がちょうどいいところにあった。その程度の理由である。

 

 ゆえに『騎兵殺し』に信念はない。

 

 ただ斬りたいものを斬るために戦い、それに技が勝手に特化していった。

 

 実戦の中で技と己を磨いた結果──

 

火撃(かげき)隊エースと、よくわからねぇ、丸っこい、丈夫そうな騎兵かァ。こいつは……いいね。すごくいい」

 

 ──彼が『斬り応え』を感じる獲物は、騎兵の中でも最上位とされる火撃隊のエースになってしまった。

 

 しかも、エース一体では物足りない。

 

 ゆえに、丈夫そうな騎兵が一体追加されたのは、彼にとって僥倖(ぎょうこう)である。

 

 斬騎刀を肩に担ぐ。

 

 そして、並ぶ二体を見た。

 

 まとめて二体、斬れるだろうか?

 

 丈夫そうだ。斬りごたえがある。『騎兵殺し』は負けるつもりなど微塵もなく、どう斬ったら楽しいかを考え始めていた。

 

 これから待ち受ける楽しみを想像する、時間の空隙。

 

 その中で、火撃隊エースがうち一人桃井(もものい)は、隣に並んだまるっこい騎兵に話しかけていた。

 

「逃げなさい」

 

 中にいるのが先ほどの天狗(エルフ)の少女であることは、声でわかる。

 語調の強さなどが違っていて、少しばかり自信がないけれど……

 

 天狗だの獣人だのに差別意識を持つ者もいるが、桃井はそういった差別意識とは無縁であった。

 というよりも、人種による差別を毛嫌いしている、と言った方がいいだろうか。

 

 それは生育環境というよりも性分の問題であった。

 別に悪いこともしていない亜人(あじん)たち──亜人といった表現もまた差別的なので桃井は慎重に使わないように気を付けてはいるが──が、ただ『亜人だから』という理由で、なんらかの軽犯罪をしていると決めつけられたり、内容のない侮蔑を受けたりといった様子を見てきた。

 それは社会で生きていれば当たり前に見る『人の側面』である。

 しかし桃井はそういうものに納得できない真っ直ぐな性分であるから、理由のない差別には反発心を覚えると、そういう事情で差別を嫌っていた。

 

 何より、子供は守るべきものである。

 

 ゆえに帝都劇団のトップスタァの一人にして、火撃隊のエースがうち一人として、子供に逃亡を勧めたと、そういうわけだった。

 

 では、その『子供』の反応はといえば。

 

「うるせぇ」

 

 奇妙に愛嬌のあるまんまるフォルムの騎乗兵器、そのドーム型の頭部にある赤いモノアイが、桃井の乗る蒸気甲冑をにらみつけた。

 

 その荒っぽい口調はどうにも『強がっている』わけではなさそうで、本当に『余計なお世話だこの野郎』と心から思っている様子であった。

 

 先ほどちょっと声を聞いただけなのでなんとも言えないが、その時の印象は『気弱だけれど真面目で、ぴーぴー騒ぐかわいい子』だった。

 だが今はこうである。

 

 実のところ、そういう感じには心当たりがある。

 

(いるのよね、騎乗兵器に乗ると人格が変わる子……)

 

 そう多くはないが、劇団で毎年数十名の新人を見ていると、二年に一人ぐらいはそういった人物がいる、ぐらいの印象だ。

 何かのスイッチが入るのか、奇妙に強気になる子がいる。この子もそういった人物のうち一人なのかもしれない。

 

(こういう子に、兵器に乗っている間に何を言っても無駄……特に撤退命令は聞かない……)

 

 桃井は、決めなければならなかった。

 

(『なんとしても逃がす』か、『頼る』か……)

 

 この状況は桃井一人では手に余る。先ほどまで間違いなく絶体絶命であった。

『カドワカシ』の方の戦況を見る余裕はもはやない。だが、片腕を断つぐらいの実力ある剣士であれば、いざという時には逃げることもできるだろう。

 

 しかしこちらの子は……

 

 思考の中に沈む意識は、『騎兵殺し』がパァン! と自分の横っ腹を叩く、嬉しそうな音によって、現実へと引き戻される。

 

「よぉし、決めたァ」

 

(……悩んでる時間はない、か)

 

 桃井は刀を構える。

 

 隣に並ぶまんまるの機工甲冑も、奇妙に肥大した太い腕を回し、戦意充分という様子だった。

 

 逃げそうにもない。

 

(……こうなったら、仕方ない。なんとしても逃がす。そのために限界以上を絞り出して、早期決着を目指す!)

 

 方針は決まった。

 

 桃井の蒸気甲冑が、その全身に神威(かむい)を行き渡らせ、桃色の光を放つ。

 

 瞬間、身の丈十尺(三m)に迫ろうかという蒸気甲冑の姿がかき消えた。

 

 エースたちにはそれぞれ、得意技がある。

 

 神威強化(ブースト)と称するそれは、一時的とはいえ、蒸気甲冑のスペックを設計に定められた限界以上にする必殺技だ。

 エースの条件の一つにはこの神威強化ができることというのがあるぐらいで、エースに数えられる者であれば、誰もが神威強化を使用できる。

 

 そうして特に引き上げるスペックというのは神威の持ち主の個性が出る。

 

 桃井は速度、それもキレと呼ばれる、急加速・急停止の性能を飛躍的に上げることを得意としていた。

 

 静止(ゼロ)から途端に最高速(マックス)に至る速度は、対峙した者にその姿を見失わせる。

 さらに唐突に静止に戻る時に発生する慣性を利用した斬撃は、機体重量と蒸気甲冑専用の巨大刀も合わさり、決して反応できない角度から、決して反応できない速度で、決して防御できない質量をあびせかける必殺の一撃となる。

 

 だがそれは、相手が剣士でなければの話。

 

「おおっとォ!」

 

 火撃隊のエースは尋常ならざる使い手である。

 だが、そのエースを(ほふ)る者がいる。

 

 明らかに剣士の中でも上澄みに数え上げられる連中。だというのにそいつは大名ではなく、仕官もしておらず、ただただ気分の(おもむ)くままに騎兵を殺す外道──

 

 斬騎刀を背負うように担いだ『騎兵殺し』は、真後ろから首を狙った一撃を最初から予測していたかのように防いだ。

 

 だが、これは防がれると思っていた。

 

「まだまだァ!」

 

 桃井の得意とするのは静止・最高速・静止を瞬時に繰り返すキレのある機動である。

 

 真正面から加速し、背後に回って慣性を使って斬り付けた。

 それは防がれ、刃を弾かれる。

 

 ゆえに、弾かれた力をも使って再び急加速、一瞬で最高速に到達し、今度は真横から斬り付ける。

 それもまた防がれる。だが、また弾かれた勢いを用いて加速。さらに位置取りを変えて斬り付ける。

 

 一撃でも必殺の速度と威力を、急加速、急停止を用いて幾度でも、相手が倒れるまで繰り返す。

 その技、歴代火撃隊エースたちの中でも桃井だけが可能とする領域。静止(ゼロ)最高速(マックス)を繰り返すその機体が消えては現れ、まるで明滅するかのごとく繰り返されること、その移動のあとには火花のみが残されることから、このように号する。

 

 ──機工剣法、桃花火(ももはなび)

 

 ……とはいえ、この技には欠点がある。

 

「……っ、ガハッ」

 

 神威強化によって機体は急停止と急加速を繰り返すスペックを得るが、それにパイロットが耐え切れるかどうかは別である。

 

 コクピットの中で血を吐き、胃の中身を全部吐き出しそうになりながら、桃井は歯を食いしばる。

 たらりと垂れた鼻血が、急加速で空中に置き去りにされ、コクピットの内壁にこびりつく。

 

 急激な加速Gをその身に浴びせ続け、しかも大量の神威を放出し続けるため、その身体負荷は並々ならぬものである。

 

 これを可能にするためには、才覚、修練、加えて……

 

「凶悪犯ごときに、私たちの帝都を好き放題させてたまるかァァァァァァ!!!」

 

 使命感。責任感。

 

 横に、守るべき子供がいるという事実。

 

 それが桃井に寿命を差し出させる勢いで、力を放出させていた。

 

 ……だが。

 

 花火が、終わらない。

 

 終わることが、できない。

 

「いやァ……」

 

 巨大刀を持った、異常に細長い腕をした男は、その場から一歩も動けていなかった。

 

 ……もしくは、動く必要性が、なかった。

 

「速いのもたまにはいいねェ。斬りがいがあるよ」

「このォ!」

 

 静止、急加速、最高速による対応できない速度を神髄とする桃井の奥義が、完璧に見切られている。

 

 血を吐き、内臓を痛めつけ、寿命を縮めながらの決死の攻撃が、まったく通じていない。

 

 弱音を吐きそうになる。

 喉奥からあふれ出した血とともに飲み込んだ。

 

(速度じゃない! これは──私の攻撃が全部先読みされてる!?)

 

 単純に、『死角から斬りかかる』という程度の攻撃ではないのだ。

 不可解。あまりにも、不可解。

 

 ……桃井には、わかりようもなかった。

 

 なぜこの男が騎兵を殺せるのか。

 剣の術理はもちろんある。剣士としての肉体性能も、もちろんある。

 だがそれ以上に、この男には秘密がある。

 

 ゲーム剣桜鬼譚(けんおうきたん)において、帝都跡地で出会うことができるこの男は、選択肢によっては仲間にすることも可能だ。

 

 この男は騎兵特攻の剣術に加え、生来の才能として、『ある目』を持っていた。

 

 クサナギ大陸に五人のみ存在する、魔眼の持ち主。

 ゲームにおけるスキル効果としては、『獣人』と同じく、十パーセントの回避を付与するそのスキルの名は──

 

『未来視の魔眼』。

 

 前髪に隠れた目の中で、時計のような瞳孔がうごめく。

 一秒先の光景を先んじて見ることができるという理不尽な存在が、かちこち、かちこちと、桃井の寿命を削っていく──

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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