異世界で目を覚ましたら、言葉が通じないエルフと2人きりでした。しかもお互い別の世界から来たとか、聞いてない 作:飯テロ大魔神
風の匂いが変わった。
朝の森は、昨日よりも冷たく、空気が硬くなっている気がする。
それでも、私は森の奥へと足を向けた。
彼が、ついてくる。
昨日と同じように。
まるで、当然のことのように。
本来なら、警戒すべきことだ。
言葉も通じず、素性も分からぬ人間が、私のすぐ後ろを歩いている。
なのに、足取りが重くならないのは――
あの人間が、私に危害を加えるとは思えないからだ。
魂の色は、変わらない。
透明に近い、深い水のような、静かな色。
どれほど警戒を向けても、
私が睨み返しても、
彼の色は、澄んだままだった。
……それが、逆に、恐ろしくなる。
私の知っている人間たちは、感情を隠す。
顔では笑っていても、魂の色は黒く濁っていることもあった。
でも――あの人間は違った。
私の動きを、ただ“真似して”くる。
何を食べるか。どこで水を飲むか。
私の行動を見てから、彼は決める。
それが、支配しようとしているのではなく、
“信じようとしている”ようにすら見えた。
……理解ができなかった。
枝を拾った。
この世界の魔力の流れは不明瞭で、精霊たちの気配も感じない。
念のため、何か“手に持つもの”が必要だと思っただけだ。
それを見た彼が、じっとこちらを見ていた。
……何を考えているのだろう。
この人間の中で、私はどう見えているのだろう。
また、水場を見つけた。
昨日よりも流れが速い。岩も滑りやすそうだ。
私は手をかざし、魔力を流して安全性を確かめた。
すると、また彼が私と同じように動く。
本当に、真似ばかりだ。
でも、そこに悪意はない。
私は、そっと彼を盗み見る。
目が合いそうになると、彼はすぐに逸らした。
なぜ、私を避ける?
昨日もそうだった。
焚き火を囲んで、私は彼の隣に座ったのに、彼はわざわざ少し離れた場所に座った。
私が上着を脱いだだけで、彼の視線はまったくこちらに向かなくなった。
……私が不快なのか?
彼にとって、私は“気持ち悪い存在”なのか?
不安が胸を掠める。
でも、彼の魂の色は――変わらない。
むしろ、近づけば近づくほど、
その色は優しく、どこか懐かしさすら感じさせた。
彼は、私の行動を否定しない。
そして、私の言葉が分からなくても、何かを伝えようとする。
それが、なぜか嬉しい。
言葉が通じないのに、
こんなにも“通じている”と感じるのは、なぜだろう。
私はまだ、この人間を信じていない。
でも――
信じてもいいかもしれない、とは思っている。
それだけで、今は充分だった。
──距離は、まだある。
けれど、その距離が、少しだけ心地よく感じられるようになってきた。
明日も、この人間が隣にいてくれるのなら――
私は、もう少し、この世界で、歩いていける気がする。