異世界で目を覚ましたら、言葉が通じないエルフと2人きりでした。しかもお互い別の世界から来たとか、聞いてない   作:飯テロ大魔神

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第5話《風の音が告げたこと》

三日目の朝は、少しだけ寒かった。

 

明確な季節感は分からない。

けれど、空気の密度や木々のざわめき、肌をかすめる風の温度が、昨日とは違う“気配”を含んでいた。

 

この世界の天候の周期も、気候のルールも分からない。

それでも、なんとなく――今日は、何かが起きそうな気がしていた。

 

 

 

彼女の姿は、また少し離れた場所にあった。

地面に膝をつき、何かを拾い上げている。

 

細長い、しなやかな枝。

昨日のそれよりも、手にしっくりと馴染みそうな形状だ。

 

私は思う。

きっと、彼女は賢い。

理屈ではなく、感覚で環境を読んでいるのだろう。

 

そして、私は――

未だにこの世界と元いた世界の明確な違いすら把握できていない。

 

 

 

……情けない、と思った。

けれど、それと同じくらいに、“置いていかれる”ような不安が胸に広がった。

 

この世界において、私はただの人間だ。

魔法も使えず、言葉も通じず、見知らぬものを見極める術もない。

 

じゃあ、自分には何ができる?

 

私は、問い続けている。

 

 

 

朝の探索の途中、彼女が私の方をちらりと見た。

ほんの一瞬、視線が交差した。

 

その目に宿るのは、もはや敵意ではない。

けれど、安心でも信頼でもない。

 

ただ、観察。

私は、観察されている。

 

それが、少し可笑しくて、少し寂しい。

 

 

 

昼を過ぎた頃、斜面の岩場で果実のようなものを見つけた。

見た目は柿に似ているが、匂いはまったく違う。

彼女は軽く手をかざし、ひと呼吸おいてからそれを摘み取った。

 

私もそれに倣う。

 

彼女は食べなかった。

なら、私も食べない。

 

ただ、懐の中へ入れ、念のために持ち帰る。

 

「使えるかもしれない」という視点だけは、忘れないようにしたい。

 

 

 

そして――夜が近づいてくる。

 

今日もまた、焚き火の準備をする彼女を、私は少し離れた位置から眺める。

風が冷たく、火が恋しい。

けれど、私は彼女に近づかない。

 

それは、“紳士的であろう”という意思ではなく、

自分の存在が彼女にとって負担であってほしくないという、ただの自己防衛だ。

 

……そう、私は弱いのだ。

それを、認める勇気くらいはある。

 

 

 

焚き火が灯り、あたたかな色が空気を染める。

彼女の横顔が、炎の明滅で浮かび上がる。

 

私はふと、目を逸らしながら、ぽつりと呟いた。

 

「……暗くなってきたな」

 

それは、ただの独り言だった。

誰に向けたわけでもない。

この世界では、話し相手などいないのだから。

 

でも、その時だった。

 

「……クラ、ク……?」

 

彼女の声が、風に乗って届いた気がした。

 

顔を上げると、彼女がこちらを見ていた。

目を見開き、驚いたような表情で。

 

「……ん?今、なにか…?」

 

もちろん、答えは返ってこない。

彼女はすぐに視線を逸らし、火を見つめ直した。

 

その瞳に、わずかな動揺があった。

 

私は、言葉を失った。

 

なにかが、通じた……?

 

いや、気のせいかもしれない。

音が似ていただけ。偶然だ。

そう、自分に言い聞かせながらも――心は、妙な高鳴りを覚えていた。

 

 

 

初めて、彼女から“返事らしきもの”が返ってきた。

 

たった一言、たった一音。

それだけのことで、世界が少し違って見えた。

 

 

 

“何かが通じるかもしれない”

 

そんな希望が、確かに、心に灯った気がした。

 

 

 

──夜の森は静かだった。

けれど、今夜だけは、風の音が少しだけ違って聞こえた。

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