異世界で目を覚ましたら、言葉が通じないエルフと2人きりでした。しかもお互い別の世界から来たとか、聞いてない   作:飯テロ大魔神

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第7話《音が、交差した》

あれから何日経ったか、、

 

今日も空は淡い。

青とは言えない、けれど濁ってもいない。

この世界の空は、まだ“感情”を持っていないような、そんな印象がある。

 

木々を抜ける風の音。

それを邪魔するように、自分の足音が土を鳴らす。

 

 

言葉のない日々にも、少しずつ“リズム”のようなものが生まれてきた気がする。

彼女の歩幅や、視線の向け方。

それに合わせて、自然と自分の身体が動くようになってきていた。

 

どちらが先を歩くかは、その日によって変わる。

彼女が前に出れば、自分はついていく。

自分が先に動き出せば、彼女は一定の距離を保って後ろを歩く。

 

それだけで、何かが通じているような気さえしていた。

 

森を歩いて、どれくらい経っただろうか。

 

 

 

ふと、視界が開けた。

ゆるやかな丘の中腹。

そこに、一本だけぽつんと生えている木があった。

 

その枝に――赤い実がぶら下がっていた。

 

 

「……まさか……」

 

 

思わず足が前に出た。

目を凝らす。

 

サイズはやや小ぶりで、色も淡い。

けれど、その丸み、光沢、枝ぶり。

 

 

「……りんご……?」

 

 

ぽつりと呟いた。

誰に向けたでもなく、ただ、目の前の実に対して。

懐かしさ。驚き。信じられなさ――それらすべてを含んだ、独り言だった。

 

だが、返ってきた。

 

 

「……リンゴ……?」

 

 

自分の背中越しに届いた声。

その一言が、風に混じって耳に触れたとき、世界が一瞬だけ止まった気がした。

 

振り返る。

彼女が、こちらを見ていた。

 

驚き、戸惑い、そして……なにかを探すような目。

紅い瞳が揺れている。

心の奥がかすかに震えているのが、伝わってきた。

 

もう一度、そっと呟く。

 

「……りんご?」

 

すると彼女も、ほんの反射のように、静かに口を開いた。

 

「……リンゴ……」

 

その響きは、たしかに――自分が発した音と、同じだった。

同じ音。

同じ意味。

 

それが、彼女の口から“返ってきた”。

 

この世界で初めて。

ふたりの間に“通じた”言葉が生まれた。

 

それだけのことが、どうしようもなく嬉しかった。

 

 

 

自分はゆっくりと木に近づき、そっとひとつの実をもぎ取る。

 

彼女のもとへ戻ると、彼女はほんの一瞬だけ逡巡したあと、両手を差し出した。

指先が少しだけ震えているように見えた。

 

自分は、その掌にりんごを置く。

 

彼女は視線を落とし、まるで記憶を辿るように静かにそれを見つめ――そしてまた、ぽつりと。

 

「……リンゴ……」

 

それはまるで、大切なものにそっと名前をつけるような声音だった。

 

思わず、心の奥があたたかくなる。

それに応えるように、再び口にした。

 

「……りんご」

 

たった一つの音。

でも、これはただの果実の名前ではない。

 

彼女にとっても。

自分にとっても。

この“りんご”は、世界のなかで唯一、お互いに意味を共有できる存在だった。

 

その奇跡が、いま、目の前にある。

 

 

 

彼女がこの果実を見ていた瞳。

それは、驚きでも、戸惑いでも、敵意でもない――もっとずっと柔らかな、温かい色だった。

 

たった一言で、たったひとつの果実で。

そんな心の距離が、少しだけ、縮まるなんて。

 

言葉ではない。

けれど、そこには確かに、会話に似た何かがあった。

 

 

 

これが、“奇跡の種”。

 

誰に届くでもなく、誰に見守られるでもなく。

でも、それでも確かに――ここに、芽吹いた。

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