まぁ、なんだかんだで、ゲーム開発部の作戦が始まった。
私がすることは、実はほとんどない。せいぜいが、戦闘時の指揮を無線でとるだけだ。実際現場に行ったら足手まといになってしまう。
別に何もしたくないというわけではないのだが、これはアリスがゲーム部や他の皆と力を合わせ、困難を乗り越えるという、大きく成長する部分だ。私がでしゃばる意味がない。
それに今回はこれが内輪もめどころか、ただの試金石である。つまり、安全は担保されている。
そして実際、それは正しかった。モモイとミドリが力を合わせてC&Cとユウカを引きつけ、アリスが裏をかき、ユズが仲間のために勇気を振り絞って、作戦は成功に終わった。
流石ゲーム開発部。普段はトンチキなことが多いが、その絆には脱帽せざるを得ない。
る。
もろもろが終わり、モモミドとユズがG. Bibleの「ゲームを愛せ」という薄っぺらい内容に絶望しているとき、私はハレに連絡を取っていた。
「──先生が連絡をとってくるのは初めてだね。何かあったの?」
「ハレ。私とゲーム開発部が行った、ミレニアム近郊の廃墟を覚えてる?」
「うん。皆がG. Bibleを発見した場所だよね」
「そこに、球体型の不思議な機械があったんだ。それを解析してほしい。」
「う~ん、別にいいけど、それって急ぎ?」
「うん。お願い」
「わかった。終わったら連絡する」
だいぶ事務感あふれる会話のあと、私は歩き出す。これで、ケイが初めて暴走するタイミングが分かるはずだ。今の私では、不思議な発見に際し、呼ばれない可能性もあったからな。
▼▼▼▼▼
ゲーム開発部とC&Cの戦いが終わってから、大体1ヵ月が経過した頃、私はエリドゥの会議室にいた。
「──それでは、会議を始めるわ」
口火を切ったのはリオだった。
「あら……超天才清楚系病弱美少女の来訪を前に、電気もつけないなんて。来客をもてなす気がないのですか?──リオ」
すかさずヒマリがからかう。しかし、文句を言いたいのは私も同じだった。暗い中での会議はどこかワクワクするものがあるが、それ以上に画面の光が眩しい。
「万全を期しただけよ。少しの間くらい我慢して頂戴。──この会議を、外部に知られてはならないもの」
「そのわりには、あっさりと外部の人にバレてますが」
おっ、そうだな。横目でこちらを見ながらヒマリが言うので、私はとびっきりの笑顔で笑いかけてあげた。ほらほら、超無能系最弱一般男性だよ~。
……一瞬で目を逸らされた。やってることはあんまり変わらないのに、顔面の差とは残酷である。どう見てもキモかった。
「……それで、なんでこの場にシャーレの先生がいるのでしょうか?」
「先生は、私の計画を知っていた。そのうえで、協力を打診されたわ」
「それで、ほいほいと手を組んだのですか? リオ、怪しいとは考えなかったのですか?」
私の行動で更に不機嫌になったヒマリが、リオに苦言を呈す。
「……それでも、これが一番合理的な選択よ」
「……ええ、ええ。そうでした。あなたはそういう人でしたね」
これだからあなたは……とでもいうように、ヒマリは頭に手を当て、深くため息をつく。それ、端から見るとくっそ腹立つね。自分が賢いアピール、ちょっときついわ。
……死ぬほど睨みつけられた。
「それじゃあ、本題に入りましょう。私たちは、ゲーム開発部とミレニアム最強集団であるC&Cをぶつけた──そう、
「それで、解釈の結論は出たかしら」
「もちろんです」
「ああ」
ヒマリと私の声が重なる。
「……アリスの正体、それは──無名の司祭が崇拝するオーパーツであり、遥か昔の記録に存在する「名もなき神々の王女」。……そう、あの存在の本質は──」
「ええ。アリスという子は──」
一歩、前へ。二人が答えを言う前に、一瞬だけ早く、その解答を叩きつけた。
「──あの子は、『世界を終焉に導く兵器』だよ。」
出鼻をくじかれ、タイミングを逃した二人に畳みかける。
「あの子は、世界を壊すように望まれ、造られた──ただの兵器だ。」
瞬間、ヒマリがいつも身に着けている手袋を投げつけてきた。それは、私の顔面にべちっと当たり、床に落ちる。……手袋を投げつけるのは、昔の西洋で決闘を申し込む意味があったらしい。
つまりこれは、ヒマリの私に対する断交であり、憤怒であるのだろう。
「──っ、それが、先生の言うことですか! 私にとってアリスは、ただのかわいい後輩です!」
威勢よく啖呵をきられる。しかし、私も引けない。
「ねぇ、ヒマリ。生徒の身の安全を守るのが先生の仕事だ。あんな明確な危険要素を、放置できるわけがないじゃないか。──AMAS、ヒマリを捕らえて。」
「──な、なんで先生がそれをっ!」
驚いてこっちをみるリオ。当然だ。こっちにはアロナがいる。しかも1ヵ月も時間があったんだ。ハッキングはもうとっくに済んでいる。
私の注意がリオに向いた隙に、ヒマリがこの部屋のハッキングを試みる。原作では成功していたが、今AMASを操作しているのはアロナだ。いくら天才とはいえ、機械そのものに勝てるわけがない。
「──くっ、一体、どうして——。」
AMASがヒマリを電気で失神させた。超高電磁圧だ。私なら一瞬で心臓が止まるが、そのくらいじゃないと効きやしない。
病弱なヒマリでこれだというのだから、キヴォトス人は凄まじい。──それでも無敵ではないことを、私はよく知っている。
「──トキ!」
ヒマリの相手をしているうちに、リオがトキを呼んでいた。幻の、5番目のC&C。リオの切り札。彼女に暴れられると、流石に面倒だ。
なので、ここは真正面から、卑劣にいこう。
「ねぇ、リオ、いいの? ──私は今、ヒマリを捕らえてるんだよ?」
少し、リオが迷う。リオは合理的な判断を大事にするが、決して感情がないわけでも、希薄なわけでもない。実態はただの女子高生だ。
その隙に、リオにAMASで狙いをつける。
──トキの反応が早い。そして迷いがない。即座に私に向かって銃を撃ってきた。アロナバリアではじく。そしてリオに電気ショック。おまけに大量の弾丸。
明らかに超常現象的な力で防がれるとは思ってなかったのだろう。結果として、トキはリオを守り切ることができなかった。
「ほら、トキ。動かないで。リオがどうなるかわからないよ?」
わざと笑顔を向ける。人質リレーだ。トキとヒマリは絡みがないので、トキが大事に思っているリオを利用した。予想通り、トキは抵抗をやめた。
そのまま、AMASを使って3人を地下の牢屋に連れていく。アロナによると、矯正局なみのものらしい。一体何用にリオはこれを造ったのか。なんにせよ、造った本人が入れられるとはとんだ皮肉だ。
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しれっとミレニアムへ戻り、アリスとミレニアム生の交流や、チビネル先輩へのナチュラル煽りを見ながら過ごした数日の後、興奮したハレから連絡が届いた。私の頼んだ不思議な機械の解析が終わったらしい。……私としては、リオとヒマリのことがバレてないのが驚きである。できる限りバレないように工作したとはいえ、本当にバレないとは。
どっちも、組織のトップのくせに秘密主義がすぎる。
ヴェリタスの部室に向かう途中、ゲーム開発部と出会った。
「あっ、アリス、先生を発見しました!」
アリスが笑顔で挨拶してくる。心が浄化されるようだ。他の子たちも、ちょっと距離を置きながら挨拶してくれる。心の距離はもっと遠いようだ。素晴らしい。
「やほ、皆もヴェリタスに呼ばれたの?」
「はい! マキが面白いものがあるというので、ユズも連れて皆で来ました!」
なんとなくの流れで、皆で部室へ行った。部室には、ハレとマキ、コタマがいた。そしてその中央に、例の不思議な害悪ロボットがいる。
「やっほー! お邪魔します!」
「途中で合流したパーティーメンバー、先生も一緒です!」
「やっほ~! この間ぶりだね!」
モモイとマキが元気に挨拶を交わした後、呼び出しの要件であるロボットを紹介された。
「これねー、最初は先生が教えてくれたんだけどさ、それ以外にもミレニアムの近郊に20体以上あったんだよね。結構状態が綺麗だったから、起動できないかと色々調べたんだけど……」
う~ん、と悩ましい顔をするマキ。その言葉を、コタマが引き継いだ。
「調べた結果、電源ボタンはおろか接続ボードすら存在しませんでした。それ以前に、表面に継ぎ目さえない」
「それで、皆を呼んだんだ。ゲームのインスピレーションになるかなって思って」
笑顔でそう言うマキに対し、モモミドからは不評だった。まぁ、しょうがない。どう考えても人気の出る見た目じゃないのだから。
適当に感想を言い合いながら雑談しているヴェリタスとゲーム開発部を置いて、アリスがロボットにそっと、吸い寄せられるように近づく。
「アリス……アリス、見たことがあります」
何か違和感を感じたのか、ユズが振り返る。
「アリスちゃん……?」
「これ、は……」
──そして、アリスがロボットに触れる。赤く光りだす目。動き出す触手のような手足。──電源が入った。
「え!? 何!? 電源が入ったの!?」
目を丸くさせながら驚くモモイのポケットから、聞きなれた音が響く。
「この音……お姉ちゃん、ゲーム機の音出てるよ?」
「え? あ、本当だ。急になんでだろ?」
「ま、待って……アリスちゃんの様子が……おかしい」
「アリス……?」
アリスは答えない。目を瞑り、何かに祈るように手を組んでいた。私はそっと、モモイのそばに寄る。
≪私の……≫
≪私の大切な……≫
「…………起動開始」
アリスの口から出た言葉に、部屋の隅にいた他のロボットも一斉に動き出す。
「……アリス?」
アリスの開いた目は、赤く染まっていた。
「……コードネーム「AL-1S」起動完了。プロトコルATRAHASISを実行します。」
──無名の司祭の遺産、世界を終焉に導く兵器が起動した。