異世界で目を覚ましたら、言葉が通じないエルフと2人きりでした。しかもお互い別の世界から来たとか、聞いてない   作:飯テロ大魔神

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第10話《“音”が残る夜に》(エルフ視点)

 

焚き火の炎が、ぱちぱちと静かに弾けていた。

小さな熱が、夜の冷え込みをゆっくりと和らげていく。

 

彼は、例によって少し離れた場所に腰を下ろしていた。

けれど、ほんのわずか――今夜は、心の距離が近い気がしていた。

 

 

 

昼間の出来事が、何度も頭の中で反芻される。

あの“音”。

 

「りんご」

私がそう聴き取った、彼の言葉。

 

同じ音を、私も口にしてしまった。

自然に、抵抗もなく、まるでそれは“そうあるべき”だったかのように。

 

私たちの間で、初めて通じ合った“音”。

通じた――

……そう、言ってしまっても、いいのだろうか?

 

 

 

それが、なぜあんなにも胸の内を揺らしたのか。

自分でも、まだ上手く整理できていない。

 

ただの音、のはずだった。

けれど、あの時、確かに“なにか”が伝わったような気がしていた。

 

有り体に言えば、意味が通じた…

 

その感覚が、不思議で、くすぐったくて……少し、怖かった。

 

 

 

火が揺れる。

その向こうにいる彼が、ふと、何かを口にした。

 

「……赤い、炎だな」

 

意味は分からなかった。

でも、その中のある一音――“aka”という音の響きが、なぜだか心に引っかかった。

 

初めて耳にしたはずなのに、

それでも、どこかで……あの果実の場面と重なるような感覚があった。

 

 

 

私は、目を伏せて炎を見つめた。

そして、そっと口を開く。

 

「……aka……?」

 

確かめるように、小さく、ゆっくりと。

彼が言っていたその音を、もう一度、繰り返してみた。

 

 

 

彼がこちらを見る気配がした。

私は、反射的に視線を逸らした。

 

なにをやっているのだ、私は。

 

彼に伝わるはずもない“音”を、ただ真似して――

それで、なにを確かめたかったの?

 

 

 

心の奥が、ざわついている。

初めて感じた“通じ合えた感覚”を、私はまだ信じきれていない。

 

けれど、もしも。

もしもまた、あの時みたいに――

 

ほんの一瞬でも、“届く”瞬間があるのだとしたら。

 

 

 

そう思ってしまった自分に、気づいて、戸惑った。

 

 

 

火が揺れる。

彼の表情は、読み取れない。

彼が何を考えていたのかも、分からなかった。

 

それでも。

 

今日、あの言葉を交わせたのは、きっと――

間違いじゃなかった。

 

 

 

そして今も、あの“音”は、まだ耳の奥で揺れている。

 

“りんご”

“aka”

 

意味なんて、なくていいのかもしれない。

 

でも、私は――

今日、自分の中に何かが芽生えたことに、気づいてしまった。

 

まだ名前のつかない、揺れる感情。

 

それが、少しだけ怖くて。

でも、それ以上に、あたたかかった。

 

 

 

──だから私は、もう少しだけ、火のそばにいた。

 

彼のそばに。

この、まだ名前を持たない気持ちのそばに。

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