悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第79話 『酒呑童子』討伐・裏側の四

「どういうことですか、イバラ──」

 

「どういうことだ!」

 

 大辺(おおべ)による、甚振(いたぶ)るような、問いかけ──

 

 それを遮るように、イバラキは叫び、拳を台に打ち付けていた。

 台の上に乗った石が舞い、せっかく綺麗に整えられていた配置がぐちゃぐちゃになる。

 

 支配され、海に帰属している者ではありえないはずの感情の爆発。

 それはこれからイバラキをねっとりと甚振り、凌辱してやろうとしていた大辺の出端をくじき、その言葉を止めさせた。

 

 イバラキは台にしている木箱の上、そこでバラバラになった黒、白、灰色の石をながめながら、つぶやく。

 

「……情報が足りない。構成を読み違えた。知らない情報がある」

 

 イバラキは海魔(かいま)と視界を共有することで、大江山(おおえやま)に攻め入っていた氷邑(ひむら)一党のことを、山賊に見に行かせて聞き取るよりもつぶさに知ることができていた──と、思っていた。

 

 確かに一面では正しい。

 

 だが圧倒的に欠けている情報があった。

 

 それは、音だ。

 

 海魔の耳には常に深海の重苦しい沈黙が降りている。

 

 視界があるので『何かを言っている』ことはわかる。

 視線の向きや表情は、山賊どもに見させるのとは比べ物にならないほど、敵対する者どもの心情をイバラキに知らせた。

 

 だが、音の情報が欠けていたため、イバラキにはつかめていない情報があった。

 

 すなわち、(かご)の中にいるのが一人ではないという情報。

 そして、あれがそもそも氷邑一党ではないという情報。

 

 名家の侍大将である七星(ななほし)彦一(ひこいち)は有名人ではある。

 だがそれは大名家界隈でのことであって、もっとも有名な神器の姿も知らぬイバラキに、名家の侍大将の姿を知っておく常識を期待するのは間違いであろう。

 

 すなわち彦一の姿を見ても七星家だとわからない。

 

 それが今、イバラキを圧倒的に追い詰めていた。

 

「……併用できればもっと確かな情報が得られた」

 

 海魔との視界の共有、これが役立つのは否定しようがない。

 だが、音を拾えない海魔に加え、音を拾える山賊どもを使うことができたならば、イバラキの持つ情報に欠けはなかったはずだ。

 

 しかし、できなかった。

 

 大辺が何を思ったか『酒呑童子』の幹部殺害を命じ、他の『酒呑童子』メンバーも殺すか追放するかをさせた。

 

 イバラキは水底にいたのでその決定に何も思わなかったが、今思えば、あれはあまりにも愚かなことだった。ただでさえ少ない戦力を減らしてどうする、という話だ。

 

 つまり……

 

(偉そうにオレの戦いを邪魔するんじゃねぇよクソが)

 

 ……何も知らないのに、何もわからないのに、何もかも理解できないくせに、テキトーな指示だけ飛ばして、邪魔をする。

 あまつさえ、それで目標を達成できなければ、自分が邪魔をして実力を発揮させなかった下の者の責任にする。

 

 それは。

 

 それは──

 

 イバラキが何より大嫌いな、『偉そうなサムライ』の特徴で。

 

 ごぼごぼ、ごぼごぼ。

 

 イバラキの耳に深海の音が障る。

 あれだけ安らげる水の中にあった意識が、海底の重苦しさと、水底の息苦しさを思い出す。

 

「イバラキ」

「あぁ?」

 

 呼びかけられて、怒りが浮上した。

 

 だが……

 

(……違う。私は、海の一部。海の巫女様は、我ら深海の者の行き先を示す導灯(どうとう)。巫女様の示す先に間違いはない)

 

 巫女たる大辺の杖。

 涼やかな鈴の音を聞いていると、浮上しかけた『個人』が再び海に沈んでいく。

 

「……なんでしょうか?」

「え、ええ」

 

 大辺はひるむように半歩下がっていた。

 

「……あなたの戦術に、不安を覚えています。見たところ、相手にもなっていないという様子、でしたが……」

 

 どこか気を遣うような、機嫌をうかがうような、恐れのある声だった。

 イバラキは「はい」と応じる。その声は波のない水面のように静かだ。

 

「情報の誤りは正されました。連中は心理によって分断できない。であるならば、『状況』によって分断します」

「分断にこだわらずとも」

「戦力が足りません」

「山賊団の時は力押しもしたのでしょう? あの不潔な男どもにできることが、海神の飛沫(しぶき)たる海魔にできない、などということがありえますか?」

「ありえます」

「なぜ?」

 

 その質問に、また、イバラキは己の心の中に音を聞いた。

 ぶくぶく、ぶくぶく……

 沈みに沈み、海そのものとなった心が、浮上する気配──

 

 イバラキは……

 

(……この、クソアマが、偉そうに、オレに、指図を)

 

 己が再び、海から浮上してあがき始めている気配を察した。

 海神の支配が、外れかけている。

 

 だから、イバラキの冷静な部分はこう判断する。

 

(怒りを溜めろ)

 

 まだ心が沈みたがっている。

 海の一部になる安らぎを求めている。

 

 巫女の声に逆らえない。巫女があの鈴を鳴らせば、またすぐに心が水底に戻されてしまうだろう。

 

 だから、怒りを溜めこみ、溜めこみ、溜めこみ……

 一気に放つ。

 

(オレに偉そうに命令したあげく、オレを操ってホシグマを殺させやがって。……無能が、このオレに偉そうに吠えるんじゃねぇ。オレは……オレは……)

 

 山賊団『酒呑童子』首魁、イバラキ。

 

 何者にも縛られず、何者にも押さえつけられない。

 最弱たる山賊を率いてなお最強の指揮官。サムライどもを倒して、倒して、倒しまくって、大江山を維持する山賊大名。

 

 腹が立つ。腹が立つ。腹が立つ。

 

 一番腹が立つのは、何か?

 

 偉そうに命令されることか?

 

 それとも、無能がわかったようなツラで脳なしそのものの指示をすることか?

 

 あるいは、自分の気まぐれが状況を詰んでいるのも理解せず、その気まぐれのケツを拭けと命じられることか?

 

 違う。

 

 一番腹が立つのは……

 

(相手が無能だってわかってんのに、それに従わなきゃならねぇ状況にいるしかない自分の無力さが一番ムカつく)

 

 だから、殺して、わからせる。

 

(二度とオレの頭にケツを乗せられねえように、徹底的にやってやる)

 

 そのために、今は、耐えるしかない。

 

「ご説明します。まず……」

 

 イバラキは、海の中で息を止めて潜む。

 

 ……奴隷だったころと同じだ。

 怒りを溜めて、機を伺え。

 

 いつか、逆転して……

 

(こいつは最高に惨たらしく殺してやる)

 

 報復の喜びを、噛み締めるために。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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