とある高校の一階、会議室。窓から射し込む夕焼けを光源に、1人の男子生徒が口を開いた。
「まず、突然の誘いにも関わらず、この場に集まって下さり感謝します」
黒髪、黒目、いかにも堅物という雰囲気を醸し出す眼鏡を掛けたこの男子生徒は、本校における生徒会長である。しかしながら、あまりにも普通過ぎる見た目ゆえに、その印象は薄い。
「仕方ねーだろぉ? 生徒会長サマに声掛けられて、応じなかったら周りの連中に、不審に思われちまう」
生徒会長とは真逆の、シャツの胸元を大きく開けて制服を着崩した金髪・日焼けの男子生徒。渾名はチャラ男。しかし生徒会長の言葉に対しての返答は真面目であった。
「で、でも、此処に居る人たち、みんな同じ境遇とは思わなかった……」
小柄で横に体格が大きいながらも、声量が小さい男子生徒。キモオタと周囲から疎まれている彼だが、今この場で彼を疎む者は居ない。
「いやぁ、いきなり生徒に声かけられた時はおじさんも驚いたが、仲間がいた事に安堵してる自分が居るよ」
この場で唯一の大人。ボディビル大会に出てもおかしくないような筋肉を誇る巨体の男。顔も厳つく、一部の女子から人気のない教師である。教員歴は長いが、水泳部や陸上部など運動部系の顧問を転々としている。
そんな、やや女性ウケの良くない男たちが集まったのは、理由があった。生徒会長が集まってもらった理由を話す。
「私たちには共通点があります。それは……転生者であること」
転生者。昨今のサブカルチャーにおいて、物語の属性として大きく食い込んでいる言葉。今この場に集まっている男たちの共通点は、全員が前世の記憶を持っていると言うことである。
「転生者である皆さんの前だからこそ言えますが……この世界」
深刻な顔で話す生徒会長に、キモオタが生唾をのみ込む。
「明らかにアダルト世界です」
「「「ですよね!!」」」
全員のツッコミが、一字一句違うこと無く響き渡った。
「前世と比べて、やけに女性のルックス良いなーって思ってたわ!」
「あの歳であんなにバストとかヒップ大きくなるの?って何度疑問に思ったことか!」
「何ならこの学校の女子運動部の指定服、身体の一部分を強調するようなデザインしてるから、赴任した時は目を疑ったよ……!」
口々にこの世界へツッコミを入れる男たち。そう。彼らが転生した先は、ゲーム・漫画・アニメ……いずれも頭に『エロ』という単語が付く世界だったのである。
「普通は嬉しいと思うぜ!? もしかしたらワンチャン……って思うよ! けどさぁ、俺の見た目明らかに寝取る側じゃねえか! 俺の性癖は純愛イチャラブなんだよぉ!」
頭を掻きむしりながら絶叫し、且つ性癖も暴露したチャラ男。何なら前世はそんな甘酸っぱい恋に憧れたまま、童貞を卒業すること無く転生している。
「何なら僕だって、見た目寝取る側だよ!? 催眠アプリとか時間停止とか使いそうなルックスしてるよ! けど僕は声を大にして言いたいよ! そんなの使うんだったらテクニックと性欲で勝負する派だぁ!!」
涙を流しながら性癖を叫ぶキモオタもとい、ぽっちゃりオタク。何気に前世では童貞卒業したが、その嬉しさでスキップしてたら車に撥ねられたという、残念な死因を持っている。
「体育教師でこのガタイ、明らかに部活してる女子を襲いそうな見た目だよね。けどおじさんは、前世では妻子持ちだったんだよ!? 病気でどんどん痩せながら死んだからその分鍛えたのに、こんな見た目になるとかあんまりだよ! おじさんは妻一筋だぁ!」
四つん這いになり叫ぶ体育教師。今でも、泣きながら自分の名前を呼ぶ妻と娘の顔を思い出すため、転生後は未だに独身である。なお、鍛えた影響なのか一部の生徒たちからの悪評もバッチリと聞こえており、その悲しみを筋トレに活かす日々である。
それぞれが望まぬ結果になっている不運を嘆く男たち。その中で生徒会長は平静を保っているが、これから明かす事実に、冷や汗がダラダラと流れていた。なお彼もチャラ男と同じく童貞で、その死因はトラックに轢かれそうになった子供を助けようとしたという、サブカルチャーではよくある(?)内容であった。
「……不運を嘆いているところを申し訳無いのですが、更なる悲報があります」
「あぁ? これ以上俺たちが叫ぶ要素が何処にあるってんだよ」
「もうだいぶ叫んだから、今の僕たちは却って冷静になってるよ」
「この世界、対魔忍とか魔法少女がいます」
「「「嘘だろ!?」」」
これだけ叫んでいるのに誰も会議室に乱入しないのも、ご都合主義である。
「え、あ、はぁ!? 高校を舞台にしたアダルト世界じゃねえの此処!?」
「私は皆さんと違ってあまり個性がないので、生徒会業務の傍らで色々調べてたのですが……はい。どうやら女性が戦う場面もあるようです。何なら、近未来なパワードスーツもありますし、そのパイロットは女性が多いです」
「此処ぞとばかりに、アダルト世界にありそうな設定がてんこ盛りだぁ……」
男たちの間に動揺が広がる中、体育教師が小さく手を挙げた。
「あの、おじさんも結婚前は、そう言う対魔忍とかアダルト魔法少女モノとかでそのぉ……発散してた事もあるよ? けどさ、あれって設定とかかなり鬼畜な物もあった気がするんだけど」
「「あっ」」
「何なら、所謂『悪堕ち』ってジャンルの場合、前世の架空の物語だったら悪堕ちしたって締め括りだよね? けど、今おじさん達がいるこの世界は現実だ。仮に悪堕ちとかしても物語は終わらないから……世界滅亡の危機なんじゃないかな?」
体育教師の言葉に、生徒会長は「貴方も気が付きましたか」と小声で呟いた。そして全員が……頭を抱えて机に突っ伏した。
「えぇ……? じゃあアレか? 人に嫌われるような見た目してる俺たちで、このアダルト世界を救えと?」
「どんな無理ゲーだよそれ……。チート能力があるかどうかも分からないのに……」
「今のおじさんの筋肉でも……うん、出来ることは限られそうな気がするなぁ……」
暗い雰囲気の中、生徒会長は何とか言葉を紡ぐ。
「えっと、取り敢えず今回集まったのは現状確認が目的でした。今後どうするかはその、時間を見つけて報告し合うという事で……」
「「「さんせーい……」」」
アダルトが溢れる世界にて、男たちは不運を嘆いた。