悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する   作:稲荷竜

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第98話 『酒呑童子』討伐・事後処理の二

 帝都、蒸気塔──

 

 帝のおわす御所の中にある、神器の剣の安置所。

 そこにアメノハバキリが戻されることになったのは、大江山(おおえやま)より戻されたのち、盛大な式典を経てのあと……

 梅雪(ばいせつ)らが大江山より帰ってから、一月もあとのことであった。

 

 民心を安んじたい帝の一派と、縁者七星義重(よししげ)を『神器を守ろうとした英雄』として祀り上げたかった七星家との思惑が合致した結果、大変盛大な式典になったのだ。

 帝都は未だ騒乱の爪跡もあり、人々はもとの生活に完全に戻れたとは言い難い。

 だが、この『神器剣奪還式典』は一つの契機となり、人々が元の暮らしに戻る節目であったと、今後語り継がれていくことになるだろう。

 

 その式典のあと、神器アメノハバキリを安置する場……

 

 式典のさいには多くの人々が集まり、帝手ずから剣を台座に納める時には割れんばかりの拍手で満たされたそこも、今は静寂に包まれている。

 

 その静寂の中……

 

 カタカタカタ……と、剣が震える。

 

 アメノハバキリはそうして震えると、ぴょーんと台座からひとりでに抜けて、床にその剣先をつける前に、人型となった。

 

「はわわ」

 

 人型となった彼女の姿は、銀色の髪を七つ結びにした、年齢にして十歳には満たないであろう少女である。

 長く量の多い銀髪で顔の半分と体の半ばまでが隠れているが、身に着けている服は水垢離(みずごり)でもするような真っ白い、袖が長すぎ、丈が短すぎる着物であり、容姿の美しさもあって、どこか気高く神聖で触れ難い様子があった。

 

「はわわわわわ……」

 

 神器アメノハバキリはしばらく「はわわ」と言いながら右往左往し……

 不意に、下を見下ろし、ピタッと止まった。

 

「ややややっぱり、ヒラサカお姉さまがいないんだよ……どどどどどうしよ……どうしよ……」

 

 三種の神器。

 それは現実の三種の神器をモチーフにしたものではあるが、すべて、現実とは違う名前となっている。

 

 七支刀(しちしとう)の姿をとっている神器剣はアメノハバキリ。

 そして勾玉は『ヨモツヒラサカ』という名前であった。

 これは日本神話における冥界を指す言葉であり、その権能もまた冥界に依っている。

 

 ともあれ、三種の神器アメノハバキリは、姉たる勾玉の不在に気付いた。

 しかし気付いたところでどうにもならない。アメノハバキリは三種の神器の中では末妹であり、そして最も脳筋である。

 そのくせ気が小さく心配性なので、彼女が何かの異常に気付くと、こうして『どうしよう、どうしよう』と右往左往するだけで、特に何も行動できないのであった。

 

 その時……

 

 アメノハバキリのそばに、空から光が降り注いだ。

 

 その光を見て、アメノハバキリは「はわわ」と声を発する。

 

「ねねねね姉さま……!」

 

 アメノハバキリには二人の姉がいる。

 うち一人はさらわれてしまったヨモツヒラサカの勾玉であるが……

 

 もう一人は難を逃れて、帝都にいた。

 

 そのもう一人こそが、神器のうち『鏡』。

 名を──

 

「イワト姉さま!」

 

 アマノイワトの鏡。

 

 三種の神器のうち、神なる名工・ニニギによってもっとも早くに作られた長姉であった。

 

 降り注ぐ光の中に光の粒がいくつも混じり、それがより集まって人の姿を形成していく。

 出現したのは黄金の髪を長く伸ばした、おっとりとした、胸部の豊かな女性である。

 年齢は二十代前半、雰囲気も加味すると三十代ぐらいにも見えるであろう。その女性からは母性のようなものがあふれており、頬に手を当て、目を細めて首をかしげる様子など、たまらず『ママ』と言いたくなるものであった。

 

 アマノイワトは「あら~」とおっとりつぶやき、きょろきょろと周囲を見回す。

 ちなみにその全身が透けているのは、彼女の本体がこの場に来たのではなく、光の権能によってホログラムめいたものを映し出しているからである。

 彼女の本体は帝都騒乱以来より厳重に封印され、外に出ることが適わないのだ。

 なお、全身を包む服が透けるほど薄い白いものであるのは、本体も同様である。

 

「キリちゃん、どうしたのかしらぁ?」

「たたた大変なんだよ……ヒラサカ姉さまが誘拐されたんだよ……どどどどどうしよ……」

「困ったわねぇ。ヒラサカちゃんってばまたどこか行っちゃったのぉ? 本当に元気なんだから~」

 

 うふふ、と微笑むアマノイワト。

 ハバキリが「違うの! さらわれたんだよ!」と言っても「あらあら」と述べるだけで、あまり事態の緊張感が伝わっていない様子であった。

 

 アマノイワトは、慌てるハバキリの声が届いているんだかいないんだか、言葉を続ける。

 

「でもぉ、ヒラサカちゃんはHRSー002型だからぁ、わたくしたちの中でも、戦える方じゃなぁい? だからぁ、たぶん、お腹が空いたら戻ってくるわよ~」

 

 ……三種の神器。

 

 これは神やその加護を宿すモノではない。

 

 人が人として神に立ち向かうために設計された、神造の女神たち。

 このクサナギ大陸において、あらゆる場所に存在する『神の息吹』。これを否定し、これを支配せんという野望を持った稀代の(マイスター)が設計した……

 

 科学の産物である。

 

 ゆえにその権能は、神の否定。

 

 ハバキリが斬るのは神の加護である。

 アマノイワトは神属性の攻撃をすべて遮断する盾である。

 そして、ヨモツヒラサカは、人の身で神を凌駕するためのエネルギーを確保する発電機(ジェネレーター)であった。

 それがなぜ冥界の名を冠しているかといえば、そのエネルギーを生み出すために()べる燃料のせいなのだが……

 

 ともあれ、あまりにものんびりした様子のアマノイワトを見て、アメノハバキリは決意するしかなかった。

 

(このままじゃヒラサカ姉さまが戻って来ないんだよ……こうなったら……)

 

 アメノハバキリは気弱で心配性で、何か問題が起こると『はわわ』など言いつつ右往左往するだけの少女だが……

 こうして姉ののんびりした感じを見せつけられるなどし、周囲に事態の解決をしてくれる人がいないと確定すると……

 

(わたしが探しに行くんだよ!)

 

 キレる。

 

 しかし、彼女はあくまでも『剣』だ。

 ゆえに彼女が行動する時、まず探すものがある。

 

 それすなわち、『使い手』。

 

(わたしに似た髪の男の子が一番わたしと合う感じがしたから……まずはあの子を探さないと……)

 

 銀髪の神器は静かに決意する。

 

 ……かくして。

 

 梅雪から『神の加護がなくなるからいらない』扱いされ、帝に返却された神器の方から戻ってくるということが起こりつつあるのだが……

 当然、そのことをまだ、梅雪は知らない。

そろそろストック尽きるので、この章終わったら時間稼ぎにside掲載しようかどうしようか

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