一般大学生先生   作:メタルウーパ

3 / 23
どこで切ろうか悩んだ挙句の短さです。


カイザー理事

 ヘルメット団の雇い主は、カイザーの社員の一人だった。カイザーの理事まで辿り着けないよう、他にも多くの人間を間に挟んでいるのだろう。

 

 しかし、理事と会う約束自体は、案外すんなりと取り付けられた。おそらく、こうなる可能性も想定済みだったのだろう。

 実際、電話を切って数分もしないうちに、カイザー側からの迎えの車が届いた。

 

 正直、これには大分助けられた。車には、カイザーのお抱えらしい医者が乗っていたからだ。やはり本職が治療してくれたほうが安心感が凄い。

 腕の傷は、貫通したと思っていたが、弾がまだ残っていたらしい。貫通したほうがひどい傷になるので、運がいいと言われた。

 凄腕の医師なのだろう。車内で私に麻酔をぶっさし、弾を取り除いて縫合までしてくれた。

 これで変に化膿したり、破傷風になったりすることはないはずだ。

 あくまでこれは応急処置であり、後で病院にいくのは確実だと言われたが。

 

 ぐるぐるに巻かれた包帯を隠すように、ジャケットを着る。向こうにバレているとはいえ、見た目を取り繕うのは初対面の人に会う時の礼儀だ。

 

「到着いたしました。こちらへどうぞ」

 

 辿り着いたのは、バカでかいビルの前だった。40階層はあるだろう。

 安心を求めるかのように、『シッテムの箱』を軽くなでる。傷一つないそのすべすべとした手触りに、私は多少落ち着きを取り戻した。

 そのまま運転手の人に連れられ、エレベーターで最上階へ上がる。最上階で長い廊下を歩いた先に、その部屋はあった。

 

「よく来たな、先生。さぁ、座ってくれ」

 

 部屋の中では、画面でよく見たカイザーの理事が、堂々と立っていた。

 私は促されるまま、ふかふかの椅子に座る。めっちゃふかふかだ。シャーレにも一つ欲しい。

 

 座ってしまうと、立っている理事がより大きく見えた。これも交渉術の一つなんだろうか。

 ちら、と周囲を盗み見る。私を案内してくれていた運転手は、いつのまにか二人のゴツい護衛に代わっていた。完全武装だ。威圧感がハンパじゃない。

 

「さて、シャーレの先生。私と話したいことがあるんだって?」

 

 カイザーは余裕綽綽だ。私の体の貧弱さを知っているからこそ、ここから巻き返すことなどできないと確信しているのだろう。

 実際、私の力では不可能だ。だからこそ、こうして理事と対面する状況が作れた。

 

「……もう、疲れた」

 

 今の私の、正直な感想だ。疲れた。本当に。

 理事との会話に付き合う気すら起きないほどに。

 ──もうこの時点で、私の目的は達成していた。

 

「ん? どうしたのかね?」

 

 懐から『大人のカード』を取り出す。キヴォトスに来て、気付いたら手元にあったこのカード。

 その真価を、見せる時が来た。

 

「──」

 

 掛け声すら、必要なかった。

 

 私を守るように現れた4人分のホログラムは、瞬時に2人の護衛を気絶させ、理事の体を抑え込んでいた。

 

「な、なんだそれはっ?!」

 

 腕を捻りあげられ、床に顔を押し付けられている理事が叫ぶ。

 私はそれを無視して、呼び出された生徒達を観察していた。どういう原理なのだろうか。ホログラムにしか見えない半透明の体は、確かな実体をもってカイザーを制圧していた。

 

 ……おそらく、呼び出したのはアビドスの皆だ。しかし、いまいち確信がもてない。顔はしっかり見えているはずなのに、うまく認識ができないのだ。

 本人たちが既に存在しているからだろうか? ……まぁ、明らかに異常な現象だし、何があっても不思議ではない。

 

 おい! 離せ! と叫ぶ理事を放置して、私は理事のパソコンに『シッテムの箱』をケーブルでつなげる。

 ──真っ黒な画面だったパソコンが、ブゥゥンという低い音と起動した。

 そこまで確認して、私は理事のもとへ戻る。後はアロナが上手く証拠を集めてくれるだろう。

 

「理事。お前の不正の証拠はもう手に入れた。バラされたくなかったらアビドスの借金をお前が払え。9億くらい、お前なら余裕だろ」

 

 単刀直入に言う。正直もう頭が限界だ。ふらふらする。

 ヘルメット団との時に、血を流しすぎた。

 

「……先生、この私を脅迫する気か?」

 

「気じゃなくてもうしてるんだよ。9億払うか、矯正局にぶち込まれるか、好きなほうを選べ。……お前レベルの奴なら、一生牢屋生活かもな」

 

 脅しをかける。こいつなら、冗談じゃなくそのくらいはしてそうだ。

 理事は、少し悩んで、問いかけてきた。

 

「……アビドスの借金の肩代わり。本当にそれだけだな」

 

「いや、今後アビドスに手を出さないことも追加だ」

 

 確認をしてくれて助かった。もう、そこまで頭が回っていない。

 

「……わかった。離せ」

 

 理事を抑えていた生徒に向けて頷く。

 生徒は全員、霞むように消えていった。……全員消えるのか。ちょっとミスったな。

 

 理事がゆっくりと立ち上がった時、ちょうど携帯が鳴った。

 

「なんだ。私は今忙しい。手短にしろ」

 

 こいつ、目の前に脅迫相手がいるってのに、躊躇なく電話に出やがった。舐めているのか、肝が太いのか。

 

 十数秒で、理事はピッと電話を切った。本当に手短にさせたらしい。

 

「何の電話だ?」

 

「──いや、何。ちょっとしたことだよ」

 

 若干イラっとした。こいつには、脅迫されてる自覚がないのか? 

 

「それより、君の提案についてだ。──いいだろう。私がアビドスの借金を全額返済しておこう。そして、今後アビドスに手を出さないことも誓おう。……ただし、アビドス砂漠の調査は続けさせてもらう」

 

「……駄目だ。その調査も凍結させろ」

 

 アビドスの砂漠。あれは駄目だ。あの船をカイザーが手に入れたら、何が起こるか分かったもんじゃない。

 

「……ふん、譲歩してやる。ただし、私が譲るのはここまでだ。これ以上は一切譲らない。その代わり、こちらからも条件がある」

 

「……不正の証拠は渡さんぞ」

 

 それを渡したら、お前絶対裏切るだろ。

 

「それはいい。どうせバックアップは取ってあるのだろう。それに、信用できん」

「私の条件は、説得だ。アビドス校と砂漠については、私の協力者のほうが積極的でね。そっちの説得は君がしろ」

 

 ……黒服か。完全に失念していた。

 今の体調で相手にしたくはないが、これはどっちにしろ避けては通れない道だろう。これが条件というのは、逆に都合がいいと考えるべきだ。

 

「わかった。それでいこう」

 

「──その必要はありませんよ」

 

 私と理事が、バッと部屋の入口を見る。そこには、相変わらず不気味な笑顔を張り付けた黒服が立っていた。

 

「初めまして、『先生』。私は、ゲマトリアに所属しています、『黒服』です。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 判別不明の顔、ただ立っているだけでわかる異質な雰囲気。——あぁ、こいつは私と格が違う。

 

「……黒、服」

 

 無言なのに、凄まじい圧を感じる。落ち着け。相手の雰囲気に飲み込まれるな。

 

「先生。私たちは観察者であり、探求者であり、研究者です。貴方と敵対する気はありません。──それどころか、私たちはあなたに興味を持っています」

 

 なんだこいつは。急に意味不明なことを言い出した。

 

「貴方という『不可解な存在』、明らかなオーパーツであり、この世の真理に最も近い『シッテムの箱』、そして何より、オーパーツとすら言えない明らかな()()『大人のカード』!」

「──先生、私たちの仲間になりませんか?」

 

「断る」

 

 考える間もなく、即答していた。お前らとはできるだけ関わりたくもない。

 

「……そうですか。しかし、私たちはいつでも歓迎しますよ」

 

 嫌だっつってんだろ。

 

「それより、本当にお前もアビドスから手を引くんだな?」

 

「ええ、まぁ。これまで()()()を守って丁寧にやってきたのに、今日一日で貴方にぐちゃぐちゃにされましたからね。もう一度するには、効率が悪い。あとはまぁ、お近づきの印にというやつです。それと、その大人のカードを躊躇いなく使ったあなたへの敬意の証に」

 

 何を言っているんだこいつは。しかし、黒服がこんなちんけな嘘をつくやつではないことを知っている。だからこそめんどくさいのだが、信用してもいいだろう。というか、するしかない。

 

 理事と黒服に背をむけて、パソコンに繋いでいた『シッテムの箱』を回収し、部屋の出口へ向かう。

 すれ違いざまに、理事が話しかけてきた。

 

「裏切るなよ。そうした場合どうなるか、お前にもわかっているだろう。……プレジデントは、私ほど甘くないぞ」

 

「あぁ、知ってるよ。約束は守る」

 

「これでお前も、共犯者だな!」

 

 ハハハと理事が笑う。確かに、生徒会直轄のシャーレの先生が犯罪者とは、とんだジョークだ。

 ……もう、後には引けない。これで私も、理事の同類だ。

 

「そのカードは諸刃の剣です。どうか、お体に気をつけて」

 

 黒服のそんな言葉を最後に、私はドアを閉めた。

 

 そして、私は廊下に蹲る。

 

 フッ、フッという浅い呼吸を繰り返す。心臓が痛い。破裂しそうだ。血管の流れるドクドクという音が耳の中で反響する。

 そのくせ、貧血の時みたく頭がふらふらする。吐き気がきつい。

 原因は分かっている。大人のカードだ。

 あれで呼び出した生徒を消した辺りから、体に違和感を感じていた。

 

 ブルアカでの『大人のカード』を思い出す。

「生と時間を削るもの」。当時は、クレジットカードという形を通じて、課金やらに対するメタファーにしているのだと思っていた。

 しかしどうやら、この世界ではその在り方のとおり、使用するのに何かを支払う必要があるのだろう。

 

 

 十分ほど蹲ったあと、私は歩き出した。

 

 アビドスに帰ろう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。