異世界で目を覚ましたら、言葉が通じないエルフと2人きりでした。しかもお互い別の世界から来たとか、聞いてない   作:飯テロ大魔神

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第12話《足音はひとつ、気持ちはふたつ》(エルフ視点)

森の空気が、ほんの少しだけ柔らかい気がした。

 

空が少しだけ明るく、風の香りもどこか軽い。

けれどそれは、目の錯覚かもしれない。

 

私の身体が、確かに重かった。

 

魔力の流れが鈍っている――そう、身体が教えてくる。

自覚はあった。

 

連日続いた焚き火のための火の魔法。

彼が拾ってきた植物や実の毒性を見極める際に用いた感応の術式。

そして、ときおり覗いてしまう――彼の魂の色。

 

一つひとつは大した消耗ではない。

けれど、それらが少しずつ、確実に私の内側を削っていた。

 

今の私は、魔力が欠けている。

 

……方法はある。回復する手段も、場所も、知識もある。

けれど、それを今、行動に起こすつもりはなかった。

 

 

 

彼は、今日も私の少し後ろを歩いている。

以前よりも近く、でも絶妙な距離を保って、静かに足音を響かせている。

 

 

彼が、なにか声を発した。

 

 

まただ。

今朝から、彼はよく、独り言のように“音”を口にする。

 

最初は警戒した。

私の行動に何か意図を読み取ろうとしているのかと思った。

けれど――そうではないのだと、ようやく気づいてきた。

 

彼は、私に“何か”を伝えようとしている。

 

その音の意味は、まだわからない。

でも、耳は慣れてきた。

彼の声は、低くて柔らかい。ときおり、どこか寂しさを帯びている。

……だけど、それが、嫌じゃなかった。

 

 

 

立ち止まる私に、彼の足音もぴたりと止まる。

何も言わない。けれど、その“沈黙”の質が、少しずつ変わってきている気がする。

 

彼は、気づいているのだろう。

私の足取りが重いことに。

だからだろうか――

 

彼が、道を引き返した。

 

私は一瞬だけ驚いて、それからその背を追いかける。

何をしに行くのか、わからなかった。けれど、どこか不思議な安心があった。

今は彼を素直に信じられた。

 

 

 

 

 

 

焚き火の場所に戻ったとき、私は静かに腰を下ろした。

体が言うことをきかないほどではない。けれど、魔力の底が見えかけていた。

 

火を灯すこと。

それすらも、今の私は躊躇していた。

 

けれど、焚き火の跡に彼が手を伸ばしたとき――

彼は、まだ残っていた小さな火種を見つけ、それを丁寧に育て始めた。

 

小さな枝を拾い、そっと風を送り、火を大きくしていく。

彼の手の中で、炎がまた命を持ち始めた。

 

……彼は、火を灯せないはずなのに。

どうして、そんなに優しく扱えるのだろう。

 

 

 

私は言葉を交わしていないのに、心の中に、静かな熱が灯るのを感じた。

 

そして彼は、何かを言って、森の奥へと歩き出した。

意味はわからない。けれど、その声音は――「心配しなくていい」と言っているように聞こえた。

 

私はその背を、また見送った。

 

 

 

 

 

 

しばらくして、彼が戻ってきた。

腕には、小さな実と何かの葉。

濡れた手のひらが、冷たい水辺に触れたことを物語っていた。

 

 

「……ただいま」

 

 

彼が戻ってきて何か声を出した。

 

その音も、意味はわからない。けれど、私はほんの少しだけ、目を細めた。

 

彼の瞳が、私の様子を気にしているのが伝わってきた。

 

私は、何も言わなかった。

でも――彼の言葉は、確かに“音”を超えようとしていた。

 

 

 

彼も火のそばに座り、それを見届けて、私は静かに目を閉じる。

 

疲労と、微かな温もりと、火のぬくもり。

 

今だけは、この沈黙の中で、彼の声を思い出していた。

 

彼の発する音には、意味がある。

まだ私にはわからないけれど、いつかきっと――

 

それが“言葉”になる気がするのだ。

 

 

 

──ただの音だったはずのものが、

なぜだろう、今は少し、心に触れていた。

 

 

 

そして私は、小さく、声にならない声で呟いた。

 

「……ありがとう」

 

それは、届かなくてもよかった。

 

でも、自分の心が、今、確かにそう言いたかったから。

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