悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第51話 帝都騒乱・終幕の一

「……どうなってるんですか、アレ」

 

 この質問に答えられる者はいないと思いながらも、ムラクモは言葉にせずにはいられなかった。

 それだけ、異常なことが目の前で起きている。

 

 その現象は言ってしまえば氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)が、目の前で多くの狼藉者を相手に戦っているというだけのことだった。

 

 見える範囲で三十はくだらぬであろう狼藉者たち。

 当然、全員が大人。さらには剣士の割合も決して少なくないだろう。

 

 だが、その狼藉者たちが、通路に留まって出てこない。

 

 ただ一人、どう見ても子供にしか見えない銀髪の剣士を前に、竦んでいる。

 武器を持ち、少数の相手を追い詰め、あとはどのグループが『宝』を()るかというところであった連中が、ただ一人の子供を恐れて、挑みかかれないでいるのだ。

 

 その恐れを生み出したのは、梅雪の周囲に転がる、たった三つの死体であった。

 

 三方向から同時に斬りかかってきた。ゆえに三つ。

 ……三方向から同時に斬りかかってきた剣士を、何をしたかもわからぬ早業で同時に絶命させた。ゆえに、三つ。

 

 その術理、只者ではない。

 その覚悟、子供と思ってはならない。

 

 梅雪は、狼藉者たちに、宝を守る巨大な竜と認識されていた。

 

 その膠着(こうちゃく)の中で梅雪は、

 

「ハァ」

 

 ため息をついた。

 

 吐息一つでよくもここまで表現できるものだ、というぐらいに、そのたった一息には、失望、侮蔑、怒り、それから悲哀がたっぷりと込められていた。

 あまりにも芳醇(ほうじゅん)に薫る挑発である。

 

「おいおいおい、よくもまぁ雁首(がんくび)並べて、子供一人を眺めたものだなァ? なんだ、子供を眺めるのが趣味の連中が、たまたま通路にみっしり詰まっているのか? この状況は。……ああ、そうか。そういえば、そうだな。貴様らは確か、これまでずっと指をくわえて眺めていただけのくせに、いざ夕山神名火命(ゆうやまかむなびのみこと)があの氷邑梅雪の婚約者になるとの宣旨(せんじ)が下った瞬間、『実は好きだったんだ』『実は俺も』と立ち上がった臆病者どもであったか。愛の告白もお仲間がいないとできないか? ああ、いやいや、すまんな! 貴様らはお仲間がいても子供を眺めて指をくわえているしかない変態どもであったなァ! まこと、立派な大人の姿である! 商人が来たら名産品目録に書いてもらうがいい。『帝都は腰抜けの大人が名産品です』とな!」

 

 さすがにここまで舐められては沽券にかかわる。

 

 通路から目を怒らせた大人たちが、武器を手に梅雪に迫った。

 

 だが、それこそが術中。

 

 愛神光(あいしんひかり)流は()(せん)を基本理念とし、さらに、不利な状態に対応する術理をたっぷりと備えている。

 ゆえに、三方向から怒りにかられて同時に迫る、自分より体格や腕力に勝った者たちへの対処法は、最も得意とする状況のうち一つだ。

 

 次に積みあがった死体は六つであった。

 

 合計九の死体が梅雪と通路のあいだの三方向を囲み、肉の壁にして踏めば体勢が崩れる障害物となる。

 

 このままでは、通路に詰まった男たちは死体によって閉じ込められて、蒸気塔の外へ逃れる梅雪たちを見送るより他になくなる──

 

 誰もがその未来を予想したところで、

 

「待たれよ待たれよ!」

 

 中央の通路、家老たちの一団と思しき場所から、人垣を抜けて男が現れる。

 

 その男は大柄というほどではないが当然、梅雪よりは大きい。

 どこか覇気に乏しい顔つきをしており、鎧をまとってはいるものの、なんとなくぶかぶかで、あまり似合っていなかった。

 

 人垣を抜けてきた男は、容赦なく死体を横に蹴り飛ばし、梅雪の正面に立つ。

 

「その太刀筋、愛神光流とお見受けする、いかに?」

「左様。我が太刀、剣聖シンコウより授かったものである」

 

 事実ではあるが、名前を思い出すだけで舌打ちしたくなる変態女だ。梅雪の声はいたく不機嫌であった。

 

 だが相手はむしろ上機嫌そうになり、「左様か!」と大笑する。

 

「拙者、剣聖シンコウより目録をいただき、一つの流派を興すことを許された身。師の名の読みと光の文字をいただき、そこに我が名をつけて羽生新光(はにゅうしんこう)流と号する」

 

 皆伝が『この者、流派のすべての技を修得し、もはや伝えることがありません』というものであり、目録とは『すべてとは言えないけれどある程度は修得しました』というものになる。

 

 流派によっては目録では独自流派を興すことは許されなかったりもするが、剣聖シンコウは目録でも流派立ち上げを許すようで、ゲーム剣桜鬼譚(けんおうきたん)には、いくつか『〇〇新光(しんこう)流』という流派が出てくる。

 

 とはいえスキルとしてはすべて『愛神光流』なのだが……

 

「で?」

 

 流派名を名乗った男が先に続ける言葉に興味がわいたので、聞いてやる。

 

 すると男は「うむ」と覇気のない顔のくせにやけに力強くうなずき、

 

「同じ流派を源流とする者のよしみにて、一騎打ちを申し込む! 拙者が勝利した場合、そなたを我が弟子に迎えたい!」

「なるほど、だが一つ疑問だなァ?」

 

 梅雪は肩を揺らして笑う。

 

 羽生新光流の男は、「うむ?」と首をかしげ……

 

 その首が、ずり落ちて行く。

 

「む、む、むぅ? む、む、む…………ムゥ」

 

 首が、地面に落ちた。

 瞬間、梅雪は大笑する。

 

 それから、怒りをたっぷり込めて、叫んだ。

 

「己が斬られたことさえわからん男が、この俺に一騎打ちだと!? 身の程を知れ下郎! いいか! この俺を舐めてかかる者! この俺にふざけた要求をする者! この俺から何かを奪おうとする者! ことごとく死体にして並べてやる! (いと)うならば土下座しろ! 子供一人を相手に様子をうかがっているしかできぬ貴様らに! 生き残る道は『服従』以外にないと知れェ!」

 

 その様子を背後から見て、ムラクモは、つぶやいていた。

 

「あれが本当に道士……?」

 

 愛神光流目録というのは、伊達ではない。

 

 剣聖は決して甘くない。剣術を広く教えるだけに、その弟子の数も多く、目録というのはなかなか与えられるものではないのだ。

 しかも羽生は家老直下の剣士でありながら、侍大将の兵に対して剣術指南をする役目さえ任されている手練れ。覇気のない見た目で侮られることもあるが、ムラクモでも刀を使った尋常なる勝負であればそれなりに苦戦する者である。

 

 だというのに梅雪は、間違いなく、剣の技術で勝利している。

 

 神威(かむい)量に任せた力押しではなく、技術なのだ。

 ムラクモは羽生が話している最中に梅雪の腕が無造作に動いたのが見えた。

 多くの者は、その動作が見えていなかった。別に速くない。別に死角から出されたわけではない。しかも、引きで見ている者が多数だった。だというのに、梅雪が羽生の首を斬った時に、『あ』という表情をしたのは、ほんのわずかだった。

 

 会話と変わらぬ様子で剣を振る。

 そのあまりに自然にして無造作なのに、相手は攻撃されたことが理解できない。

 

 それすなわち──

 

(意を消すということ。……あんなの、一部の天才が、老人になるまで研鑽してようやく身に着ける術理じゃない。あの幼さで、そこまでの使い手……? ただの道士が……?)

 

 しかし、剣聖シンコウなどは若年にして可能な技法でもある。

 

 それは鍛錬法を知っているからだ。

 

 剣術をはじめとする武術について、実のところ、奥義は秘伝ではない。

 流派によっては最初に教えてしまうところもあるぐらいである。

 

 であれば、わざわざ師匠に教わる秘伝とは何か?

 

 それは鍛錬法だ。

『力を抜け』『(はら)を据わらせろ』『相手の全体をぼんやりと見ろ』などのざっくりした教えは、武を修めていない者でもなんとなく聞いた覚えがあるかもしれない。

 しかし、『じゃあ、具体的にどうするの?』というところを知る者はいないだろう

 

 その『じゃあ、具体的に』こそが秘伝たる鍛錬法には詰まっている。

 もちろん反復練習によって至れるものもあり、反復によってより洗練されるものも当然ある。

 しかし、多くの技法には『これさえ知っていれば簡単にできますよ』というコツがある。

 

 見てわかるもの、ただただ愚直に繰り返せば至れるものは、秘伝にはなりえない。

 秘伝とは『この武術に専心した者に教えるコツ』であり、知れば誰でもできてしまうゆえに秘されるのだ。

 

 では、梅雪は愛神光流の秘伝を剣聖に習ったのか?

 

 否であり、是である。

 

 剣聖と殺し合った時に見て盗んだ。

 

 ゆえにこそ、一目で『光断(ひかりたち)』を再現して見せたのだ。

 奥義というのは複数の秘伝の果てにようやく実戦で使えるものであり、通常、その動きを見ただけでは不完全極まりない劣化した『動きのものまね』にしかならない。

 

 だが梅雪が一目見ただけで再現した光断は剣術使いとしての剣聖シンコウをも刺激した。

 

 それすなわち、シンコウが流派技術の覚書に記さず、技を繰り返すうちに自然に身につくように仕向けた技術を、梅雪が見ただけでほぼ完璧に盗んだという証明に他ならない。

 

 ……なぜシンコウが『コツ』を直接教えず、反復の中で自然に身につくようにしたかと言えば、コツを先に知ってしまうと反復をしなくなるのが人間だからだ。

 

 コツは秘伝である。だが、あくまでも『できるようになる』だけで、実戦の中で呼吸も同然に次々と技を繰り出すためにはやはり、反復が重要なのだ。いわゆる『体に覚えこませる』。神経の形成は、どうしても必要になる。

 ゆえにできた気になることを防ぐため、シンコウはコツを直接は教えない。

 

 だが、もし、コツを先に知ってなお、努力する天才がいたら?

 

 その存在、剣術を始めてほんの三月(みつき)

 すでに熟達の領域にあった。

 

 ……かくして、状況は煮詰まる。

 

 狼藉者どもは、夕山姫を追い詰めながらも、たった一人に阻まれて届かない。

 

 夕山姫を守る梅雪も、実のところ、この場から動けない。

 ケガをしたムラクモ、戦えない夕山を連れて逃げながら戦うのは、一人では難しい。ゆえに、アシュリーとウメを待っている状態であった。

 

 その、四辻の膠着を。

 

「んっン~。熱源が集まってるねェ!」

 

 蒸気塔の外から見る、

 

「張ヨシ! 弦ヨシ! 矢弾ヨシ!」

 

 赤い蒸気甲冑が、

 

「そんじゃァ、帝都騒乱、最終幕(フィナーレ)、行ってみよっかァ! 幕名(タイトル)はねェ……」

 

 巨大な弓矢で、建物の外から狙って──

 

「──『夕山姫の死』」

 

 赤熱する矢を、放った。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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