異世界で目を覚ましたら、言葉が通じないエルフと2人きりでした。しかもお互い別の世界から来たとか、聞いてない   作:飯テロ大魔神

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第4話《距離と模倣》(エルフ視点)

風の匂いが変わった。

 

朝の森は、昨日よりも冷たく、空気が硬くなっている気がする。

それでも、私は森の奥へと足を向けた。

 

彼が、ついてくる。

 

昨日と同じように。

まるで、当然のことのように。

 

 

 

本来なら、警戒すべきことだ。

言葉も通じず、素性も分からぬ人間が、私のすぐ後ろを歩いている。

 

なのに、足取りが重くならないのは――

あの人間が、私に危害を加えるとは思えないからだ。

 

魂の色は、変わらない。

透明に近い、深い水のような、静かな色。

 

どれほど警戒を向けても、

私が睨み返しても、

彼の色は、澄んだままだった。

 

……それが、逆に、恐ろしくなる。

 

 

 

私の知っている人間たちは、感情を隠す。

顔では笑っていても、魂の色は黒く濁っていることもあった。

 

でも――あの人間は違った。

 

私の動きを、ただ“真似して”くる。

何を食べるか。どこで水を飲むか。

私の行動を見てから、彼は決める。

 

それが、支配しようとしているのではなく、

“信じようとしている”ようにすら見えた。

 

……理解ができなかった。

 

 

 

枝を拾った。

 

この世界の魔力の流れは不明瞭で、精霊たちの気配も感じない。

念のため、何か“手に持つもの”が必要だと思っただけだ。

 

それを見た彼が、じっとこちらを見ていた。

 

……何を考えているのだろう。

この人間の中で、私はどう見えているのだろう。

 

 

 

また、水場を見つけた。

昨日よりも流れが速い。岩も滑りやすそうだ。

 

私は手をかざし、魔力を流して安全性を確かめた。

すると、また彼が私と同じように動く。

 

本当に、真似ばかりだ。

 

でも、そこに悪意はない。

 

私は、そっと彼を盗み見る。

目が合いそうになると、彼はすぐに逸らした。

 

なぜ、私を避ける?

 

 

 

昨日もそうだった。

焚き火を囲んで、私は彼の隣に座ったのに、彼はわざわざ少し離れた場所に座った。

 

私が上着を脱いだだけで、彼の視線はまったくこちらに向かなくなった。

 

……私が不快なのか?

彼にとって、私は“気持ち悪い存在”なのか?

 

不安が胸を掠める。

 

でも、彼の魂の色は――変わらない。

むしろ、近づけば近づくほど、

その色は優しく、どこか懐かしさすら感じさせた。

 

 

 

彼は、私の行動を否定しない。

そして、私の言葉が分からなくても、何かを伝えようとする。

 

それが、なぜか嬉しい。

 

言葉が通じないのに、

こんなにも“通じている”と感じるのは、なぜだろう。

 

私はまだ、この人間を信じていない。

でも――

 

信じてもいいかもしれない、とは思っている。

 

それだけで、今は充分だった。

 

 

 

──距離は、まだある。

けれど、その距離が、少しだけ心地よく感じられるようになってきた。

 

明日も、この人間が隣にいてくれるのなら――

私は、もう少し、この世界で、歩いていける気がする。

 

 

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