魔女と機械と天才の遺産
『認証成功。ゲート開放。注意:書類は持ち出し不可です』
「どうせ、これも私の様な天才にしか見られる事がないくせに。いちいちID確認が…なんてしなくて良いの。あなたもそう思わない?」
洞窟の様に暗いが周りにモニターやカメラの映像、机の上にある器具からしてここが何かしらの研究所だと言う事がわかる。五つほどの椅子がある、どれも中々高価そうな質感だ。薬品の匂いが鼻に馴染んでも良いのなら、ここで寝過ごしても問題はない。
一つの椅子を除いて全てに真っ白な服が掛けられてある。ここに居た者達は須らくこれを着ていたのだろう、一目見るだけで世人のそれとは全く違う服装だという事が分かる。
真ん中にはロボットの様な容姿をしている物がある、しかしピクリとも動かない。ロボットの四角い頭?…には埃が被っている。よく周りを見渡して見れば研究器具にも埃が、とても小さな未知の蜘蛛もいる。この益虫のおかげで長い年月が経った今も過去との差異はあまりない。
「推測:この場所とあの天才の認知度を考慮すれば、この内容が他の者に知れ渡る確率は極めて低いと考えれます」
「まあ……そうでしょうね。それじゃあ再起動っと」
魔女の造物が1m程の機械に触れた瞬間、機械が赤い光を放った。
ロボットは歯車の様な音を鳴らしながら足元の車輪は空回りしている。ガタガタとボディーが揺れ、それが収まった後に機械は雑音を鳴らし次第に周りは静寂に包まれた。
「おはよう、天才達。僕の名前はアルベルト・クーパー。再起動してくれたお礼に何か僕に出来る事ならどんな要求も聞こう」
「おっと。今の僕は一文無しだから金銭だけは渡せない」
「………どうしてもと言うなら僕の装甲を売れば良いよ、そしたら金と僕の悲鳴が得られる………勿論冗談だ」
ロボットのマスターは設定中にコーヒーを溢してしまったのだろう。
…彼にユーモアの設定は100%も必要無い。
宇宙ステーションヘルタ。天才の手によって作られたそれは、巨大で人工の星と形容しても過言ではない。ステーションには引力があり科学者、財団、カンパニー、多種多様な身分や種がそこでは生きている。この星海では何を捧げても得ることの出来ない安全をステーションは提供してくれる、それがここに住む分かりやすい一番の理由だろう。
多種多様とは有機生命体だけに限らず、無機生命体もここに入り浸っている。宇宙ステーションヘルタによく居る有名な無機生命体と言えばスクリューガムだろう。彼は天才クラブには珍しく紳士的で全生命が彼を見習うべきだと言う者も少なくはない。
そして無機物が1つ。…いや、1人の新しい客人が……ヘルタに足を踏み入れた。カタカタとキャタピラの音が鳴る、ロボットの上部はくるくると水平方向に回転し前面の中心に内蔵された赤いライトをチカチカとさせステーションの各所を観察している。
知識としては知っていても実際に見るのは初めての様で感情表示は驚きと感心になっている。
ロボットと人形はステーションにある観測室へ向かう。マスターと瓜二つな人形は指紋をセンサーへ当てがい扉を開けた。この人形は指紋までも再現してあるらしく、全てを表したいという製作者のこだわりだろう。けれども凡人からしてみれば最初から指紋認証以外にすれば良いと、そう思うが。凡人には預かり知り得ない天才のエゴと無意味な雑音が魔女は気に入っている。
満天の星空。青く光る若々しい恒星に今にも爆発しそうなエネルギーを発する赤色矮星。白或いは真なる光の点と言うべき様な純白の星辰。
ここからなら殆どの星が見える、プラネタリウムみたくナビゲーションすれば日が暮れる回数は2桁を超えるに違いない。
現在ステーションから虚数エネルギーを用いない肉眼で見える最遠の星はスケルタル銀河Q278で、距離は15,000光年程である。
しかし人類の知は素晴らしく、人工の眼を使えばその2乗はゆうに超えた距離の星を観測する事が可能だ。
研究発表の為には証明が不可欠であり、ただ筒の中を覗けば万人がそれを観測出来る。これは運命を歩んだ特別な者が利己の為に虚偽の証明をする事を防ぐ事ができる。
「要望通り、この僕がこのプロジェクトにおいて最も重要な天体観測をさせて頂く。それで合ってるかいミス・ヘルタ」
「合ってる。……3………2………1」
「act1起動」
ロボットに積まれた天体望遠鏡はおもむろに夜空に浮かぶ銀河の方を向き……映像を記録した。
随分と前から準備していたのにも関わらず実験はあっさりと終わった。
おかげでロボットの感情表示は“困惑“になっている。
「ヘルタ、本当にこんな要望で良かったのか。確かに僕の観測機はこのサイズにしては異常とも言える性能だ」
「しかし僕なら君の『模擬宇宙プロジェクト』も手伝う事ができる。本当に良かったのか」
「天才の意志を蔑ろにする様な事は嫌いなの。プロジェクトに参加したくない人を無理に引き込む事は絶対にない、たとえ私がどんな手も使わない様な冷徹な魔女であっても、無気力な研究者は要らない」
「それに貴方はいつか参加してくれる。そうなる確信が私にはある」
「…直感か研究者らしくない言葉だ。案外ロマンチストな側面も有るのかい?」
「……はあ…少ししたらアクセスを断つから、話をしたいなら今のうちにしてくれる?」
ヘルタは急かす様に言ったが、これはいつもの口癖。
日常生活においてヘルタが他人に時間の浪費を強制される事は嫌がる、そしてその時は限って……貴方の様な凡人の時間と私の様な天才の時間、その2つにどれだけ価値の溝があるか分かる?私の1秒が閃きを発火し、1分が方程式を形造る、1時間経てばあの機械頭に謁見する手立てを考えられる。何故凡人の脳と私の脳にそこまで大きさの違いが無いのかでも考えたら?
……そう言って彼女はすぐさま接続を切るだろう。
違って今は目の前の相手の話に耳を傾けようとはしている。理由は単純目の前の相手が凡人ではないから……それ以上でもそれ以下でもない。
アルベルトは値する人間だった、ヘルタにとってはそれだけで充分。
「………ひとつ聞いても良いかい。何故僕をを目覚めさせた?僕の知識と技術そして発想の集大成は“Rats”だ、彼は天才クラブの席を貰っているのだろう。スリープ中も彼に共有を許可された情報は常に僕の情報データベースに情報は送られてくるから、それくらいは知っている。彼は君達が認めた天才だ、能力を求めているなら彼だけで必要な仕事はしてくれるはずだ。懸念点は彼が何処にいるかだが、居場所も君なら特定も造作もないだろう」
「もう一度言うが何故僕を目覚めさせた?」
「埋まった天才を目覚めさせられるのなら、覚醒させる。天才は唯一だから天才なの。理由はそれだけ、代用なんてとんでもない事言わないで」
「それにさっき、Ratsが得た情報は常にデータベースに送られてくると言ったわよね。スリープ中は情報を処理する事は出来ない、つまり数万年分の情報は再起動した瞬間に貴方だけの力で全てを処理した。…それなら、少なくともアルベルトを再起動させた価値の最低ラインは容易く超えている」
「……そこまで言われると照れてしまうな。…しかし感情表示に“赤面”は無い為、物理的に赤光を発しても良いかい」
「はいはい…勝手にして」
照れ隠しかどうかすらも分からない、アルベルトのふざけた提案にヘルタは飽き飽きしていて乗り気は一切無い。…はいはい、と最初から聞いていないかの如く冷たく投げやりな返事をした。
アルベルトは感情表示の代わりに光を発し、赤面を表現した。
けれど本人の意図とは裏腹に、これではまるでただ光を生むただの四角い機械…何でもない現象。それどころか赤い光に照らされたヘルタの方が赤面しているかの様だった。
予期せぬハプニングに面白おかしくなったのか、ヘルタはクスッと笑った。アルベルトも感情表現までは変わっていないが、微かに笑い声が聞こえた。
ユーモア100%はヘルタにとっては何でもない物だろうと感じていたが。魔女の感情を露わにした意外に重要なコミュニケーション能力かも知れない。
「ふう……多少のハプニングは見逃してくれ。我ながら良い考えだと思ったのだが…」
「これからもその調子でよろしく、アルベルト」
「さよならをする前に、最後に聞いても?」
「何?」
「………これからも、ヘルタで過ごしても良いかい」
「勿論。その為に呼んだのだから」
アルベルト・クーパー。僕の父は僕が生まれる直前にロケットのパイロットとして亡くなった。声も顔も僕の五感から得られた物は何もない、思い出も作ってはくれなかった。
唯一くれたのは、クーパーという家名。アルベルトの方は父が憧れた学者の名から取った物らしい。
母は教授で30を迎える前に病死した。結局親から何かを学ぶなんて時間は無かった、幼い頃の記憶なんてない。生まれる前の事なら尚更。それでも知りたいとは思わなかった、大学で講義を受けていく内に二人の名が挙がったから。
僕はずっと還暦を超えた血族ではないお爺さんに引き取られた、彼はとっても賢く今の僕と似た様な考え方をしている人だ。というよりも僕が彼に似てしまったと言う方が正しいかも知れない。卵が先か鶏が先か、そんな言葉があるけど僕はあまり知らないし口出しもしない。有識者でもないのにあれこれ言うと本物から反感を買うからね、ほんの些細な事でも。本当に賢い人は変わり者ばかり……だからこそ天才と形容されるのだ。
大学では天文学を学び卒業してからは宇宙探査を目的としている企業で働いていた。
同僚の名は皆覚えている。マーフ助手にライト博士。マーフは中々良好な関係だったせいか本当に惜しい、博士が僕の事を気に入ってくれたおかげで研究費も個人的に提供してくれた彼女達には感謝している。僕があそこまで星外理論を仕上げられた要因は仲間達の協力だ。
星外と星の合間にある層、境劃層を破るとこまでは…あの時は僕こそがあの時代の天才だと心の底から思っていた。層を破ったおかげで大金叩いて作った望遠鏡も機能した。それまで僕が考えた理論は全て立証した。
境劃層を破り、やっと次のフェーズで星外に進出する。ロケットは作り直す事になってしまったが時期に改装し、星外へ到達するはずだった。
…結果を先に言うと僕達の人類、獣の様な容姿も機械でも小人でもない、純粋なる旧人類は大気の外に到達する事は出来なかった。その前にタイムリミットが来たんだ。
紀元前1099年、世界は天災に見舞われ空は暗転。気圧や重力値、他にも当時のデータが欲しかったが、何かを感じる間もなくあっさりと終わった。僕が最後に残っている天災に関するデータはそこまで。
旧人類は死滅した、最初の僕も恐らく死んでいるだろうし。住んでいた星は行方不明だ、それどころか銀河系すらもどこに有るのかさっぱりだ。
長い年月だ恒星の寿命も終わりを迎え惑星も共死に、可能性はあるだろう。
これにて旧人類史は終わりを告げた、大切な結末だけが明確ではないが。それでも500万年も人類史があったんだ。種としては上出来だろう。
そして肝心はなぜ僕が生き残っているのかだけれど……全く分からない。
仮説なら沢山あるが、何しろ手掛かりが一切ない。疑問点はRatsが今日まで存続している事だが、今の持ち得る物では何もかもが不明
僕、アルベルト・クーパー。正式名称Albert-C3は見慣れた研究所と共にあそこで生き存え、母星との通信が途絶えた時スリープモードに移行した。
そしてそれから、数万の時を超えて魔女と機械の2人の天才は僕を目覚めさせた。
ステーションのマスターは僕の滞在を許可したが。
…結局。僕は、このヘルタに留まって何をすべきなのだろうか。
『前提理論を構築……演繹を開始。結論——』
やはり母なる星と何故通信が途絶えたのか天災についての詳細を調べるべきだろうか。僕個人として是非そうしたいし、自動演繹計算機もそれを推奨している。
アルベルトは生き残ったが。事実、旧人類は滅亡していると言っても過言では無いだろう。旧文明が消滅してからこの気持ちは収まりきっていない、天災の所為で作り上げた家族が死んだ優秀な仲間達も跡形もなく消えた、計画も研究結果を発表する国民も星の未来も今は旧文明の者以外誰も覚えていない。この恨み辛みは何処にぶつければ、矛先は何なのかと思いながら。
ずっと
ずっと
ずっと
ずっと
——僕達の歴史と文明だけは存続させたいと考え今日まで生きてきた。
なら僕の使命は“存続”。
その為に生きよう、運良く生き残ったのだから。旧人類の意思が肩に乗っかっているんだ、正直重すぎる使命だけどやるしかない。
Rats……彼されいれば。彼だけが文明の証人なのに。
今の僕には力と知恵と知識が足らない。現状、僕に虚数エネルギーを有効に使う手立てはない。
ヘルタ、スクリューガム。
彼らなら協力してくれるかも知れない。
でも彼らには助けられ過ぎている
…その前に僕が誠意を見せよう。
ロボットの身に寿命は無い、たとえ数世紀が経っても真相が分かれば何だって良いんだ。
だから僕は、少しの間は彼らに協力する事にした。
賢い彼らと何かを研究したいと思っていたんだ、都合が良い。旧文明の言葉で言えば“一石二鳥”になるだろう。方針は決まった。
———僕が天才達の助手となる。そして旧文明を甦らせる。
手始めにヘルタと連絡しよう。…スクリューガムの方が穏便に済みそうだけど、彼の居場所が何処なのか僕には分からないからね。
そして何よりも、彼女の方が知を崇拝しているから。
彼女はこのステーションの各地に居るから話す機会が多い。
しかし慢心してはいけない、彼女が何かをしている時に喋りかけたら……想像もしたくない。ヘルタには人情が有るけれど、それは感情があると言う事だ。彼女が怒ったのなら、僕の様な感情表示という物が必要無いくらいに感情がそのまま行動に出るだろう。ヘルタの優先する物は合理性と人間性、次に自身の直感ないし感情なのだから。
長い間、スリープ状態だったからなのか今日だけでも疲労の溜まり具合が酷い。
ヘルタにはメールを送信しておこう。
ふと思ったのだけれど、彼女のメールは誰が返信しているんだ……
『メール送信を実行しますか?』
ああ、実行してくれ。
返信がされるまで少し待つか……記録を見ていて疑問に思った事をデータベースにメモしておこう。
『[オート返信]私のオフィスに来て』
メールをそうした瞬間にそう送られてきた。
それにオート返信、彼女の返信が早い理由はそれであり。先程の疑問の答えは、彼女本体でも人形でも誰でもない無機質な機関だった。そういや大学のナビゲーションもそういった類の物だった。
…研究所のゲート管理も奴らが行ってくれていたな、間違えて研究書類を持ち出してしまった時はこっ酷く怒られた。無機物に怒られるのは後にも先にも、奴らとRatsだけに違いない。
彼女がステーションのマップデータを送ってくれたから、迷う事はない。…Ratsが僕に情報を送っておけば良かったのだけど、彼がここに来たのは少ないのか或いは一度もないのかも知れない。
ヘルタのオフィスに向かっていく途中、通りすがった人にチラチラ見られたが動揺しているようでは無かった。彼らはここに住み着いているから、無機生命体が闊歩するのに違和感は持たないようだ。正確には僕は無機生命体では無いのだが。
僕が研究所にいた時は色んな人に可愛がられた、それだけ僕が稀有な存在だと言う事。パンダが客寄せパンダである理由と同じ、まあ僕の国では見た事も無いし僕自身も肉眼で見た事はない。環境的な問題とそれを所有している国と僕達の仲が良好ではなかったからだ。…あの者達は僕の研究を覗き見ようとしたんだ。僕達が嫌っても、嫌われる筋合いは無い。
その点ステーションは険悪な組織もなく誰にでも対等な関係そうで嬉しい、ここではパンダも見られるかも知れない。パンダが他の星に居るかどうかは定かではないが。
…これはどうやって開けるんだ——
『対象合致…』
困っているのも束の間、機械的な音声と共に開いた。ここの者たちにノックなんて概念はないらしい。
他の壁と擬態し独立した壁が上部に引き上げられる様は、扉よりも宇宙船のハッチと形容した方が分かりやすい。観測室だけ特別なのかと思っていたがここでは全ての扉がこの様な仕組みで、なんだかSF小説の中に入ったかの気持ちになる。
オフィスに入ると、ヘルタがいた。
室内はミニマム的で研究器具で満ちている訳ではなかった、僕の部屋とは大違いだ。あそこは人間が通る場所は殆どない、機材が住んでいると言った方がまだ納得できる。
オフィスにはヘルタと…少し見た目が違うが恐らくスクリューガムだろう、ボディも金色で衣服も着けていないデフォルトの状態僕が見るのは初めてだ。他にも天才クラブの会員と思わしき人物の肖像画が宙に浮いている。
レーザー光を用いたホログラムの様な物だと推測できる、先史の時代はホログラムなど使う機会がなかった。飽き性な学者がボードゲームやルービックキューブを投影して遊んでいただけのものに過ぎなかった。それにコストが高い割には…アレなんだよ。
「これが見える?まだ他にも色々な物が足りないけど、これが次のプロジェクト。計画通りに行けばこれは、私の最高峰の発明になるかも知れないの。凄いでしょ」
ヘルタは僕の目の前にある大きな機械?を指差してそう言った。
彼女は其に多大な自信を持っている様だった、彼女が保持する一番の成果は若返りの論文だがそれに匹敵するのか。
「あと、あなたがずっと気になっているホログラムは接触すると私の自動音声が流れるの。試しに触れてみよっか」
「はいはい、遠慮しないで。ほらもっと近づいて」
僕のボディを持ち上げ、ホログラムの近くへとそっと置いた。…彼女は開発した物を僕に自慢したいみたいだ。
そして彼女は浮上する絵に触れた。その時ホログラムの下部から聞こえる自動音声はヘルタと似た声で人物の紹介をし始めた。
『——ザンダー・ワン・クワバラ、天才クラブ会員番号1番。私の純粋な敬意を……』
この彼がザンダーか、天才クラブの創始者でヌースを作ったとされる人物。
とても勉強になる、知らない情報も沢山ある。この調子で全員分作って欲しいが、それは自分勝手すぎるだろう。聞きたければヘルタかスクリューガムに言えば良い。
彼女の発明は本当に素晴らしい、尊敬に値する。僕は大いに満足した。
やはり彼女は現在の宇宙では天才の第一人者だろう。
「どう満足した?…それじゃあ、要件を言って。何かを決断したんでしょ」
彼女は本題へと移りたいらしい。それなら単刀直入に言おう。
「今から僕は君にお願いをする。当然タダでやってもらおうとは思ってはいない」
「それなら一つ。アルベルト、あなたの知恵全てを私に使ってくれる?そしたらあなたの望みを何でも叶えてあげる」
彼女は最初から僕に自分のプロジェクトを手伝わせるつもりだった。それ程受け答えはスムーズに進んだ、元から決まっていた返答。
「……ああ大丈夫、最初からそのつもりだ」
次は僕の要望だ、僕もすでに決まっている。僕が存在した瞬間からこの時の為に僕は生きていたのだと自覚した。僕が何故僕を作ったのか、その問いの答えは自身が導き出した。
「それで僕の望みは———ミス・ヘルタ、いつか必ず僕と一緒に先史文明を復元して欲しい」
「……そういうことね、アルベルト。分かったわ、了承する」
「それじゃよろしくね、今日からあなたは私の右腕よ」
正直先史文明をどうやって取り戻すのかは考えがまとまっていない。大切な事はArbelt-C3よりもRatsの方が完成した時刻も早く、機械的な有用性も彼の方が高い。この身は僕の脳を後世にも有用させる、そして僕が未来を覗くために作っただけの存在。
まず欲しいのはRatsだ…まあ後々彼から来るだろう。マスターの覚醒を確認したら迎えに来てくれるはずだ、僕から行く必要も無い。
ヘルタ、彼女のプロジェクトに僕が及ぼす影響はどれほどなのか分からないが、彼女からの指名だ。つまり僕のニューロンは彼女に必要なのだ
「これから私が始めるのはこの大きな機械を使ったプロジェクトの前段階の研究。今からそれを行う」
「分かりきってると思うけど、その為にあなたを再起動させた部分もあるの」
「改めて——おはよう、天才アルベルト・クーパー」
記録ファイルNo.XXXX
『やあ、博士調子はどうだい。あなたが教授でなくなってからもうすぐ1年だ』
『僕は最高の気分だよ』
『テキサス州は今日も晴れ、気象庁が言っていたよ半年も晴天が続いたのは史上初だって』
『今日、新しく研究が進んだ。これからフェーズを切り替える。論文は書くけど、その前に博士に披露するつもりだ』
『じゃあまた。お酒の飲み過ぎには注意して、ライト博士』