異世界で目を覚ましたら、言葉が通じないエルフと2人きりでした。しかもお互い別の世界から来たとか、聞いてない   作:飯テロ大魔神

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第9話《“音”が残る夜に》

焚き火の炎が、ゆらゆらと揺れていた。

小さな熱が、夜の冷えをそっと押し返していく。

 

彼女は、いつものように少し離れた場所に腰を下ろし、静かに火を見つめていた。

その横顔は、どこか猫のように見える。

白くて、きれいで、でも気高くて――すぐには手の届かないもののようで。

 

 

……昼間のことを、思い出していた。

 

 

「りんご」と呟いた、自分の声に、

「リンゴ」と、驚いたように返してくれた彼女の声――

それは、透き通るように澄んでいて、まるで風鈴の音みたいだった。

 

音だった。

けれど、意味のある音だった。

それは、自分と彼女とが“初めて通じ合えた言葉”だった。

 

共鳴した、じゃない。

声が聞こえる、じゃない。

 

それでも、確かに、あのとき――“何かが届いた”気がした。

 

 

 

彼女の声が、まだ耳の奥に残っている。

もう一度、聞きたい。

ただそれだけの、ささやかな願いが、自分の中に芽生えていた。

 

だけど、それを口にすることは、きっとない。

だって、言ったところで、通じるわけじゃないから。

この距離でさえ、もしかしたら――十分すぎるほどなのかもしれない。

 

 

 

炎が揺れた。

ふと、自分はそれを見つめながら、ぽつりと呟いた。

 

「……赤い、炎だな……」

 

ただの独り言。深い意味などない。

自身の心の浮ついた様な、ざわめきを紛らわすための、

そんな、本当にただの独り言だった。

 

 

でも――視線を感じた。

 

 

彼女が、こちらを見ていた。

 

 

自惚れでなければ、やっぱり彼女も、気にしているのかもしれない。

自分の声を、“音”として聴いている。

昼間の「りんご」のときのように。

 

そう思った瞬間。

焚き火の薄明かりの中で 彼女の唇が、わずかに動いた。

 

そして、風の音でもかき消えそうな、小さな声で――

どこか不安げな様子で、呟いた。

 

「……aka……?」

 

 

 

……驚いた。

 

 

その“音”に、どこか意味があるように聞こえたから。

彼女は、何かを探っている。

「りんご」のときと同じような瞬間を。

自分の世界での“音”と、彼女の世界の“音”が重なる場所を。

 

たった一言。

でも、そこには確かに、意思があった。

 

 

 

彼女の声は、やっぱり綺麗だった。

昼間と同じ。

透き通っていて、耳の奥に残る。

……また、聞けて、よかった。

 

ただ、それだけのことが。

今の自分には、嬉しかった。

 

 

 

言葉がないのに、交わされている気がする。

通じていないはずのものが、どこかで重なっている気がした。

 

 

 

それだけのことを、静かに噛みしめながら、

焚き火の炎を見つめる。

 

彼女にとって、声を発することや、視線を合わせるという行為、

その意味はおそらくだが、人間である自分の感覚とは違うものがあるのだろう、、

それでも、だからこそ、

 

言葉にできないことが、

こんなにもあたたかい夜をくれるなんて――

少しだけ、思ってもみなかった。

 

明日からは、伝わらなくとも彼女に自分の言葉を伝えていってみよう。

そう決心した。

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