異世界で目を覚ましたら、言葉が通じないエルフと2人きりでした。しかもお互い別の世界から来たとか、聞いてない 作:飯テロ大魔神
焚き火の炎が、ぱちぱちと静かに弾けていた。
小さな熱が、夜の冷え込みをゆっくりと和らげていく。
彼は、例によって少し離れた場所に腰を下ろしていた。
けれど、ほんのわずか――今夜は、心の距離が近い気がしていた。
昼間の出来事が、何度も頭の中で反芻される。
あの“音”。
「りんご」
私がそう聴き取った、彼の言葉。
同じ音を、私も口にしてしまった。
自然に、抵抗もなく、まるでそれは“そうあるべき”だったかのように。
私たちの間で、初めて通じ合った“音”。
通じた――
……そう、言ってしまっても、いいのだろうか?
それが、なぜあんなにも胸の内を揺らしたのか。
自分でも、まだ上手く整理できていない。
ただの音、のはずだった。
けれど、あの時、確かに“なにか”が伝わったような気がしていた。
有り体に言えば、意味が通じた…
その感覚が、不思議で、くすぐったくて……少し、怖かった。
火が揺れる。
その向こうにいる彼が、ふと、何かを口にした。
「……赤い、炎だな」
意味は分からなかった。
でも、その中のある一音――“aka”という音の響きが、なぜだか心に引っかかった。
初めて耳にしたはずなのに、
それでも、どこかで……あの果実の場面と重なるような感覚があった。
私は、目を伏せて炎を見つめた。
そして、そっと口を開く。
「……aka……?」
確かめるように、小さく、ゆっくりと。
彼が言っていたその音を、もう一度、繰り返してみた。
彼がこちらを見る気配がした。
私は、反射的に視線を逸らした。
なにをやっているのだ、私は。
彼に伝わるはずもない“音”を、ただ真似して――
それで、なにを確かめたかったの?
心の奥が、ざわついている。
初めて感じた“通じ合えた感覚”を、私はまだ信じきれていない。
けれど、もしも。
もしもまた、あの時みたいに――
ほんの一瞬でも、“届く”瞬間があるのだとしたら。
そう思ってしまった自分に、気づいて、戸惑った。
火が揺れる。
彼の表情は、読み取れない。
彼が何を考えていたのかも、分からなかった。
それでも。
今日、あの言葉を交わせたのは、きっと――
間違いじゃなかった。
そして今も、あの“音”は、まだ耳の奥で揺れている。
“りんご”
“aka”
意味なんて、なくていいのかもしれない。
でも、私は――
今日、自分の中に何かが芽生えたことに、気づいてしまった。
まだ名前のつかない、揺れる感情。
それが、少しだけ怖くて。
でも、それ以上に、あたたかかった。
──だから私は、もう少しだけ、火のそばにいた。
彼のそばに。
この、まだ名前を持たない気持ちのそばに。